第2節 中小企業の動向

1 工業生産の動向

(1) 第1節に述べたような経済全体の停滞は,中小企業の活動に強く反映されている。中小企業の工業生産は,第1図にみられるとおり,39年の第1四半期(1〜3月)から第4四半期(10〜12月)までに6.5%増,対前年比13.4%増と,金融引締下としては,比較的高い増加率を保ったのに対し,金融引締めが解除された40年の第1四半期から第4四半期(10・11月)までの増加率は,7.1%,対前年同期比で4.5%の微増にとどまっている。
 このような中小工業生産の停滞は,第2図に示すとおり,これまでの金融引締めによる景気調整下の動向と比較すると,一層明らかである。すなわち,景気調整下においては,33年2.7%増,37年2.4%増と停滞し,金融引締めが解除されてからは,34年16.2%増,38年17%増と急速な上昇を示してきたのに比べ,最近での停滞は著しい。
 一方,製品在庫は,大企業では,40年の第1四半期から第4四半期(10・11月)までに3.2%の在庫量の減少を示したのに対して,中小企業では,逆に3.7%の増加を示しており,在庫率指数も高水準で推移している。とくに,第3図のごとく,33年の金融引締下において,在庫率指数は,急激な上昇を示したが,34年の引締め解除後すぐに低下し,36年までそのまま推移したのに比べて,37年の引締下に上昇した後は,38年,39年と十分な回復をみせず,高い水準のまま推移し,40年にはいってから,ふたたび漸増傾向を示していることが注目される。
 (2) 以上のように,中小企業における工業生産の伸びの鈍化は,一般的に認められるが,とりわけ,需要の一巡,消費需要の停滞などによる不振が著しかった家庭用電気機器を中心とする耐久消費財(40年1〜11月の対前年同期比4.1%減),および設備投資の停滞を反映した資本財(同じく2.2%減)の生産は,40年には前年の水準を下まわっている。
 他方,中小企業のなかで比重の大きい非耐久消費財の生産は,40年1〜11月の対前年同期比で11.1%の伸びを示し,在庫率も低下してきていることは,特筆されるべきであろう。
 業種別には,化学工業や雑貨等の部門における中小企業の生産が前年よりも高い伸び率を示し,比較的好調に推移しているが,鉄鋼,非鉄金属,一般機械,電気機器,精密機器等の重工業業種,板紙などの紙製品,自転車タイヤ・チューブ等のゴム製品および皮革製品などにおいては,不振が著しい。
 もちろん,これらの不振な業種のなかでも,たとえば電電公社等の官公需が安定していた通信機器,輸出が比較的好調であった双眼鏡など,比較的順調な動向を示すものもみられたが,生産の伸びている業種のなかでも,石けん,塗料,洋がさ,人造真珠などでは,沈滞した動向を示している。

2 輸出の動向

 39年における中小企業製品の輸出額は,対前年比16.6%増と,最近での最高の伸びを示した。
 他方,大企業製品も28.3%増と大幅な伸びを示したため,わが国の輸出額全体に占める中小企業の地位は,38年の50.4%から,39年には48.0%へ低下しているものと推定されるが,次第に不況が浸透してきた39年において,輸出額が伸びを示したことは,中小企業の工業生産活動に大きく寄与したものと考えられる。
 たとえば,輸出中小企業の多い産地企業の輸出動向においても,39年7〜9月期以降,国内への出荷の伸びが鈍化しているが,他方,輸出額は急速な伸びを示しており,生産の伸びの鈍化が緩和されている。
 40年にはいってからも,わが国の輸出は世界経済の好況,国際競争力の向上と企業の市場開拓努力の結実のほか,内需の停滞などもあって,40年1〜11月の対前年同期比29.2%増と,39年を上まわる伸びを示した。
 中小企業の輸出も,主として,対米輸出が好調であったこと等から,輸出の増加をみたものが多い。とくに,工具,機械部品,非金属家庭用品等の金属製品,双眼鏡等の機械類,マーキングペン,洋がさ,スキー用具,野球用グローブ・ミット,金属玩具等における輸出増が顕著である。このほか,繊維製品のうち,メリヤス編物,合成繊維(長繊維)織物,毛織物等の輸出も大幅に増加している。
 これらに比べ,国内需要がおお盛であった生糸,絹織物などの輸出は,かなり縮小しており,また,時計用バンド,首飾り,ボタン等一部の雑貨については,発展途上国の進出等により,輸出の後退をみることとなっている。

3 流通の動向

 流通の活動も,40年にはいって,消費需要の減退を反映して沈滞してきており,百貨店を除く小売業および卸売業における中小企業の販売額は,ともに一貫した伸びの鈍化を示している。すなわち,40年1〜9月における販売額の対前年同期比は,第4図および第5図に示すとおり,小売業では8.9%増(百貨店は,10.4%増),卸売業では0.5%の増加にとどまっており,前回の景気回復期である38年の対前年比が,小売業で20.8%増(百貨店では,17.1%増),卸売業で16.1%増であったことに比べ,最近での停滞が著しい。
 これに対し,流通部門における商品の手持在庫の動向は,小売業,卸売業ともあまり大きな増加をみせていない。
 対前年同月比で在庫額の伸びをみると,百貨店を除く小売業では,次第に鈍化を示し,一方,売上高の伸びがこれを上まわって,在庫率は,33年の140%前後から傾向的に低下し,38年,39年には,それぞれ131.4%および129.1%となっている。卸売業においても,在庫額は,売上高の動向とほぼ軌を一にした動きを示しており,大企業の在庫率はほとんど変わっていないが,中小企業については,39年ごろから若干の上昇がもたらされている。
 以上から,流通部門においては,百貨店で,金融引締めの解除後も多少在庫水準の上昇がみられることを除けば,かなり景況に即応した在庫調整が行なわれており,企業経営に対する在庫面からの圧迫は,製造業に比べると,あまり大きくはないものと考えられる。
 業種別の動向をみると,卸売業では,39年7月以降,化学製品,鉱物・金属材料の売上げが停滞し,また鉱物・金属材料,繊維品,医薬品,化粧品などの手持在庫の増加がめだっている。また,百貨店を除く小売業では,40年にはいって,織物,衣服・身のまわり品,雑貨等で,売上げの伸びの鈍化が著しい。

4 設備投資の動向

 中小企業の設備投資は,対前年度比で,37年度には6.8%減を示したが,37年下期を底として,金融引締解除とともに急速な増加を示し,景気回復期であった38年度には39.3%増,さらに,景気調整下の39年度にも14.3%増というかなり高い伸びを続けてきた。
 しかし,39年度末以降,中小企業設備投資は,急速な低下を示し,引締めが解除された40年度においても回復がみられず,39年度の水準を下まわる見通しであり,39年度および40年度の設備投資動向は,これまでの景気調整期とはまったく異なった動きをみせている。
 この点は,大企業の設備投資が,景気回復期であった38年度の伸びが小さかったためもあって,39年度には対前年度比16.8%増と高い伸びを示したものの,39年下期以降停滞をみせていることと同様であり,金融情勢の変化が中小企業の資金面に与える影響のほか,需要の停滞,さらには資本費負担の増加等の影響が大きいものと考えられる。
 中小企業の設備投資動向の沈滞は,とくに製造業に著しく,第6図に示すとおり,39年度の投資額は,対前年度比7.5%増(重化学工業部門0.3%増,軽工業部門12.9%増)にとどまり,40年度においては,対前年度比25.4%減(重化学工業部門23.8%減,軽工業部門27.0%減)と見込まれている。
 業種別に39年度の投資動向をみると,一般機械(対前年度比13.7%減),電気機器(21.3%減)などに大幅な減退がみられるか,出版・印刷(50.7%増)木材・木製品(22.8%増),窯業・土石製品(39.1%増)などでは,活発な投資活動がみられた。
 また,卸・小売業の投資動向は,39年度において,対前年度比6.2%の減少を示している。
 これらに対して,サービス業においては,比較的堅調であった個人消費需要などにささえられて,39年度では,対前年度比48.6%の大幅な増加を示した。
 なお,設備投資の内容をみると,生産能力拡大のためのものが減少し,労働力節約等の合理化,福利厚生施設の拡充,さらに新製品の生産を目的とする投資が増加してきている。

5 金融の動向

 (1) 今次不況の過程において,金融機関の中小企業向け貸出しは,停滞を続けた。39年の金融ひっ迫期において,この傾向がみられたことはいうまでもないが,40年にはいり,金融市場が緩漫化した段階においても同様の傾向を続けたことは,きわめて特徴的な現象といえる。
 金融機関の貸出しは,37〜38年の金融引締措置の解除後,中小企業向け,大企業向けともに著増を示したが,その後1年とたたない38年末にふたたび金融引締めが行なわれ,急速な減退をみせた。とくに,中小企業向け貸出しについてみると,その増加額は,第7図に示すとおり,前回引締期(37年)には,前年比2.0%増の増加をみせたのに対し,引締下の39年においては,前年比27.6%減となっている。また,緩和後の40年(1〜9月)の貸出増加額も,実需の停滞に伴う資金需要の低下,金融機関の貸出態度の慎重化等によって,前年比2.7%減を示している。しかも大企業向け貸出しとの関係においては,貸出増加の局面において,増加の速度が相対的に遅かったのに対して,下降局面では,相対的に速い速度で縮小したため,全金融機関貸出額に占める中小企業向けの貸出額の比重は,38年9月の43.8%から40年9月の42.1%へと,若干低下を示している。
 このような動きを資金使途別にみると,設備資金,運転資金ともに,ほぼ同じような伸び悩みをみせている。このなかにあって,運転資金のうち,長期運転資金貸出しが増大していることが特徴的であり,たとえば,商工組合中央金庫の貸出し実行額に占めるその比重は,39年10〜12月期の4.3%から40年10〜12月期には,9.3%にまで急増している。このような動きは,不況の深刻化に伴い,減産資金等の後向きの資金需要が高まっていることが反映されているものと考えられる。
 (2) 金融機関別に,中小企業向け貸出しの動きをみると,金融緩和後も前回の緩和期に比べて,都市銀行,地方銀行における停滞と民間中小企業専門金融機関(相互銀行,信用金庫,信用組合)における伸び悩みがめだっている。都市銀行,地方銀行の中小企業向け貸出残高には,前回緩和にみられたような高い伸びはみられず,これらの機関の中小企業向け貸出残高が全金融機関の中小企業向け貸出残高に占める比重も,38年9月の46.7%から40年9月43.5%まで,一貫して低下傾向を示した。民間中小企業専門金融機関の貸出残高は,37年平均では,対前年比31.9%増と引締期にもかかわらず著しい伸びを示したが,38年3月以降伸び率は引き続き低下し,40年4月には,対前年同月比で14%台にまで落ちこんだ後,40年9月には16.1%増となっている。一方,政府関係中小企業専門金融機関貸出しが全金融機関の中小企業向け貸出しに占める比率は,9%弱であるが,民間中小企業専門金融機関の動きとは逆に,39年の金融ひっ迫期においてかなりの伸びを示し,中小企業向け貸出しに占める比重も,今次不況期を通じほぼ一貫して上昇した。また,その貸出しは,単に量的に拡大しただけでなく,質的な面でも資金の効果的配分に寄与しており,ことに連鎖倒産の防止等・BR> ノついては,大きく貢献していることを見のがしてはならない。
 (3) 一方,貸出金利の動向をみると,政府関係中小企業専門金融機関においては,40年9月から貸出金利をおおむね年利3厘引き下げ,都市銀行の貸出金利も一般的な金融緩和を反映して,39年12月の日歩2銭1厘2毛(年利7分7厘)から40年9月には日歩2銭1毛(年利7分3厘)へと,かなりの低下を示した。もっとも,中小企業向け貸出しについては,中小企業の経営内容が悪化していること等から,貸出態度は依然として慎重であり,業績いかんによっては貸出金利がかなり高い例もみられる。他方,相互銀行,信用金庫等の貸出金利は,年々低下しているものの,貸出しのコストが高いこともあって,金融緩和後もそれほど下がらず,中小企業の金利負担は,依然として高い。
 (4) 金融の動向と関連して,中小企業をめぐる企業間信用の動向を製造業についてみると,中小企業の資金調達源として41%(39年度)と高い地位を占める買入債務(買掛金および支払手形)残高の増加額は,38年度には3,800億円であったものが,39年度には1,240億円と大幅な縮小をみせた。金融引締期において,最大の資金源泉である買入債務の増加額がこのようにはげしい減少をみせることは,中小企業の資金ぐりを苦しく,かつ,不安定なものとしている。もっとも,売上債権(売掛金および受取手形)残高の増加額も,38年度に比べて39年度は縮小をみせ,これは,資金ぐりを緩和する方向に働いたが,その減少幅は,買入債務のそれよりもかなり小さい。そのため,両者の差額(買入債務残高増加額−売上債権残高増加額)は,38年度1,450億円であったものが,39年度にはマイナス360億円と大幅に落込みをみせ,残高増加額でみる限り,38年度には資金源泉の地位にあったものが,39年度には,逆に資金需要としての地位に変わっている。このような地位の逆転が中小企業の資金ぐりに及ぼす影響は,大きいものと考えられる。
 下請企業における企業間信用の動向も深刻な問題である。すなわち,下請企業における売上債権,買入債務ともにおおむね増大の一途をたどっているが,増加の速度は前者の方が速く,与信超過の幅が拡大している。

6 経営の動向

(1)収益性

 1) このような状況を反映して,中小企業の収益性は大幅に悪化した。これを総資本利益率の動きでみると,第8図のとおり,景気調整が行なわれた36年度に大幅な低下を示したのち,景気回復期である38年度においてもほとんど回復をみせず,39年度には,38年度の5.8%から4.9%へとかなりの低下を示した。
 このように,景気調整により,総資本利益率の一層の低下がもたらされたため,自己資本の過少性等企業の経営体質のぜい弱さとあいまって,中小企業の経営は,困難な局面にたたされている。
 2) こうした動きを,やや視点をかえて,損益分岐点の対売上高比率の推移によってみると,35年度以降この比率は大企業,中小企業ともに上昇しているが,ことに中小企業における上昇が著しく,39年度下期には,大企業の86%に対し,中小企業では,39年度上期の86%から90%に達した。この場合においても,中小企業のそれが38年の景気回復期にも改善をみせず,39年以降の沈滞期において,大幅に悪化している点が問題点として指摘される。
 3) このような収益力の動向は,それが景気循環的要因のみならず,もっと長期的な,いわば構造的な要因の影響を強く受けていることを示唆している。
 事実,コスト要素の動きをみると,原材料費の傾向的な低下に対し,人件費,資本費等の費用は,絶対額において増加しているだけでなく,売上高に占める比重も増加してきており,対売上高人件費比率は,36年度の8.7%から39年度には11.2%に,また,資本費も36年度の3.0%から39年度の3.9%まで,それぞれ一貫して上昇していることが認められる。このような傾向は,労働力需給のひっ迫,設備投資の増大という長期のすう勢が人件費,資本費の増大をもたらし,他方,生産性はコスト要素の上昇傾向を吸収するほどに上がっていないことによるものと考えられるが,この点についてのより詳細な分析は第2章第2節に譲ることとする。

(2) 財務内容

 1) このような収益力の低下を反映して,中小企業の自己資本蓄積は,なかなか進んでいない。これに対して,総資産は,設備投資や企業間信用の増大を反映してこのところかなり増加してきており,このため,第9図に示すとおり,自己資本比率は,33年度の18.3%から39年度の14.3%へと傾向的な低下を示している。
 このような自己資本比率の低下傾向は,大企業についても認められ,その速度は,中小企業よりもむしろ速い。しかしながら,問題なのはその絶対的な水準であり,39年度には,大企業の21.9%に対し,中小企業では14.3%ときわめて低い。自己資本比率は,外部資金調達力を規定する重要な要因であると考えられるだけに,これが極端な低水準にありながら,なお低下傾向を続けていることは,中小企業にとってきわめて大きな問題といわなければならない。
 2) このような事態は,中小企業に対し,設備の近代化による収益力の向上を強く要請しており,これに対応して,中小企業の設備投資は,このところかなりの進展をみせた。しかしながら,その設備投資が以上のような自己資本蓄積が進まず,資金調達力の弱い段階において,かなりの無理をしながら行なわれ,しかも,その後において需要の停滞がもたらされたため,期待されただけの投資効果はあらわれていない。こうした状況から,中小企業の固定比率は,200%近くに達し,固定長期適合率は,すでに114.4%になっている。このことは,自己資本でまかないうるのは固定資産のなかばにすぎず,さらにこれに長期借入金を加えた長期資本全体をもってしても,なお十分でなく,かなりの短期資本をこれに充当していることを意味する。こうした状況から,流動比率も36年度の98.9%から39年度の93.3%まで,一貫して下落してきている。

(3) 業種別動向

 以上のような経営動向を業種別にみると,まず収益性については,人件費の上昇とともに,39年後半からの需要減退等が強く反映された重工業部門では,金属製品,機械,電気機器,輸送用機器などの低下がめだち,一方,軽工業部門では,人件費,販売費および一般管理費等の増大から,食料品,繊維,木材・木製品,パルプ・紙・紙加工品,窯業・土石製品,出版・印刷,ゴム製品などの業種が低下している。
 財務内容の悪化がめだった業種としては,鉄鋼・非鉄金属,金属製品,機械および出版・印刷などがあげられる。悪化をもたらした要因は,第2章第2節で述べるとおり,収益力低下の場合と同じと考えてよいであろう。

7 倒産の動向

 (1) すでに述べたような中小企業の著しい経営窮迫化を背景として,企業倒産は,近年著しい増加傾向を続けている。これを東京商工興信所の調査によってみると,従来は,景気変動に応じた動きを示していたものが,前回引締後の景気回復期である38年の後半から一貫して増加し,39年,40年と同様の増加傾向を持続した。この間の増加の速度は著しく高く,39年には4,212件と前年の2.4倍に達し,さらに40年においては,6,141件と前年を45.8%も上まわる増勢を続けている。
 (2) 業種別にこのようなすう勢をみると,第10図に示すとおり,製造業の倒産は,37年以降商業を上まわる多発化の傾向をつづけ,40年中の企業倒産件数は,2,476件と前年のそれを36.8%も上まわる急増を示している。一方,商業の倒産も,40年にはいって不況が一段と深刻化するにつれ,個人消費の減退を反映して2,092件,前年比40.5%増と,製造業をも上まわる著しい増加を示した。
 製造業の倒産を詳細にみると,成長産業,斜陽産業の区別なく,ほとんどあらゆる業種において増大しているが,とくに,従来成長業種と考えられ,急速な成長を続けてきた機械,金属製品製造業などでは,需要の停滞等に伴う受注減,取引条件の悪化,さらには下請系列再編成の影響などから著しい増勢を示し,また,建設業,出版・印刷業などにおいても,需要の減退,大企業の進出が最近顕著となっていることなどから,倒産の多発化の傾向を強めていることが注目されよう。
 (3) 規模別にみると,第11図にしめすとおり,39年以降,各規模ともきわめて顕著な増勢をつづけているが,とくに,個人および資本金100万円未満の規模では38年からその増加傾向が強められ,40年中の企業倒産件数も対前年比52.3%増と,最も高い増勢を示した。政府関係中小企業専門金融機関の取引先倒産調査によっても,個人および資本金100万円未満の規模が全体のほぼ51.9%と,最も高い割合を占めている。
 また,資本金1,000万円以上の規模の倒産が増加傾向を示し,その比重も37年以降全体の約10%を占めるに至っていることは,財務内容の悪化および収益性の低下から経営の窮迫化が進んでいるなかで,不況の深化に伴う需要の減退,下請系列の再編成,大企業の進出などの影響が大きく及んでいることを反映したものと考えられる。

8 労働力事情

(1) 労働力需給の変動

 事業活動の停滞,経営内容の悪化がとくに進展を示した40年にはいると,企業の労働力需要が減退したことから,労働力需給は,一般的な緩和傾向を示した。なかでも,新規学卒者を除く一般労働者に対する求人の減少が著しく,第12図にみられるように,39年10〜12月期以降大幅に前年水準を下まわり,40年7〜9月期には,前年同期と比較して30%の減少を示している。とりわけ,中高年労働者に対する求人の減少が著しく,35才以上の労働者に対する40年10月の求人は,前年同月に比べ,39%の減少となっている。これに対し,中学および高校の新規学卒者については,40年の対前年比が中卒,高卒平均で4.8%増と堅調であり,労働力需要の若年労働力,とくに新規学卒労働力に対する集中の度合が一層顕著となっている。
 この結果,第13図に示すとおり,新規学卒者等若年労働力のひっ迫した需給関係は,ほとんど緩和されず,とくに,中学の新規学卒者については,充足率が39年の25.3%から40年には24.7%と一層の低下をみることとなった。他方,中高年労働力については,求人の激減,求職の増加によって,きわめて大幅な求職の超過がみられ,35才以上の中高年労働者の求職倍率(求職者数/求人数)が39年の1.9から40年には3.1となっているように,中高年労働力と若年労働力との需給関係の相違が,現在の不況下において,さらに明らかになっているものといえよう。
 また,建設業,サービス業のうちの修理業,繊維,機械関連の製造業等を中心とする技能労働者の需給は,40年においても21.7%の不足率が示すとおり,依然として不足したままで推移している。

(2) 中小企業における労働力事情

 1) 大企業の労働力需要が若年労働力に集中したため,中小企業における若年労働力の採用は,引続き困難となっている。
 40年における新規学卒者の充足率は,30〜99人の規模で,39年の17.9%に対し18.1%と若干上昇したものの,大企業における40年の充足率35.8%と比べて,きわめて低い水準にある。
 また,新規学卒者のうち,中小企業に吸収されるものの割合も低下傾向を続けている。第14図に示すとおり,99人以下の企業への新規高卒者の入職割合が,32年の60%から39年には28.3%にまで年々低下し,40年にも28.2%となっており,中学卒についても同様に,32年の63.7%から39年の37.1%にまで低下し,さらに40年にも36.5%と低下ぎみに推移しているように,中小企業における若年労働力の確保難は緩和されず,若年労働力に対する吸収力の差は,依然として大きい。
 2) 中小企業の労働力需要が停滞し,その雇用する労働者の数もあまり増加を示していないが,卸小売業,サービス業,運輸業および製造業のなかでは,繊維関連部門における需要は,比較的堅調に推移している。
 このような情勢を反映して,中小企業における労働力不足の状況は,中小企業庁の調査によれば,40年に至っても繊維部門等を中心に強く認められ,製造業では,50%以上の企業が「不足である」としている。また,「不足でない」とする場合においても,不況下における事業活動の停滞等によるものが多く,基本的に,中小企業が必要な労働力に不足している状況は,変わっていない。
 このため,企業の雇用調整についての態度も一般に消極的であり,新規労働者の採用の手控え,退職,転職等に伴う欠員補充の中止程度にとどまっており,一時帰休,待命制度,退職募集,解雇等の事例は,ほとんど認められない。
 3) 労働力需給がひっ迫基調にあることを反映して,賃金水準も依然として上昇する傾向を示しており,不況による若干の伸びの鈍化はあるものの,これまでの不況期にみられたほどの伸びの低下は示していない。
 すなわち,30〜99人規模での賃金は,対前年比で37年13.3%増,38年11.4%増,さらに,39年には10.8%増となっており,40年でも9.8%の増加を続けている。このような中小企業の賃金上昇は,大企業の37年6.7%増,38年8.5%増,39年10.6%増,さらに40年には7.8%増という伸び率よりも高い伸び率を続けているもので,大企業を100とする賃金格差も,縮小の速度は鈍化しているが,37年の73.8から38年76.3,39年76.9,40年には78.3と縮小してきている。
 このような賃金水準の傾向的な上昇は,中小企業経営に対し,とくに,不況下の現在において大きな影響を与えることとなっており,これに適応するための近代化努力の要請が強まっている。

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