序章


 昭和38年末からとられた金融引締措置は,39年末から40年にかけて,逐次,撤廃されたが,わが国経済は,むしろその後において,不況と沈滞の度合を深めるにいたった。このような景気沈滞の影響は,とりわけ,中小企業に集中的にあらわれ,40年においては,過去にその例をみないような倒産の高水準を示し,収益性の低下,財務内容の悪化が進展する等,中小企業をめぐる諸問題は,ますます深刻の度を加えるにいたった。
 このように,中小企業が多くの問題に直面したのは,景気の変動による面があることはいうまでもないが,これに加えて,労働力需給のひっ迫,需給構造の変化,市場条件の変化等の,高度成長期以降における構造変動によりもたらされた諸要因,および過小過多性,弱い資金調達力,低い技術水準,経営管理の近代化の遅れ等,従来から中小企業にみられる特性が大きく影響しており,ことに,不況によって,その影響がより顕著になっているのが現状にほかならないと考えられる。
 ひるがえって,わが国経済に占める中小企業の比重は高く,中小企業が果たしている役割は,きわめて大きい。そして,このような重要な役割をになっている中小企業の当面する諸問題は,国民経済的な立場からも,早急に解決されなければならない。そのためには,景気の早期回復が必要であることは,いうまでもないが,基本的には,中小企業の体質改善を図ることが強く要請される。
 この報告書は,以上のような問題意識から,第1に,景気停滞下における中小企業の実態を,一般的に明らかにするとともに,第2に,上に述べた長期的な性格を有する諸要因の働きかけによって,中小企業にもたらされている諸問題のうち,とくに,問題性が大きいと考えられる主要な問題点について,その要因との関係において分析,検討し,第3に,これらに対応するために行なわれつつある努力のうち,とくに中心的地位を占める近代化,協業化の主要な形態について,その実状とあるべき方向を明らかにし,第4に,こうした適応努力を支援,助長するために,政府が実施している施策の基本的な考え方と,その重点を述べようとするものである。
 すなわち,第1部「総論」においては,おおむね,第2部の体系により,前年度の中小企業に関する年次報告に続き,39,40両年における中小企業の動向を全般的にながめ,つぎに,現在の不況下において中小企業が有する主要な問題点について,その要因が景気循環的なものに加え,高度成長期以降における,構造変動等に基づくものであることにかんがみ,それとの関連において分析を行ない,問題点を指摘するとともに,このような状況を解消するために行なわれている努力のうち,とくに,基本的な地位を占めている近代化,協業化努力の実態と,それに関する施策の効果,問題点を明らかにし,最後に,これらの諸問題点を解決し,その体質を強化するための対策の基本的方向と,昭和40年度における施策の重点を述べる。
 第2部「中小企業の動向」においては,第1に,39,40年を中心とする生産,輸出,流通,設備投資,金融,経営および労働力事情の動向について,全般的にながめるとともに,できるだけ業種別にほり下げて,その動向を明らかにし,また,過去の景気調整期と今回のそれの下における動向を比較検討する。
 第2に,現在,中小企業が有する主要な問題点,すなわち,経営悪化の進展,倒産の増加とその原因,下請企業,小規模企業,産地企業における変動とその問題点および価格の問題点について,その背景をなす諸要因との関連を明らかにしつつ,くわしく分析する。
 第3部「中小企業に関して講じた施策」においては,第1部,第2部で述べた諸点を明らかにしつつ,40年度において政府が講じた諸施策を,中小企業基本法の政策体系にしたがって,(1)中小企業の高度化,(2)事業活動の不利の補正,(3)小規模企業,(4)金融・税制等,(5)行政機関および中小企業団体,(6)調査・公報,(7)特別対策の7章に分けて,報告するものである。

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