2017年版小規模企業白書の概要
第1部では、最近の小規模企業の動向についての分析に加え、中小企業・小規模事業者のライフサイクルと生産性及び中小企業・小規模事業者の雇用環境と人手不足の現状について分析を行う。
第2部では、第1部の分析結果を踏まえた上で、中小企業・小規模事業者のライフサイクルとそれを支える人材に着目し、起業・創業、事業の承継及び売上拡大に向けた取組について分析する。
第1部 平成28年度(2016年度)の小規模企業の動向
●小規模企業の現状
我が国経済は緩やかな改善傾向が続いており、中小企業・小規模企業を取り巻く状況も改善傾向にある。
しかしながら、改善の度合いは規模、組織形態等によって異なることに加えて、設備投資や売上高の伸び悩みといった課題も存在する。また、取引環境についても中規模企業と小規模企業では差がある。他方、個人企業の中には一定程度法人化した企業もおり、法人化を予定している企業は事業の拡大を目指すなど、成長志向にある。
●中小企業・小規模事業者のライフサイクルと生産性
我が国の企業数は減少傾向にあり、2009年から2014年にかけて、小規模企業が大幅に減少したが、中規模企業は増加した。
開業や廃業といった企業のライフサイクルの構成要素の動向は、我が国中小企業・小規模企業全体の生産性に大きな影響をもたらしている。開業は中小企業・小規模企業全体の生産性を押し上げているが、近年押し上げ効果は縮小している。また、一部の生産性の高い企業の廃業によって全体の生産性が大きく押し下げられている。
●中小企業・小規模事業者の雇用環境と人手不足の現状
我が国の雇用環境が改善する中で、現在の失業は、ミスマッチ等に起因する構造的失業といえる状況になっている。また、構造的失業の背景には、企業の求める職種と求職者の求める職種のミスマッチがあると考えられる。仕事内容に魅力があり、柔軟な働き方ができる中小企業・小規模企業は、就職先として選ばれている。
第2部 小規模事業者のライフサイクル
●起業・創業
性別や年齢等によって起業希望者・起業準備者が抱える課題は異なり、実際の起業家も起業する前に必要としていた支援を受けられていない場合がある。また、起業後も、成長段階ごとに直面する課題が異なる。起業希望者と起業準備者一人一人が、自身が抱えている課題に対応する支援を適切に認識し、利用することで円滑な起業を遂げることができる。また起業後は、各成長段階において適切な支援施策を利用することが重要である。
●事業の承継
経営者が事業承継の準備に着手する上では、周囲からの働きかけが重要である。こうした働きかけを受け、経営者が早期に事業の承継に向けた意識を持ち、経営者にとって身近な相談相手である、顧問の公認会計士、税理士、取引金融機関、商工会・商工会議所等が、経営者とともに最適な方法を探していくことが円滑な事業の承継につながる。
事業の譲渡・売却・統合(M&A)は、後継者候補がいないが事業を継続したい企業にとって重要な選択肢である。M&Aの検討に当たっては課題が多く、対策・準備は進んでいない。経営者にとって身近な相談相手がこうした潜在的なニーズを捉え、M&Aの専門家と連携しながら、多様な課題に対応できる支援体制の構築が必要である。
小規模事業者の中でも、法人と個人事業者では課題が異なる。特に、廃業を選択しようとする経営者は個人事業者が多い。廃業の際、自社の事業や資産を他社に譲りたいとする者もおり、こうした企業の経営資源が次世代に引き継がれる循環を形成していくことが重要である。
●売上拡大に向けた取組
小規模企業は、地域経済を支える重要な存在であり、また、商圏や業種も多種多様である。小規模企業は経営資源が限られ、販路開拓や人材の確保等に課題を感じているが、顧客ニーズや自社の強みを把握し、PR活動を行いながら、新たな市場の開拓や新たな商品の開発に取り組むことで、売上拡大につなげている企業もある。
中小企業全体でも人材の確保は大きな課題となっているが、小規模企業では、女性やシニア等が活躍できる職場環境を整備し、柔軟な働き方を受け入れることで、人材の定着に成功している。こうした多様な人材の活用に取り組む小規模企業は、業務の効率化にも取り組み、売上拡大を実現している。また、内部の経営資源にこだわらず、アウトソーシングにより、外部の経営資源をうまく活用することで、人手不足の中でも、目指す経営方針を実現する企業もある。
こうした小規模企業ならではの柔軟性を生かして人材を活用し、経営方針を明確にして自社の強みを活かし、持続可能な発展を遂げ、成長につなげていくことが重要である。