2016年版小規模企業白書の概要
第2回目となる小規模企業白書(※)は、全体で3部構成としている。第1部では、小規模事業者の動向について分析を行い、第2部では、小規模事業者の将来の持続的発展を見据える上で、業績傾向の良好な小規模事業者の特徴や、新しい働き方として注目されている「フリーランス」に焦点を当てる。第3部では、「小規模事業者のたくましい取組―未来につなげる-」と題し、小規模事業者の取組事例を取り上げる。具体的には、
第1部第1章では、政府統計から、小規模事業者の景況や、我が国における小規模事業者(所)の数・従業者数・売上高等の動向を把握する。第2章では、小規模事業者対象のアンケート調査結果から、小規模事業者の事業活動の取組を分析する。第3章では、経営支援活動に関するアンケート調査の結果等から、支援組織側から見た、小規模事業者に対する経営支援の状況等を分析する。第4章では、人口減少社会を踏まえ、政府統計等から、全国の自治体を人口規模別に見た小規模事業者の数や業種構成の違い等を分析する。
第2部第1章では、業績傾向の良好な小規模事業者の特徴を把握する上で、経営者の年齢と業績傾向の相関や、女性の就業先としての小規模事業者の位置付け等を分析する。第2章では、2015年版小規模企業白書に引き続き、ソフトウェアの設計・開発(SE)、ウェブデザイン、ライティング等、自らの持つ技術や技能を拠り所に、組織に属さず個人で活動する「フリーランス」に焦点を当て、フリーランスが事業を営む上での取組等を分析する。
第3部では、第1部及び第2部の分析を受けて、小規模企業振興基本法にのっとり、小規模企業の振興に関する四つの枠組みの観点から選出した、小規模事業者の取組事例を紹介する。
※小規模企業白書が対象とする「小規模企業」とは、小規模企業振興基本法(第2条第1項)に定義された、おおむね常時使用する従業員の数が20人以下(商業又はサービス業は5人以下)の事業者のことである。なお、本白書の本文中では、「小規模企業」に、会社のみならず、個人事業者も含まれることをわかりやすく記すため、「小規模企業」のことを「小規模事業者」としている。
全国約381万者の中小企業、中でもその約85%、約325万者を占める小規模事業者は、地域に根ざし、地域の特色を生かした事業活動を行い、就業の機会を提供することにより、地元の需要に応え、雇用を担うなど、地域経済の安定と地元住民の生活の向上・交流の促進に寄与する極めて重要な存在である。
一方、我が国は、人口減少、高齢化、国内外の競争の激化、地域経済の低迷等の構造変化に直面しており、これらの構造変化は、地域の経済・雇用を支える小規模事業者に大きな影響をもたらしている。小規模事業者は、そもそも人材や資金といった経営資源に大きな制約があることに加え、その商圏及び取り扱う商品・サービスが限定されており、価格競争力やリスク対応力が弱いため、構造変化の影響を受けやすい。加えて、小規模事業者が抱える問題として、経営者の高齢化が進んでおり、後継者不足等が経営の低迷や廃業に直結している。
2012年から2014年の2年間で、小規模事業者を除いた中小企業の数は、約4.7万者(+9.2%)増加し、約55.7万者となった。その一方で、小規模事業者の数は、同期間中に約9.1万者(-2.7%)減少し、約325.2万者となっており、減少傾向が続いている。このように、中小企業の中でも小規模事業者が、とりわけ厳しい状況に置かれている。
こうした中で、2014年6月に成立した「小規模企業振興基本法(小規模基本法)」では、中小企業基本法で従来から規定されていた「事業の成長発展」のみならず、「事業の持続的発展」を基本原則として位置付け、地域で雇用を維持して頑張る小規模事業者を正面から支援することとなった。
第1部 小規模事業者の動向
こうした背景を踏まえ、第1部においては、約325万者の小規模事業者の実態を明らかにするため、政府統計による小規模事業者の短・中長期的な動向の把握や、小規模事業者の経営者及び商工会・商工会議所の経営指導員へのアンケート調査の結果等から、小規模事業者についての現状分析を行った。
- 第1章は「小規模事業者の動向」と題し、政府の調査・統計(中小企業庁・(独)中小企業基盤整備機構「中小企業景況調査」、総務省「平成26年経済センサス-基礎調査」再編加工等)を活用し、最新の小規模事業者の景況等や、我が国における小規模事業者(所)の数・従業者数、売上高の規模の把握を行った。これらの項目について、短期的には、前回の平成24年経済センサスとの比較を行い、中長期的には、最長で昭和38年(1963年)からの推移を俯瞰することで、我が国おける小規模事業者の動向の把握に努めた。なお、業種別や組織別(個人事業者、法人)等の切り口からも分析を加えた。
- 第2章は「小規模事業者の活動実態と取組」と題し、小規模事業を営んでいる経営者を対象にアンケート調査を実施し、小規模事業者の事業活動の実態を様々な角度から明らかにした。具体的には、売上高の増減や商圏の拡大・縮小についての傾向、事業を営む上でのITの活用状況、記帳・棚卸しの頻度や経営計画書の作成等の経営マネジメント、また、多くの小規模事業者にとって喫緊の課題となっている人材の定着・育成のための取組や、事業承継の取組に係る分析を行った。
- 第3章は「支援者側から見た小規模事業者」と題し、小規模事業者にとって身近な支援機関である商工会・商工会議所の経営指導員等や、各都道府県に設置されている「よろず支援拠点」の専門家(コーディネーター等)を対象に、経営支援に関するアンケート調査やデータ収集を行った。具体的には、経営指導員・コーディネーター等や相談者の属性、相談の件数や内容、外部の支援組織との連携状況等を分析した。
- 第4章は「地域の中の小規模事業者」と題し、政府統計(総務省「住民基本台帳」、総務省「平成26年経済センサス-基礎調査」再編加工等)や、第1部第2章でも活用したアンケート調査の結果から、全国の自治体を人口規模別に見たときの、小規模事業者の数や業種の違い、売上高の傾向、二時点間(1990年及び2015年)の人口1,000人当たり小規模事業所数の変化等を分析した。
第2部 小規模事業者の未来
第1部の分析を受けて、第2部では、今後の小規模事業の持続的発展を考える上で、業績傾向の良い小規模事業者の特徴等を分析するとともに、自らの持つ技術やスキルを拠り所に、組織に属さず個人で活動するいわゆる「フリーランス」の新しい働き方について分析を行った。
- 第1章では、「業績傾向の良い小規模事業者の特徴等」と題し、第1部第2章及び第4章でも活用したアンケート調査の結果や、政府統計(総務省「就業構造基本調査」)から、まず、業績傾向の良好な小規模事業者の特徴を把握することに焦点を当て、現経営者の年齢等と業績傾向(売上高の増加、商圏の拡大)との相関を分析し、次に、女性活躍の観点から、小規模事業者における女性が働く環境の整備状況や、復職する女性の就職先としての小規模事業者の位置付け、女性の働き方と企業規模との関係等について分析を行った。
- 第2章では、「小規模事業者の多様な側面」と題し、2015年版小規模企業白書に引き続き、ソフトウェアの設計・開発(SE)、ウェブデザイン、ライティング等、自らの持つ技術や技能を拠り所に、組織に属さず個人で活動する「フリーランス」を取り上げた。今回は、フリーランスの属性に加えて、フリーランスが事業を営む上での具体的な取組内容を、職種・売上高・商圏・年収等の切り口から分析している。また、クラウドソーシングという新たな受注方法も広がりつつある中で、フリーランスは、どのような受注方法を選択している(しようとしている)のかや、フリーランスが必要と考える支援内容等についての分析を行った。
第3部 小規模事業者のたくましい取組―未来につなげる-
第3部では、冒頭に述べたとおり、小規模事業者は、様々な構造変化の影響を受けやすく、高齢化や後継者不足等、小規模事業者が抱える問題にも直面している。しかしながら、顔が見える信頼関係に基づいた取引に強みを持ち、また、地域の魅力を内外に広め、ブランド化を推し進めることにも関与しうる立場にある。
こうした状況を踏まえながら、経営者のたくましさと創意工夫により、現在事業を営んでいる大勢の小規模事業者がいる。第3部では、このような小規模事業者を取り上げることとする。小規模基本法に基づき策定された「小規模企業基本計画」(平成26年10月策定)において設定した四つの目標(需要を見据えた経営の促進/新陳代謝の促進/地域活性化に資する事業活動の推進/地域ぐるみで総力を挙げた支援体制の整備)の観点に立ち、ヒューマン・ストーリーも交えた44事例の様々な取り組みを紹介する。