第2部 小規模事業者の挑戦 ―未来を拓く―

第3節 異業種転換や新事業展開により販路開拓に取り組んでいる事例

本節では、異業種転換や新事業展開により販路開拓に取り組んでいる小規模事業者について下記の3事例を紹介する。

事例2-2-8 株式会社ニシウラ(鳥取県鳥取市)

 代表取締役 西浦 伸忠 氏

〈医療機器・衛生用品の販売レンタル、開発製造、介護リフォームなど〉

事例2-2-9 有限会社トップテクノ(福井県鯖江市)

 代表取締役 市野 好一 氏

〈蓄熱式ホット座布団・クッション・足温器の開発・製造・販売〉

事例2-2-10 株式会社尾鍋組(三重県松坂市)

 代表取締役 尾鍋 哲也 氏

〈建設業〉

事例2-2-8:株式会社ニシウラ(鳥取県鳥取市)

(医療機器・衛生用品の販売レンタル、開発製造、介護リフォームなど)

〈従業員15名、資本金4,300万円〉

代表取締役 西浦伸忠氏

「建設業界から介護業界への参入を
成功させた二代目社長の決意」

◆事業の背景

倒産寸前の状態で決断した、
公共事業からの完全撤退。

昭和55年に創業し、道路や砂防ダムなどの公共工事を中心とした地域のインフラ作りにたずさわってきた株式会社 西浦組が、介護用住宅のリフォーム事業に参入し、株式会社ニシウラに社名変更したのは平成16年のこと。仕掛け人は、その10年前に入社した創業社長の息子である西浦伸忠氏。

「当初は『建設業者に介護の何が分かる』という厳しい言葉を投げかけられたこともありましたが、公共事業が激減している状況下で、異業種への参入は避けられない選択でした。バリアフリーや介護住宅についての研修に参加したり、福祉住環境コーディネーターなどの資格を取得するうちに少しずつ存在が認知され、受注件数も増えていきました。」

しかし、介護用住宅のリフォームは国や自治体の補助を受けての利用者が多く、補助金が打ち切られた途端に受注が減ることもあり、会社の経営を支えるまでには発展しなかった。そして3年後の平成19年、社長であった父が病に倒れ、西浦氏は急遽二代目社長として会社を背負うことになる。 「経営にはほとんど関与していなかったので、会社が3,000万円もの借金を抱えていることを知って驚きました。メインバンクにも融資を断られ、税理士から打つ手がないと告げられたのです。事実上の倒産宣告を受け、愕然としながら会社へ戻る途中、銀行との窓口担当だった母は助手席で『倒産しかない』とつぶやきました。社長交代直後の出来事にやりきれなさを感じつつも、やり残したことはないのか悩んだ末、行き先を鳥取県東部商工会に変更しました。経営指導を仰ぐことにしたのです。」

商工会の協力で詳細なお金の流れを記した日割り表を作成し、会社がどのような状況にあるかを把握した。しかし、明らかになったのは「1か月後に倒産」という現実。その時点で西浦氏は、再起を図るべく建設業から完全撤退し、介護業界への転換をはかることを決意したという。

「全社員を集めてそのことを告げ、『それでも自分を信じてくれる人はついてきて欲しい』と訴えました。20名ほどいた社員のほとんどが退職を希望し、残ったのは自分と弟である取締役(現専務)を除き、2名だったときには心が折れそうになりましたが、自分を信じて残ってくれた者のためにも、できる限りの努力をしようと決意を新たにしました。」

◆事業の転機

イチから勉強を開始し、国立大学と
上場企業を巻き込んでの商品開発に成功。

当座の支払いは重機やトラック、建築資材などを売却してしのぎ、その後は妻の貯金や妻の実家からの援助を受けながら倒産へのカウントダウンを1か月、2か月と伸ばす、苦しい戦いが続く。

「とはいえ泣き言を並べても何も始まりません。介護住宅のリフォーム事業は一級建築士の資格を持つ社員に任せ、あいた時間を次の事業のための勉強に当てることにしました。社長の私は京都にある排泄用具の情報館『むつき庵』で、排泄ケアをはじめとするオムツの勉強、弟はリハビリ施設をまわって車いすの勉強を始めたんです。オムツや車いすを選んだ理由は、リフォームを手がけた施主から、『いい製品がなくて困っている』という話を聞いていたためでした。」

鳥取県と京都を往復すること1年弱、平成20年に西浦氏は、『むつき庵』が認定する「オムツフィッター1級」の資格を取得した。当時、この資格を持つのは鳥取県内でただ1人だったため、地元誌(日本海新聞)で紹介されるなど、西浦氏の存在は広く知られるようになった。結果的にこれが、起死回生の最初の一手となった。

「排泄ケアに悩む医療機関や、介護施設などから問い合わせが来るようになったんです。なかでも米子市の重度身体障がい児を受け入れている施設に呼ばれて現場を見たときは、悩みの深刻さを目の当たりにしました。市場に出回っているオムツは、乳幼児用か高齢者向けのものばかりで、10代以降の障がい者向けのものはほとんどなく、漏れを防ぐために何枚ものオムツを重ねて使っていたからです。そこで、自己負担で約40種類ものオムツを取り寄せ、障がい者一人ひとりにフィットするオムツの組み合わせを考え、介護士の方に改善策を提案しました。」

こうしたオムツの使い方はもちろんのこと、在庫のデータ管理などまで丁寧に説明する姿勢が喜ばれ、多くの介護施設からオムツの受注が集まりだした。

「そんななか、医療関係者による日本褥瘡(じょくそう)学会のセミナーで講演する機会をいただき、鳥取大学医学部附属病院の中山敏准教授と出会いました。セミナー後の食事会の席で隣同士だった私たちは杯を交わし、時間が経つのも忘れ、オムツに関して熱い意見交換をしていました。」

この出会いがニシウラ、鳥取大学、大王製紙による大人向けオムツの共同開発につながり、4年後の平成26年1月に『アテント ダブルブロックタイプ』が発売された。それまでオムツの漏れのメカニズムは医学界でも詳しく研究されていなかったが、中山准教授はCTスキャンによる世界初の画像解析を成功させて解明。その成果がメディアでも大きく報じられ、同製品はヒット商品となった。

◆事業の飛躍

医療機関や介護施設からのニーズが生んだ、
自社開発の『ヨッコイショシリーズ』。

一方、オムツ以外の分野でも成果があらわれた。医療機関や介護施設などを訪ねてニーズを探っていた西浦氏の弟がさまざまな新製品の開発にチャレンジ。反響を呼び始めたのだ。

「たとえば施設の洋式トイレの床には、雑誌を束ねたものや牛乳パックを重ねた台が置かれていました。その用途を聞いたところ、『排便の際、床に足が届かない利用者がしっかり腹圧をかけるための台座に利用している』という話。そこで弟が考案したのが、3段階で高さを調整できる木製の足置き『足の裏ささえ隊』です。」

また、「車いす用クッション」に滑り止め加工を施したものや、スライド式で着脱可能な「車いす用テーブル」も、現場のニーズの聞き取りや掘り起しによって製品化した。「特に高評価をいただいたのは『車いす用テーブル』です。それまでテーブルの高さが合わず、食事の介助を受けていたお年寄りが、ヒジをついて上半身を安定させられるようになったため、スプーンを手に持って自分で食事ができるようになりました。これら自社開発の製品は『ヨッコイショシリーズ』として会社を支える主力商品となっています。」

車いす用テーブル

◆今後の事業展開と課題

脱公共事業を実現した企業のモデルケースとして
実績を積んでいきたい。

現在、鳥取県を中心とした山陰地方の病院・介護施設へのニシウラのオムツ納入シェアは50%を超えるほどに成長。それに加えて『ヨッコイショシリーズ』などの自社製品の開発・製造・販売、および医療機器などのレンタル事業、住宅リフォーム事業といくつもの柱ができ、経営も安定してきた。

「今でも忘れられない出来事は、平成24年3月に鳥取県商工会経営支援発表会で、当社の建設業から介護業への移行事例が最優秀賞を受賞したときのことです。真っ先に父の携帯電話に報告すると、送話口をトントンと2回叩く音が聞こえました。それは、喉頭癌の摘出手術で声を失っていた父の『おめでとう。よかったな』というメッセージだったのです。その数日後に父は亡くなりましたが、異業種への移行に大反対していた父に認められたことは、私に大きな力を与えてくれました。これからも脱公共事業を実現した企業のモデルケースとして、ふさわしい実績を積んでいくとともに多くの方々に必要とさせるサービスや製品作りを手がけていきたいですね。」

『ヨッコイショシリーズ』足の裏ささえ隊

事例2-2-9:有限会社トップテクノ(福井県鯖江市)

(蓄熱式ホット座布団・クッション・足温器の開発・製造・販売)

〈従業員5名、資本金300万円〉

代表取締役 市野好一氏

「一般ユーザーに認知される自社製品を開発、
新しい事業へと育て上げる」

◆事業の背景

あらゆる産業分野で活躍する
ヒーター開発の専門家。

福井県鯖江市のトップテクノは、平成3年の創業から一貫して産業用ヒーターの開発・製造を手掛けている。ひとくちに産業用ヒーターといっても、その用途はさまざまだ。たとえば、パラボラアンテナの反射板裏面に貼りつけられているのは、アルミ箔ヒーター。山の上などに設置したパラボラアンテナは、反射板に雪が積もったり、凍結したりすることで、電波の送受信の精度が下がってしまう。それをヒーターで加熱して防いでいるのだ。また、CTスキャナのX線受信部分や顕微鏡のシャーレを置く部分など、温度を一定に保つ必要がある部分には、シリコンラバーヒーターを敷いて温度を制御している。そのほかにも、大型鏡の内部にアルミ箔ヒーターを埋め込んで、水滴による曇りを防止したり、スパ施設にある岩盤浴用の岩盤を温めるなど、さまざまな場面でトップテクノのヒーター技術が用いられ、活躍する産業分野は多岐にわたる。代表取締役の市野好一氏は語る。

「小ロットで、どこも引き受けてくれないという相談にも“1枚”から応じられるのが弊社の強みです。これまで蓄積した基礎データがあるので、どんなヒーターを使えばいいか分からないという相談にも応じられますし、制御温度や消費電力、コストはいくらかといったことをデータで示しながら、適切なヒーターの運用方法を提案することもできます。」

業界のパイオニアだからこその思いもある。産業用の特殊なヒーターは、ほとんどが顧客の注文を受けての受注生産。業界内で名が売れても、一般ユーザーに自分たちの仕事が注目される機会は少なく、いわば“縁の下の力持ち”。もちろん、製品への自負はあるが、いつの日か多くの人に認知される自社の製品を作りたいという思いである。

◆事業の転機

コードレスで使用できる、
充電式の保温座布団を発案。

14年前のそんなある日、市野氏はふとしたことからアイデアを思いつく。

「私はサッカーが趣味で、4人の子どものうち男児3人の試合がある日は、応援に行くのを楽しみにしていました。鯖江市では、雪の季節の試合は体育館で行われます。ところが、パイプ椅子に座って観戦していると、体が冷えて辛いのです。携帯用のカイロでは体全体を温めることができないし、かといって体育館にコードつきの大きな暖房器具を持ち込むわけにはいきません。私はヒーターの専門家なのだから、そういう環境でも快適に使えるようなものを作れないかと考えたわけです。」

座布団型でお尻から体全体を温めることができること、コードレスで持ち運びが自由にできること、この2つの条件でアイデアを練っていく。

「1回の充電で、最低4時間は効果を持続させたいと考えましたが、ヒーターだけではパワーが足りない。考えた末に行き着いたのは、蓄熱材を利用するというアイデアでした。当時、深夜電力を利用できる床暖房製品がすでに市場に出まわり始めていて、これに使われている酢酸ソーダ系の蓄熱材とヒーターを組み合わせれば、保温効果を持続させることが可能だと考えたのです。」

ヒーターと蓄熱材の組み合わせを試すこと数十回、ついに1時間の充電で5時間の保温効果が持続できる試作1号機が完成した。

「始めは業務外の趣味として開発していたので、投資できる金額はごくわずかでした。そんななか、平成14年に中小企業向けの新商品開発支援事業の補助金をいただけることになり、これをきっかけに一気に開発が前進しました。」

とはいえ、座布団のデザインや素材の検討をする段階では、思った以上に時間がかかったという。

「冷えに敏感な女性を中心にモニターをお願いし、意見を集めました。ところが座り心地については厳しい意見が多く、肌触りのいい布素材を試したり、厚みを調整するなど試行錯誤を繰り返しました。それでもなかなかお墨付きをいただくことができません。結局、最初の年の冬には完成には至らず、翌年の再挑戦でようやく理想的な形を見つけることができました。」

◆事業の飛躍

宣伝・販売促進の手法も、
イチから学んで取り組む。

こうして構想から2年、トップテクノの念願のオリジナル商品『ホット座布団』は完成し、平成15年より発売を開始した。

「ところがもう一つ解決しなければならない課題が生まれました。それは、商品をどのように宣伝し、売っていくかです。そうした分野はまったく経験がなく、何から手をつければよいかもわからない状態。そこで、鯖江商工会議所の『さばえIT塾』に通い、プレスリリースやホームページの作り方などをイチから学ぶことにしました。やがて、“省エネ”、“モバイル”グッズというキーワードに注目が集まって新聞やテレビに取り上げられ、発売当初は今ひとつだった売れ行きが上がっていきました。」

その後、『ホット座布団』は、プロ野球球場プレミアシートの無料貸し出しサービスに採用されたほか、有名カフェのテラス席用として大量購入されるなど、販路は広がっていく。低温環境で作業をしなければならない食肉加工工場の作業員に、福利厚生として導入された事例では「作業効率があがった」との高評価を得られたという。

続く平成16年にはひとまわり小さいサイズでデザイン性を向上させた『ホットクッション』を発売。さらに、「足先も温めたい」とのユーザーの声を受けて開発した足温器『ぽかれあ』を平成23年に発売、いずれも売れ行きは好調だ。

省エネ暖房器具『ホット座布団』
エコ足温器『ぽかれあ』

◆今後の事業展開と課題

自社製品の開発で社内の士気がアップ。
2本の柱で画期的な商品を生み出したい。

受注生産による産業用ヒーターという柱に加え、自社オリジナルの省エネ温かグッズという、もう一つの柱を得たトップテクノ。そのことは経営面だけでなく、従業員の意識にも良い影響を与えているという。

「自分たちが作っている産業用ヒーターは、どんなものかを説明するのは難しいですが、『ホット座布団』は技術が分かりやすい。そのため、みんながすすんで自社の名前を外に広めてくれるようになりました。商品が広く認知されたことが、仕事への誇りにつながったようです。」

今後は宣伝により力を入れて既存商品の売り上げアップを目指すほか、新たな製品を開発して2本目の柱を確かなものにしていきたいという。

「短い納期での対応が命題の産業用ヒーターはスピードが命ですが、オリジナル製品開発には時間の余裕があります。もちろん、投資できる予算に限りがあるという状況は変わりませんが、その分をアイデアでカバーすることは可能だと思っています。これからもバッテリーやヒーター、蓄熱材などの分野で日々刻々と生まれている新しい技術や素材についての情報を集めながら、これまでにない製品を世に生み出すチャンスを探していきます。」

東京の有名カフェに導入されたレザー仕様の『ホットクッション』

事例2-2-10:株式会社 尾鍋組(三重県松阪市)

(建設業)

〈従業員18名、資本金3,500万円〉

代表取締役 尾鍋哲也氏

「“不可能”を“可能”にした素人目線の不屈の開発魂」

◆事業の背景

これまで培った土木技術を活かし、
地盤改良という新事業に着手。

尾鍋組の事業の主軸は、道路や砂防工事などの公共土木工事。しかし、バブル崩壊に伴い、公共工事の減少が予想されていた。そこで、将来を見据え、代表取締役の尾鍋哲也氏が着目したのは、地盤改良という新事業だった。

地盤改良とは、主に地盤の不等沈下による住宅の傾きや地震時の液状化などを防ぐために行う地盤の補強工事のこと。一般的には現地の土とセメントを混合して土自体を固めるセメント改良や、鉄製の杭を打ち込む工法が行われている。しかしこの工法では土にセメントや鉄といった人工物が残ってしまう。環境問題が話題になるなか、新潟県の会社が開発した、砕石(小さく砕いた自然石)を使用する環境にやさしい工法が注目を浴びていたのだ。

「さっそく、新潟県の会社へ施工の視察に行きました。そこで、当時の住宅地盤改良に関する市場や法規制などの変化についての説明も受けました。」

平成12年に施行された住宅品質確保促進法で、住宅会社が住宅の傾きの責任を負うことが義務化されたことにより、市場は拡大が見込まれていること。セメントを使う地盤改良工事では、六価クロムが土壌汚染の安全基準を超える可能性が指摘されていること。さらに平成15年、土地の価値を決める基準に「土壌汚染や地中埋設物」が加えられたことにより、地盤改良工事により地中に作られる人工物の撤去費用が土地の価値を下げる可能性が高くなっていること。

「このような背景もあり、新しい地盤改良工法は今後、環境と経済の両面でニーズが伸びていくことが予想されました。尾鍋組にとって民間の住宅市場は未経験の分野でしたが、父の代から長年培ってきた土木技術を生かすことができるという点で容易に新事業展開できると判断したのです。」

ところが尾鍋氏が選んだ道は、いくつもの苦難を乗り越えなければならない、イバラの道だった。

◆事業の転機

経験のない民間市場への参入は、
思った以上に高いハードルだった。

砕石を使用した地盤改良工事では、土壌汚染の心配や撤去作業の必要もなく、強度が劣化することもない。まさに居住者にも環境にもやさしい工法だったが、一つだけネックがあった。従来の工法に比べ、2倍以上のコスト高になるのだ。

「環境にやさしく優れた技術でさえあれば、自然に売れるだろうと考えていたこちらの見通しも甘かった。」そう反省した尾鍋氏は、地元銀行と三重大学関連のNPO法人に働きかけ、同工法で地盤改良を行った物件の住宅ローンの金利優遇を実現した。尾鍋組が設計と施工を行い、NPO法人が施工認定書を発行、銀行が優遇金利でローンを設定するという3者連携によるビジネスモデルは、国内初の取り組みとして大いに評価を受けた。

「しかし、あまりにも工事の価格の差が大きいため、期待したほどの成果が得られませんでした。」

施工コストの削減努力を続け、市場での認知度も上がってきたころ、同工法の権利元の会社が倒産。尾鍋氏は、すでに行っていた5,000万円もの新事業への投資を損切りして撤退するか、そのまま突き進むか、という厳しい選択を迫られた。

「そんなとき、不思議なものでいい出会いが重なりました。1人は、地盤工学や土質力学などを専門とする三重大学大学院の酒井俊典教授。もう1人は、地盤改良用の装置などを専門に製造を行う株式会社シンエイテックの森芳春社長です。2人とも私が独自工法を開発するなら、協力することを約束してくれました。これで独自装置を作ることもできる。作った装置で施工したときの地盤改良効果も検証できる。あとは、私がやるか、撤退するかです。成功する保証があったわけではありませんが、『必ず成功させる』ことを決意して開発に着手しました。」

◆事業の飛躍

度重なる失敗を乗り越え、
1年半かけて新工法の開発に成功。

独自工法の開発には、それまでの工法の課題を解決する必要がある。最も大きな課題は、砕石を埋め込む穴を掘る際、穴が崩壊して周囲の軟弱な土が砕石と混じり、砕石杭の強度が落ちてしまうことだった。これを解決するには、ケーシング(鉄の筒)を使って地面を掘削し、穴の崩壊を防ぎながら砕石を埋め込んでいく方法が使われている。しかし、ケーシングを使っても、筒の最上部から砕石を投入するため、施工効率が悪い。

そこで考えたのは、「ケーシングを地中へ差し込んだときには、その中に土が入らず、地上ではケーシングの側面から砕石を連続的に素早く投入できる装置」だった。

「シンエイテックの森社長に私の構想を話すと『終わらない開発になる』と即座に言われました。確かに常識で考えれば、側面に穴のあいたケーシングだと、掘っている途中から土や水が入って砕石を投入するどころではなくなってしまいます。それでも、やってみないとわからないと説得して試作品を作ってもらい、実験を行いました。そこから先は、失敗の連続、暗中模索が続きました。1か月かけて試作したケーシングが、1回の実験でダメになってしまうことが何度もありました。成功するかどうかわからず、投資額はふくらむばかりの苦しい日々でした。」

ブレイクスルーとなったのはケーシング側面の穴にゴム扉を付けるアイデアを思いついたこと。これが新たな技術のコアとなった。ゴム扉のついたケーシング、その側面からの砕石投入により、オリジナルの新工法は誕生したのである。開発を始めて、1年半が経っていた。

◆今後の事業展開と課題

エコジオ工法協会を発足し、
施工代理店を募って販路を拡大中。

通常の10 分の1の小型ケーシングの実験用試作モデル
側面から砕石を投入できるケーシング

尾鍋氏によって『エコジオ工法』と名づけられた新工法は、その後、三重大学大学院 酒井教授との共同研究により地盤改良効果が検証され、平成22年1月には特許を取得。同年2月には一般財団法人日本建築総合試験所による『建築技術性能証明』を取得した。それと同時に尾鍋組はエコジオ工法協会を発足し、施工代理店を募集して販路を拡大中だ。

「当初は3社だった施工代理店は、4年間で32社に増えました。エコジオ工法は環境にやさしいだけでなく、品質向上と施工効率をアップさせたことで、コストも従来の工法と同程度か、安く抑えることに成功しました。尾鍋組では施工代理店に施工ノウハウを提供するだけでなく、住宅会社や土地の所有者などにエコジオ工法の施工内容とそのメリットを効果的にアピールできる営業支援も行っています。こういった仕組みを整えることで、かつての尾鍋組のように住宅市場での経験がほとんどない土木専門会社でも施工代理店として安心して参入できるようになりました。」

平成24年にはケーシングの構造を改良し、やわらかい地盤では土砂を排出せずに無排土で施工できる『エコジオZERO』という新技術を開発し、残土処分地のない地域でも施工が可能となった。

「酒井教授や森社長がいなければ、エコジオ工法は実現できなかったでしょう。ただ、業界の既成概念にとらわれない視点で開発を進めたからこそ、“不可能”を“可能”にできたと思います。これからも社会から求められる企業として社会的価値の高い事業へ挑戦していきます。」

『エコジオ工法』による施工の様子
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