第1部 小規模事業者の構造分析

第3節 事業承継に伴う新たな取組

ここからは、小規模事業者の事業承継に伴う新たな取組について、見ることとする。

第1-3-46図は、小規模事業者における先代経営者から現経営者への事業承継後の業績推移について、事業承継時の年齢別に見たものである。これによると、事業承継時の年齢が若いほど、承継後の業績が上向く傾向が明確に見て取れる。「良くなった」との回答は、40代未満では5割を超えていたものが、40代には4割に、50代以上では、3割に減少しており、より年齢が若い経営者に事業を引き継ぐことにより、小規模事業者の新陳代謝が図られることを示唆している。

第1-3-46図 事業承継後の業績推移(承継時の年齢別)
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第1-3-47図は、事業承継後、経営を革新するための取組の有無が、中小企業の業績にどのような変化を与えたかを示したものである。「改善」の回答比率を、取組を行った企業(取組企業)、取組を行っていない企業(非取組企業)それぞれについて見ると、取組企業は非取組企業に比べて2.5倍も大きいとの結果が示されている。

第1-3-47図 事業承継後の業績変化(経営革新への取組状況別)
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したがって、事業を承継した際、先代経営者の経営手法を吸収するとともに、後継者自らが、先代経営者にはなかった強みも活かしつつ、創意工夫をこらして経営を改善していくことが極めて重要である。

以上見てきたように、事業承継を契機として経営改善に取り組むことが重要であるが、伝統工芸の業界にありながらも、事業承継をきっかけとして様々な新しい取組を展開している小規模事業者について1事例を紹介する。

事例1-3-6:株式会社 佐藤商事(秋田県湯沢市)

(伝統工芸品川連漆器の製造・販売)

〈従業員11名、資本金600万円〉

代表取締役 佐藤慶太氏

「伝統文化の大切さを知り事業承継」
「伝統を守りながら新しい商品で販路を開拓、伝統文化を未来へ受け継ぐ」

◆事業承継のきっかけ

株式会社佐藤商事は、秋田県湯沢市の伝統的工芸品である川連漆器(かわつらしっき)を約800年間にわたり作り続け、伝統を守っている老舗企業である。

渋柿から抽出した「柿渋」や「生漆」を何層にも塗り上げる「下地」によって、川連漆器は非常に堅牢であることで知られている。「下地」の上には「花塗り」と呼ばれる仕上げを施し、漆本来の美しい光沢を出す。塗りムラが出ないように漆を均等に塗り上げるのが、熟練した職人の腕の見せどころだ。

この老舗企業を引き継いだのが、現社長の佐藤慶太氏。

斎藤氏は、大学卒業後、東京のIT企業で営業マンとして働いていたという。

「当時、家業には、あまり興味はなかったんです。それがある時、実家のホームページを作ることになって、改めて伝統的工芸品の素晴らしさ、その文化を守っている父親の仕事の大切さがわかったのです。絶やしてはいけないと思いましたね。」

その後、祖母の願いもあって家業を継ぐことを決意し、平成24年、社長に就任。佐藤氏は35歳になっていた。

◆新しい取り組みと効果

佐藤氏は、川連漆器の伝統的な職人技を守ることに強いこだわりを持っている。

そこでまず、地域と連携して伝統文化を観光客などに紹介していくことにした。地元の稲庭うどんの有名店に川連漆器を提供し、来店客に実際に川連漆器の良さを体感してもらうなど、地域をあげての取組を行った。

一方で、伝統的工芸品をこれからも代々受け継いでいくには、消費者に受け入れられる新しい商品を開発して、販路を拡げることも大切である。

これまでは、川連漆器の魅力を「何層塗りである」といった製法や機能で謳うことが多かったが、それだけではお客の食指は動かない。

佐藤氏は、東京勤務時代の感覚から、デザイン性も重要な要素だと感じていた。それで、子供向けの溝を付けたプレートやスプーン、大手玩具メーカーのキャラクターとコラボレーションした商品などの開発に挑戦したのだ。

「手探りではありましたが、取引先や売上は着実に拡大しています。従来の取引先のほかに、異業種からの商品の引き合いも増えきています。」と佐藤氏は語っている。

◆今後の課題と取組

佐藤社長は、職人の高齢化と担い手不足にも危機感を感じている。そのために、美術工芸を専門とする大学や各種専門学校と連携し、次世代を担う若い職人の育成にも取り組み始めている。

「最近では、若い学生達からの入社希望や、技術を学びたいとの問い合わせが増えてきています。また、秋田県内の伝統工芸を守っている若い世代の経営者が集まって、一緒に地域ブランド化や情報発信をやろうという機運が高まっています。」

若い世代が事業を引き継ぎ、従来とは異なる視点やアイデアを持ち込んで、伝統工芸が次世代に受け継がれていく。

佐藤氏のような人材がいる限り、伝統的工芸品のタスキは、まだまだ未来へと渡されていくことだろう。

(注)株式会社佐藤商事は、昨年の2014年版中小企業白書においても取り上げており、今回、2015年版小規模企業白書の発行にあたり、追加取材を行った上で再掲した。

伝統的工芸品の川連漆器(かわつらしっき)「根来・曙夫婦椀」
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