2 フリーランスの実態
これまでに見た回答者の属性を念頭に置きつつ、ここからはフリーランスの働き方の実態について分析を行うこととする。
(1) フリーランスの勤労形態
第1-3-19図は、今回のアンケート調査において、フリーランス形態で営む自身の事業について、主業か副業かの認識を聞いたものである。これによると約8割が主業であると回答している。
第1部 小規模事業者の構造分析 |
2 フリーランスの実態
これまでに見た回答者の属性を念頭に置きつつ、ここからはフリーランスの働き方の実態について分析を行うこととする。
(1) フリーランスの勤労形態
第1-3-19図は、今回のアンケート調査において、フリーランス形態で営む自身の事業について、主業か副業かの認識を聞いたものである。これによると約8割が主業であると回答している。
次に第1-3-20図は、フリーランス形態で働いている期間を聞いたものである。10年以上とする回答が最も多く、約半数を占めており、次いで5年から10年未満が約2割、3年から5年未満が約1割となっている。約8割の回答者がフリーランスを主業として営むと回答しているが(第1-3-19図)、主業として一本立するためには、少なくとも数年以上の何らかの業務経験が求められる様子がうかがわれる。
フリーランスの1日の実労働時間と定休日について聞いた結果が、第1-3-21図、第1-3-22図である。回答者全員の平均労働時間は7時間余りであったが、内訳を見ると、8時間とする者が最も多く2割超を占めるが、5〜6時間とする者も合計で3割弱となっており、平均労働時間を5時間から8時間とする範囲がフリーランスの実像であると考えられる。なお、12時間以上とする者も1割弱おり、長時間働いている者がいることも明らかとなった。
また、フリーランスの定休日として最も多い回答は、「不定休」が8割近くを占め、次いで「土日及び祝日」が約2割を占めている。なお、不定休と回答した者の中には、ほとんど休みを取得していない者も含まれることが考えられるが、この点については調査していない。
(2) フリーランスという働き方を選択した動機や理由等
次にフリーランスという働き方を意識したきっかけと、働いている理由を見てみることにする。
フリーランスという働き方を意識したきっかけについて聞いたものが第1-3-23図である。「前職を退職した」とする回答が最も多かったが、次いで、「自分自身の力を試したい」となっている。自分の得意な技能や経験を活かせる働き方を求めるようになったことが、フリーランスという働き方を意識した大きなきっかけの一つであることが明らかとなった。
フリーランスとして働いている理由を聞いたものが第1-3-24図である。最も多い回答は「仕事をする時間や場所の自由度がある」、「自分の好きな仕事をできる」が際立ち、これに次ぐ回答が「仕事の量を調整できる」、「専門的な技術・知識を活かすことができる」となっている。フリーランスは、働き方や仕事内容の自由を重視していることが明らかになった。
ここまでフリーランスという働き方を意識したきっかけや、働いている理由を見たが、次にフリーランスという働き方についての満足度を見ることにする。第1-3-25図は、フリーランスという働き方の満足度について、「仕事の自由度」、「仕事の内容」、「生活との両立」、「社会的評価」、「収入」の五つの観点から聞いたものである。
「仕事の自由度」、「仕事の内容」、「生活との両立」については、「大変満足している」、「満足している」とする回答が合わせて約6割から約7割を占めている。対照的に、「社会的評価」、「収入」については、「大変満足している」、「満足している」との回答が合わせて2割を切る。第1章において、小規模事業者の経営者としての満足度を見たが(第1-1-41図)、フリーランスも同様に、収入や社会的評価の満足度は低いながらも総じて、自身の仕事に誇りを持ち、取り組んでいる姿勢がうかがえる。
(3) フリーランスになる前の職業等
第1-3-26図は、フリーランスになる前の職業について集計したものである。「中小企業の役員・正社員」とする者が最も多く6割弱を、次いで「大企業の役員・正社員」が2割弱を占めている。企業での実務経験がフリーランスとして身を立てるための強みになっていることが想像できる。対照的に教員や公務員は極めて少ない。
次にフリーランスになる前職の従事年数(第1-3-27図)を見ると、回答者全員の平均は11年余りとなっているが、内訳を見ると、年数にばらつきが見られる。すなわち「5年未満まで」、「5年以上10年未満まで」、「10年以上15年未満まで」とする回答が多く、三つを合わせて約7割を占める。対照的に、前職の従事年数が「15年以上」になると回答者は急減し、約3割となっている。このことから、フリーランスになるまでには、数年以上をかけ、企業等で働きながら技能や経験を培う必要があることが分かる。
(4) フリーランスになる際に直面した課題
第1-3-23図(フリーランスという働き方を意識したきっかけ)、第1-3-24図(フリーランスとして働いている理由)において、フリーランス形態による事業は、自分自身の力を試すことができることや、働き方や仕事内容が自由であるといった肯定的な回答が上位に見られたが、フリーランスに転ずる際に実際に直面した課題には、どのようなものがあったのだろうか。このことを聞いたものが、第1-3-28図である。最も多い回答として「顧客の確保」が際立っている。選択肢の一つにある「事業に必要な専門知識・技術の習得」は、フリーランスになる前に既に目途をつけ、あとはその持てる専門知識や技術を活かすためにも「顧客の確保」が最優先となっているものと考えられる。
(5) フリーランスの経済基盤
ここからはフリーランス形態で事業を営む上での経済基盤を見ることにする。はじめに、保有している事業用資産の有無を聞いたものが第1-3-29図である。保有しているとした回答の中では、「現金・預金」とする回答が際だって多く、次いで、「建物・構築物・建物付属設備(自宅が事業所を兼ねている場合、自宅を含む)」となっている。フリーランスは、高価な機械、設備等によることなく、属人的な技能を事業基盤としている様子がここからもうかがわれる。
さらに、フリーランスの手取り年収、貯金の金額について見ると(第1-3-30図)、手取り年収、貯金の金額はそれぞれ300万円未満までとする回答が約6割を占めていた。なお、貯金の金額については、100万円未満とする回答が約4割を占めている。
また、フリーランスの近年の売上及び利益についての傾向を見ると(第1-3-31図)、「横ばい」とする回答がそれぞれ約半数を占めた。3割程、事業が減少傾向にある者がいるものの、約7割の者は、売上・利益ともに増加若しくは横ばいと答えており、事業を安定的に運営している。
第1-3-31図(フリーランスの売上及び利益の傾向)において、約7割の者が、売上・利益ともに増加若しくは横ばいと答えていることが分かった。それでは、フリーランスが仕事を請ける上で、顧客との取引関係はどうなっているだろうか。
第1-3-32図は、仕事の発注者のうち、固定客(継続的に業務の発注をする顧客)が占める割合を聞いたものであるが、これによれば、固定客は7割以上とする回答が半数近くを占めた。特定の者を対象として事業を営むことは、契約の金額や内容の面での交渉力を弱める側面もあると考えられるが、事業の安定化という利点もあると考えられる。
第1-3-33図はフリーランスが顧客を獲得するための方法について聞いたものである。最も多い回答が「既存の顧客からの紹介」で5割近くを占め、「自分の営業活動・売り込み」(約4割)、「友人・知人からの紹介」(4割弱)が続く。調査結果からは、既存の顧客との関係を維持すること、及び自分の営業活動を両軸として、顧客を獲得する傾向が強いことがうかがわれる。
フリーランスが顧客を獲得するための方法と、顧客との契約金額の決め方との間には、どのような関係が見られるだろうか。この関係を第1-3-34図で見てみよう。一般的にフリーランスにとって、好条件で契約金額を決めることができる場合とは、自身が提示した金額でそのまま契約できることであると考えられる。こうした契約形態で仕事を獲得した者は、「自分の営業活動・売り込み」とする回答が最も多かった。これと比較して、「既存の顧客からの紹介」とする、やや受け身的な方法を取った場合は、「自分と顧客の協議・調整を経て決まることが多い」とする回答が最も多かった。これらのことから、フリーランスが営業活動に割く時間・労力が、好条件での契約金額を得ることと少なからず関係していることを示唆している。
フリーランスは、仕事を一案件当たりどのくらいの金額、納期で受注しているだろうか。第1-3-35図によれば、金額について一案件当たり100万円未満が8割超を占めており、受注額が少額に集中する傾向が見られた。対照的に納期までの期間は(第1-3-36図)、「業務ごとに大きく異なる」とする回答が2割弱を占めるほか、1か月以内の短期のものが約4分の1を占める一方、1か月超とする回答の合計も約2割を占め、全体としてばらつきが大きい。
(6) フリーランスとしての強み
フリーランスの最大の事業基盤は、自身の技能や経験であると考えられるが、事業を営む上で自身の強みである技能や経験について、フリーランスはどのように評価しているだろうか。フリーランスの強みについて聞いたものが第1-3-37図であるが、「専門的な知識」とする回答が際立った。先に、フリーランスという働き方を意識したきっかけ(第1-3-23図)や、フリーランスになる際に直面した課題(第1-3-28図)を見たが、これらを総合すると、フリーランスの実像は、「専門的な知識」に自信を持ち、事業として成り立ち得るかどうか「自分自身の力を試したい」と考えてはいるが、肝心の「顧客の確保」に課題を覚えるとの姿が見えてくる。
フリーランス最大の事業基盤は、自身の技能や経験であると考えられるが、それをどのように身に付けたのかを見てみることにする(第1-3-38図)。独学か趣味としてはさておき、「自分で身に付けた」という者が大半であり、「他者」、とりわけ「学校教育」で身に付けたという者は少数派である様子がうかがわれる。
(7) フリーランスとしての不安や悩み
ここからは、フリーランス形態で事業を営む中での、フリーランスの不安や悩みを見ることにする。はじめに、不安や悩みをどのくらいのフリーランスが抱えているかを聞いたものが、第1-3-39図である。約7割のフリーランスが不安や悩みが「ある」と回答しており、「ない」と回答した者に比べて非常に多いことが分かる。
それでは、不安や悩みがあると回答したフリーランスについて、不安や悩みの具体的な内容を見てみる(第1-3-40図)。「収入の不安定さ」とする回答が最も多く、次いで、「社会保障(医療保険、年金等)」、「自分の健康や気力の持続」となっている。「収入の不安定さ」とする回答は、近年における収入の低さを直ちに意味するものではないが、フリーランスは、事業を営む上で、収入が保障されず、自身の健康や加齢による活力の減退にも左右されるとの実像が見えてくる。
フリーランスが事業を営む上で抱える最も大きな不安や悩みは、「収入の不安定さ」であることが分かった(第1-3-40図)。それでは、手取り年収の水準と事業を営む中での不安や悩みの有無とはどのような関係にあるだろうか。第1-3-41図は、この関係を見たものであるが、400万円未満の回答者層を中心に、「不安・悩みがある」とする者の比率が高まる傾向が見られる。
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