第1部 小規模事業者の構造分析

3 販路開拓への取組

それでは、小規模事業者は、販路開拓のためにどのような取組を行っているであろうか。第1章、第2章に続き、今回実施した「小規模事業者の事業活動の実態把握調査」の調査結果から分析を行いたい。

(1) 販路開拓への取組

第1-3-6図は販路開拓について、小規模事業者が実際にどのような取組を行っているかを聞いたものである。実際に取組を行っているとした回答のうち最も多いものは、「新しい顧客への直接訪問・売り込み」、「対面販売における顧客への説明・コミュニケーションの充実」となっている。小規模事業者は、販路開拓に向けて、対面的な営業活動に最も積極的に取り組んでいることが分かる。

その上で、販路開拓への取組が、売上の増加とどのような関係があるのかを見てみる。第1-3-7図は、販路開拓に向けて実際に取り組んでいる取組と近年の売上傾向との関係2である。売上が「増加傾向である」と回答した者が最も多い取組は、「営業能力の高い人材の採用」であった。しかしながら、第1-3-6図のとおり、実際に取り組んでいる事業者は少ない。これは、人材の採用については、縁、偶然の要素も関係しているためと考えられる。他方、小規模事業者の多くが取り組んでいたものが対面的な営業活動であるが、こうした取組をしている者の中で、売上が「増加傾向である」とする者の割合は低い。こうした取組については、売上の増加につながるように、精度の向上に取り組むことが必要であろう。

2 近年の売上傾向とは、直近3年間(2012年~2014年)の売上傾向をいう。

第1-3-6図 販路開拓に向けて実際に取り組んでいる取組(複数回答)
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第1-3-7図 販路開拓に向けて実際に取り組んでいる取組(複数回答)と近年の売上傾向との関係
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(2) 販路開拓への取組にあたっての協力機関等の必要性

第1-3-8図は、販路開拓を実施するにあたって、取組ごとに、自社のみで対応できるか、それとも外部組織との協力が必要かを聞いたものである。

自社のみで対応可能とした回答が多かった取組としては、「訪問販売の実施」、「新しい顧客への直接訪問・売り込み」、「対面販売における顧客への説明・コミュニケーションの充実」であった。第1-3-6図(販路開拓に向けて実際に取り組んでいる取組)で見た小規模事業者の得意領域とする対面的な営業スタイルとほぼ重なっていることが分かる。ただし、「訪問販売の実施」については、自社のみで取り組むことができるとした者の割合が最も高いにも関わらず、第1-3-6図によれば、実際に取り組んでいる者の割合が低い。

第1-3-8図 販路開拓に向けた取組についての協力先
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他方、公的、民間の支援機関等からの支援を必要とする取組としては、「自社の製品・商品の市場分析」、「ホームページ、Eメールを活用した情報発信」、「市場分析の結果に基づく商品の開発・提供」などという結果となった。つまり、マーケティングやITなどの専門知識を必要とする分野について、外部組織の協力を得たいという者が多いという結果が示された。

(3) 経営計画の作成を通じた小規模事業者の意識の変化

2014年6月20日に成立した、小規模企業振興基本法においては、小規模事業者の振興のために基本原則とする小規模事業者の「事業の持続的な発展」を促すこととなったが、具体化する取り組みの一つとして、「小規模事業者持続化補助金」が2013年度補正予算において措置された。これにより、小規模事業者が、商工会・商工会議所からの支援を受けながら、一体となって経営計画を作成し、販路開拓に向けた取組を対象に、費用の支援を受けるための取組が実施された。

同補助金では、経営計画の作成を要件としているが、経営計画が採択された小規模事業者に聞いたところ、約6割が同補助金の活用をきっかけにはじめて経営計画を作成したと回答している(第1-3-9図)。また、経営計画の作成を経た後、事業者に考えの変化を聞いたところ、「自社の強み・弱みが明らかになった」、「新たな事業を企画できた」とする回答が5割を超えたほか、「事業の見直しを行うきっかけとなった」が4割になるなど、経営に向き合おうとする意識が生まれた(第1-3-10図)。

第1-3-9図 経営計画の作成経験の有無
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第1-3-10図 経営計画の作成を経た、小規模事業者の意識の変化(複数回答)
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人口が減少し、顧客獲得のための販路開拓が極めて重要な経営課題となる中、販路開拓の精度を高めるためにも、自らの事業を足元から見直し、経営の方向性を定めるための経営計画づくりが必要となってきている。なお、小規模事業者持続化補助金で求めている経営計画は1ページ程の簡易なものであり、その位の分量でも十分効果が上がるものと考えられている。

コラム1-3-1

「小規模事業者持続化補助金」について

小規模事業者の「事業の持続的発展」は小規模企業振興基本法(小規模基本法)の基本原則であるが、小規模基本法の成立に先立ち、平成25年度補正予算において、小規模事業者の販路開拓による事業の持続的発展を支援する「小規模事業者持続化補助金」が措置された。ここでは「小規模事業者持続化補助金」について概観する。

●事業概要(平成26年度補正予算)

本補助制度は、小規模事業者が、商工会・商工会議所と一体となって、販路開拓に取り組む費用(チラシ作成費用や商談会参加のための運賃など)を支援しており、平成26年度補正予算においても、大幅増額している。

また、新たに複数の事業者が連携した共同事業を支援対象に加えるほか、中山間地域での移動販売などによる買い物弱者対策に取り組む事業者についても補助上限を引き上げ、より重点的に支援する。

また、小規模事業者の経営計画に基づく経営を促すため、本補助金の申請にあたっては、「商工会・商工会議所の支援を受けた経営計画書」及び「商工会・商工会議所が作成する事業支援計画書」の添付を要件としている。

コラム1-3-1〔1〕図 小規模事業者持続化補助金の概要
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●事業の効果(平成25年度補正予算の実績)

中小企業庁が実施した採択事業者に対するアンケートによれば、主要な取組としては、チラシ・カタログ等の作成配布(845件、15.5%)、ホームページの作成・改良(787件、14.5%)、設備等の導入(716件、13.2%)などが多くを占めた(コラム1-3-1〔2〕図)。

コラム1-3-1〔2〕図 採択事業者が取り組む「補助事業」
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コラム1-3-1〔3〕図 取り組み事例
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既に事業を実施している採択事業者のうち、約51%が新たな取引先や顧客を獲得しており、見込みも含めると、現時点で約97%の事業者が新たな取引先や顧客を獲得すると回答している。また、35%の事業者が売り上げを伸ばしており、見込みも含めると、現時点で約90%の事業者は、売り上げが増加する見込みとの結果が得られた。

さらに、本章第1-3-9図で示したように、本補助金では経営計画の作成を要件としているが、採択事業者の約60%が本補助金の活用を契機に初めて経営計画を作成。

本補助金の活用は、売り上げなどの直接的な成果もさることながら、事業者が自社の事業の現状や将来について向き合い、見直す契機となっている。

コラム1-3-1〔4〕図 小規模事業者持続化補助金の活用による新たな取引先や顧客の獲得状況
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コラム1-3-1〔5〕図 小規模事業者持続化補助金の活用による売上の増加状況
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(4) 販路開拓への取組(海外展開への取組事例)

販路開拓への取組の中でも、最も積極的な取組の一つに挙げられるのが海外展開であるといえよう。ここでは、小規模でありながらも独自の着想発想をもとに、積極果敢に海外展開に取り組んでいる2つの小規模事業者について2事例を紹介する。

事例1-3-1:株式会社ルイズ(東京都墨田区)

(雑貨輸入販売、海外店舗運営)

〈従業員0名、資本金2,950万円〉

代表取締役 関 さつき氏

「ハワイに念願のセレクトショップを開店」
「可能性を信じて起業した想いが、同じ志を持つ仲間とともに世界へ羽ばたく」

◆事業の背景

米国ハワイ州ホノルル、ワイキキビーチから徒歩5分のアクア・ワイキキ・パール・ホテルの1階に、セレクトショップ「Ribbon Lei」はある。日本テイストの“かわいい”洋服や服飾品、雑貨などを取り揃えている。特におすすめは「Ribbon Lei」オリジナルのビーチサンダル。ハリウッドスター御用達のビーチサンダル・ブランド「ハワイアナス」のソールを使用し、ブラジリアンビーズをあしらったハンドメイドの逸品だ。ヒールが高いことでビーチでも歩きやすく、装飾がゴージャスに仕上がっており、ハワイでのウエディング用として、また日本へのお土産として大人気となっている。

「ハワイアナス」はブラジルのメーカー。「Ribbon Lei」は、オリジナル品として企画、製造を委託して、ハワイで輸入販売を行っている。

この「Ribbon Lei」を運営しているのが株式会社ルイズ。代表取締役の関さつき氏は、元はOL、その後、想うところがあって平成22年に会社を立ち上げた。

◆事業の転機・展開

「もともと海外旅行が好きで自由な時間が欲しいなと思ってました。それと、自分の好きなことを思いっきりやってみたいというのが一番の理由ですね。」

ご主人も会社を経営しコンサル業や商社事業を営んでいたこともあり、起業へのハードルは高くなかったようだ。

その後は、主にECサイトで輸入雑貨などを販売している。「自分の好きなものを販売して、それを気に入った方に買っていただく。シンプルですけど、それが基本的なコンセプトです。」と関氏は語っている。

海外進出への好機が訪れたのは平成26年。年に数回は行っていたというハワイで、知人から店を譲りたいとの話があった。立地も広さも手ごろ。迷うことなく即決した。

それからは、一緒に会社を運営する仲間たちと協力して準備を進め、同年9月に「Ribbon Lei」を開店。オリジナル商品の開発でブランド化を目指して、目下奮闘中である。「でも海外展開には悩みもありますよ。」商品の納期の遅れや、円安方向への動きによるコストの上昇、順調とばかり言えない状況への対応も大変だという。

「まだ収入は不安定だけど、それでも海外での事業は楽しいですね。将来はハワイに永住しようかなとも考えているんです。」と、関氏は楽しそうに話してくれた。

◆今後の事業展開

関氏は、今後のハワイ事業の展開として、ウエディング事業や飲食事業などを考えている。

「日本人は年間145万人がハワイを訪れます。そのうちハワイでのウエディングは年間30万組と魅力的な市場です。また、ハワイは日本食が受け入れられる市場なので、日本人観光客以外への提供も可能性があると考えてます。」と、関氏は経営者の視点で語ってくれた。

飲食事業でいえば、うどんチェーン店がハワイに出店し、連日、長蛇の列をなすほどファーストフードとして受け入れられているという。関氏は、ハワイのスイーツブームを受けて、日本食材を使ったスイーツでのハワイ事業展開を構想している。

「ハワイでかき氷なんいうのもいいですね。餅アイスクリームを逆輸入して日本で展開、なんかもいけそうです。」

さらに将来は、ブランド化した商品を東南アジアで展開することも想定している。

とかく企業においては、競争原理のレバレッジを効かせた経営管理手法で利益を上げることが多いものである。しかし関氏は、自分の五感を信じて、同じ志の仲間たちと協調しながら自己実現を図っているようだ。

「会社経営の中で、人とのコミュニケーションが楽しくてたまりません。」

関氏の夢は、仲間たちとのコミュニティをバネに、きっと大きく世界へ羽ばたいていくことだろう。

「Ribbon Lei」オリジナルのビーチサンダル・“ かわいい” 商品が並ぶ「Ribbon Lei」の店内

事例1-3-2:株式会社アズ(東京都港区)

(IT事業、リテールサポート事業、海外事業)

〈従業員4名、資本金300万円〉

代表取締役 藤田知礼氏(左)取締役 高橋浩一氏(右)

「事業分野の違う二人の経営者が意気投合」
「海外進出をテコに相乗効果が増幅し、差別化戦略で企業の競争力を獲得」

◆事業の背景

今回の主役は二人。一人は株式会社アズの代表取締役である藤田知礼氏、もう一人は同社取締役の高橋浩一氏である。

藤田氏は平成19年に大手電機メーカーの関連会社をスピンアウトし、株式会社アズを設立、主にWeb/ECサイトの構築運営事業で会社を経営していた。片や高橋氏は、製菓メーカーの営業として全国を飛び回る傍ら、地方の老舗菓子メーカーなどに東京進出のアドバイスなどを行っていたが、自身のプロデューサーとしての能力を生かそうと、上司を誘ってコンサル会社を起業した。

ふたりの出会いは、藤田氏が約140年続く京都にある老舗の飴メーカーに投資したことに始まる。偶然にも、そこにコンサルとして入っていた高橋氏と初めて顔を合わせた。

「藤田さんは、IT企業の経営者でありながら海外事業やWebプロモーションの話を熱っぽく語るのです。好奇心の強い人だなと思いました。」と高橋氏。

「高橋さんは、企業の販路開拓プロデューサーとして優秀で、人脈も広い方だなと思いました。」と藤田氏。

すぐに意気投合し、とんとん拍子で一緒にやろうと話がまとまった。そして平成26年、高橋氏とそのスタッフが藤田氏の会社に合流し、IT事業部、リテールサポート事業部、海外事業部の3事業部制を敷いた、新生アズが生まれた。

◆事業の転機・展開

遡ること3年前、藤田氏の元後輩がタイへ渡り、日系電機メーカーの現地法人に就職した。その後、新生アズとなった平成26年に、その後輩を責任者とした現地法人「Try & Marry Consultant Co., Ltd」をタイのバンコクに設立。そもそもは、日本国内の市場が飽和していく危機感からだったが、この現地法人が同社の転機となる。藤田氏のWebプロモーション能力、高橋氏の出店プロデュース能力、そしてタイ現地法人が三位一体となって、海外進出を計画する企業への提案力が飛躍的に向上し、受注が拡大していったのだ。

ドラッグストアのタイ1号店の現地プロモーション戦略にSNSを活用してサポート。カルチャースクールのタイ1号店の進出を現地マーケティングから現地法人設立までサポート。菓子メーカーのタイ現地店舗の運営管理。広告代理店が企画した化粧品パッケージのタイ輸出と現地販路開拓をサポートなどなど、枚挙に暇がない。

こうして同社は、国内外をまたいだ企業サポート力が競争力を生み出した結果、今年度は昨年比4倍近い売上の伸びが確実となっている。

海外展開には、文化や商習慣の違いから、トラブルに見舞われるリスクもはらんでいる。だからこそ、海外進出を目指す企業に対する同社のサポートが生きてくるのだろう。無名に近い同社の、サービスの質の高さと、価格の競争力を兼ね備えた海外サポートを大手企業が受け入れる理由が、ふたりの熱意から読み取れる。

◆今後の事業展開

同社は、来年度には社員の採用を積極的に行い事業の拡大を図っていく方針だ。

「これからが本番です。東南アジアを中心に海外事業を着実に伸ばして、グローバル企業としての事業基盤を固めていきます。」と、両氏は目を輝かせた。

日本品質が東南アジアで高く評価されている今、同社が活躍する舞台は無限に広がっているようだ。

小規模企業から中小企業へと階段を駆け上がる株式会社アズ。これからも、目が離せそうにない。

タイの現地法人「Try & Marry Consultant Co., Ltd」
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