第1部 小規模事業者の構造分析

3 個人事業者と法人の売上高と付加価値額

次に、個人事業者と法人について、売上高と付加価値額の観点から分析する。

第1-1-28図は、小規模事業者の1事業者あたりの売上高と付加価値額を業種別に比較し、第1-1-29図は、小規模事業者の従業者1人あたりの売上高と付加価値額を業種別に比較したものである。

第1-1-28図 小規模事業者の1事業者あたり売上高と付加価値額
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第1-1-29図 小規模事業者の従業者1人あたり売上高と付加価値額
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これを見ると小規模事業者の1事業者あたり平均売上高は3,640万円、平均付加価値額は998万円となっている。また、従業者1人あたり平均売上高は1,021万円、平均付加価値額は280万円となっている。

業種別に見ると1事業者あたりの売上高が最も高いのは「鉱業,採石業,砂利採取業」の1億2,248万円であり、次いで「卸売業」の1億1,255万円、「運輸業,郵便業」の7,705万円となっている。また、1事業者あたりの付加価値額が最も高いのは「鉱業,採石業,砂利採取業」の2,868万円、次いで「金融業,保険業」の2,330万円、「運輸業,郵便業」の2,310万円、「製造業」の1,872万円となっている。

次に、売上高と付加価値額について、業種別に個人事業者と法人に分けて見てみることとする。第1-1-30図と第1-1-31図は、個人事業者と法人別に1事業者あたりの売上高と付加価値額を業種別に比較したものである。

第1-1-30図 小規模事業者の1事業者あたり売上高と付加価値額(個人事業者)
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第1-1-31図 小規模事業者の1事業者あたり売上高と付加価値額(法人)
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これを見ると、個人事業者の1事業者あたり平均売上高は963万円、平均付加価値額は393万円となっているのに対し、法人の1事業者あたり平均売上高は7,967万円、平均付加価値額は1,974万円となっており、平均売上高で比較すると法人は個人事業者の8.3倍、平均付加価値額では5.0倍となっている。

また、業種別に見ても、いずれの業種においても、組織化されている法人の方が個人事業よりも高い数値を示していることが分かる。

また、第1-1-32図と第1-1-33図は、個人事業者と法人別に従業者1人あたりの売上高と付加価値額を業種別に比較したものである。

第1-1-32図 小規模事業者の従業者1人あたり売上高と付加価値額(個人事業者)
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第1-1-33図 小規模事業者の従業者1人あたり売上高と付加価値額(法人)
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これを見ると、個人事業者の従業者1人あたり平均売上高は399万円、平均付加価値額は163万円となっているのに対し、法人の従業者1人あたり平均売上高は1,468万円、平均付加価値額は364万円となっており、平均売上高で比較するとは法人は個人事業者の3.7倍、平均付加価値額では2.2倍となっている。いずれの業種をみても、組織化されている法人の方が個人事業よりも高い数値を示しているが、従業者1人あたりで見た場合、1事業者あたりほどの開きはない。

コラム1-1-4

「個人事業者」と「法人」の違い

第2節で見てきたように、小規模事業者の約6割は「個人事業者」であり、約4割は「法人」である。ここでは個人事業者と法人の違いについて、経営面、法務面、税制面、事業承継面について概観する。

●経営(事業活動)面と法務面の違い

コラム1-1-4〔1〕図は個人事業者と法人の「経営(事業活動)と法務」上の違いをまとめたものである。

コラム1-1-4〔1〕図 個人事業者と法人の「経営(事業活動)」と「法務」上の違い
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経営面の違いは、個人事業者は、個人が主体となって自己責任で事業活動を行い、事業活動の全責任は「個人事業者自身」が負うのに対し、法人は、個人とは切り離し、法人格(法律上の権利義務の主体)が認められた「法人」が事業活動を行い、その事業活動から生じる責任も個人から切り離して「法人自身」が負うものである。

法務面の違いは、個人事業者は、個人事業者本人が主体となって自己責任で事業活動を行うので、取引について「無限責任」を負うのに対し、法人は、法人格(法律上の権利義務の主体)が認められているので取引の責任は個人から切り離して「法人自身」が負うこととなり、個人は自分が法人に出資した範囲で「有限責任」を負うこととなる。

●税制面の違い

個人事業者と法人の違いについて税制面で比較してみることとする。コラム1-1-4〔2〕図は、個人事業者と法人(資本金1億円以下)の税制の違いを示したものである。国税を見た場合、機械的に計算すれば、課税所得が約905万円で同額となり、この課税所得を下回る場合には、個人事業者の所得税額が資本金1億円以下の法人の法人税よりも低くなり、この課税所得を超える場合には、個人事業者の所得税の方が資本金1億円以下法人の法人税よりも高くなる。

コラム1-1-4〔2〕図 個人事業者と法人(資本金1億円以下)の税制の違い
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なお、実際には、経費の扱い(法人での損金、個人事業者での必要経費の扱い)等の違いもあるため、一概に比較することはできないことに留意が必要である。また、上記の比較は、あくまでも国税のうち個人の所得税(復興特別所得税は考慮していない)と法人の法人税のみ(地方法人特別税、地方法人税は考慮していない)の比較であり、地方税の比較は行っていないことにも留意が必要である。

コラム1-1-4〔3〕図は個人事業者と法人の「税務」上の違いをまとめたものである。

コラム1-1-4〔3〕図 個人事業者と法人の「税務」上の違い
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●事業承継面の違い

コラム1-1-4〔4〕図は個人事業者と法人の「事業承継」上の違いをまとめたものである。事業承継時において、法人は「法人格」がそのまま継続するのに対し、個人事業者は事業者自身の死亡により「廃業届」を提出し、事業を承継する後継者は新規に「開業届」を提出することとなる。形式上は新規事業として取り扱われている。

コラム1-1-4〔4〕図 個人事業者と法人の「事業承継」上の違い
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また、事業用資産については個人事業者、法人ともに、原則として相続又は売買で取得する。法人の場合、会社そのものの承継は自社株式の相続又は売買となる。

そのほか、事業用資産とそれ以外の資産の区分が明確ではなく、それを客観的に区分することが困難である点や個人事業者の場合、事業専従者への退職金が経費とはならない点が法人と大きく異なる点である。

コラム1-1-5

小規模事業者における「中小会計要領」の有用性

第2節で見てきたように、小規模事業者の約4割は「法人」である。ここでは、中小企業・小規模事業者の実態に即して、経営者が容易に理解できる新しい会計ルールとして策定された「中小企業の会計に関する基本要領」(以下「中小会計要領」という。)について概観する。

●「中小会計要領」の概要

中小会計要領は、中小企業関係者(中小企業団体、税理士、公認会計士、金融関係団体、学識関係者)が主体となって開催された「中小企業の会計に関する検討会」(事務局:中小企業庁、金融庁)によって、中小企業の実態に即した新たな会計ルールとして、2012年2月1日に公表された。

非上場企業である中小企業にとって、上場企業向け会計ルールは適用されないが、中小企業・小規模事業者でも簡単に利用できる会計ルールがこれまでなかったことから、中小企業・小規模事業者の会計処理の実態(コラム1-1-5〔1〕図)を考えて作られた新しい会計ルールである。

コラム1-1-5〔1〕図 中小企業・小規模事業者の会計処理の実態
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また、中小会計要領では、中小企業・小規模事業者の実態に配慮して、税制との調和や事務負担の軽減を図る観点から、多くの実務で必要と考えられる項目に絞って、簡潔な会計処理等を示している(コラム1-1-5〔2〕図)。詳細は中小企業庁ホームページに掲載(http://www.chusho.meti.go.jp/zaimu/youryou/about/)。

コラム1-1-5〔2〕図 「中小会計要領」が示している項目(抜粋)
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●「中小会計要領」の有用性

「中小会計要領」は、小規模事業者を含む全ての株式会社を対象としており、経理人員が少なく、高度な会計処理に対応できる十分な体制が整っていない事業者を想定してつくられた会計ルールである。

中小会計要領を活用し、自社の財務情報や経営状況を正確に把握することは、人間に例えれば、定期的に人間ドックを受診して自らの健康状態を把握することに似ている。日頃から健康状態を把握することで、疾病の予防、早期発見、早期治療が可能となるように、企業においても財務情報や経営状況を把握することによって、経営課題が明らかになり、適切な解決策を講ずることにより経営改善につなげていくことができる。また、経営者が自社の強みを語ることができれば、金融機関や取引先の信頼性を高めることになり、取引や融資の拡大も期待することができる。

コラム1-1-5〔3〕図は「中小会計要領」を活用した効果を示したものである。これを見るとコスト削減・収益拡大面では「投下コスト確認の精度が高まり原価抑制に効果が出た」、「曖昧な支払や入金処理を回避」、「不採算部門を明らかにした」などの効果や、資金調達力の強化面では「金融機関に月次決算表を出せるようになり、融資が円滑に受けられた」、「金融機関の評価が高まり、税務当局からの信頼も得られた」などの様々な効果があることが分かる。

コラム1-1-5〔3〕図 小規模事業者における取組と効果(小規模事業者の声)
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決算書の信頼性の向上が図られ、投資判断や経営改善等を的確にできるほか、スムーズな資金調達につながる「中小会計要領」の活用により、事業のさらなる持続的発展が期待されるところである。

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