第1部 小規模事業者の構造分析

第1章 小規模事業者の実態

我が国に存在する385万者の中小企業の約9割、334万者を占める小規模事業者は、地域に密着した活動体として地域の経済社会・雇用を支える礎ともいえる極めて重要な存在である。

しかしながら、小規模事業者を取り巻く環境は、人口減少、過疎化、高齢化、大手量販店等の郊外展開、海外との競争の激化といった構造変化に直面しており、売上げや事業者数の減少、経営層の高齢化等の様々な課題を抱えている。

このような背景のもと、第186回通常国会において2014年6月20日に「小規模企業振興基本法(小規模基本法)」及び「商工会及び商工会議所による小規模事業者の支援に関する法律の一部を改正する法律(小規模支援法)」が成立した。

1999年に改正された中小企業基本法では、成長発展を基本理念として掲げ、企業の自主的な努力を促すための経営革新、創業促進、経営基盤強化の取組支援を規定しているところであるが、小規模基本法では、「成長発展」のみならず、小規模事業者の「事業の持続的発展」を基本原則として位置付けた。

「成長発展」は、規模の拡大の概念である。売上げ、利益、従業者数などが伸びるよう支援することを基本理念とするのが中小企業基本法ということである。これに対し、「事業の持続的発展」は、売上げ、利益、従業者数などの規模の拡大を必ずしも求めず、技術の向上や雇用の維持に努めることも積極的に評価するものである。小規模事業者の77%が、組織的発展を志向しない「維持・充実型」の事業者である(2014年版中小企業白書第3-1-18図)ことを踏まえると、今回の小規模基本法の制定により、我が国の中小企業政策は大きく舵を切ったといえる。

また、小規模支援法では、この基本原則に則りつつ、地域に根ざした各地の商工会及び商工会議所が、小規模事業者の持てる力を最大限引き出し、総力を挙げて販路開拓支援を行う体制を構築の支援を掲げた。

このように、2014年度は国における小規模事業者の振興施策の方向性が大きく転換した年であった。しかしながら、多様な334万者の小規模事業者の実態は、未だ明らかになったとは言い難いのが現実である。

そこで第1部では、「平成24年度経済センサス−活動調査」及び「小規模事業者の事業活動の実態把握調査1」などに基づき、我が国の経済社会・雇用を支える礎ともいえる小規模事業者の構造分析を行い、小規模事業者の「定義」、「多様性」、「事業基盤」などの実態を明らかにしていくこととする。

1 中小企業庁の委託により、(株)日本アプライドリサーチ研究所が、2015年1月に、全国商工会連合会、日本商工会議所の会員のうち、小規模事業者を対象に実施したWebアンケート調査。有効回答件数5,874者。

第1節 小規模事業者の定義

1 小規模事業者とは

小規模事業者の法律上の位置づけについては、中小企業基本法第2条第5項及び小規模振興基本法第2条第1項に規定されている。それによれば『「小規模企業者」とは、「おおむね常時使用する従業員の数が20人(商業又はサービス業は5人)以下の事業者」をいう。』と規定されている。また、小規模企業振興基本法では、新たに、常時使用する従業員の数が5人以下の事業者を「小企業者」とすることが規定された(第1-1-1図)。

第1-1-1図 小規模企業の定義
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小規模企業白書では、ここで定義された「小規模企業」を対象とするが、この中に「会社」のみならず、「個人事業者」も含まれることをわかりやすく記すため、法令用語として使用する場合以外は、以下、「小規模企業」のことを「小規模事業者」ということとする。

なお、小規模企業白書では、中小企業者から小規模事業者を除いた範囲の事業者を指すときに「中規模事業者」ということとする。

コラム1-1-1

小規模事業者の定義の弾力化

2013年6月に成立した「小規模企業活性化法」により、小規模企業者の定義の弾力化として、個別法(商工会及び商工会議所による小規模事業者の支援に関する法律(小規模支援法)、中小企業信用保険法、小規模企業共済法)において特定の業種について小規模企業者の範囲の変更を政令で行うことが可能となった。

対象となる業種は、以下の4項目の選定基準に基づいた検討を行った上で決定される(平成25年9月27日中小企業政策審議会第1回小規模企業基本政策小委員会において提示)。

【小規模企業者の定義の弾力化に当たっての選定基準】

〔1〕当該業種を所管する関係省庁や業界団体から具体的な要望が寄せられていること。

〔2〕当該業種の零細的性質について経営指標(売上高営業利益率、自己資本比率、一人当たり付加価値額等)に基づいて分析を行い、現行の定義ではカバーできない落ち込みが確認できること。

〔3〕当該業種の従業員数等の業態特性が構造的に他業種と異なっていること。

〔4〕現行の定義による小規模企業者の比率が、当該業種においては相対的に低く、従業員基準を引き上げても他の業種とのバランスを失しないこと。

なお、「宿泊業及び娯楽業」については、従業員規模が大きくならざるを得ない業態特性を有し、現行の小規模企業者の範囲を超えた従業員規模の企業においても、経営基盤が脆弱である。このため、上記基準に当てはめた場合、小規模企業者の従業員区分の見直しを行う合理性があると考えられることから、小規模企業者の範囲を製造業並みの20人以下まで拡大した。

これにより、宿泊業や娯楽業を営む従業員6人以上20人以下の事業者は、小規模事業者として新たに小規模事業者経営改善資金融資制度(マル経)、特別小口保険制度、小規模企業共済制度を利用できることになった。

今後、これらの業種以外にも同様の選定基準に基づいた分析から合理性が見いだされる場合には、「小規模企業者」の定義の弾力化の趣旨を踏まえ、政令改正で対応していくこととなる。

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