第4部 中小企業・小規模事業者の支援の在り方 

2. 地域経済産業分析システム

それでは、このようなコネクターハブ企業は、どのようにすれば、特定できるであろうか。現在、地方自治体や経済産業局等でも、コネクターハブ企業やその取引を定量的に把握できているわけではない。仮に、コネクターハブ企業やその取引構造、さらには地域経済の実態を迅速かつ正確に把握できることができれば、地方自治体や政府が地域経済活性化のため、より一層効果的な政策を企画立案し、実行に移すことが可能となるであろう。

現在、経済産業省では、コネクターハブ企業やその取引構造等、地域経済の産業構造分析を可能にするシステムの開発の準備を進めている。本システムでは、膨大な数の企業間取引データ(いわゆる「ビッグデータ」)に基づいて、コネクターハブ企業を特定するとともに、地域経済の産業構造分析を行うことができる。ここでは、株式会社帝国データバンクの保有する約70万社の過去5年分の取引データ(500万の取引)を用いて分析を進めているところである。本稿では、その成果の一部を紹介するとともに、今後開発予定の本システムで一体どのような分析ができるのかについて紹介をしたい。

企業間の取引構造を分析していくと、コネクターハブ企業を中核とした、花火のようなネットワーク図が見えてくる。ここでは、このようなネットワーク図を、その形状から「花火図」と呼ぶこととしたい。本システムでは、主に以下のような三つの花火図の機能を備えることを考えている。

○全産業花火図……地域内の主要産業の全体像を把握する。
○産業別花火図……個別産業毎に地図上にプロット(配置)することで、行政区域を超えた取引ネットワークやサプライチェーン、産業構造を把握する。
○企業別花火図……地域経済への貢献度合いが高いコネクターハブ企業を中心とした取引関係を把握する。

(1) 全産業花火図

全産業花火図は、地域を指定することで、取引ネットワークから地域内の主要産業の全体像を把握できる機能である。なお、地域の特定については、GoogleEarth2のように、空間的に自由に設定することが可能であり、必ずしも都道府県や市区町村といった行政区域に限定されるものではない。

第4-3-2図がそのイメージ図である。業種別に中核となる企業を中心に取引が示されている。それぞれの業種が占める面積は、その業種の企業数、従業員数、売上高等によって表示が可能であり、これらの全体像を視覚的に把握することが可能である。また、業種を囲む四角形の色によって、域外への販売額と域外からの仕入額の差の多寡、つまりは、どの業種が域外からの資金を獲得しているのか把握することができる(例えば、赤であれば域外への販売額が域外からの仕入額を上回っている、あるいは、青であれば域外からの仕入額が域外への販売額を上回っているなど)。これらによって、地域で「外貨」を獲得してくる重要産業を把握することが可能となる。

2 「Google Earth」とは、Google社が無料で配布している地図ソフトのことをいう。(http://www.google.co.jp/intl/ja/earth/

第4-3-2図 全産業花火図のイメージ図

さらに、時系列によって描画が可能であるため、地域を支えている業種の取引ネットワークが過去5年間でどのように変遷してきたかを把握することができる。それを応用することによって、例えば、リーマン・ショックや東日本大震災によって、その地域の産業構造や産業ポートフォリオ(産業構成)がどのように変わってきたのかを、時系列を追って見ることができる。この産業ポートフォリオを見たときに、仮に一つの産業に大きく依存している地域経済は、外的なショックに対する脆弱性が高いということになり、いかに複数の産業がバランスよく地域経済を支える多極的な産業構造を構築していくかが中長期的な課題となる3

第4-3-3図は、島根県松江市で全産業花火図を見たものである。これを見ると、建設業やサービス業の占める面積が大きくなっており、松江市では、これらの業種の企業の数が多く、地域内の経済を支えていることが分かる4

3 2010年6月3日に公表された「産業構造ビジョン2010(産業構造審議会産業競争力部会報告書)」において、我が国が今後求められる4つの「転換」の一つとして、「産業構造の転換」が挙げられている。その中で、「自動車のみの単極構造(「一本足打法」)を転換するためには、今後の稼げる企業、産業の「厚み」を増していかなければならない。そうして、様々な基幹産業が並び立ち、外的なショックにも柔軟に対応できる多極的な構造(「八ヶ岳構造」)へと中長期的に産業構造の変革を促していくべきである。」としている。

4 (株)帝国データバンクが把握している70万社の企業の取引から見たものである。経済センサス-活動調査で見た、松江市の産業構造は、付注4-3-1を参照。

第4-3-3図 松江市の全産業花火図

また、それぞれの業種の域外への販売額と域外からの仕入額の差5に着目すると、広告情報、機械製造、その他製造の業種を囲む長方形が赤く表示されており、これらの業種で域外への販売額が域外からの仕入額を上回っていることが分かる。つまり、これらの業種の企業が域外から資金を獲得し、地域内に循環させることで、松江市の経済を活性化させているといえる。

5 (株)帝国データバンクでは、現在全ての取引の取引額が把握されているわけではない。取引額が把握されていない取引の、取引額の推定には、東京工業大学の高安美佐子准教授の提唱しているモデルを利用している。(「Estimation of flux between interacting nodes on huge inter-firm networks」(Koutarou Tamura, Wataru Miura, Misako Takayasu,Hideki Takayasu, Satoshi Kitajima, Hayato Goto, 2012))

参考 石巻市雇用圏における企業の取引構造(2011年版中小企業白書)

本システムでは、全産業花火図から、さらに詳しく分析することも可能である。全産業花火図からさらに詳しく分析するイメージを見たものが、第4-3-4図、第4-3-5図である。第4-3-4図では、全産業花火図で表示されている業種の位置を変更し、縦に並べることによって、域外への販売と域外からの仕入をより分かりやすく示したもののイメージ図である。このように図示することで、どの業種が域外のどこの地域から仕入れて、域外のどこの地域に販売しているのか分かるようになる。

第4-3-4図 業種の位置変更後の全産業花火図のイメージ図
第4-3-5図 機械製造業に着目した松江市の全産業花火図

また、第4-3-5図は、全産業花火図のうち、一つの業種に着目して、その取引関係を見たものである。ここでは、機械製造業について見ている。松江市の機械製造業を中心に、左に仕入先の企業、右に販売先の企業が表示されている。これを見ると、松江市の機械製造業は、松江市内の卸売業や域外の企業から仕入れ、島根県や東京都などの域外の企業へ販売していることが分かる。このように、個別の業種の取引構造をより詳細に分析することが可能となる。

(2) 産業別花火図

産業別花火図は、個別産業別に地図上で取引ネットワークを見ることで、地域を超えた産業のサプライチェーンや産業構造を把握できる機能である。第4-3-6図は、そのイメージを見たものである。行政区域を超えた取引ネットワーク、サプライチェーン、産業構造を産業別に見ていくことで、産業によっては、一自治体が単独で支援していくよりも、サプライチェーンが広がる複数の自治体で共同で支援した方が、より効率的かつ効果的な産業もあることが分かる。その意味で、今後、本システムを通じて、行政区域を超えた自治体間の産業政策連携が進んでいくことが期待される。

第4-3-6図 産業別花火図のイメージ図

さらに、地域の個別産業がどこから仕入れてどこに販売しているかを見ることで、自治体の産業政策・地域活性化政策も変わっていく可能性がある。これは、本システムを活用して、地域が必要とする企業の誘致や具体的な販路開拓支援についても、より効率的かつ効果的に行える可能性が高いからである。

第4-3-7図は、石川県と福井県における繊維工業の産業別花火図を見たものである。ここでは、富山県、石川県、福井県の繊維工業同士の取引のみを抽出している。これを見ると、繊維工業同士の取引関係は、石川県南部・中部と福井県北部にまたがって存在していることが分かる。つまり、県の区域を超えたネットワークの中で、繊維工業品が製造されている様子が読み取れる。繊維工業品の商品の付加価値は、県境を超えた取引ネットワークの中で高められており、この地域の繊維工業の活性化を考えた場合、一県が単独で支援するよりも、二県が連携して支援を行った方が、より政策効果が高いという結論が導かれる可能性がある。

第4-3-7図 石川県・福井県の産業別花火図(繊維工業)

(3) 企業別花火図

企業別花火図は、地域や個別産業毎に、コネクターハブ企業を抽出し、その取引関係を把握する機能である。そのイメージを見たものが、第4-3-8図である。企業別花火図では、コネクターハブ企業を中心として、その取引企業が円上に配置されており、その取引の詳細について見ることができる。また、取引先の企業は、コネクターハブと同じ地域内の企業又は地域外の企業が、販売先・仕入先の区分によって分かれている。さらには、それぞれの企業の売上高の前年対比が青と赤で示されており、コネクターハブ企業の取引の波及の様子を見ることができる。この色については、売上高のみならず、経常利益や従業員等の前年対比での表示も可能である。

第4-3-8図 企業別花火図のイメージ図

企業別花火図によって、コネクターハブ企業を中心とする取引関係の全体像やその変化を詳しく見ることができる。例えば、近くに大型のショッピングモールができてから、当該地域の商店街はどのように変化していったのか、また、地域の雇用を支えていた大企業の工場が海外移転したことで、その工場の取引先企業の経営状態はどう変わっていったのかなどを時系列で追うことができる。このような分析や知見が蓄積されていくことで、地域における産業政策や地域活性化政策の在り方そのものが変わっていく可能性がある。

そして、何より重要なのは、コネクターハブ企業を実際に特定し、そのコネクターハブ企業が地域や地域外でどのような取引を行っているかを確認できることである。これにより、国や自治体の企業支援の手法も、より効率的かつ効果的な方向に進むことが期待される。また、将来的には、行政による政策資源の投入が、その後、当該コネクターハブ企業のみならず、その取引先企業まで含めてどう波及していったのか、その政策効果を把握することができるようになる。この政策効果を時系列で視覚的に捉えられることが、本システムの大きな特徴の一つといえる。

では、コネクターハブ企業は、地域にどのくらい存在しているのであろうか。コネクターハブ企業は、地域内からより多くの仕入を行い、地域外に販売している企業であり、ここでは、「〔1〕域外販売額が域内仕入額の1.2倍以上、〔2〕域内仕入額が総仕入額の50%以上、〔3〕取引数10件以上」という三つの条件から抽出している。

第4-3-9図は、石川県において、域外販売額と域内仕入額からコネクターハブ企業を抽出している様子を見たものである。図では、横軸に域内仕入額、縦軸に域外販売額を置き、個々の企業をプロットし、域外販売額が域内仕入額の1.2倍となるラインで区切っている(条件〔1〕)。さらに、この中から、条件〔2〕と条件〔3〕も満たす企業を抽出すると、石川県では44社の企業が該当することが分かる。

第4-3-9図 石川県のコネクターハブ企業の抽出の様子

この三つの条件で、全国の都道府県のコネクターハブ企業を抽出し、まとめたのが第4-3-10図である。ただし、この三つの条件は、本システムでは利用者が自由に数値を変えることができるため、どの程度の数のコネクターハブ企業を抽出するかは当該利用者が決めることができる。

第4-3-10図 本社の所在地別のコネクターハブ企業
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なお、ここでは、多数の事業所を有し、取引構造が複雑である大企業はコネクターハブ企業からは除いている。具体的には、売上高500億円以上の企業は除いている。

それでは、コネクターハブ企業の取引とは、具体的にはどのようなものだろうか。ここでは、石川県でコネクターハブ企業として抽出された石川県の中村留精密工業株式会社について、具体的に企業別花火図で見ていこう。

中村留精密工業株式会社は、工作機械を生産する製造業者であり、海外向けにも多く製品を販売している石川県の中堅企業である。第4-3-11図は、2008年から2011年の中村留精密工業株式会社の取引の変化を見たものである。ここでは、中村留精密工業株式会社を中心として、取引先の企業が円上に囲んでいる。また、四つの区域に分かれており、それぞれ中村留精密工業株式会社から見た時の、域外(石川県以外)に所在する販売先、域内(石川県内)に所在する販売先、域外(石川県以外)に所在する仕入先、域内(石川県内)に所在する仕入先を示している。さらに、前年対比で売上が増加した企業を赤、売上が減少した企業を青で表示している。

第4-3-11図 中村留精密工業株式会社の企業別花火図の推移

これを見ると、中村留精密工業株式会社が石川県内の企業から多く仕入れ、石川県外に販売されていることが分かる。この取引を通して、石川県の取引先企業に資金が還流していることが分かる。

また、時系列での変化を見ると、2009年では、同社の売上が減少していることが分かる。同社は、海外向けに販売していることから、2008年のリーマン・ショックによる海外市場の急激な悪化が強く影響したものと考えられる。また、同様に同社の取引先企業も、売上が減少していることが見て取れる。

さらに、2011年では、同社の売上は回復していることが分かる。取引先企業の売上にも着目すると、同様に回復している様子が見られる。これらのことから、同社の業績が、取引先企業の業績にも波及していることが分かる。

ここまで、今後開発予定の本システムの主要な三つの機能について説明してきた。「地域産業構造分析システム」の強みは、企業間の取引情報に基づいて、地域産業構造の全体像を視覚的に捉えられることである。また、情報が毎年更新されていること、企業の所在情報が把握されていることから、空間的かつ時系列的な把握も可能である。

地域経済の活性化には、域外から資金を獲得し、域内に循環させる中核となるコネクターハブ企業の役割が極めて重要である。国や自治体が、このようなコネクターハブ企業を活性化するような施策、あるいは、コネクターハブ企業を新たに生み出すような施策を企画立案し、果敢に実行していくことこそが、地域活性化の「鍵」であると最後に提言して第4部の結びとしたい6

6 今回利用した企業間の取引情報だけではなく、民間企業には、携帯電話の位置情報やカーナビゲーションシステムの位置情報等、多種多様なビッグデータが蓄積されている。個人情報保護の観点からの慎重な議論は必要になろうが、これらのビッグデータを本システムとうまく連動させていくことで、地域の経済活動をより多面的な側面から分析することができないか、今後、研究会等を通じて関係者と議論を深め、2014年中の本システム開発に反映していきたい。

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