第4部 中小企業・小規模事業者の支援の在り方 

5. 支援チーム等を編成してチームで支援する連携(「プロジェクト型の連携」)

ここからは、「プロジェクト型の連携」について、実際の連携事例を交えながら説明していく。まずは、県の公設試験場が中心となって、大企業の持つ技術を活かして、新たな産業の創出に向けた連携をしている事例を紹介する。

事例4-1-12. 埼玉県産業技術総合センター

大企業の開放特許を利用して、新たな産業の創出に取り組んでいる支援機関

埼玉県川口市にある埼玉県産業技術総合センター(職員数113名)は、県内企業を中心に、技術面での課題解決、原材料・製品の分析・測定、製品開発や技術開発などの支援を行う公設試験研究機関である。

同センターでは、県内には、卓越した製造技術を有するものの、コアとなる知的財産、商品アイデア等を持たない中小企業・小規模事業者が存在する一方、全国にはニーズに基づく発想であるにもかかわらず、商品化されないアイデアが眠っているとの認識を有していた。

そこで、同センターの持つ支援機関同士のネットワークを通じて、大手企業や大学・研究機関の公開特許等を用いて、新たな商品開発を目指す仕組みの構築に向け、「特許ライセンスを活用した企業支援事業inさいたま」を開始した。

初年度にあたる2013年度は、開放特許等の活用の先行的な試みとして、アイデアと技術を結び付けるニーズマッチングの事例を3ステップで進めることとした。

具体的には、まず、同センター、公益財団法人さいたま市産業創造財団、公益財団法人埼玉県産業振興公社など県内の中小企業支援機関が連携し、会員数約8,270社の企業情報ポータルサイト「イノベーションズアイ28」の協力を得て、富士通株式会社(第1回ライセンス提供企業)の三つの開放特許29を掲載し、これを利用した商品アイデアの募集を広く実施した。次に、応募のあった商品アイデアについて、同サイト会員の評価を参考に、バイヤー等の専門家からなる「評価委員会」において、事業化の可能性が見込まれるものを選定した。この結果、選定されたアイデアは、県内の中小企業支援機関等を通じて、関連した技術を有する埼玉県内の中小企業へ提供され、発表から1年間を目安に商品化が目指される仕組みである。

県内中小事業者にとっては、高い技術力を事業に活かすことが可能となる一方、アイデアの提案者にも、商品化された場合や売上に応じて報奨金が支払われる双方にとってメリットのある仕組みとなっており、2014年度以降も、新たなライセンサー30企業との連携等を通じた展開が予定されている。

28 「イノベーションズアイ」とは、フジサンケイビジネスアイ((株)日本工業新聞社)が運営する、ベンチャー精神に富んだ起業家や中小・ベンチャー企業を応援する支援組織。支援方法は、新聞などのメディアを活用した情報発信が中心。

29 三つの開放特許とは、「光触媒のチタンアパタイト」、「盗難防止技術」、「音声のゆっくり再生技術」のこと。
「光触媒のチタンアパタイト」とは、新しい光触媒材料のことで、その主な特徴の一つが、吸着と分解能力に優れていること。チタンアパタイトは材料そのものが高い吸着能力を有しているため、従来の光触媒材料と比較して、菌などの有機物をより効率よく吸着する。そして、紫外光を当てることで、吸着した有機物を、水と二酸化炭素に分解できる。
「盗難防止技術」とは、装置単独で機能する簡易なセンサーでありながら、人による数メートル程度の物品の持ち去りを感知できる技術のこと。
「音声のゆっくり再生技術」とは、富士通株式会社の携帯電話やスマートフォンに実際に搭載されている技術であり、通話時に相手の声をゆっくりさせて聞きやすくする技術のこと。

30 「ライセンサー」とは、特許権などの使用に関して許可を与える者をいう。

特許ライセンスを活用した事業のイメージ図

次に、16もの中小企業支援機関や自治体が協力して、中小企業の新事業創出に取り組んでいる事例を紹介する。

事例4-1-13. 公益財団法人浜松地域イノベーション推進機構

16の中小企業支援機関・自治体を巻き込んで、新事業展開に挑戦する中小企業の支援に取り組んでいる支援機関

静岡県浜松市の公益財団法人浜松地域イノベーション推進機構は、地域の総合的な産業支援機関として、川上から川下に及ぶ様々な中小企業のニーズに対応すべく、情報提供、経営相談、人材育成、知財支援、販路開拓支援、技術開発支援等に係る事業を展開している。

浜松地域では、1984年のテクノポリス開発計画の地域指定を発端に産学官連携が始まり、産業クラスター計画(経済産業省)や知的クラスター創成事業(文部科学省)といった政府等の支援プログラムの獲得・推進を通じて県境を越えた広域的な地域連携体制が構築されている。

2011年8月には、文部科学省・経済産業省等の共管による地域イノベーション戦略推進地域(国際競争力強化地域)に選定されたことをきっかけに、静岡県及び愛知県内の産学官金16機関31との連携・協力の下、2012年7月より「浜松・東三河ライフフォトニクスイノベーション32戦略」を推進している。具体的には、「輸送機器用次世代技術産業」、「新農業」、「健康・医療関連産業」、「光エネルギー産業」という四つの次世代リーディング産業をターゲットに掲げ、県境を越えた産業支援プログラムを展開している。

その事務局機能を担う同機構では、現在、事業化が期待される29件のプロジェクトを抱えており、特に磨きをかけていくべきものとして七つの重点プロジェクトを選定している。重点プロジェクトについては、参加する企業、大学等も決まり、事業化に向けて本格的に動き始めており、戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン)を始めとする競争的資金等の申請・採択、プロジェクト展開を支援しながら、中小企業の研究開発や新規事業展開を促進している。

31 〔1〕浜松商工会議所、〔2〕豊橋商工会議所、〔3〕静岡大学、〔4〕浜松医科大学、〔5〕光産業創成大学院大学、〔6〕豊橋技術科学大学、〔7〕静岡県、〔8〕浜松市、〔9〕愛知県、〔10〕豊橋市、〔11〕株式会社静岡銀行、〔12〕浜松信用金庫、〔13〕遠州信用金庫、〔14〕豊橋信用金庫、〔15〕公益財団法人浜松地域イノベーション推進機構、〔16〕株式会社サイエンス・クリエイト

32 「ライフフォトニクスイノベーション」とは、光・電子技術の「フォトニクス」と、医療・介護・健康関連産業を始めとする生活全般に関する技術革新を意味する「ライフイノベーション」を組み合わせた造語。

浜松・東三河ライフフォトニクスイノベーション(体制図)

以上のように、中小企業支援機関同士や自治体と中小企業支援機関が連携して特定の事業に対して連携し、中小企業を支援している事例は存在している。

第3節では、中小企業支援機関同士、自治体と中小企業支援機関の連携状況について、概観してきた。中小企業を支援するための体制としては、必ずしも十分な連携ができているわけではない。

一方で、「ひょうご中小企業支援ネット」のように中小企業支援機関同士が連携し地域でのプラットフォームを形成していたり、「としまビジネスサポートセンター」のように、自治体と中小企業支援機関が連携し、ワンストップでの相談窓口を形成したりするなどして、中小企業・小規模事業者の経営課題に総合的に対応している例は存在している。

また、「さいたま県産業技術総合センター」のように中小企業支援機関同士が連携し、特定事業の推進をしている例や「浜松地域イノベーション推進機構」のように自治体と中小企業支援機関が連携して、特定の事業に対して、チームを組んで支援している例が存在していることが分かった。

2012年度から認定支援機関制度が、2013年度から地域プラットフォーム制度がスタートしたばかりであり、現時点で、中小企業支援機関同士、自治体と中小企業支援機関の連携について、明確なモデルがあるわけではない。今後、第3節で見てきたような連携事例は各地で形成されていくものと推察される。国としては、こうした成功している連携事例を集めて広く全国に伝えていくことで、中小企業支援機関同士、自治体と中小企業支援機関の連携を促進していくことが求められよう。

前の項目に戻る     次の項目に進む