3. 中小企業・小規模事業者における社会価値の創造と企業価値の創造の好循環
ここまで、中小企業・小規模事業者のCSV実践の事例を通じて、中小企業・小規模事業者が社会的な課題を解決する取組を自社の事業として行うというビジネスモデルが成立し得ることのみならず、社会的な課題、とりわけ地域課題の解決が地域活性化を実現し、そのことが地域に根ざした事業活動を行う中小企業・小規模事業者の企業価値創造にもつながるサイクルを確認した。
最後に、地域に根ざした中小企業・小規模事業者のCSV実践が、社会価値の創造(地域活性化)と企業価値の創造(企業利益の増大)の好循環を生み出し、時代に応じて変化する地域特有の課題やニーズに対応しながら事業活動を行うことで、持続的な事業活動を実現していく、中小企業・小規模事業者の一つの「生きる道」にもつながるということを論じ、この節の結びとしたい。
中小企業・小規模事業者のCSV実践は、中小企業・小規模事業者が地域課題の中に新しいビジネスの可能性を見付けるところから始まる。地域課題は、日頃から地域に根ざした事業活動を行う中小企業・小規模事業者が身近に感じることができる課題であり、大企業には捉えることができないニッチなものも多いため、日常の事業活動で構築した「顔の見える信頼関係」をより積極的に活用していくことで、新しいビジネスの可能性はより見えてくると考えられる。地域課題が見付かったならば、次に中小企業・小規模事業者が自らの強み・弱みを踏まえた上で、自らの事業の延長線上で、すなわち事業として取り組めるかどうかを考える。例えば、事例3-5-19のタクシー会社は、歩行困難者が自由に移動できるように、車椅子のまま乗れる車両を導入している。すなわち、タクシー業という本業の延長線上に、介護タクシーという新しいビジネスモデルを構築している。ここで重要なことは、地域課題の解決を一つの目的とするこのビジネスモデルには、大企業はまず参入してこない、参入が困難であるということである。繰り返しになるが、これは、中小企業・小規模事業者が長年地域で培ってきた人間関係、「顔の見える信頼関係」に基づくビジネスモデルであるからである。このビジネスモデルは、その地域に人々が住み続けていれば、小さくとも必ず成り立つビジネスモデルであり、それが故に中小企業・小規模事業者の「生きる道」につながる。
一方で、地域課題は絶えず変化していくため、その変化に柔軟に対応することも求められる。中小企業・小規模事業者がその変化に対応するためには、それまで構築した「顔の見える信頼関係」をより一層活用していく事業活動を継続するとともに、時には自らのビジネスモデルを見つめ直し、その地域課題やニーズに対応したビジネスモデルを再構築するという柔軟な考えも必要である。
地域が抱える少子高齢化といった地域課題は、中小企業・小規模事業者のその地域における顧客の喪失や需要の減少に直結する。しかしながら、中小企業・小規模事業者が事業を通じてそれらの地域課題を解決することは、地域における顧客の喪失や需要の減少を抑制するだけでなく、むしろ、地域活性化による恩恵を受けた地域住民の所得向上や生活環境の向上が、地域における新たな顧客の創造や需要を増加させることにつながり、その恩恵を中小企業・小規模事業者が享受することができるという好循環を生み出し得る(第3-5-47図)。これは、中小企業・小規模事業者の振興・活性化と地域活性化が、表裏一体の関係であることとほぼ同義といえる。