第3部 中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来 

5. ITを活用した資金調達の課題

ここまで見てきたように、ITを活用した資金調達が、これまでの資金調達とは違い、中小企業・小規模事業者の新商品・新サービスに賭ける思いに、個人が共鳴して投資という形で支援することが可能になり、高い技術を持ちながらも、世に商品を出すことができなかった中小企業・小規模事者にとって、新しい資金調達の可能性が開けたといえる。

一方で、ITを活用した資金調達ならではの課題もある。最後に、ITを活用した資金調達が抱える課題について見ていき、この節の結びとしたい。

●資金調達目的の明確化

企業が、ITを活用した資金調達を検討する際に考えなければならないのが、資金調達目的の明確化である。具体的には、資金をどのように使うのか、どのぐらいの資金を募集して何を作るのか、何を個人(出資者)に訴えかけるのかなどを明確にしなければならない。逆にいえば、この部分が明確でないと、資金調達サイト運営事業者の審査を通過することさえ困難となる場合もある。また、ITを活用した資金調達は、個人に対して資金の募集を行うという特性上、いかに個人が出資したいという事業やプロジェクトを計画することができるかということも、資金調達を達成する上では重要である。

●投資リスクへの正しい認識

ITを活用した資金調達の拡大により、個人による投資への意識が変わる可能性がある。ITを活用した資金調達サイトの登場により、これまでは困難であった中小企業・小規模事業者への直接的な投資が可能となったのである。

一方で、投資に対するリスクについての認識も改めなければならない。小口投資で気軽に投資できる点は魅力でもあるのだが、万が一出資に対する見返りが予定通り受け取れなかったとしても、特段の救済措置があるわけではない。このため、出資者たる個人はそれぞれの資金調達手段が有するリスクをしっかりと認識した上で、自己責任の下に出資するという原則を忘れてはならない。

●詐欺を目的とした資金調達者の存在

資金調達を検討している企業は、調達した資金を利用して今までにない全く新しい商品やサービスを開発しようとして資金調達サイトにプロジェクトを掲載する。一方で、当初より金銭を詐取する目的で資金調達をしようとする者が現れないとも限らない。このため、資金調達サイト運営事業者はこのような詐欺を目的とした資金調達者を完全に排除するためにも、自らの審査能力の向上や業界としての監視体制の整備に、より一層努めることが求められる。

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