第3部 中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来 

4. ITを活用した資金調達の活用と可能性

ITを活用した資金調達を行った企業は、実際にどのようなきっかけで資金調達を行い、どのような効果を享受することができたのであろうか。ITを活用した資金調達を実際に行った四つの事例を通じて、中小企業・小規模事業者の活用の可能性について見ていきたい。  一つ目の事例は、「商品・サービス購入型」の資金調達を果たした企業の事例である。カメラバッグを量産するため一定のロットを確保する必要があったが、ITを活用した資金調達により一定のロットを確保した事例である。

事例3-5-13. 有限会社魚住(フォトライフ・ラボラトリーユリシーズ)

ITを活用して「生産ロットの壁」を乗り越えた企業

福岡県福岡市の有限会社魚住(従業員6名、資本金300万円)は、主にカメラ用の本革ケースやストラップ、バッグの企画・製造・販売を行う企業であり、工場を持たずに生産工程のみ外部に委託しているファブレス企業である。自社のECサイトのほか、一部専門店や量販店での販売も行っている。

同社の魚住謙介(うおずみけんすけ)代表はかねてから、カジュアルなデザインで、日用品もカメラもお互いを傷つけることなく両方入り、ストレスなく持ち歩くことのできるカメラバッグを作りたいと考えていた。構想9年、着手から1年半という長い時間をかけ、ようやく理想のバッグ「チクリッシモ」が実現しかけたが、そこで同社は「生産ロットの壁」に突き当たった。アパレル業界が製造元を海外に移していることを背景に、国内の縫製業が縮小し、残っている工房にはOEMの依頼が集中している。そのため、流通網が完備されていて、ある程度のロットが確保できる企業からのOEM依頼が優先されてしまうという構造があるのだという。魚住代表が理想とする素材を用いるためには、最小で400個のロットを確保する必要があった。

そこで同社は、2013年4月、当時友人の紹介で親交を深めていた田中氏(仮名)が立ち上げた資金調達サイトに「チクリッシモ」を掲載して、開始7時間で目標金額の100万円を達成し、最終的には約650万円を調達した。これにより、400個分以上の生産費用を確保したのである。魚住代表は、この成功の要因について、「製品自体の魅力もあると思うが、元々ブログを書いていたため、本プロジェクトを周知できるコミュニティをもっていたことや、そのプロジェクトを拡散するインフルエンサー45がいたこと、マスコミからの注目を得られたことも大きい。」と述べている。

魚住代表は、ものづくり企業がクラウドファンディングを活用する際のポイントとして、「製品の開発過程や紆余曲折を積極的に発信していくことが、かえって面白いと感じてもらえるのではないか。」と語る。一方で、「多用し過ぎると飽きられてしまう可能性もあるので、ここぞという時に万全の体制で活用したい。」と語っている。

45 「インフルエンサー」とは、他の人(消費者等)に大きな影響を与える人をいう。

同社の魚住謙介代表

二つ目の事例も、「商品・サービス購入型」の資金調達を果たした企業の事例である。行政や金融機関からの支援を受けることが困難であったプロジェクトであったが、インターネット上でのPRと対面でのPRにより資金調達を果たした事例である。

事例3-5-14. 有限会社宇賀神溶接工業所

ITを活用した資金調達により事業の多角化を図る企業

埼玉県朝霞市の有限会社宇賀神溶接工業所(従業員4名、資本金300万円)は、ステンレスを始めとする各種金属材を用いた精密板金加工及びアルゴン溶接46加工を行う企業である。顧客から依頼される図面をもとに、材料を仕入れて製品を製造する受注生産がメインである。

同社は、障害を持った人物からの依頼でハンドバイクを製造したことをきっかけに、「障害者/健常者」という壁を越えて、スタイリッシュな「新しい乗り物」としてハンドバイクの開発を進め、2012年4月には日本初の専門ブランド「ハンドバイクジャパン」を設立した。国内における認知度も次第に向上していることを受け、販売価格を抑えた普及モデルの開発に着手したが、行政や金融機関からの融資は得られなかった。そこで、以前からの知り合いがものづくりに特化した資金調達サイトを立ち上げたことをきっかけに、同サイトを通じて2013年8月から資金を募った。資金調達と同時に、ハンドバイクが市場に受け入れられるのかを測る市場調査の意図もあった。同社は、最低1台を制作するために必要な資金50万円を目標金額とし、そのうち35万円は1台の販売価格として設定した。最終的には6歳の女の子の両親からの注文によって目標を達成し、合計59万5千円を調達した。

同社が資金調達に成功するには二つの関門があったという。一つはプロジェクトの紹介ページを作成することであり、ユーザーの興味を引く映像を撮影・編集する必要があったことである。もう一つは目標達成に向けた活動であり、インターネット上の活動報告などの「空中戦」だけでなく、対面で呼びかけを行うなどの「地上戦」も重要だったという。

同社の宇賀神一弘(うがじんかずひろ)社長は、「ハンドバイクのニーズは間違いなくあると感じている。今後は普及モデルをOEMで量産し、オーダーメイド対応のモデルは自社で製造していきたい。将来的には、既存の受注生産事業とハンドバイク事業の双方を収益の柱としていきたい。」と語る。

46 「アルゴン溶接」とは、「アルゴン」と呼ばれるガスを用いて行われる溶接をいう。

同社の宇賀神一弘社長

三つ目の事例は、事業開始後すぐには売上が計上されないプロジェクトのために、「事業投資型」の資金調達サイトを活用した事例である。資金調達を果たすとともに、自社商品の顧客やファンも同時に獲得している事例である。

事例3-5-15. 神亀酒造株式会社

ITを活用して資金調達と純米酒ファン獲得を図る企業

埼玉県蓮田市の神亀酒造株式会社(従業員15名、資本金5,000万円)は、嘉永元年(1848年)に創業した清酒の製造・販売を行う企業である。

同社の小川原良征(おがわらよしまさ)社長は、醸造アルコールを添加しない純米酒に強いこだわりを持っており、1987年、製造するすべての清酒を純米酒に転換し、戦後初の全量純米蔵となった。その後、2007年6月に、全量純米蔵への転換を志す蔵を集めて「全量純米蔵を目指す会」を結成し、代表幹事を務めている。

純米酒を製造するには原材料の米代が大きな負担となる上、つくりたての清酒は味が安定せず2〜3年の熟成期間が必要となるため、資金が必要なタイミングと収入を得られるタイミングとに乖離が生じる。そこで、同会が活用したのが「事業投資型」の資金調達サイトを運営する会社のファンドを用いた資金調達だった。まず代表幹事である同社が主体となって2007年9月に「神亀ひこ孫ファンド」を組成し、1口5万円の募集で1,050万円を調達した。その後、同会の各社も活用し、現在までに24ファンドが運用されている。小川原社長は、「ファンドと聞いて最初は戸惑ったが、資金調達サイト運営事業者の手厚い支援のおかげで実現できた。実際にやってみると、思ったより難しいものではなかった。」と振り返る。

また、「ファンドを活用する理由は資金調達にとどまらない。」と小川原社長は述べる。同社はファンドの償還率47を低めに設定する代わりに、出資者に対して現物の純米酒を特典として提供しているほか、蔵見学や勉強会を実施するなど、出資者とのコミュニケーションの機会を多く持っている。「地方の小さな企業は、ITなどを使った情報発信が苦手である。ファンドを通じて実際に純米酒を味わってもらい、純米酒ファンの裾野を広げていきたい。」と小川原社長は語る。

同会は現在、海外での販売の準備を進めており、2013年3月にはカナダのバンクーバーに日本からの輸入会社を設立した。小川原社長は、「純米酒の良さを日本だけではなく世界にも広めていきたい。酒造用米は食米に比べて価格が2割以上高いため、結果的に国内農家の支援にもつながるのではないか。」と今後の展開を語る。

47 ここでいう「償還率」とは、出資者に分配される分配金の利回りをいう。

同社の小川原良征社長

最後の事例は、「事業投資型」の資金調達サイトを活用し、自社商品に対する新たな顧客やファンを獲得することで、衰退の一途をたどっていた地場産業の再興を果たした事例である。

事例3-5-16. 齋木産業株式会社

ITを活用した資金調達により事業を再開した企業

滋賀県近江八幡市の齋木産業株式会社(従業員2名、資本金1,000万円)は、琵琶湖で真珠の養殖を行う企業である。同社の齋木勲(さいきいさお)社長が代表理事を務める滋賀県真珠養殖漁業協同組合で母貝となるイケチョウ貝を成育し、同社を始めとする組合員が成長した母貝を買い取り、珠(ピース)を挿入して養殖を行う。組合員の元で生産された真珠を組合が再び買い取り、加工業者に販売するという仕組みである。

昭和の終わりから平成の始め頃、琵琶湖にオオカナダモ等の外来種の藻が増殖し、酸欠により貝が死亡した。さらに栄養欠如のために真珠の品質も低下し、生産量も市場価格も低下する事態が5〜6年間続き、組合は解散寸前まで追い込まれた。滋賀県が地場産業としての存続を訴えたこともあり組合は継続したが、行政からの支援も少なく、養殖業者は衰退の一途をたどった。齋木社長も高齢のため引退を考えていた矢先の2009年、滋賀県の「ふるさと雇用再生特別推進事業」開始を契機に、年間1,500万円の支援を3年間受けてイケチョウ貝の成育に取り組んだ。その後、地元金融機関から「事業投資型」の資金調達サイトを運営する会社を紹介され、2013年に「琵琶パールファンド」を組成し、真珠の養殖を再開するに至った。2回のファンド組成により、合計約2,000万円を調達している。

母貝の成育には3年を、真珠の養殖には更に3年を要し、費用が必要なタイミングと売上が計上されるタイミングには乖離がある。そのため、「資金調達から償還までに期間があるファンドは適している。」と齋木社長は述べる。また、「全国にファンを作って宣伝できる点が魅力」であり、「地元金融機関から融資の打診はあったが、償還率や手数料を考慮してもファンドを活用するメリットの方が大きい。」という。

一時は引退を考えた齋木社長は、「ファンドへの出資者の方々や、資金調達サイト運営事業者の担当者、地元金融機関、行政等、多くの人に応援してもらっているからこそ再開できた。」と述べている。今後については、「水質改善や管理体制の整備、貝の受入体制の整備等、目の前の課題を一つずつ潰していきたい。後継者の育成も大きな課題である。」とした上で、「2020年の東京オリンピックまでには販売や宣伝の体制を整えたい。」と抱負を語っている。

同社の齋木勲社長

ITを活用した資金調達を全国に先駆けて、中小企業・小規模事業者に提案している商工会議所がある。その取組状況について見ることで、中小企業支援機関の支援メニューとしての可能性について見ていきたい。

事例3-5-17. 豊中商工会議所

全国に先駆けてITを活用した資金調達支援を行う商工会議所

大阪府豊中市の豊中商工会議所は、ミュージックセキュリティーズ株式会社と業務提携し、全国に先駆けてITを活用した資金調達の支援「CCIファンズ」を実施している商工会議所である。

同会議所は2007年に公的資金等を基に組成された「おおさか地域創造ファンド」の「豊能地域活性化推進協機会」の事務局を務め、その運用益からの助成により中小企業を支援していた。同ファンドの効果を実感する一方で、公的な財源に依存しない支援のメニュー化が課題となり、いわゆるクラウドファンディングの活用が検討された。そうした中、2013年6月に大阪府が「クラウド型ファンド活用促進事業」の委託先としてミュージックセキュリティーズ株式会社の地域子会社である大阪セキュリティーズ株式会社を選定したことが発表されたことも後押しとなり、業務提携が実現した。

同会議所は、セミナーや個別企業との相談の際に、ミュージックセキュリティーズのファンド活用を提案している。ただし、資金調達のみが目的であれば金融機関からの融資を勧めており、あくまでも全国的なファン獲得や優良顧客の囲い込みに関心の強い企業に提案している。ファンド組成における審査では、事業性だけでなく共感性も重視されるので、そうした視点も踏まえながら事業計画の策定を支援する。また、募集開始後は企業と出資者とのコミュニケーションが重要となるので、ミニコミ誌48の作成やFacebookページの作成等の支援を実施している。同会議所はこれまで数社のファンド組成を支援しており、今後も拡大予定である。

同ファンドのメリットとして、「ファンドを通じた事業の成功を一つの目標としてもらうことで自立を促しやすい。まずはファンドを最初のステップとして、事業拡大や新商品・サービスの開発につなげていってほしい。」と同会議所の吉田哲平(よしだてっぺい)経営指導員は述べている。また、「ファンド活用に特別な支援が必要なわけではなく、普段の巡回指導の延長でできることがほとんどであり、どの商工会議所もすぐに活用を始められる。」とも語る。東能久(ひがしよしひさ)中小企業相談所長は、「ファンド活用支援は、事業計画の策定からマーケティング、資金調達、事業運営まで、経営の全てが凝縮しており、経営指導員の育成にも活用できるのではないか。」とその効用の可能性を語っている。

48 「ミニコミ誌」とは、タウン誌などの限定されたエリアで情報伝達をするための雑誌をいう。

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