4. クラウドソーシングの活用とその可能性
ここまで、日本国内におけるクラウドソーシングの現状について見てきた。ここからは、クラウドソーシングの活用が、発注者側、受注者側双方にどのような効果をもたらすのかを見ていきたい。
第3部 中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来 |
4. クラウドソーシングの活用とその可能性
ここまで、日本国内におけるクラウドソーシングの現状について見てきた。ここからは、クラウドソーシングの活用が、発注者側、受注者側双方にどのような効果をもたらすのかを見ていきたい。
●クラウドソーシングの発注者の活用と可能性
第3-5-17図は、発注者がクラウドソーシングを利用するメリットについて示したものである。これによると、「必要な時のみ発注可能」、「自社に不足する経営資源の補完」と回答した発注者が全体の約6割となっており、常には雇用できない人材をクラウドソーシングで調達して補完することができる点をメリットとして感じている発注者が多いということが推察される16。また、「質の高い成果物の受取」、「仕事のスピードアップ」と回答した発注者も全体の約5割となっており、業務の合理化・効率化を図れることができる点をメリットとして感じている発注者が多いということも推察される。
16 第3-5-17図を見ると、「当該業務を担う従業員を雇用しなくて良いこと」、「固定費の変動費化」、「受注増加への対応」と答えた発注経験者も多く、この点からも常には雇用できない人材をクラウドソーシングで調達して補完できる点をメリットとして感じている発注者が多いということが推察される。
それでは実際に、クラウドソーシングを利用して、仕事を発注している小規模事業者・個人事業者の事例を3例見てみたい。最初の事例は、クラウドソーシングを利用して、プロジェクト型の仕事とコンペティション型の仕事の両方を発注した企業の事例である。クラウドソーシングを利用して、これまでキャンセルしなければならなかった仕事を受けることができるようになった事例である。
事例3-5-3. 株式会社ソフトプランナー
クラウドソーシングを活用して経営課題を解決した企業
千葉県成田市の株式会社ソフトプランナー(従業員8名、資本金2,000万円)は、自動車整備システムや車両販売管理システムの制作・販売を行う企業である。小規模な自動車整備企業や中古車販売企業が主要な顧客となっている。
同社は以前、システム導入に際して課題を抱えていた。新規顧客が他社システムから同社システムに乗り換える際、社内のデータを移行する必要があるが、そのデータ移行を社内では技術的に実施できず、結果としてキャンセルに至ってしまうケースが全体の5〜10%程度あった。これを改善したのがクラウドソーシングだった。2012年10月に、クラウドソーシングサイトに登録し、自社内ではできないデータ移行の業務を発注した。これにより、技術的な理由でキャンセルに至ることを避けられた。この発注がうまくいったことをきっかけに、同社はホームページの機能追加や、会社ロゴや名刺の作成、チラシやポスターのデザイン等についてもクラウドソーシングで発注するようになった。
クラウドソーシングを活用するメリットについては、他の企業に発注するよりも費用を抑えられることや、品質も満足のいくものである上、デザインのコンペであれば多くの提案の中から一番良いものを選べることも挙げている。また、受注者は土日も働くことが多いため、一般企業への外注に比べて納期が早いことも魅力と感じている。こうしたメリットを享受するために、同社は発注する業務の選定を工夫している。クラウドソーシングはインターネット上のみのやり取りであるため、同社は対面での打合せが必要になりそうな複雑な業務は発注していない。仕様書を読めば遂行できるような簡単な業務に発注を絞ることで、発注後に問題が起きるリスクを軽減している。
同社の池田祐一(いけだゆういち)執行役員は、「発注先が個人か法人かはあまり気にしていない。むしろ我々のような中小企業は、クラウドソーシングのような新しい手法を活用して競争力をつけなければ、生き残っていけないのではないか。」と述べている。また、「本業のシステム開発においても、仕様が決まりきっている部分については発注できると考えている。クラウドソーシングを活用する部分と自社で行う部分とを見極め、上手に活用していきたい。」と語る。
二つ目の事例は、プロジェクト型の仕事を発注したことで独立開業を果たし、その後コンペティション型の仕事を発注した個人事業者の事例である。ITリテラシーの乏しかった発注者が、専門用語についてはワーカーに教えてもらいながら、一定の専門用語を必要とする仕事の発注を行った事例である。
事例3-5-4. SeaGreen
クラウドソーシングを活用してホームページを開設した個人事業者
愛知県名古屋市のSeaGreenは、女性専用のマッサージ・エステサロンである。個人事業者である神谷貴子(かみやたかこ)氏は、他のサロンでのアルバイト経験を経て、2013年12月に独立・開業した。
神谷氏はサロン開業にあたってホームページを開設する必要があった。当初は自作も試みたが思い通りのものを作成できず、インターネットで「ホームページ作成」等のキーワードを検索していたところ、クラウドソーシングの存在を知り、登録に至った。
クラウドソーシングサイトのテンプレートに従って作業内容を掲載してワーカーを募集したが、そもそもホームページ作成において必要な条件やスキルが分からず、やや曖昧な発注になってしまった。その後、いくつかの提案や質問を受けたが、そこで用いられる専門用語も分からなかったという。そこで、改めて自分が必要としているホームページのイメージを伝え、専門用語等は分からないことを明示した上でアドバイスも含めた提案を求めた。合計で34名からの提案や質問を受け、各ワーカーの実績も参考にしつつ検討したが、最終的には人柄で判断したという。契約を結んだデザイナーについて、神谷氏は、「こちらの不安や分からないことをよく理解して頂けた。こちらからも意見を言いながら、『一緒に作成できる』という印象を受けた。」と振り返る。神谷氏は、契約を結んだデザイナーに希望するデザインの詳細をインターネット上のやり取りのみで伝えるのは難しいと判断し、また、プロのデザイナーが作成するデザインに興味があったため、特定の条件のみを指定してあとは一任した。結果的には非常に満足のいくホームページが完成し、同じデザイナーにチラシのデザイン作成も発注した。
神谷氏はクラウドソーシングについて、「予算や納期を自分で設定でき、その範囲内での提案を受けられるので使い勝手が良い。プロの方に作成いただくので、品質も安心できる。」とした上で、「良いワーカーと出会え、やり取りにもめなかったことが最も良かった点である。」と述べている。今後については、「地元の方に継続してご利用頂けるエステサロンを目指したい。その中で、必要に応じてクラウドソーシングも活用していきたい。」と語る。
三つ目の事例は、コンペティション型の仕事を発注した個人事業者の事例である。自社のロゴを作成することにより、自社ブランドを高め、販路拡大に成功した事例である。
事例3-5-5. 望月農園
クラウドソーシングを活用してロゴやラベルを作成した農園
山梨県山梨市の望月農園(従業員6名)は、南面傾斜でトマトと桃を栽培・販売する日本で唯一の農園である。露地で3,000坪、施設で1,100坪の広さがあり、保水性の良い粘性土地盤が特徴である。桃栽培は先代から続けて約90年になり、トマト栽培は現園主の望月秀紀(もちづきひでき)氏が開始して約18年になる。桃の大部分は大手健康食品メーカーの贈答用として使用され、トマトはJAの直売所や近隣の食品スーパー、同園の直売所等で販売されている。
同園は2013年からトマト・桃を使ったジュースやジャム等の加工品の委託製造を開始したこともあり、農作物および加工品のイメージを統一する必要性を感じていた。そこで農園のロゴを作成しようと考えたが、自作は難しいうえ、デザイナーを雇用あるいは契約するには経営資源が不足していた。そのような中でクラウドソーシングという手段を思い出したが、信用に足るものなのか不安があったという。そこで、クラウドソーシングサイト運営事業者に問い合わせたところ、丁寧な対応に安心し、コンペ方式であれば様々なデザイナーからの提案を受けることができることも分かり、活用に至った。
クラウドソーシングサイト運営事業者からのアドバイスも踏まえ、ワーカーから「応援したい」と思ってもらえるように発注内容を記載し、結果的には43名から計119件のロゴの提案を受けた。最終的な決め手としては、汎用性が高いロゴであったことと、実際にロゴをビンに貼った様子を示してくれるなど、発注者の意図を汲んだコミュニケーションができるデザイナーであったことが大きいと園主の夫人・望月美紀(もちづきみのり)氏は述べている。
ロゴを作成したことにより、ラベルやのぼり、ホームページ、名刺も作成し、農園としての統一感を醸成した。その結果、3軒のスーパーで同園の特設売場を設置してもらえたほか、新規の販売先も2件増加するなど、業績にも好影響が出ている。
園主の望月氏は「特定の農作物や加工品にこだわらず、当園でしかつくれないヒット商品を生み出したい。」と語っており、夫人・美紀氏も「商品が増えればパンフレットを作成する。クラウドソーシングも必要に応じて活用していきたい。」と語っている。
●クラウドソーシングの受注者の活用と可能性
第3-5-18図は、受注者がクラウドソーシングを利用する際に感じるメリットについて見たものである。事業者の利用においては「仕事の受注のしやすさ」、「専門スキルを活かした仕事の獲得」、「売上の増加」、「空いた時間の有効活用」等、クラウドソーシングを積極的に事業に組み込んでいこうとする傾向が見られる。一方、非事業者、すなわち個人の利用においては、「空いた時間の有効活用」、「仕事の受注のしやすさ」、「家計の補助、学資等の獲得」等、どちらかといえば、メイン収入とは別に小さな仕事で小さく稼ごうとする利用状況が推察される。
ワーカーの受注業務の選択基準を見てみると、事業者と非事業者においてほぼ同じ傾向が見られたが、事業者においては、約8割が「仕事の内容に見合った報酬」について重視しており、仕事が受注がしやすいと感じる反面、仕事の報酬金額についてはシビアに見た上で受注する業務を選択しているということが分かる(第3-5-19図)。
それでは実際に、クラウドソーシングを利用して、仕事を受注している事例を見てみたい。クラウドソーシングを利用して、主にプロジェクト型の仕事を受注している企業の事例である。デザイン制作の専門業者がクラウドソーシングを利用して仕事を受注することにより、時期によって変動の大きい業務量の平準化を図った事例である。
事例3-5-6. 株式会社ココロ
クラウドソーシングを活用して業務量を平準化する企業
大阪府大阪市の株式会社ココロ(従業員5名、資本金100万円)は、ホームページや広告物の制作を通じて、企業ブランディングを支援するデザイン制作会社である。デザインだけでなくアフターサポートの良さも評価されており、クライアント企業からのリピートでの受注や紹介を通じた受注が多い。
同社の西川岳樹(にしかわたけき)社長がクラウドソーシングを知ったきっかけは、あるクライアントがロゴ作成をクラウドソーシングサイトで募集していることを知ったことであった。それを契機に、クラウドソーシングサイトに登録し、2013年7月頃からワーカーとして利用を開始した。これまで「ランディングページ17」やホームページの制作を中心に受注しており、利用頻度に波があるが、平均すると月間受注数の約1割程度をクラウドソーシングサイト経由で受注している。単価は自社基準からするとやや割安感があるが、納得できる価格の仕事を探したり、クラウドソーシングサイト内での実績を積むために多少割安でも受注したり、活用を工夫している。
通常の業務は時期によって受注件数が増減するため、クラウドソーシングを活用することで全体の業務量を平準化できる点がメリットであると西川社長は述べる。また、通常の業務であれば関わることのできない人と一緒に仕事ができ、顧客層の拡大にも寄与しているという。西川社長は、地方在住のクライアントからの依頼でもインターネット上のみで受注から納品までを完結できる点は便利であるとする一方で、デザインに関することや、発注内容が曖昧な部分については対面での打合せが必要になることもあり、「結局は人と人との関係が重要である。」と述べている。
同社は法人化して3年が経過し、「ようやく経営が安定化してきた。」と西川社長は述べる。今後についても、「安定して仕事を継続していきたい。そのためにも、引き続き業務量の平準化のためにクラウドソーシングを活用していきたい。」と語る。さらに、「クラウドソーシングのサイト上において、発注者同士でワーカーを紹介し合う制度があれば、より現実と近い空間になるのではないだろうか。」と今後のクラウドソーシングに期待を寄せている。
17 「ランディングページ」とは、インターネット広告や検索エンジンの検索結果からのリンク先として一番最初に示されるウェブページをいう。
●個人による新しい働き方
クラウドソーシングサイトで仕事を受注することによるメリットについては、前掲第3-5-18図で見てきたとおりであるが、個人がクラウドソーシングを利用して仕事をするようになることでどのような変化が起きるのであろうか。
クラウドソーシングサイト上には比較的難易度の低い仕事も発注されており、誰でも気軽に仕事の応募をすることができる。また、クラウドソーシングは、インターネットが利用できる環境でれば、場所を問わずどこでも仕事を受注することができる。実際にクラウドソーシング利用者の利用場所を見てみると、非事業者においてはほとんどが自宅での利用となっている(第3-5-20図)。
ここで注目したいのが女性の就業についてである。第3-5-21図は、女性(15〜64歳)が仕事を探したり、開業の準備をしていないことについて尋ねた「非求職理由」について見たものである。これによると、「出産・育児のため」が全体の約3割を占め、出産・育児のために求職活動をしていない女性が多いということが分かる。また、出産・育児のために求職活動をしていない女性について年齢別に見てみると、25歳〜34歳においては実に6割以上が出産や育児を理由に求職活動をしていないことが分かる(第3-5-22図)。
しかしながら、クラウドソーシングは、時間と場所を問わず、仕事内容によっては特別なスキルを必要としないため、時間と場所に大きな制約がある子育て世代の主婦の働き方を変える可能性がある。すなわち、クラウドソーシング市場の一層の拡大により、育児をしながら、自宅でクラウドソーシングを利用して仕事をすることが一般的になるという可能性もある。実際にクラウドソーシングを利用して、仕事を受注する主婦の事例を見ていき、その可能性について検証していきたい。
事例3-5-7. クラウドソーシング受注者(個人)
クラウドソーシングを活用して仕事と家庭を両立する主婦
東京都在住の朝谷慶子氏(仮名)は、クラウドソーシングを活用して在宅ワーク18を行う主婦である。
朝谷氏は大学卒業後に大手製造業に就職し、総合職のセールスエンジニアとして10年間勤務していた。産休や育休、時短勤務等の制度を利用して仕事と家庭との両立を図っていたが、地方や海外に出向くことのできない朝谷氏は、セールスエンジニアとして働き続けることに難しさを感じていた。また、たとえ時短勤務を利用しても仕事と家庭との両立は「至難の業」であり、「子どもから最も必要とされる時期に一緒にいられないことは、母親として後悔するのではないか」という思いを強くし、子どもが小学校に上がるタイミングで退職した。しかし、「自分で使うお金は自分で稼ぐことが大人のマナー」という考えや、「家事以外にも仕事をして社会に役立っている姿を子どもに見せたい」という思いから、クラウドソーシングサイトに登録し、在宅ワークを開始した。
朝谷氏が登録したサイトでは主にライティング業務を行い、ブログ記事やWebコンテンツの作成等を行っている。それほど高いスキルが必要な仕事ではなく、前職でも日常的にPCを使っていたこともあり、抵抗感なく始められたという。平日の夕食後2〜3時間を仕事の時間と決め、その間子どもには勉強の時間として習慣化させている。在宅ワークは時間の融通がきくため、以前に比べて家事・育児にかなり時間を割けるようになった。習い事の送迎やサポートも無理なくでき、時間をかけて子供と一緒に調理をしたり、さらには生ごみから堆肥を作り家庭菜園を行うなど、教育的にも良好な環境を整えることが可能になった。また、自己研鑚に充てる時間も生まれたことで、2013年11月には保育士の資格を取得した。将来的には、自宅から徒歩圏内の保育園にてパートタイムで働く予定だという。
今後については、「保育士としてのスキルを磨く一方で、クラウドソーシングを通じた仕事も継続したい。」と朝谷氏は述べる。「クラウドソーシングの仕事は融通がきくので、家事や保育士の仕事とのバランスを見ながら調整していきたい。家事も社会貢献としての仕事も両立させ、子どもに尊敬される母親になりたい。それを通じて、子どもには働き方・生き方の選択肢を知ってほしい。」と語っている。
18 「在宅ワーク」とは、一般的に「自宅を拠点として仕事をすること」をいう。
もう一つ注目したいのが、シニア層の就業についてである。シニアは、退職を期に起業を意識する者も多く、退職後の第二の人生、すなわちセカンドライフの選択肢の一つとしての起業の役割が高くなっていることについては、前掲第3-2-13図で見たとおりである。また、いつまで働きたいかを団塊世代に尋ねた「団塊世代の就労希望年齢」を見ても、「働けるうちはいつまでも」と回答した人が全体の約25%、「70歳まで」と回答した人も約2割を占めており、年齢を重ねてもなお仕事をしていたいと考えているシニア層が多いということを示している(第3-5-23図)。
このようなシニア層の新たな働き方の一つとして、クラウドソーシングを利用して、新しい働き方を獲得した個人事業者の事例を紹介したい。自身の専門スキルを活かすことにより、年齢に関係なく仕事を受注している事例である。
事例3-5-8. クラウドソーシング受注者(個人)
クラウドソーシングを活用して「第三の人生」を歩み始めたシニア
大阪府在住の60代男性の新庄政行氏(仮名)は、クラウドソーシングを活用して仕事を受注しているフリーランスのデザイナーである。
新庄氏はデザイン学校を卒業した後、商業デザインの会社を経てから中途で新聞社に入社し、主に新聞の図版作成に従事してきた。60歳を過ぎた頃、もう一度商業デザインの仕事をしたいという思いを強くした新庄氏は、「体力とモチベーションが続く今しかない」と思い、40年近く勤めた新聞社を退職して独立した。ところが、現実は甘くはなかった。たとえスキル・経験があっても、60歳超の従業員を雇用してくれる企業は少なく、また、商業デザインの仕事は東京が中心であり、そもそも大阪には仕事が少なかった。そこで、インターネットを活用したクラウドソーシングに活路を見いだしたのである。
新庄氏は現在、クラウドソーシングサイトを通じ、チラシやポスター、カタログ、ダイレクトメール等の作成業務を請け負っている。主にコンペ方式の発注に対して作品を応募し、採用されれば報酬を受け取る。利用開始当初はロゴやシンボルマーク作成の案件に応募していたが、競争率が高く採用になかなか至らなかった。試行錯誤を重ねる中で、スキルや経験だけではなく「時代に合った空気を理解すること」の重要性に気づき、また、なるべく競争率が低そうな案件に応募するようにしたところ、採用率が高まったという。
新庄氏は、「クラウドソーシングは18世紀の産業革命と同程度のインパクトがある。」と述べる。「世界中がインターネットでつながり、対面でなくとも仕事ができる社会になった。自宅にいながら全国の企業と仕事でき、時間も自由に調整できる。自宅でコーヒーを飲み、好きな音楽を聴きながら仕事をすることも自由である。」と在宅ワークのメリットを指摘する。「社会人になるまでの学生を『第一の人生』、社会人になって家庭をもってからを『第二の人生』とすれば、60歳を超えてからは『第三の人生』である。クラウドソーシングのおかげで、私は第三の人生をスタートできた。今後も生涯現役プレイヤーを目指したい。」と新庄氏は語っている。
コラム3-5-2.
コワーキングスペースでの新しい働き方
新しい働き方の一つとして、最近注目を浴びているのが、「コワーキングスペース」と呼ばれる場所での活動である。コワーキングスペースとは、事務所スペース、会議スペース等を共有しながら独立した仕事をすることができるスペースであり、レンタルオフィス等の個別ブースで働くのではなく、図書館のような解放されたスペースで働くことができる。
コワーキングスペースでは、利用者同士のコミュニケーションが推奨される環境が整っているため、自然と会話が生まれ、交流の中から新しい発想やイノベーションが生まれたり、そこから協業関係に発展したりするなど様々なメリットが期待されている。以下では、コーキングスペース運営事業者と、実際にコワーキングスペースで働いている事業者の事例を見てみたい。
事例3-5-9. co-ba shibuya
新しい挑戦をする人が集うコワーキングスペース
東京都渋谷区のco-ba shibuya(コーバ・シブヤ)は、株式会社ツクルバが運営するコワーキングスペースである。同社はクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」を通じて資金を調達し、2011年12月にco-baをオープンした。
当初は「クリエイターのためのコワーキングスペース」として開始したが、現在は「多様なチャレンジが集まるワーキングコミュニティ」として、ジャンルを問わず、新しい挑戦をする人が集まって刺激を与え合う場所として機能している。仕切りや個室がなく開放感のあるスペースで、会員同士のコミュニケーションを促す設計になっている。100名弱の会員のうち、7〜8割は月額15,000円で自由にスペースを利用できる「フリー席プラン」の利用者であり、そのうち半数弱は5,000円を追加してその場所を本店所在地として登記している。利用者は、コピーライター等のフリーランスが約6割を占め、スタートアップ19のWebデザイナーやエンジニアが約3割を占める。平均年齢は30代前半で、男性が8割を占めている。
東京都在住の藤谷千佳氏(仮名)は、co-ba shibuyaを本社として利用するスタートアップの創業者の一人である。藤谷氏は、コワーキングスペースを利用するメリットとして、自力でオフィスを構えるのに比べ、オフィス維持費を抑えられるだけでなく、従業員数に応じて変動費化できることを挙げている。また、他の会員との交流もメリットであると述べており、「自分と同じような段階のスタートアップと情報交換をしたり、アイディアをもらったり、周りから刺激を受けることで仕事もしやすい。」と述べる。藤谷氏は、「働く場所に縛られなければ多くの利点がある一方で、同じ場所で働いて濃い時間を過ごすことにも価値がある。コワーキングスペースはその中間に位置するのではないか。」とその魅力を語っている。
株式会社ツクルバの國保まなみ(こくほまなみ)広報・co-ba shibuya運営担当は、「co-ba shibuyaは、必ずしも仕事をするだけの場所ではなく、学校や部活のような感覚の場所である。仕事と遊びの融合を目指しつつ、会員の方と一緒に成長していきたい。」と語る。同社は、2013年12月、赤坂にフランチャイズ拠点「co-ba akasaka」をオープンさせた。同社は今後も各地にフランチャイズ拠点をオープンし、拠点間の提携も検討していく予定である。
19 「スタートアップ」とは、起業して間もない状態、又は、その状態にある企業をいう。
コワーキングスペース運営者、利用者の増加に伴い、コワーキングスペースの運営者やスタートアップを中心とした利用者を支援するような組織も誕生している。ここでは、全国初のコワーキング応援組織の支援取組を見てみたい。
事例3-5-10. 札幌コワーキング・サポーターズ(SCS)
全国初のコワーキング応援組織の支援取組
札幌コワーキング・サポーターズ(以下、「SCS」という。)は、2012年3月に結成された全国初のコワーキング応援組織である。SCSは、経済産業省北海道経済産業局、札幌市、北洋銀行、北海道銀行、日本政策金融公庫の5機関が連携し、コワーキングスペースを通じて、これまで支援が手薄であった「起業したばかりの企業(スタートアップ)」を中心に様々な支援を行っている。2011年11月に、道内初のコワーキングスペースが誕生し、現在、道内では11件のコワーキングスペースが運営されている(2014年2月現在)。
SCSでは、道内の「コワーキング情報ハブ」を目指し、フェイスブックページを開設、運営しており、コワーキングに関する情報を発信・共有している。また、札幌市内を中心に、関係機関職員による「御用聞き20」を定期的に実施し、コワーキングスペース運営者とのコミュニケーションを通じて、利用者の各種相談や専門家派遣等の希望に対応するほか、補助金や融資の説明会、さらにはコワーキングの情報発信やトピックスを紹介するイベントも随時開催している。また、スタートアップと企業の商談会や、スタートアップの成長機会の獲得に資する投資家とのマッチングのイベント(北海道ベンチャー・スタートアップEXPO201321)を北海道で初めて開催した。
SCSでは、コワーキング支援のポイントとして「押しつけでないサービスの提供」、「相手に合わせたフレンドリーな対応」、「世界で最先端のムーブメントを紹介するイベントを企画」、「地元に足りない機能は、世界から補完する」を挙げており、これらのポイントを踏まえた支援により、若手女性起業家が、投資家から支援を実現させるなど着実に実績を上げている。今後、コワーキングスペースなどを拠点に活動するスタートアップと、投資家、大企業、中小企業とのマッチング支援に力を入れていく方針であり、北海道から、世界に羽ばたく企業が生まれることに期待を寄せている。
20 2012年6月に「御用聞き」サービスを開始し、これまで47回実施されている(2014年2月末現在)。
21 同イベントには、延べ約300名が参加し、出展者と来場者のマッチングが8件、出展者同士のマッチングが14件行われた。
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