第3部 中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来 

3. 日本国内におけるクラウドソーシングの現状

これまで、クラウドソーシングの概要と三つの類型について見てきた。ここからは、日本国内におけるクラウドソーシングの現状について見ていきたい。

●国内市場規模及びクラウドソーシング利用者の現状

クラウドソーシングの日本国内の市場規模、今後の市場規模予測については、前掲第3-5-2図のとおりである。これによれば、今後日本国内において、クラウドソーシング市場の急拡大が予想されている。第3-5-9図は、クラウドソーシングサイトに登録している会員数の推移を示したものであるが、これを見てもクラウドソーシングサイトに登録している会員数が急増しており、今後も更なる増加が予想される。

第3-5-9図 クラウドソーシングサイト会員数の推移
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次に、日本国内における、発注者の仕事内容別割合と、受注者の仕事内容別割合を見てみる。第3-5-10図は、クラウドソーシングサイトにおいて、発注経験者11が発注した仕事の内容を見たものである。これによると、「デザイン関連」、「ウェブデザイン関連」、「ウェブ開発関連」等一定のスキルが必要と考えられる仕事を発注したことがある企業が多いことが分かる。企業が、デザインや開発といった一定のスキルを必要とする人材を社内で確保していないことが背景に考えられる。また、「ライティング関連」や「作業関連」といった、比較的難易度の低い仕事も発注されている。これらの仕事については、自社で人材がいても、外部へ仕事を発注した方が効率的であると考えられるため、外部へ仕事を発注していることと推察される。

11 ここでいう「発注経験者」とは、クラウドソーシングサイト上に仕事を発注し、実際に契約に至った経験を持つ発注者をいう。

第3-5-10図 クラウドソーシングサイトで発注する仕事の内容(複数回答)
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第3-5-11図は、受注経験者12の受注した仕事の内容を見たものである。これによると、全体的に「作業関連」「ライティング関連」といった比較的難易度が低い仕事を受注したことあるワーカーが多いことが分かる。これは、特別なスキルを持たない人であっても、容易にクラウドソーシングに参加することが可能であるということを示している。また、「デザイン関連」、「ウェブデザイン関連」「ウェブ開発関連」といった比較的スキルが必要な仕事については、事業者13の受注割合が非事業者14、すなわち個人と比較して高いことが分かる。

12 ここでいう「受注経験者」とは、クラウドソーシングサイト上に掲載されている仕事に応募し、実際に仕事を受注した経験を持つワーカーをいう。

13 ここでいう「事業者」とは、法人又は個人事業者をいう。

14 ここでいう「非事業者」とは、前述の「事業者」以外の利用者をいう。

第3-5-11図 クラウドソーシングサイトで受注する仕事の内容(複数回答)
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第3-5-12図は、クラウドソーシング利用者の所在地を見たものである。これによると、仕事の発注者は三大都市圏に約7割がいるが、受注者については三大都市圏と三大都市圏以外であまり差が見られなくなっている。このことから、クラウドソーシングが場所を問わず、三大都市圏以外でも仕事を受注できる仕組みであることが分かる。

第3-5-12図 クラウドソーシング利用者の所在地
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次に、クラウドソーシングサイトで発注経験又は受注経験のある利用者の年齢と個人の属性を見てみよう(第3-5-13図、第3-5-14図)。これによると、クラウドソーシングを利用している利用者の年齢層は幅広く、個人の属性も様々であることが分かる。クラウドソーシングが、年齢や個人の属性によらず、誰でも参加できるサービスであることを示している。

第3-5-13図 クラウドソーシング利用者の年齢
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第3-5-14図 クラウドソーシングを利用している個人の属性
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次に、クラウドソーシングを利用する企業の常用従業員数について見てみよう。第3-5-15図、第3-5-16図は、発注経験及び受注経験のある企業の常用従業員数を見たものである。発注経験がある企業においては、常用従業員数が5人以下の企業での利用が全体の約7割を占める一方で、常用従業員数100人以上の企業の利用も全体の約1割を占めている。これは、従業員の少ない中小企業・小規模事業者が人材不足を補うために積極的にクラウドソーシングを利用する一方で、大企業も業務の効率化のためにクラウドソーシングを利用していることを示している。

第3-5-15図 常用従業員数(発注経験企業)
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第3-5-16図 常用従業員数(受注経験企業)
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また、受注経験がある企業においては、従業員を雇用していない企業での利用が全体の約8割を占めている。ここから、従業員を雇用していない小規模事業者が、取引先を増やしたり、売上を増加させるためにクラウドソーシングを利用していることが推察される。

●国内クラウドソーシングサイトの現状

日本国内のクラウドソーシング市場の拡大とともに、クラウドソーシングサービスを提供するサイト運営者も増加している。クラウドソーシングサイトは、大きく「総合型クラウドソーシングサイト」と「特化型クラウドソーシングサイト」の二つのタイプに分けられる。総合型クラウドソーシングサイトは、様々なタイプの仕事を取り扱っているサイトであり、特化型クラウドソーシングサイトは、ある特定の仕事のみを取り扱っているサイトである。ここで、クラウドソーシングサイト運営事業者の二つのタイプについて具体例を紹介する。株式会社クラウドワークスは、総合型クラウドソーシングサイトを運営しており、株式会社リアルワールドは、特化型クラウドソーシングサイトを運営している。

事例3-5-1. 株式会社クラウドワークス

日本最大級のクラウドソーシングサイトを運営する企業

東京都渋谷区の株式会社クラウドワークスは、日本最大級のクラウドソーシングサイト「クラウドワークス」(http://crowdworks.jp/)の運営企業である。同ウェブサイトは「仕事を依頼したい人(発注者)」と「仕事を受けたい人(受注者)」をオンラインでマッチングし、最短15分で仕事を開始できるサービスを提供している。2012年3月のサービス開始以降急成長を続け、累計の仕事依頼総額は70億円を超える。

発注者は入力フォームに沿って仕事を登録し、受注者はそれを見て応募・提案する。両者で条件を調整して契約を結ぶと仕事が開始され、クラウドワークスには、受注者から手数料として報酬金額の10%〜20%が支払われる仕組みとなっている。

同サイトで取り扱われる仕事には、受注者・発注者間が事前に交渉した上で仕事を開始する「プロジェクト」と、最も発注者の希望に合った提案をした受注者に対して報酬が支払われる「コンペ」、複数の受注者に同じ作業を依頼する「タスク」の三つの形式がある。「プロジェクト」はホームページ作成やスマートフォンアプリの開発、ECサイト構築、テープ起こし等が、「コンペ」ではロゴ作成やチラシ作成、名刺作成等が、「タスク」ではアンケートやデータ入力等の仕事が登録されている。また、受発注者の双方が感謝の気持ちを示すための機能として「ありがとうボタン」が設置されており、金銭面以外も配慮する日本人らしい商慣習に対応した仕組みを提供している。

同社の吉田浩一郎(よしだこういちろう)社長は、「これまで個人への発注は、成果物の品質や契約関係が不安定なため消極的であったが、企業にとって少額の外注は合理的であり、今後は個人への発注の増加が見込まれる。」とクラウドソーシングの可能性を指摘する。同社の今後の展望としては、「引き続きクラウドソーシングの認知向上に努めるとともに、教育面や社会保障面でのサポート等、個人が働くためのインフラを提供していきたい。」と述べる。さらに、インターネット上で取引される仕事に関する膨大な情報を保有していることが同社の強みであるとし、「世界中の人材のスキルと空き時間を見える化し、『21世紀の人材データベース』を目指したい。」と語る。

事例3-5-2. 株式会社リアルワールド

マイクロタスク型クラウドソーシングサイトを運営する企業

東京都渋谷区の株式会社リアルワールドは、マイクロタスク型に特化したクラウドソーシングサイト「CROWD(クラウド)」(http://www.realworld.jp/crowd/)を運営する企業である。2005年に創業した同社は、創業前から構想していたクラウドソーシング事業を2008年に開始し、現在では、会員数は50万人以上、サイト上で取引される仕事の報酬総額は累計で約60億円相当に達している。

同サイトは「いつでも、どこでも、だれでも」というコンセプトを掲げ、マイクロタスクと呼ばれる記事作成やデータ入力等の簡単な作業に特化して仕事を掲載している。「プロジェクト型」、「コンペティション型」の仕事を掲載しているクラウドソーシングサイトでは、発注者がワーカーに対し仕事を発注するのに対し、同サイトでは、発注者が同社に対して仕事を発注した上で、同社がシステムを活用して細かなタスクに分割・標準化し、それを多数の会員が実行するという仕組みとなっている。そのため、会員からは、発注者が誰なのかは分からないようになっている。

サイト上で行われる仕事は、多くを占める記事作成のほか、データ入力、写真撮影等の現地調査、データ収集、データの確認や分類作業、ABテスト15等がある。発注者は中小企業が最も多いが、大企業から個人まで様々で、都内だけでなく地方や海外の企業も利用している。登録している会員は、主婦が最も多く、学生や会社員のほか、高齢者も含まれる。

同社はクラウドソーシングの「安かろう悪かろう」というイメージを払拭するために、品質管理を徹底している。発注者のニーズを汲み取ったうえで、詳細な作業マニュアルを用意して会員に指示する。納品物のチェックも徹底しており、記事作成の仕事であれば、インターネット上に同一の文章がないか、著作権侵害はないかなどを、システム上でも目視でもチェックしている。品質に不安をもつクライアントには、仕事の一部を無料で実施し、納品物を実際に確認してもらった後に利用を開始してもらっているという。

同社はグローバル展開も視野に検討を進めており、「いつでも、どこでも、だれでも」仕事ができる環境を、国内・海外問わず実現することを目指している。

15 「ABテスト」とは、異なる2パターンのWebページを用意し、実際にユーザーに利用させて、見やすさや使いやすさを比較するためのテストをいう。

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