第3部 中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来 

第5章 新しい潮流 ―課題克服の新しい可能性―

ここまで見てきたとおり、中小企業・小規模事業者は、規模や地域の経済状況等により様々な経営課題を抱えており、それら課題に対し、国・地方自治体、商工会・商工会議所、認定支援機関等の中小企業支援機関がそれぞれの強みや特性を活かし、また、弱みを克服するべく互いに連携して、対応しようとしている姿を述べてきた。

他方で、近年のめざましいIT等の発展により、中小企業・小規模事業者が自らこれらのIT等を活用して長年の経営課題をブレイクスルーしようとする新たな動きも生まれている。こうした新たな動きを、中小企業・小規模事業者を取り巻く「新しい潮流」として捉え、それらの可能性や課題について見ていきたい。

第1節では、ITを活用した外部資源活用として、「クラウドソーシング」を取り上げる。クラウドソーシングとは、インターネット上の不特定多数の人々に仕事を発注することにより、自社で不足する経営資源を補うことができる人材調達の仕組みである。

第2節では、ITを活用した資金調達を取り上げる。一般的には「クラウドファンディング」と呼ばれているものであり、インターネット上の不特定多数の人々に対して資金の募集を行うことを可能とする手段である。

第3節では、社会価値と企業価値を両立させる経営フレームワークである「CSV(Creating Shared Value)」を取り上げる。アメリカの経営学者マイケル・ポーターが2011年1に提唱した考え方であり、社会的な課題を解決しながら企業競争力を付けていくことで、持続的な経営を実現するという考え方である。この考え方は、中小企業、とりわけ地域における様々な課題に直面する小規模事業者の今後の「生きる道」を示唆しており、第3部のフィナーレ(最終章)として紹介したい。

1 マイケル・ポーターが「CSV」の考え方を提唱した時期の詳細については、本章第3節「社会価値と企業価値の両立」を参照。

第1節 ITを活用した外部資源活用

人材の確保は、企業にとって重要な経営課題の一つである。特に、中小企業・小規模事業者の中には、必要とする人材の獲得に苦労している企業も多く、極めて深刻な課題ともいえる。企業は、自社で不足する人材を補うため、仕事を外部発注することがある。また、人材は確保しているが、外部に任せた方が効率的な仕事についても、同様に、仕事を外部発注することがある。これまで、企業が外部発注する場合、知人・同業者等から外注業者の紹介を受ける、又は、情報誌やインターネット等で自ら情報を収集するなどして、外注業者を選択してきた(第3-5-1図)。この場合、企業がアクセスすることができるのはホームページ制作業者やデザイナー等の専門業者が中心であり、スキルを持った学生や主婦等の個人に直接アクセスすることが困難であったため、必ずしも希望する料金でサービスを受けることができるとは限らなかった。

第3-5-1図 これまでの外部発注の流れ(例)

そのような中、近年、ITを活用した新しい人材調達の仕組みともいえる、「クラウドソーシング」の活用が増加している。第3-5-2図は、国内のクラウドソーシング市場規模推移と今後の市場規模予測を見たものである。2013年度の国内市場規模見込みは246億円であるが、これが4年後の2017年度には、約6倍の1,474億円になると予測されており、国内のクラウドソーシング市場が急成長すると見込まれている。

第3-5-2図 国内クラウドソーシング市場規模推移と予測
Excel形式のファイルはこちら

一方、海外のクラウドソーシング市場規模は、第3-5-3図のとおりである。2011年時点で比較すると、日本の市場規模が約44億円だったのに対し、海外のクラウドソーシングサイト15社の合計は約2892億円となっている。日本のクラウドソーシングサイトでは、発注者及び受注者のほとんどが日本人の利用であるのに対して、海外のクラウドソーシングサイトでは、世界中の人々が発注者となり、受注者となっている。これはクラウドソーシングサイトでの仕事のやり取りが、英語で行われているからであると考えられる。

2 当時の為替レートは、1ドル=76.94円(2011年12月30日終値)。

第3-5-3図 海外クラウドソーシング市場規模推移
Excel形式のファイルはこちら

クラウドソーシングの最大の特徴は、企業がインターネットを介して、クラウドソーシングサービスを利用できるサイト(以下、「クラウドソーシングサイト」という。)に登録している圧倒的多数の個人に対して仕事の発注をすることができるということである。そのクラウドソーシングサイト上では、実に多様な業務をこなすワーカー3が多数存在し、仕事の外部発注について、これまで行われてきたものと比べ、費用が安く、スピードも速く、しかも高品質の成果物を提供してくれる可能性があると指摘されている。一方で、ITを活用したサービスならではの課題も指摘されている。本節では、「日本のクラウドソーシングの利用実態に関する調査4」により、そのようなクラウドソーシングの可能性と課題の両面について見ていきたい。

3 ここでいう「ワーカー」とは、クラウドソーシング上の仕事の受注者をいう。クラウドソーシングサイトの受注者には、専門スキルを活かした仕事をすることで、生計を立てることができる受注者から、小遣い稼ぎの位置付けで仕事をする受注者まで幅広く存在することから、クラウドソーシングを通じて仕事をする人を幅広く捉え、「ワーカー」と表現することとする。

4 中小企業庁の委託により、(株)ワイズスタッフが、2013年12月にクラウドソーシングサイト運営事業者4社の協力を得て実施したアンケート調査。有効回答数4,396件。

1. クラウドソーシングの概要

●クラウドソーシングとは

第3-5-4図は、クラウドソーシングにおける外部発注の流れの一例を示したものである。

第3-5-4図 クラウドソーシングにおける外部発注の流れ(例)

クラウドソーシングとは、インターネットを介して不特定多数の個人又は企業にアクセスして、必要な人材を調達する仕組みである。必要な人材を調達するといっても、実際に従業員を雇用するわけではなく、あくまで業務を発注する人材をクラウドソーシングサイト上で見付けて、仕事の発注を行うというものである。企業のホームページの作成、ショッピングサイトへの商品登録等、その発注可能な仕事内容は実に幅広い(第3-5-5図)。また、専門業者だけでなく、今までアクセスすることがほとんど不可能であった、学生、主婦、定年退職したシニア層など、専門業者以外の一般個人に対しても仕事の発注をすることが可能となった。

第3-5-5図 クラウドソーシングサイトに掲載されている仕事例

この仕組みについて、一般に、群衆を意味する「crowd」と、外部委託を意味する「outsourcing」を組み合わせて、クラウドソーシング(crowdsourcing)と呼ばれている。クラウドソーシングという言葉は、米国『WIRED』誌の寄稿編集者であるジェフ・ハウが2006年に同誌で掲載したブログ記事「TheRise of Crowdsourcing(ザ・ライズ・オブ・クラウドソーシング)5」が初出であるといわれている。本記事では、写真素材提供サイト「iStockphoto(アイストックフォト)6」や課題解決コミュニティサイト「InnoCentive(イノセンティブ)7」の事例を取り上げ、個人の活動の集合がプロフェッショナルの仕事に取って代わる現象を「クラウドソーシング」として紹介した。その後、様々な定義が研究されたが、ヴァレンシア工科大学(スペイン)の経営学者であるエンリケ・エステリェス・アローラス(Enrique Estelles-Arolas)とフェルナンド・ゴンザレス・ラドロン・デ・ゲバラ(Fernando Gonzalez Ladron-de-Guevara)が、2012年に「クラウドソーシングは参加型のオンライン活動の一種である。そこでは、個人や組織、非営利団体、企業が、臨機応変なオープンコールを通じて、様々な知識を持つ種々混合で多数の個人からなる集団に対して、自発的に業務を請け負うことを提案している。」として、クラウドソーシングの定義の統合を図っている。

次に、このクラウドソーシングの仕組みをより理解するために、クラウドソーシングサイトにおける仕事を発注する企業の行動と、仕事を受注するワーカーの行動について、それぞれ具体的に見ていきたい。

5 http://www.wired.com/wired/archive/14.06/crowds.html

6 http://nihongo.istockphoto.com/(日本語版)

7 http://www.innocentive.com/

●クラウドソーシングの利用(発注者側)

企業がクラウドソーシングを利用して仕事を発注する場合、一般的に、〔1〕サイト会員登録、〔2〕発注(内容・報酬額等の掲載)、〔3〕ワーカー選定、〔4〕成果物検収、〔5〕報酬支払、〔6〕ワーカー評価というプロセスを経ることが考えられる(第3-5-6図)。

第3-5-6図 発注者のクラウドソーシングの利用(例)

まず企業はクラウドソーシングサイトに会員登録する必要がある(〔1〕)。企業は多数のクラウドソーシングサイトの中から、発注を検討している仕事をこなしてくれるワーカーの存在するクラウドソーシングサイトを選択する。クラウドソーシングサイトは、様々な仕事を受け付けている「総合型クラウドソーシングサイト」と、特定分野に特化して仕事を受け付けている「特化型クラウドソーシングサイト」があり、サイトへの会員登録は無料でできるところが多い。サイトへの会員登録は、クラウドソーシングサイトにアクセスし、必要事項(メールアドレス等)を入力することにより完了する。仕事の発注者として登録しているのは、個人事業者から法人形態の大企業まで幅広い8。クラウドソーシングサイトへの会員登録後、クラウドソーシングサイト上に発注したい仕事内容について掲載する(〔2〕)。サイト上には、仕事内容を掲載するフォーマットが準備されており、そのフォーマットに従って仕事内容の説明文を作成していく。ワーカーに仕事内容を伝えやすくするためのテンプレートが準備されているサイトや、説明文の書き方について相談に乗ってくれる会員が存在するサイトもあるため、自身のITリテラシー9に応じてクラウドソーシングサイト選択するという考え方もある。企業は、仕事内容の説明文を作成するとともに、仕事の募集期間や、報酬額、報酬支払形態等を決める必要があり、仕事内容の説明文とともにこれらの情報もクラウドソーシングサイト上に掲載する。その後、掲載された仕事を見たサイト上のワーカーから仕事への応募があれば、ワーカーの情報等を確認した上で、仕事を発注するワーカーを決定する10(〔3〕)。受注者の決定後は、そのワーカーと仕事内容について主にメールや電話等でやり取りを行い、最終的にその仕事の成果物を受け取り(〔4〕)、受注者に対して報酬を支払う(〔5〕)。報酬の支払方法は、クラウドソーシングサイトによって異なるが、多くの場合はクラウドソーシングサイトを経由してクライアントからワーカーに支払われることが多い。また、クラウドソーシングサイトによっても異なるが、企業は受注者の仕事ぶりに対して評価を行うことができる(〔6〕)。ここでの評価が高まることで、その評価を受けたワーカーは「信頼のおけるワーカー」として認識され、応募した仕事が受注しやすくなる傾向がある。

8 事業を営んでいない、一般個人も発注者として登録することができる。

9 「ITリテラシー」とは、パソコンの基本的な操作能力や仕事内容を伝える際のIT用語の理解度等、ITに関する知識・技術全般をいう。

10 受注者の決定方法については、仕事のタイプ(後掲)により変化する。

●クラウドソーシングの利用(受注者側)

ワーカーがクラウドソーシングサイトを利用して仕事を受注する場合、一般的に、〔1〕サイト会員登録、〔2〕応募、〔3〕受注確定、〔4〕成果物提出、〔5〕報酬受取、〔6〕発注者評価というプロセスを経ることが考えられる(第3-5-7図)。

第3-5-7図 受注者のクラウドソーシングの利用(例)

まずワーカーは、発注者と同様にクラウドソーシングサイトに会員登録する必要がある(〔1〕)。ワーカーは、自身が受注できる仕事が応募されているクラウドソーシングサイトを選択し、自身が受注できる仕事内容やスキル、過去の実績等を示したプロフィールを作成する。クラウドソーシングサイト会員登録後は、クラウドソーシングサイト上に掲載されている仕事内容について確認し、その仕事内容や、報酬等を検討の上、仕事への応募を行う(〔2〕)。企業からの正式な仕事の発注があれば(〔3〕)、企業とメールや電話等により仕事内容のやり取りを行い、期限内に成果物の提出を行う(〔4〕)。その後、クラウドソーシングサイトを通して報酬を受け取ることとなる(〔5〕)。クラウドソーシングサイトによっては、企業と同様に、ワーカーも企業の評価をすることができる(〔6〕)。受注者が、発注者の仕事内容の表現の的確さや、意思疎通のしやすさを評価するのである。ここでの評価が高まることで、その評価を受けた発注者は、「信頼性の高い発注者」として認識され、発注した仕事に対する応募が多くなる傾向がある。

以上、クラウドソーシングサイトにおける発注する企業側の行動と受注するワーカー側の行動について見てきた。それでは、実際に、クラウドソーシングサイトにおいて、どのような仕事がどのような形態で行われているのかを見ていきたい。

前の項目に戻る     次の項目に進む