第3部 中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来 

2. 公的な海外展開の支援

企業は、輸出や直接投資といった海外展開に関する経営課題を誰に相談しているのであろうか。第3-4-48図は、経営課題別に海外展開に関する相談の相手を見たものである。これを見ると、営業・販路開拓についてジェトロに相談する企業の割合や、資金調達について政府系金融機関に相談する企業の割合は、ある程度高いといえる。

第3-4-48図 経営課題別の海外展開に関する相談相手(複数回答)
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ただし、概して海外展開の相談において、公的な海外展開支援機関の利用率は、あまり高いとはいえない。一方で、相談相手はいないと回答する企業もそれぞれの経営課題でかなりの割合を占めており、政府としても何らかの対応が必要とされる。

また、第3-4-49図は、現在は輸出を実施していないが、輸出に関心のある企業が、海外展開について相談している相手を見たものである。これを見ると、「取引先・同業企業等」と回答する企業が最も多く、「ジェトロ」、「現地日系企業・現地邦人」、「現地地場企業」と続いている。

第3-4-49図 輸出を実施していないが、関心のある企業が最も頼りにしている海外展開の相談相手
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それでは、公的な海外展開支援機関に対して、企業はどのように評価をしているのであろうか。第3-4-50図は、輸出や直接投資を実施している企業のうち、それぞれの海外展開支援機関の支援が「必要ない」と回答した企業を除いて、利用の状況やその評価を見たものである。

第3-4-50図 輸出や直接投資を実施している企業の公的な海外展開支援機関の利用状況とその評価
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これを見ると、利用状況では、それぞれの公的な支援機関の支援が必要と考えている企業でも、「利用したことがない」と回答している企業が一定数おり、支援施策を必要としている企業に十分に届けられていない可能性がある。また、実際に利用した企業のそれぞれの支援機関に対する評価では、いずれの公的な支援機関でも、「どちらとも言えない」と回答している企業が最も高く、利用した企業の満足度も決して高いとは言い難い。

第3-4-51図は、現在輸出を実施していないが、輸出に関心はある企業について見たものであるが、同様の傾向が見られる。

第3-4-51図 輸出を実施していないが、関心のある企業の公的な海外展開支援機関の利用状況とその評価
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コラム3-4-3.

公的な海外展開支援機関の支援

主な公的な海外展開支援機関では、現在どのような支援のメニューがあるのであろうか。公的な支援機関の状況について概観する22

22 なお、中小企業の海外展開の支援については、「中小企業海外展開支援施策集」(http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kokusai/2012/140331KTJirei.pdf)、「ミラサポ(未来の企業☆応援サイト)」の海外展開ページ(https://www.mirasapo.jp/overseas/index.html)に詳しく記載があるほか、各地方自治体でも様々な取組を行っている。

日本貿易振興機構(ジェトロ)

ジェトロは、我が国の貿易を総合的に振興するために、1958年に特殊法人として設立され、2003年に独立行政法人として新たなスタートを切った。世界各国及び日本各地の事務所のネットワークがあり、貿易・投資振興及び地域・開発研究の総合機関として活動している。現在、国内37事業所、海外55か国73事業所を持っており、国内877名、海外700名の職員がいる(2014年1月1日時点)。

ジェトロは、これらのネットワークを生かした情報提供に強みがあり、個別企業の相談対応を国内・海外で行うほか、各国の貿易制度や投資コストなどをウェブサイトに無料で公開したり、貿易実務や国・産業別の市場動向に関するセミナーなどを各地で行ったりしている。また、世界各地の見本市への出展支援、海外バイヤーを招いた商談会や引き合い案件データベースによる取引先の開拓支援、海外進出に向けたミッション派遣やレンタルオフィスの貸与なども行っている。


■具体的な支援の例

○海外経済・貿易情報の提供(海外情報ファイル、セミナー・講演会等)
○貿易・投資にかかる相談受付(貿易投資相談、海外ブリーフィング等)
○海外取引先の開拓支援(見本市・展示会、引き合い案件データベース)
○海外進出の実現支援(海外レンタルオフィスの貸与等)


■近年の新たな取組〜専門家による新興国進出個別支援サービス〜

新興国進出に取り組もうとする中堅・中小企業に対して、経験豊富なジェトロの専門家165名(企業OB・現役シニア等)が、海外進出に向けたステップに応じてハンズオンで2015年3月まで支援を実施。企業は無料で支援を受けることができる(渡航費、現地宿泊費等は負担が必要。)。2013年4月から開始し、701社の企業に対して支援を実施している(2014年2月時点)。

詳細は、「サービスガイド(専門家による新興国進出個別支援サービス)」(http://www.jetro.go.jp/services/expert/)を参照。

中小企業基盤整備機構

中小企業基盤整備機構は、中小企業総合事業団、地域振興整備公団、産業基盤整備基金という三つの法人を引継ぎ、2004年に設立された。中小企業の事業活動の活性化のための基盤を整備することを目的に、創業から新事業展開、経営基盤の強化、事業再生までのライフステージに合わせた支援体制を整える。そのような国内での経営指導の一環として、海外への販路開拓や投資を目指す事業者への国際化支援を行っている。国内10か所に拠点があり、常駐している海外展開支援のアドバイザーは64名(登録しているアドバイザーは429名)が所属している。主要な支援業務は、以下の通りである。

中小企業基盤整備機構では、国内の事業も含めた経営指導に強みがあり、アドバイザーによる電話や対面等での相談対応のほか、海外展開管理者・実務者向け研修など国内での支援事業を実施。インターネットを活用した販路開拓支援にも注力している。


■具体的な支援の例

○電話や対面等での相談受付(国際化支援アドバイス)
○海外展開事業推進支援(フィージビリティー・スタディー支援、国際展示会出展サポート、インターネットを活用した販路開拓支援)
○セミナー・研修・情報提供(セミナー実施、海外展開管理者・実務者研修、施策情報の提供)


■近年の新たな取り組み〜フィージビリティー・スタディー支援〜

国内での事前準備から、海外現地での調査までを支援。企業の製品・技術・サービス等を基に、海外生産拠点設立や販路開拓等の市場調査や専門家等からの実践的なアドバイス等を実施。2012年から開始し、これまで300社の企業に対して支援を実施している(2013年12月時点)。

このほか、国際協力機構(JICA)、日本貿易保険(NEXI)、海外産業人材育成協会(HIDA)等の関係機関、日本政策金融公庫や商工組合中央金庫などの政府系金融機関などが中小企業の海外展開を支援している。

経済産業省では2010年以降、外務省、農林水産省及び金融庁、並びに関係機関と連携の上、海外展開支援の目標を共有し、相互の事業効果を高めるための情報交換や議論の場を設けている。また、同様の取組は経済産業局を中心として地域別にも行っている。

事例3-4-10. 株式会社エヌ・ウェーブ

バングラデシュで、バスの料金徴収システムの運用に取り組む企業

東京都千代田区の株式会社エヌ・ウェーブ(従業員10名、資本金1,000万円)は、国内の医療機関で使用されるシステムの開発を行う事業者である。一人当たりのGDPが8万円程のバングラデシュで、2009年からバスのICチケットによる料金徴収システム等の運用も行っている。

同社のバングラデシュとの関わりは、バングラデシュ人のITエンジニアを雇用したことがきっかけであった。その後、ジェトロの主催するバングラデシュでの国内の展示会に参加することで、関わりが深まっていった。そして、現地を訪問した同社の矢萩章(やはぎあきら)社長は、バングラデシュの潜在力を感じ、事業の可能性を模索するようになる。

バスのICチケットシステムの事業の可能性を探っている時、バングラデシュ人のビジネスウーマンからの聞いた一言で、矢萩社長は事業化の思いを強くした。「このシステムはいつ私達の国に持ってきてくれるのか。この国では、女性ということで、お釣りを誤魔化されたり、汚いお札を返されたり、悔しい思いをすることが多い。バスに乗りたくても乗れない。」

現在では、公営バス会社の2路線で、同社のシステムが取り入れられている。同社のシステムを利用することで、運営が効率化された上、販売員による売上の着服等も防ぐことができ、バス会社の売上高は50%以上増加した。同社のバングラデシュの現地法人では、従業員が200名にまで増えている。また、ジェトロやJICAといった公的な支援機関とも協力をしながら進めてきたことが、ここまで事業を拡大することができた要因だという。

ただし、全てが順風満帆というわけではない。バングラデシュでは、選挙によるデモが発生し、公営バス会社の運行が何か月も止まってしまったこともある。また、ICチケットによる決済システムを発展させるためには、付随するサービスを整える必要があるが、必要資金を用意することは簡単ではない。

「正直なところ、困難も多くある。ただ、国内外で協力してくれる人の期待に応えたいという思いが強い。また、バングラデシュには、新しいビジネスの可能性を感じている。」と矢萩社長は語る。

同社の矢萩章社長(右)
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