第3部 中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来 

第3節 海外への一歩を踏み出すために必要なこと

第3節では、現在、海外展開を実施していない企業について見ていく。海外展開を実施していない企業は、海外展開をどのように捉えており、海外展開をしたいと考えている企業ではどのような課題があるのか分析していく。

1. 輸出の開始の課題

第3-4-35図は、現在輸出をしてない企業(輸出未実施企業)の輸出に関する方針を尋ねたものである。これを見ると、中規模企業で約3割、小規模事業者で約4割の企業が、輸出を準備・検討している、あるいは関心を持っていることが分かる17。また、小規模事業者の方がより輸出に関心を持っている企業が多い。これは、小規模事業者の方が、国内での需要減少等による事業の将来性への危機感がより強く、海外市場への関心がより高いためであると考えられる。

17 前掲第3-1-18図では、今後目指す市場として、「近隣都道府県」、「全国」、「海外」と回答している「広域需要志向型」の小規模事業者は全体の約2割であった。輸出に関心のある企業が3割以上であることとの差は、基となる「中小企業の海外展開の実態把握にかかるアンケート調査」が、海外展開をテーマとしたアンケート調査であり、より海外に関心の高い企業群が回答しているためと考えられる。

第3-4-35図 輸出未実施企業の輸出に関する方針
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また、どのような企業が輸出に関心を持っているのであろうか。第3-4-36図は、それぞれの項目(新商品・サービスの企画開発力等)について自社の「強み」と考える企業と「弱み」と考える企業の別に、輸出の方針を見たものである。これを見ると、「新商品・サービスの企画開発力」、「商品・サービスの独自性」では、「強み」と考えている企業の方が輸出に関心がある割合が高い。一方で、「安定した取引先・商圏」、「資金体力・財務基盤」では、「弱み」と考えている企業の方が輸出に関心がある割合が高い。

第3-4-36図 企業の強み・弱み別の、輸出未実施企業の輸出の方針
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このことから、商品・サービスの企画開発力や独自性を武器に海外に進出しようとしている企業と、国内において安定した取引基盤や資本蓄積がない企業が現状を打開するために海外に進出しようとしている姿が見えてくる。

第3-4-37図は、輸出の開始を準備又は検討している企業が、どの国・地域を対象としているのかを尋ねたものである。これを見ると、中国と回答している企業が4割以上と最も高く、次にタイやインドネシアといったASEAN諸国や北米・西欧といった先進国に関心を持っていることが分かる。これは、第3-4-13図の現在輸出を実施している企業の、今後重視している国・地域の傾向とおおむね一致している。

第3-4-37図 輸出の開始を準備又は検討している国・地域(複数回答)
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それでは、輸出未実施企業が乗り越えなければならない課題は何であろうか。第3-4-38図は、輸出の準備や検討を行っている企業が輸出を開始するための最も重要な(これが克服できれば輸出が行えるといった)課題を見たものである。これを見ると「販売先の確保」と回答している企業が約4割(小規模事業者では約3割)であり、他の項目よりも高いことが分かる。輸出を開始するに当たって様々な課題が考えられるが、いかに販売先を確保するのかが最も重要であることが改めて確認された。また、「必要資金の確保」や「信頼できる提携先・アドバイザーの確保」が、小規模事業者が輸出を開始するために特に重要であることが分かり、これらの分野で何らかの政府の支援が必要とされているということを示唆している18

18 現在、政府では「パッケージ型海外展開支援事業」として、販路構築の支援を行っている。「パッケージ型海外展開支援事業」では、中小企業基盤整備機構が専門家を派遣し、外国語の海外向けホームページの作成及び海外取引にかかる決済・物流の体制の整備を支援している。また、それに伴うホームページの外国語化、代金決済システムの構築等にかかる経費の上限100万円、補助率2/3で補助している。

第3-4-38図 輸出の開始を準備又は検討している国・地域(複数回答)
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また、中には輸出に関心があっても、具体的な検討や準備に進めない企業も多い。それらの企業では何が課題なのであろうか。第3-4-39図は、輸出に関心があるものの、具体的な検討や準備をしていない企業が、検討や準備に進むために必要なことを見たものである。これを見ると、「輸出のリスク・失敗事例の紹介」、「基礎的な輸出知識の研修」と回答する企業が多く、特に小規模事業者では、「現地を訪問する機会」と回答する企業が多いことが分かる。

第3-4-39図 輸出に関心のある企業が具体的な検討や準備に進むために最も必要なこと
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政府では「リスク・失敗事例の紹介」を通じた海外展開支援のため、海外展開がうまくいかなかった企業の事例や解説を掲載しているリスク事例集を作成した19。また、ジェトロでは「現地を訪問する機会」の提供のため、海外への派遣事業20を行っており、民間企業でも海外視察のアレンジを行っている企業も増えている21

19 中小企業海外展開支援関係機関連絡会議「海外展開成功のためのリスク事例集」(http://www.chusho.meti.go.jp/keiei/kokusai/2013/130628jirei.pdf

20 ジェトロでは、企業の市場開拓・海外進出のサポートのため、現地で、市場・関係先の視察、関係者との意見交換、ビジネスマッチング等のプログラムを提供する「ミッション派遣」を行っている。2013年度では、16件のミッション派遣が実施され、約200名が参加している(2013年12月末日時点)。具体的には、ベトナムへの投資環境視察(2014年2月)やミャンマーの経済特区の視察(2014年3月)等を実施している。「イベント情報(ジェトロ主催のミッション)」(http://www.jetro.go.jp/events/mission/

21 例えば、後掲事例3-4-11の株式会社Resorzでも海外視察のアレンジを行っている。

事例3-4-8. 株式会社ダイイチ

算盤の製造技術を生かした商品開発に取り組み、海外展開に挑戦する企業

兵庫県小野市の株式会社ダイイチ(従業員7名、資本金1,000万円)は、1909年創業の老舗の算盤製造業者である。

播州算盤で有名な兵庫県小野市の算盤製造業者の組合の組合員は、全盛期では60社あったものが、現在では10社に満たない事業者しか残っていない。「母親の算盤作りで、私は育てられた。何とか算盤に恩返しをしたい。」同社の宮永英孝(みやながひでたか)社長は語る。

同社では、自分でデザインできるカラフルな算盤、キャラクターとの提携、算盤の玉を利用したキーホルダー等、伝統的な算盤だけではなく、新しい商品の開発に取り組んでいる。また、国内需要の減少を感じていることから、積極的に海外への販売にも挑戦している。

現在では、レバノンの事業者への販売を始めている。中東では算盤を用いた教育への関心の高まりがあり、レバノンで学習塾を営む地場の事業者が、算盤の本場である小野市を訪問したことが販売につながったきっかけであった。

輸出をするには、「パートナーとの信頼関係が最も重要である。」と言う。過去に韓国への輸出を行ったこともあったが、パートナーからの入金がなく、途中で頓挫した苦い経験をしたこともあった。今回レバノンの事業者とは、宮永社長が日本の算盤を紹介するためレバノンを訪問した際の10日間の行程の中で、事業者との信頼関係を構築していった。

コストに見合う運輸会社を探す等、現在でも試行錯誤をしながら輸出に取り組んでいる。算盤を後世に残したいという思いの実現のため、同社では、日々課題を乗り越え、海外の市場への販売に取り組んでいる。

レバノンの子ども達と算盤
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