第3部 中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来 

4. 直接投資の成功と失敗の分かれ道

次に、直接投資の成功と失敗の要因について見ていく。まず、直接投資先の機能別に、国内事業に与えた影響を見ると、「企業の将来性」では、生産機能と販売機能の直接投資のいずれも、良い影響が出たと回答する企業が7割前後となっている。続いて、「売上高の増加」、「利益の増加」、「経営管理の高度化」で、良い影響があったと回答する企業が多い(第3-4-24図、第3-4-25図)。また、「国内雇用の増加」について見ると、生産機能と販売機能の直接投資のいずれも、悪い影響があったと回答する企業は少ない14

14 詳細は、コラム3-4-1を参照。

第3-4-24図 直接投資(生産機能)の開始によって企業の国内事業に与えた影響
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第3-4-25図 直接投資(販売機能)の開始によって企業の国内事業に与えた影響
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一方で、「資金繰り」については、生産機能と販売機能の直接投資のいずれも、良い影響があったと回答する企業よりも、悪い影響があったと回答する企業が多く、2割以上の企業が直接投資の開始により、資金繰りの悪化を感じている。

前掲第3-4-24図、第3-4-25図で、直接投資の開始によって資金繰りが悪化している企業もいることが分かった。では、直接投資の投資資金の回収には、どの程度の期間が掛かるのであろうか。

第3-4-26図は、直接投資をした時期別に、単月で黒字化した経験のある企業の割合と、投資資金が回収されている企業の割合を見たものである。また、上部には、「調査・検討から投資まで」、「投資から事業稼働まで」、「事業稼働から直接投資先が初めて単月で黒字化するまで」、「単月で黒字化してから投資資金が回収されるまで」の平均期間をそれぞれ示している。

第3-4-26図 直接投資の時期別の、黒字化している企業の割合と投資資金が回収されている企業の割合
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これを見ると、「調査・検討から投資まで」はおよそ1年間、「投資から事業稼働まで」におよそ9か月程度、平均で掛かっており、具体的な準備を行ってから事業稼働のスタートラインに立つまでには、2年近くの期間が掛かっていることが分かる。

また、「事業稼働から直接投資先が初めて単月で黒字化するまで」には、平均でおよそ2年掛かっており、投資時点から初めて単月で黒字化するまでには平均でおよそ3年近く掛かっていることになる。

単月で黒字化した経験のある企業の割合を見ると、2010年以降に直接投資をした企業では約4割であるものの、1994年以前に直接投資した企業では9割弱が単月での黒字化を経験している。逆に言えば、20年以上経っても単月で一度も黒字化しておらず、直接投資先では追加資金を必要としている企業が1割以上いることになる。

さらに、「単月で黒字化してから投資資金が回収されるまで」は、平均で3年以上掛かっており、直接投資してから投資資金が回収されるまでには平均でおよそ6年掛かっていることになる。しかし、実際に投資回収がされている企業の割合を見ると、直接投資から6年が経過している企業が当てはまる2005〜09年に直接投資を実施した企業でも、4割弱となっている。その後、投資時期が過去に遡るほど、投資回収がされている企業は増加するものの、1994年以前でも7割弱となっており、20年以上経っても3割以上の企業はまだ投資資金が回収できていないことが分かる。

それでは、直接投資がうまくいっている企業とうまくいっていない企業を分ける要因は何であろうか。第3-4-27図は、生産機能の直接投資を実施した企業の直接投資を成功させるために最も重要な(成功と失敗の分かれ道となる)取組を見たものである。ここでは、うまくいっている企業(将来性に良い影響があった企業)とうまくいっていない企業(資金繰りが悪化した企業)の別に見ている。これを見ると、「販売先の確保」、「現地人材の確保・育成・管理」、「海外展開を主導する人材の確保・育成」が、うまくいっている企業、うまくいっていない企業共に回答する割合が高い。また、うまくいっていない企業では、「採算性の維持・管理」と回答する企業が多くなっている。

第3-4-27図 直接投資を成功させるために最も重要な(成功と失敗の分かれ道となる)取組(直接投資(生産機能)によって、将来性に良い影響があった企業と資金繰りが悪化した企業)
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さらに、それらの最も重要と考えている取組について、自社として取り組めているか否かを尋ねたものが、第3-4-28図である。これを見ると、いずれもうまくいっている企業の方が「取り組めている」と回答する企業が多いが、「販売先の確保」では特にその差が大きくなっている。また、「海外展開を主導する人材の確保・育成」でもその差は大きい。

第3-4-28図 最も重要な取組の取組状況(直接投資(生産機能)によって、将来性に良い影響があった企業と資金繰りが悪化した企業)
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また、同様に、販売機能の直接投資を実施した企業の直接投資を成功させるために最も重要な(成功と失敗の分かれ道となる)取組を見ていく。これを見ると、「販売先の確保」と回答する企業の割合が特に高くなっており、次に「海外展開を主導する人材の確保・育成」と回答する企業の割合が高い(第3-4-29図)。さらに、うまくいっている企業とうまくいっていない企業の取組状況を見ると、いずれもうまくいっている企業の方が「取り組めている」と回答する企業が多く、「販売先の確保」の方がその差はより大きくなっていることが分かる(第3-4-30図)。

第3-4-29図 直接投資を成功させるために最も重要な(成功と失敗の分かれ道となる)取組(直接投資(販売機能)によって、将来性に良い影響があった企業と資金繰りが悪化した企業)
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第3-4-30図 最も重要な取組の取組状況(直接投資(販売機能)によって将来性に良い影響があった企業と資金繰りが悪化した企業)
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これまで、輸出と直接投資について、その成功要因と失敗要因を見てきた。そこから見えてきたのは、「販売先の確保」の取組が重要という、ある意味では当たり前の結果であった。成長著しく、チャンスが広がる海外市場であっても、政治的混乱や二国間関係の悪化、経済危機等の不可抗力的なリスクに加えて、取引先や販売先の信用リスクもある海外で成功するためには、様々なリスクを踏まえた現実的な販売戦略の策定や具体的な販売先を確保した上で海外市場に乗り出し、進出してからも販売先確保の取組を継続して行っていくことが重要である。

事例3-4-4. 株式会社TEKNIA

タイへ海外展開した自らの経験を基に、他社の海外販路開拓支援を行う製造業者

愛知県名古屋市の株式会社TEKNIA(従業員90名、資本金6,500万円)は、工作機械、産業機械、航空機等の部品を製造する企業である。2007年にタイに生産工場を開設した。

積極的に海外展開を進めるようになったのは、現在の高橋弘茂(たかはしひろしげ)社長になってからであった。プライベートで何度も足を運んでおり、経済成長を肌で感じていたため、タイへの進出を決めた。リーマン・ショックの時、経営を継続するかどうか悩むほど現地の事業が悪化したが、国内事業が安定していたため何とか留まることができた。現在では、「ある程度軌道に乗ってきたと感じている。」と言う。

また、2011年に同社が中心となり、経営者仲間の中小企業との共同出資で、タイに製造会社「V.I.T. Co., Ltd.」を設立した。V.I.T.では、小規模な工場団地として、出資者が工場建屋や汎用性の高い機械設備の共同利用ができる。利用する企業にとっては、単独で進出するよりもリスクを抑えてタイに進出することが可能となる。また、参画する企業が金型や熱処理等、各社の強みも持ち寄って、タイに進出する日系の大手・中堅企業から共同で受注を獲得するなど、中小企業で連携する取組も積極的に進めている。

「どんな事業でも、マーケティングが重要。特に海外進出となれば、日本より条件が厳しく、リスクは高い。販路を確保してから進出することが望ましい。」と語る高橋社長は、海外展開で培ったノウハウや人的ネットワークを生かして販路開拓支援等を行う会員制のコンサルティング会社(タイにVITPLANNING Co., Ltd.、日本に株式会社VITサポート)をV.I.T.の製造部門と分離し設立した。

会員にバンコクの現地事務所の一部を出張時の活動拠点として提供するほか、各企業の個別相談にも応じている。会員企業が営業所として事務所を利用することで、進出前に現地の企業に営業を行うことが可能となる。「自社の経験を他の企業にも役立ててもらいたい。」と高橋社長は語る。

同社の高橋弘茂社長

事例3-4-5. 重光産業株式会社

12の国・地域に800店舗展開し、世界中に熊本ラーメンを広げている飲食店

熊本県熊本市の重光産業株式会社(従業員96名、資本金6,450万円)は、「味千ラーメン」のブランドで、国内はもとより、中国を始め、シンガポール、タイ、インドネシア、アメリカ等、12の国・地域に800店舗近くのラーメン店を展開している企業である。国内は97店舗であるのに対し、海外は700店舗近くとなっている。

1994年に台湾に出店したことが、同社の海外展開の始まりであった。その後、北京、香港、深センに出店を拡大していった。大きな転機となったのは、2007年に香港証券取引所で、同社が出資した「中国味千」を上場させたことであった。これをきっかけに、店舗の拡大は世界中に加速していった。

同社の海外展開は、フランチャイズ形式により進められている。加速化する海外展開を支えているのは、現場のモチベーションを高めるフランチャイズの方法である。具体的には、フランチャイズのロイヤリティーは固定額としており、本社に一定額に納めると、残りは現地のオーナーの手元に残る。したがって、売上を上げれば上げるほど、現地のオーナーは儲かる仕組みとなっている。これは、先代の社長の「苦労しているのは店舗の現場である以上、売れたら実入りが店に残るようにしなければならない。」という考えが引き継がれているものである。

また、同社の海外展開が進んだのは、香港株式市場の上場時期まで、中国の事業を牽引した現地の優れたパートナーの存在も大きい。現在でも、嗜好や土地等、現地を熟知したパートナーを主体に事業を進め、本社は主にサポートを行う形で海外展開に取り組んでいる。現地を知る信頼できるパートナーと提携し、モチベーションを高めることが、同社の販売先の市場を世界中に広げている。

「味千ラーメン、熊本ラーメンの味を世界中に伝えたいという思いがある。それと同時に、進出先の食文化を大事にしたいとも考えている。地元の人、幅広い人に受け入れられる味でありたいと考えている。」と同社の本田修(ほんだおさむ)国際部長は語る。

同社の本田修国際部長・同社の商品(味千ラーメン)

事例3-4-6. 株式会社ダダ

設立当初からアジアを見据え、海外展開を進めている美容室

大阪府大阪市の株式会社ダダ(従業員82名、資本金1,000万円)は、国内及び中国にて、美容室とエクステンション15専門店を経営する企業である。「DADA」の名前の由来は“Designing Artists Design for Asian”であり、1994年に同社を設立した時からアジアの市場を見据え、2006年には上海1号店を出店した。

上海に進出するため、2005年から現地のリサーチを始めている。社長自身が2か月に一度現地を訪れ、現地に住む日本人や中国人にインタビューをすることで、ファッションの動向や価格について事前にリサーチした。リサーチをすることで、日本の女性誌やファッション誌が良く読まれており、日本式の美容店を実施しても需要が見込まれることを改めて確認できたという。

同社が中国で受け入れられ、顧客を確保できている理由は、日本式の従業員の教育と、現地の人でも払える価格帯である。従業員に対する教育では、日本人と同等の技術力になるよう、営業終了後や休日も使った研修を行い、教育の基準も日本と同じものを採用している。また、身だしなみ、勤務態度、接客等についてもしっかりと教育するため、行動評価の項目を明確にし、項目がクリアされているかスタッフや店長の相互で評価する仕組みを作っている。最近では、中国にも日本式の美容室も増加しているものの、同社のように現地スタッフに対して、しっかりと教育を行い、日本人と同じレベルにまで引き上げているサロンは他にない。そのような、日本式のサービスを現地の人でも支払える水準で提供していることが同社の強みである。

同社では、今後も台湾やタイ等、アジア各国への拡大を検討している。「欧米人とアジア人では髪質が異なっている。アジア人に適したスタイルを創り出し、日本の美容技術を伝えていきたい。」と同社の竹村仁志(たけむらひとし)社長は語る。

15 「エクステンション」とは、付け毛・部分かつらの一種をいう。

同社の竹村仁志社長
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