第3部 中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来 

2. 輸出の成功と失敗の分かれ道

それでは、輸出における成功と失敗の要因は何であろうか。まず、輸出の開始が企業に与える影響を見ていく。第3-4-14図は、輸出の開始が企業に与えた影響を見たものである。特に、売上高の増加、企業の将来性、利益の増加では、良い影響が出たと回答している企業が5割を超えており、輸出の開始が企業業績に良い影響を与えている企業が多いことが分かる。ただし、資金繰りについては、1割超の企業が悪い影響が出たと回答しており、輸出の開始にも一定のリスクがあることには留意が必要である。

第3-4-14図 輸出の開始が企業に与えた影響
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一方で、輸出の開始をしても売上高の増加につながったとはいえないと回答する企業12も約3割いることにも目を向けるべきであろう。売上高が増加した企業と増加しなかった企業では、どのような違いがあるのであろうか。第3-4-15図は、輸出を成功させるために最も重要と考えている、つまり成功と失敗の分かれ道と考えている取組を尋ねたものである。これを見ると、「販売先の確保」、次に「信頼できる提携先・アドバイザーの確保」と回答する企業が、売上高が増加した企業、売上高が増加しなかった企業のいずれでも多い。

12 輸出の開始が与えた「売上高の増加」への影響として、「どちらとも言えない」、「やや悪い影響」、「悪い影響」と回答した企業を指す。

第3-4-15図 輸出企業が輸出を開始した時期
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それでは、売上高の増加した企業と増加しなかった企業の違いは何であろうか。第3-4-16図では、最も重要な取組として「販売先の確保」と回答した企業が、「販売先の確保」に取り組めたか否かについて自社の評価を尋ねたものである。これを見ると、売上高が増加した企業では、約6割の企業が「取り組めている」と回答している一方、売上高が増加しなかった企業は、「取り組んでいるが、うまくいっていない」、「十分に取り組めていない」、「全く取り組めていない」と回答する企業が7割近くいることが分かる。

第3-4-16図 輸出を成功させるための最も重要な取組として「販売先の確保」と回答した企業の自社の取組への評価
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つまり、売上高が増加した企業では自らの成功の体験を基に、また売上高が増加しなかった企業では自らの反省を基に、「販売先の確保」や「提携先・アドバイザーの確保」が輸出を成功させるために重要であると回答していると考えられる。

事例3-4-1. 株式会社丸越

外国語のホームページの開設や海外のバイヤーとの提携によって販売先を確保している企業

神奈川県茅ヶ崎市の株式会社丸越(従業員22名、資本金3,000万円)は、工場で使用される機械・器具の卸売を行う事業者である。同社では、受注先の大手企業がシンガポールに進出したことをきっかけに、1970年代から輸出を実施している。

輸出を開始した時期は早かった同社であるが、その取引が大きく拡大したのは、2007年以降と比較的最近になってからである。そのきっかけは、英語、スペイン語、イタリア語でも閲覧可能なホームページを作成したことであった。それまで、同社では日本語のホームページもなかったが、外国語のホームページを開設することで、それまで受注のなかった国・地域のバイヤーからも連絡が来るようになり、海外の取引先の数はホームページを開設する前に比べ、10倍程度に大きく増えた。

また、同社では、海外の提携先と協力することで、海外展開を進めている。過去に、同社ではシンガポールに販売拠点を構え、自社で営業活動を行っていた。しかし、海外拠点に駐在する人材の確保が困難であったことや、見込み通り販売先を拡大することができなかったため、撤退することとなった。現在では、信頼できる海外現地のバイヤーと提携することで販売を拡大させている。「自社で拠点を設置して、販売先を開拓することも挑戦したが、当社にとっては信頼できるパートナーと協力して販売先を広げていくことが最も良い形だと考えている。」と同社の大箭剛久(おおやたけひさ)社長は語る。

同社の大箭剛久社長

事例3-4-2. エイベックス株式会社

ニッチな市場で国際的なシェアを獲得し、売上高の大半を海外向けが占める自動車部品製造業者

愛知県名古屋市のエイベックス株式会社(従業員326名、資本金1,000万円)は、自動車関連部品等の製造業者である。同社の製品は、国内の顧客を通じて、8割以上が、北米、中国、東南アジア等、海外向けに販売されている。

過去、同社では、切削・研削を広く請け負っていたが、受注や利益の確保がうまくいっているとは言い難かった。企業としてより他社と差別化するため、精密加工メーカーとして得意分野を持つ必要があると考え、より高付加価値の仕事を受注するため、戦略的にスプールバルブ13に特化することにした。

それまでは、国内の一次サプライヤーが主要な取引先であったが、専門メーカーとしてイメージが向上したことによって、国内・海外の大手自動車メーカーへも販路を広げることができた。2000年頃から商社等を介した海外への販売にも挑戦し、現在ではスプールバルブというニッチな市場で国際的なシェアを獲得することに成功している。

このように、同社が海外で販売先を確保し、さらにはニッチな市場で国際的なシェアまで確保するためには、独自の技術力の獲得が必要不可欠であった。その基盤としてあったのは、「人作り経営」という考えである。同社では、創業以来、人材育成を重視しており、現在でも社員一人一人が「何でも自前でやる」という方針の下、技能・技術向上に取り組む土壌があるという。このことが、世界に通用する同社の技術力につながっている。

「現在、高い品質を維持できるのは、国内にしかない技術と技能によることが大きい。今後も海外からの受注を獲得するためには、人材の育成による技術力の向上に絶えず取り組んでいきたい。」と同社の加藤丈典(かとうたけのり)社長は語る。

13 「スプールバルブ」とは、オートマティックトランスミッションの油圧を制御する自動車部品のことをいう。

同社の製品(スプールバルブ)

事例3-4-3. 武生特殊鋼材株式会社

地域の伝統産業との連携により、海外展開を進めている金属素材製造業者

福井県越前市の武生(たけふ)特殊鋼材株式会社(従業員45名、資本金5,000万円)は、包丁等の素材となる、異なる金属を接合した特殊金属(クラッドメタル)の製造を行う企業である。同社の製造する刃物向けクラッド材の国内シェアは6割を超える。

同社が、輸出を開始したのは、50年以上前と非常に古く、最初は同社の製品に関心を持った台湾の企業からの声掛けがきっかけであった。2006年には、クラッド材を用いた高級包丁「旬」シリーズの切れ味やデザインが米国やドイツで受け入れられ、海外への販売が大きく増加した。リーマン・ショックで売上の減少を経験したが、現在では、売上の2割が海外への販売となるに至っている。

同社では、越前市内の刃物メーカーやデザイナー等、15者と連携し、「越前ブランドプロダクツ」という共同体を立ち上げ、積極的に海外展開を進めている。共同体の設立の背景には、「岐阜県関市や大阪府堺市のように知名度は高くないが、評価は高い福井県越前市の伝統産業である越前打刃物を、和食の人気が根強い欧米で浸透させ、産業の復権を図りたい。」という思いがあった。「今までの枠を超えた製品を作っていきたかった。」と同社の河野通亜(こうのみちつぐ)社長は言う。

「越前ブランドプロダクツ」では、同社が提供する金属素材をメンバー企業の職人が分業で加工し、製品を製造している。「iiza(いいざ)」という共通のブランドも生み出している。さらには、2010年には、世界最大級のドイツの消費財見本市「アンビエンテ」に、共同での出展も果たした。

「連携を進めるに当たっては、福井県庁や越前市役所、地元の武生商工会議所からも助けてもらった。今後は、アフターケアにも力を入れるため、研ぎの海外拠点を設けるなども考えている。さらに海外事業を進めていきたい。」と河野社長は語る。

同社の河野通亜社長
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