4. 廃業支援の在り方
●廃業「支援」とは
以上、ここまで廃業の実態と課題を見てきたが、最後に、廃業支援のあり方を検討していくこととしたい。
そもそも、廃業「支援」という言葉には、経営基盤の弱い企業の退出を求めるような印象を受けるかもしれない。いうまでもなく、企業の経営者が引退するのに際しては、その事業については次の経営者に承継がされることが望ましい。しかしながら、企業の中には事業承継することを検討することなく、自らの代で事業を終了することを決断する者がかなりの数存在することを考えた場合(第3-3-2図、第3-3-3図参照)、廃業を決断した者に対して、何らかの支援を考えていかなければならない。
ここでいう廃業「支援」とは、企業に積極的に廃業することを促すものではなく、廃業を決断した経営者が、債務超過に追い込まれて倒産することがないよう、ある程度経営余力のあるうちに、計画的に事業を終了することを支援する取組をいう。
基本的な支援策として、〔1〕廃業に関する情報提供、〔2〕匿名性に十分に配慮した専門家支援、〔3〕小規模企業共済制度、の三つを提言して本節のまとめとしたい。
●廃業に関する情報提供
第3-3-35図によれば、廃業に際して「誰にも相談しなかった」という経営者が約3割、誰かに相談したという者も、相手は「家族・親族」という者が全体の約5割であった。廃業に際しては、取引先との関係の整理や事業用資産の処分、事業終了までの資金繰り等、様々な面で専門家の支援やサポートが必要と考えられる。しかしながら、第3-3-35図を見る限り、現状において廃業を決断した経営者は、満足なサポートや情報提供を受けることができていないと推察される。そしてそのことが、第3-3-30図が示すとおり、廃業の可能性を感じても、何らかの対策をとることがなかった者が半分を占めるという結果にもつながっていると考えられる
したがって、まずは、中小企業・小規模事業者に対して廃業に関する基本的な情報を提供していくことが必要であると考えられる。廃業を決断したとき、いつまでに何を準備すべきなのか、誰に何を相談し伝達すべきなのか、経営者保証に関するガイドラインで何がどう変わったのか、廃業後の生活をどう設計すれば良いのかなど、事業を終了するに際して検討しておくべきことについて、経営者が日常的に接点を持っている中小企業支援機関が積極的に情報を提供し、経営者の廃業に関する基本的な情報に対する理解を深めていくべきであろう。この点、事業承継と同様に、商工会・商工会議所、よろず支援拠点や都道府県等中小企業支援センターが、基本的な情報提供を行っていくことが望ましい。
●匿名性に配慮した専門家支援
既に述べたとおり、廃業に際しては様々な専門的知見が必要となる。その一方で、経営者にとっては、廃業についてはよほど親密な間柄の人間でなければ、気軽に相談できるものではないという思いもあるだろう。家族や従業員との関係や地域コミュニティとの関係等を考えると、廃業の相談は極めて秘匿性が高く、経営者が慎重にも慎重を重ねる心情は十分に理解できる。また、第3-3-35図によれば、「公認会計士・税理士」に相談している者もいるが、小規模事業者のような規模の小さな会社では、日頃から経営相談できる公認会計士や税理士はいないという者も多い。
こうした状況の中で、経営者の匿名性を十分に保ちつつ、専門的なアドバイスを受けられるようにするためには、中立的な行政が主体となって、税理士や弁護士等の専門家の電話相談窓口のようなものを設置することが、一つの対応策といえよう。匿名性が十分守られた上での電話相談であれば、経営者としても比較的相談をしやすいと考えられる。
●小規模企業共済制度
本節でも見てきたとおり、引退を決断した経営者の大きな不安の一つが、「経営者個人の失業」であった。今後高齢で引退し、引退後は職には就かないという経営者が増加していく中で、引退した経営者の安心できる生活基盤の確保は、重要な課題である。
引退後の生活を支える制度として「小規模企業共済制度」を紹介したい。この共済制度は「経営者の退職金制度」とも呼ばれており、小規模企業の経営者を対象に、その老後や事業停止時に備えて、毎月の積立を行う制度である(第3-3-39図)。
具体的には、経営者は、毎月所定の掛金(1,000円〜7万円)を納めることで、年齢に関係なく、事業を廃止した時に共済金を受け取ることができる。そのため、疾病や怪我で事業を継続できない場合の生活資金や、新たな事業にチャレンジするための資金としても活用されている。なお、15年以上加入して65歳になった場合、事業を廃止しなくても共済金を受け取ることもできる20(第3-3-40図)。また、掛金の全額が所得控除の対象となり、事業廃止時に受け取る共済金が退職所得扱いで受け取ることができるなど、税務上のメリットも存在する。さらに、倒産した場合にも、共済金の受給債権は差押禁止債権として保護されることも付記しておきたい。
20 小規模企業共済の加入者は、特定の「共済事由」に該当した時に、共済金を請求することができる。共済金を同じ金額だけ積み立てていても、該当する共済事由により、受け取ることができる金額は異なる。共済事由には、高額の共済金を受け取ることができる順番に、「A共済事由」「B共済事由」「準共済事由」「解約事由」がある。各共済事由の詳細な説明は第3-3-40図に掲載されているが、「A共済事由」は事業の廃止や会社の解散、「B共済事由」は加入者の高齢化、「準共済事由」は法人成りや事業譲渡の場面で経営者の立場から離れた場合、「解約事由」は加入者もしくは(独)中小企業基盤整備機構が任意で共済契約を解除した場合となる。
2010年度には、経営者本人のみならず、後継者たる共同経営者にも加入資格が付与されるなど、事業承継を意識した制度改正も行われたが、中小企業・小規模事業者の減少もあって、近年の加入者は、122万人前後で推移している(第3-3-41図)。
高齢の経営者のみならず、その後継者やこれから起業・創業をしようとする者にとっても、経営を退いた後の収入・生活を支える重要なセーフティネットとして、今後より一層の活用が期待される。
コラム3-3-3.
廃業支援の取組
経営者の高齢化が進み、事業継続を断念する企業の増加が予想される中、岐阜県大垣市にある大垣共立銀行(金融機関コード:0152)は、2010年から事業整理支援ローン(愛称:カーテンコール)の取り扱いを開始した。カーテンコールは、先行き不透明な経営環境下で今後の事業展望が描きづらく、業績不振からの脱却が困難であると判断をせざるを得ない企業や、後継者不在等で事業承継対策ができない企業に対し、廃業に至るまでの事業資金を融資するものである。ただし、極端な債務超過の状況にはなく、収支バランスが取れている企業であることが条件となる。
カーテンコールを開始した当時は経済状況が悪く、債務超過となり倒産する前の事前支援としてカーテンコールは始まり、現在、4件の利用実績があるものの、廃業は経営者にとって重い決断であり、廃業後の生活の見通しや取引先との関係の整理がつかない限り、踏み切ることはできない。そもそも銀行には企業には出来る限り存続して欲しいという思いもある中で、銀行側から経営者に対して、廃業を前提としたカーテンコールの利用を持ちかけることは心情的に難しい部分がある。
しかしながら、カーテンコールは地域に暮らす住民、企業の方の活性化につながればという思いで始めた取組であり、確実に支援ニーズはあると考えている。大垣共立銀行としては、今後も、地域の企業とのつながりが強い地域金融機関として、ローン以外のオーダーメイド支援を行うことも視野にいれながら取り組んでいきたいと考えている。