3. 廃業後の生活
引退後の選択肢を検討している経営者にとって、廃業時に直面する課題もさることながら、廃業後の生活がどのようなものになるのかも関心のあるところであろう。ここからは、実際に事業を自ら終了した経営者が、その後どのような人生を送っているのかを見ていくこととする。
●廃業後の生活
廃業後、経営者はどのような生活を送っているのだろうか。
まずは、廃業後の経営者の就業状況から見ていこう。第3-3-37図によれば、廃業した企業経営者の2割弱は「再就職」や「再起業」をしているものの、6割超の者は「働く予定はない」と回答している。今回の回答者に占める高齢者の割合が高いこともあるが、自主的に事業を終了した会社の経営者については、その後の就労意欲はそれほど高くはないということがうかがわれる。
また、廃業後の生活の変化について聞いたところ、第3-3-38図によれば、「時間のゆとりができた」、「不安やストレスが減った」については、「とても当てはまる」、「当てはまる」と回答している者が多数を占めている。緊張感の高い経営者としての立場を退いたことで、解放感を感じている経営者が多いことがうかがわれる。その一方で、「生活が苦しくなった」、「生活に張りがなくなった」については、「どちらでもない」を除くと、「とても当てはまる」、「当てはまる」と回答した者と、「あまり当てはまらない」、「当てはまらない」と回答した者がほぼ拮抗している。このことは、廃業を決断した経営者の大半が「働く予定はない」と考えていることの影響もあると考えられる。また、廃業した経営者の社会的信用は低下すると一般的には考えられているが、廃業後、社会的信用が低下したと感じているかという質問に対しては、「とても当てはまる」、「当てはまる」回答した者は約1割にとどまり、「社会的信用が低下した」と感じている者は少ないという結果となった。
コラム3-3-2.
経営者保証に関するガイドライン
中小企業・小規模事業者の経営者による個人保証は、企業の経営実態に対応して以下のような機能を発揮し、資金調達の円滑化、調達コストの低減等に寄与する面がある一方で、以下のような弊害も存在した(コラム3-3-2〔1〕図、コラム3-3-2〔2〕図参照)。
個人保証が果たしてきた機能と弊害
〔個人保証の機能〕
〔1〕経営者の規律付けによるガバナンス強化
〔2〕企業の信用力の補完
〔3〕情報不足等に伴う債権保全
〔個人保証の弊害〕
〔1〕経営者保証への依存が、借り手の情報開示、貸し手の目利き機能等の発揮を阻害
〔2〕経営者保証の融資慣行化が、貸し手側の説明不足、過大な保証債務負担の要求とともに、借り手、貸し手間の信頼関係構築の意欲を阻害
〔3〕経営者の原則交代、不明確な履行基準、保証債務の残存等の保証履行時の課題が、中小企業の創業、成長・発展、早期の再生着手、円滑な事業承継等、事業取組の意欲を阻害
こうした状況を踏まえ、2013年1月、中小企業庁と金融庁が共同で有識者との意見交換の場として「中小企業における個人保証等の在り方研究会」を設置し、中小企業における経営者保証等の課題全般を、契約時の課題と履行時の課題の両局面において整理するとともに、当該課題の解決策の方向性を具体化したガイドラインの策定が適当である旨の「中小企業における個人保証等の在り方研究会報告書」を同年5月2日に公表した。
また、日本再興戦略(同年6月14日閣議決定)においても、「経営者本人による保証について、法人の事業資産と経営者個人の資産が明確に分離されている場合等、一定の条件を満たす場合には、保証を求めないことや、履行時において一定の資産が残るなど早期事業再生着手のインセンティブを与えること等のガイドラインを、本年のできるだけ早期に策定する」と、ガイドラインの策定を通じた個人保証制度の見直しが位置付けられた。これらを踏まえ、同年8月、日本商工会議所と一般社団法人全国銀行協会を事務局とする「経営者保証に関するガイドライン研究会」が設置された。中小企業団体及び金融機関団体の関係者、学識経験者、専門家等が参加する当該研究会において、中小企業団体及び金融機関団体共通の自主的なルールとして「経営者保証に関するガイドライン」が、同年12月5日に策定・公表され、2014年2月1日から適用が開始された。
このガイドラインは、経営者保証の弊害を解消し、経営者による思い切った事業展開や、早期事業再生等を応援するため、以下のようなことが定められている。(なお、〔2〕及び〔3〕については、第三者保証人についても、経営者本人と同様の扱いとなっている。)
「経営者保証に関するガイドライン」のポイント
〔1〕法人と個人が明確に分離されている場合等に、経営者の個人保証を求めないこと
〔2〕多額の個人保証を行っていても、早期に事業再生や廃業を決断した際に一定の生活費等(従来の自由財産99万円に加え、年齢等に応じて約100〜360万円)を残すことや、「華美ではない」自宅に住み続けられることなどを検討すること
〔3〕保証債務の履行時に返済しきれない債務残額は原則として免除すること
本ガイドラインの利用促進を図るため、経済産業省では、(独)中小企業基盤整備機構・地域本部、商工会・商工会議所、認定支援機関が経営者保証に関する問い合わせ・窓口相談に、随時応じる体制を整備するとともに、ガイドラインの利用を希望する者に対し、経営者保証によらない融資促進のための体制整備や、保証債務の整理に向けた支援のため、(独)中小企業基盤整備機構が無料で専門家を派遣する制度を創設している。また、金融庁においても、融資慣行として浸透・定着を図る観点から監督指針及び金融検査マニュアル等の改正を行うとともに、金融機関に対して営業現場の第一線までの周知徹底及び所要の態勢整備を求めている。