第3部 中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来 

2. 廃業の実態

次に、「中小企業者・小規模企業者の廃業に関するアンケート調査」に基づき、廃業の実態を見ていく。

まず、廃業した企業の組織形態を見てみると、第3-3-23図によれば、個人事業者が約9割を占める結果となった。また、第3-3-24図で廃業者の年齢構成を見てみると、60歳代以上が約9割を占める。自営業主の高齢化が進んでいることは、本章の冒頭で見たところであるが、廃業を決断した者の多くは、こうした高齢の自営業主であることが分かる。

第3-3-23図 廃業した組織形態
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第3-3-24図 廃業者の年齢構成
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また、廃業した企業の業種内訳を見てみると、第3-3-25図によれば、「小売業」、「建設業」で約5割を占めており、製造業がそれに次ぐ形となっている。

第3-3-25図 廃業した企業の業種内訳
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また、回答企業の廃業時の資産と負債の状況を確認したところ、第3-3-26図のとおり、資産超過、若しくは資産と負債が均衡している者が約8割を占めた。また、廃業時点の経営状況についても、第3-3-27図のとおり、経常黒字の企業が5割弱、経常赤字が1期のみの企業を含めると6割超に達することから、廃業した企業の多くが、経営余力がある中で廃業を決断していることが分かる。この背景には、経営者の高齢化や事業の将来性が見通せない中で、経営余力があるうちに事業を閉じておこうという経営者の判断が感じられる。ただし、「廃業」というアンケートの特性上、比較的経営余力がある中で廃業した企業が多く回答している可能性があることにも留意が必要であろう。

第3-3-26図 廃業時の資産と負債の状況
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第3-3-27図 廃業時の経営状況
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●廃業を決断するまで

それでは、廃業の実態を具体的に見ていく。最初に、経営者がどのタイミングで廃業を意識し、決断したのか、また、その過程で何らかの取組を行ったのかを見ていくこととしたい。

第3-3-28図は、廃業した経営者に対して、廃業の可能性を感じ始めた時期と廃業を決断した時期を、選択式で聞いた結果である。これによれば、廃業する直前(3か月以内)に廃業の可能性を感じ、廃業することを決断した者17を除けば、「期間をおいて廃業決断」が占める割合が総じて5割を超えている。とりわけ廃業の可能性を感じ始めた時期が廃業の「1年より前〜3年前」、「3年より前」の者については、約7割の者が、廃業の可能性を感じてから期間をおいて決断している。また、「6か月より前〜1年前」に廃業の可能性を感じた者の約3割、「1年より前〜3年前」に廃業の可能性を感じた者の4割が、「3年より前」に廃業の可能性を感じた者の約4割18が、廃業を決断するまでに少なくとも数か月の時間をおいていることがわかる。

17 n=89となる。

18 「6か月より前〜1年前」に廃業の可能性を感じた者は「3か月以内」に廃業を決断した者、「1年より前〜3年前」に廃業の可能性を感じた者は「3か月以内」、「3か月より前〜6か月前」に廃業を決断した者、「3年より前」に廃業の可能性を感じた者は「3か月以内」、「3か月より前〜6か月前」、「6か月より前〜1年前」に廃業を決断した者の割合を合計した。

第3-3-28図 廃業の可能性を感じ始めた時期と廃業を決断した時期
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次に、経営者が何をきっかけに廃業の可能性を感じたのかを見てみる。第3-3-29図によれば、廃業の可能性を感じたきっかけとしては、「経営者の高齢化、健康(体力・気力)の問題」、「売上の減少」が挙げられている。つまり、経営者自身の高齢化や健康問題と事業の不振とが、廃業の可能性を感じたきっかけとなっていたことが分かる。

第3-3-29図 廃業の可能性を感じたきっかけ
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こうしたきっかけで廃業の可能性を感じた後、経営者が廃業を意識してから決断するまでには、第3-3-28図で見たとおり、一定の期間を置く者が多いが、それでは、この間に経営者は何らかの取組を行ったのだろうか。第3-3-30図で、廃業の可能性を感じてから行った取組を見てみると、「特に対策は行わなかった」とする者が約4割を占めており、大半の者が、廃業を意識した後も特段の取組を行わないまま廃業の決断に至っている現実が浮き彫りとなった。他方で、何らかの取組を行った者に目を向けると、「取引先への説明」や「事業の縮小・転換」等、廃業に向けた、地ならし的な取組が行われていることが分かる。

第3-3-30図 廃業の可能性を感じてから行った取組
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●廃業を決断した理由、心配したこと、課題

続いて、経営者が廃業を決断した理由、廃業時に心配したこと及び課題を見ていくこととする。

まずは、第3-3-31図で経営者が廃業を決断した理由を見てみると、「経営者の高齢化、健康(体力・気力)の問題」を挙げる者が多く、「事業の先行きに対する不安」がそれに続いている。「経営者の高齢化、健康(体力・気力)の問題」は約5割に達しており、多くの経営者が、経営者本人の年齢や健康問題を理由として、廃業を決断していることが分かる。

第3-3-31図 廃業を決断した理由
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次に、廃業を決断した経営者が、どのような不安を抱え、課題に直面したのかを見ていくこととしたい。

まずは、廃業を決断するときに心配したことを見てみる。第3-3-32図によれば、廃業を決断した経営者が最も心配したことは「顧客や販売・受注先への影響」となっており、「家族への影響」や「経営者個人の失業」と続いている。その一方で、出資者、金融機関、債権者、連帯保証人等のステークホルダーへの影響を心配する者は少ない。本アンケートの回答者の大半を占める個人事業者にとって、取引先や家族等の身近な者への影響が、廃業に際して大きな不安の源となっていることが分かる。

第3-3-32図 廃業を決断するときに心配したこと(複数回答)
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次に、廃業時に直面した課題について見てみる。第3-3-33図を見ると、廃業を決断する時に心配したことと同様に、「取引先との関係の清算」が課題だったとした者が多く、「事業資産の売却」、「従業員の雇用先の確保」と続いている。その一方で、「個人保証の問題」や「連帯保証の問題」と回答した者の割合は低いという結果となった19

19 冒頭に述べたとおり、今回のアンケート調査は、比較的経営余力がある中で廃業をした企業が多く回答している可能性がある点には留意する必要がある。

第3-3-33図 廃業時に直面した課題(複数回答)
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●廃業を回避する可能性

ところで、そもそも廃業を回避することはできなかったのだろうか。経営者が自身の廃業を振り返ったとき、廃業を回避できる可能性があった取組を聞いたものが第3-3-34図である。これによると、「どのような取組をしても、廃業は避けられなかった」と回答した者が約4割に達した。このことは、経営者が高齢化していることの影響もあると考えられるが、廃業を選択した企業の経営環境の厳しさもうかがえる。他方で、何らかの取組をすれば廃業を回避できたと考えている経営者も一定数存在している。具体的には、「早期の事業承継への取組」、「新事業への取組」、「販路拡大への取組」を挙げる者が多い。

第3-3-34図 廃業を回避できる可能性のあった取組
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本章第1節の冒頭では、我が国の経営者の事業承継に対する認識や準備状況を概観したところであるが、行政や中小企業支援者は、こうした廃業経験者からの「警鐘」にも耳を傾けつつ、早い時期からの事業承継や販路拡大等の経営支援に取り組むべきであろう。

一方、廃業に際してこうした不安や課題に向き合った経営者は、悩みを誰に相談していたのだろうか。第3-3-35図によれば、「誰にも相談していない」と回答した者が約3割であり、なかなか廃業という問題を相談できる相手がいないというのが実態である。さらに、なぜ相談しなかったのかを聞いたところ、第3-3-36図によれば、「相談しても解決するとは思えなかった」、「相談しなくても何とかできると思った」、「企業のことは誰にも相談しないと決めていた」という回答で7割を超えた。経営者の思い込みや楽観があったとはいえ、中小企業支援者の側も経営者から十分な信頼感を得られていないことを認識すべきであろう。

第3-3-35図 廃業に際しての相談相手
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第3-3-36図 廃業について相談しなかった理由
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その上で、相談相手として挙げられた者を見ていくと、真っ先に挙がるのが「家族・親族」であり、「公認会計士・税理士」と続いている。これは、廃業を決断する際に「家族への影響」が大きな心配の原因になっていることと、廃業時に直面した課題として「事業用資産の売却」、「債務整理」を挙げた者が一定数存在したことに対応しているものと考えられる。廃業に際しては、債権・債務の整理や事業用資産の売却も必要となることから、公認会計士・税理士といった専門家の力が必要であり、事業承継と併せて、今後、こうした専門家の力をいかに活用していくかが、重要になっていくものと考えられる。

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