第3部 中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来 

第3節 廃業

本節では、我が国における廃業の実態と課題を、各種統計やアンケート調査の結果に基づき確認する。その上で、現在の廃業を巡る課題への対応策について検討していくこととしたい。

1. 廃業概観

まず、我が国における廃業の推移を概観する。第3-3-22図は、我が国の自営業主の廃業者数と年齢別構成割合の推移を示したものである15。1982年以降、廃業者数は20万人を超える数で推移しており、今後さらに経営者の高齢化が進む中で、廃業者数が大幅に減少することは想定しづらい。

15 ここでいう「廃業」とは、理由の如何を問わず、自営業主を辞めた者の数を指し、事業承継や倒産により辞めた者を含む。

第3-3-22図 我が国の自営業主の廃業者数と年齢別構成割合の推移
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次に、休廃業・解散企業数16の推移を、倒産件数と併せて、第1部第2節第1-1-25図で改めて確認する。これによると、休廃業・解散企業数は、両社共に長期的に増加傾向にあり、近年は倒産件数の倍以上の水準で推移していることが分かる。

16 (再掲)東京商工リサーチは、休廃業を「資産が負債を上回る資産超過」状態での事業停止、解散を「企業の法人格を消滅させるために必要な清算手続きに移行するための手続」と定義している。帝国データバンクは、休廃業・解散を「企業活動停止が確認できた企業のなかで、倒産(任意整理、法的整理)に分類されない事案」、休廃業を「調査時点で企業活動を停止している状態(将来的な企業活動再開は否定されないが、官公庁等に「廃業届」を提出して企業活動を終えるケースを含む)」、解散を「企業の解散(主に法人登記で確認)」と定義している。

第1-1-25図 (再掲)休廃業・解散、倒産件数の推移
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事例3-3-5. 佐藤電気店(仮名)

廃業を決断した企業の例〔1〕

東京都世田谷区の佐藤電気店(仮名、廃業時の従業員1名)は、地域の家電小売店として約40年営業を行ってきた。しかし、売上の減少や代表者の高齢化を理由に、2008年に廃業した。

同社の代表者は、大手家電メーカーの技術者として勤務した後、独立して事業を始めた。創業当時、近所には家電小売店が7店舗ほどあり、お互いがお互いの商圏を維持しつつ営業していた。

しかし、昨今の大型家電量販店の進出により、価格競争が激化し、顧客は大型店へと流れていった。加えて、年を重ねるごとに、大型家電の運搬に伴う身体への負担も大きくなり、10年ほど前から売上も減少してきたことから、廃業を決断した。同時期には、7店舗あった同業者も次々と閉店しており、大型家電量販店の影響が大きかったと考えられる。

廃業することは、家族に相談して決断した。金融機関からの借入等もなかったため、個人資産を売却する必要はなかった。これは、代表者が過去大手家電メーカーに勤めていた時に蓄えていた資金を事業に利用していたためである。取引先についても、「廃業について事前に連絡をすることで、支障なく廃業することができた。」と代表は語る。

「廃業後の生活についても、年金を受給しており、生活には特段困っていない。高齢のため、現在は就業していないが、できれば仕事をしたいという気持ちもあり、居住しているマンション管理をボランティアで行っている。現在は、ゆとりを持った生活を送れている。」と代表者は語る。

事例3-3-6. 田中酒店(仮名)

廃業を決断した企業の例〔2〕

東京都小平市の田中酒店(仮名、廃業時の従業員2名)は、地域で50年近く、個人事業者として酒屋を営んできたが、売上の減少や経営者の高齢化に伴い、2012年に廃業した。

酒類小売業免許の規制が緩和されたことにより、近年、酒屋の経営環境は厳しさを増している。近隣の大手スーパーが酒類小売業免許を取得して酒類の販売を始めたため、競争が激しくなり、顧客が離れて売上が減少した。このような状況でも、同社は近所への配達を行う等の経営努力をして、黒字経営を維持してきた。

そのような中、同社の店舗を賃貸利用したいという申入れがあった。黒字経営を維持していたとはいえ、地域の小売店舗が次々と廃業に追い込まれる厳しい業界環境と、代表者が80歳近い高齢であることを踏まえ、この申出を受けて廃業することを検討した。その結果、売上が減少する中で事業を長期的に続けることは難しいと考えたこと、また、息子はいたものの事業を継ぐことには消極的であったことから、最終的には、家族と相談して廃業することを決断した。

廃業に際して、取引先については、幸いにも身内で酒屋を営んでいる者がいたため引き継ぐことができた。また、廃業に際しては将来の生活に不安を覚えたが、年金に加えて店舗の賃貸収入を得られるため、生活には困っていない。現在は80歳と高齢であるため、就業する予定もない。代表者は、「廃業により、時間的なゆとりを得て、気持ちも楽になった。」と述べている。

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