第3部 中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来 

3. 円滑な事業承継に向けて

●第三者への事業承継時の課題

以上、ここまでは、引退を決断した経営者の第一の選択肢である、「事業承継」について見てきた。経営者の高齢化が進展している我が国において、事業承継は個々の企業のみならず、それまで経営者が脈々と培ってきた技術やノウハウ、知的財産、経営資源を逸失せずに継承していくという観点から、社会全体にとっても喫緊の課題である。しかしながら、企業経営者がそうした問題意識を持ち、事業承継に向けて計画的な取組を進めているとは言い難いのが現状である。

一方で、少子化が進む中で、事業承継の件数全体に占める親族外の第三者承継の割合が高まってきていることを確認したが、親族外の第三者承継は、後継者の確保・育成や経営資産の移転等の面で、親族への承継とは違った難しさがある。第3-3-19図は、中小企業白書(2013年版)で、親族外の第三者に事業を引き継ぐ場合に直面する課題を分析した結果である。これによれば、親族外の第三者に事業を引き継ぐ場合には、「借入金の個人保証の引継ぎが困難」、「後継者による自社株式の買取が困難」、「後継者による事業用資産の買取が困難」といった、財産の承継に関係した課題に直面している者が多い8

8 中小企業白書(2013年版)では、親族に事業を引き継ぐ際の課題についても分析しているが、それによれば、「経営者としての資質・能力の不足」を挙げる者が最も多く(中規模企業60.7%、小規模事業者58.5%)、「相続税・贈与税の負担」(中規模企業41.2%、小規模事業者29.8%)「経営における公私混同」(中規模企業23.7%、小規模事業者25.5%)と続いている。親族外の第三者に事業を引き継ぐ場合同様に財産面での課題を挙げる者も多いが、親族内承継の場合、後継者の資質が大きな課題になっていることがうかがえる(中小企業白書(2013年版)p145を参照)。
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H25/PDF/0DHakusyo_part2_chap1_web.pdf

第3-3-19図 第三者承継時の課題
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ここからは、親族以外への事業承継、すなわち、第三者承継に光を当てて、その円滑な実施に向けた支援の在り方について整理していく。そして、最後に事業承継全般について、早期の意識付けの必要性について述べるとともに、あるべき支援体制の在り方について提言し、本節のまとめとしたい。

●第三者承継(外部招へい)の支援

第3-3-10図で見たとおり、我が国の事業承継で多いのは、依然として親族内承継であり、次に、内部昇格、外部招へい、買収と続く。

その一方で、我が国企業の約87%が小規模事業者であり、うち約81%が従業員5名以下の規模であること及び少子化の進展を踏まえると、親族や企業内部の人材で後継者を確保できない企業が、これまで以上に増えていくと予想される。今後、経営者の高齢化の時代に備え、事業承継の選択肢の多様化とその充実化を図っていくことが求められる。具体的には、外部招へいや事業売却も視野に入れていく必要がある。

外部招へいによる第三者への承継については、事例3-3-2のケースのように、社員ではないが取引関係を通じた付き合いがあり、気心の知れた者を後継者とするのが自然だが、全ての企業がこのような縁に恵まれる訳ではない。こうした企業のため、後継者ニーズがあるものの親族や企業内部の人材で後継者を確保できない企業と、高い事業意欲のある人材を、マッチングさせていく取組が一つの政策的出口として見えてくる。

こうしたマッチングのためには、(1)高い事業意欲のある人材(後継者候補)の確保、(2)企業と後継者候補を丁寧にマッチングさせていく取組、(3)長期的なケアやフォローアップ、の3点が必要となると考えられる(第3-3-20図)。以下、一つ一つ検証していく。

第3-3-20図 第三者承継

事業意欲のある人材については、我が国には、起業したいという意思を持った人材が一定程度いることは、第3部第2章の起業・創業のところで見てきたとおりである。こうした意欲のある者と、後継者を欲している企業をつないでいくことが、一つの方向性として考えられる。現在、国としても地域の起業を芽吹かせ、育んでいくべく「創業スクール」等の取組を行っていることは第3部第2章で既に述べた9。「創業スクール」で起業を目指す者は、ゼロから新しい業を起こす起業もあるだろうが、誰かの事業を引き継ぐという形の起業もあり得る。これは、その事業の経営者及び起業家の双方にメリットがある。具体的には、経営者は後継者を確保でき、起業家は、その経営者の経営資産やノウハウを引き継ぐことができる。

次に、そうした事業意欲ある起業家と、後継者ニーズのある企業を「つなぐ」ことが必要となる。しかしながら、経営者が後継者を誰にするかを決めることは、非常に重い決断である。その候補者を外部から招へいするとなればなおのこと、後継者候補の経営意欲や能力の見極め、互いの相性の確認や信頼関係の醸成等を、より慎重に行いたいと思うであろう。また、事業を引き継ごうとする起業家も、企業の背負っている負債や経営環境等をまずは把握したいと考えるのが自然であろう。中小企業白書(2013年版)では、静岡県事業引継ぎ支援センターの「創業・事業引継プロジェクト」を紹介したが10、このプロジェクトでも、後継者候補の選定には半年程度の時間を掛けている。今後、事業引継ぎ支援センターや、後継者不足に悩む地域の商工会・商工会議所には、このような企業と後継者候補のニーズや考えを踏まえた上で、相互の理解と見極めが十分に行われるような丁寧なマッチングを行っていくことが期待される。

最後に、後継者に対しては長期的なケアやフォローアップが必要であると考えられる。外部から招へいされた後継者が、招へい後すぐに事業を承継することもあるだろう。しかしながら、第3-3-9図で見たとおり、後継者の育成には3年超掛かると見込んでいる経営者が約9割を占めている。また、第3-3-16図によれば、外部から招へいした後継者には自社での就労経験を求めたいとしている者のうち、7割以上が3年以上の経験を求めたいと回答しており、中小企業においては、第3-3-20図で示したところの〔2〕のルート(外部から招へい後数年間の社内勤務を経て、事実上の「内部昇格」として事業を承継する)の方が、外部招へいの中心と考えられる。つまり、マッチングの成立は事業承継のゴールではなくスタートであることから、商工会・商工会議所等がマッチング後も経営者から様々なノウハウを学ぶ後継者に伴走して経営指導を行い、長期的ケアやフォローアップを行っていくことが必要であろう。

9 第3部第2章「起業のパターン、起業の形態」を参照。

10 中小企業白書(2013年版)p138を参照。
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H25/PDF/0DHakusyo_part2_chap1_web.pdf

事例3-3-4. 郡上市商工会

事業承継支援に取り組んでいる商工会

岐阜県郡上市にある郡上市商工会は、商工会会員の急速な高齢化に伴う事業承継の状況を憂い、事業承継支援にいち早く取り組み始めた商工会である。

2012年度に実施した全会員への訪問ヒアリングを通じて、後継者の不安を抱える中小企業・小規模事業者が全会員の2/3を占め、うち半数近くが廃業もやむを得ないと判断していることが分かり、郡上市内の中小企業・小規模事業者の抱える課題の中で将来的にも対応が必要となるものが事業承継であった。

後継者問題のない中小企業・小規模事業者には、通常の経営指導を行っていくが、「問題あり(廃業又は未定)」と回答した企業等には、単に事業を継続させるような支援では将来立ちゆかなくなると判断して、新たな支援スキームを整える必要があると考えた。

まずは、「小さな企業の明日創造委員会」というものを立ち上げた。これは、地域内の小規模事業者の再編を狙いとしたもので、同業種・異業種間での事業統合(M&A)や中小企業・小規模事業者を集合させた作業団地を構成するとともに、新たな経営者候補を募集して経営面へのサポートを行うなど、従来の事業承継に関する支援とは異なる特徴を持たせている。これは、2013年度にモデル事業として着手し、事業スキームの検討がなされたところであり、翌2014年度に実証段階に入る予定である。

また、事業承継の候補者となる人材の育成や地域の活性化を促進するために、「創業塾」を開催している。そこでは、毎年30名程度が入塾し、郡上市内での創業を目指して研鑽を積んでいる。また、創業者(創業塾受講者)に対しては、インキュベーションルームの貸出や空き店舗対策と連動した店舗紹介を郡上市とタイアップして行っており、立地費用補助の制度とあわせた、ハード・ソフト両面からの支援がなされており、塾の卒業生の2割が創業に至るなど着実に実績をあげている。

今後は、この二つの取組を有機的に連動させる方向である。なお、同商工会では、事業承継の支援にあたって、どの事業を地域に残していくのかを見極める眼力(目利き力)と、事業性を高めながら地域の担い手につなげていく力が重要との認識から、商工会の機能のスリム化とリソースの集中を図り、経営指導員の資質強化による支援体制強化に努めている。例えば、事業承継マニュアルの整備や研修制度の充実等を行っている。

以上のような取組の結果、会員企業からの事業承継関連の相談件数は増加傾向にあり、事業承継の問題を解決した中小企業・小規模事業者も出てきている。

創業塾における活動の様子

●第三者の後継者への財産移転

中小企業白書(2013年版)でも示したとおり、第3-3-19図では、親族以外の第三者への事業承継を行う際の課題として、「後継者による自社株式の買取が困難」、「後継者による事業用資産の買取が困難」等、後継者に資力がないために、そもそも株式を主とする事業用資産を買い取らせることができない、という問題が挙げられていた。

この点については、2013年度税制改正により事業承継税制が拡充され、大幅な制度改善が講じられた。具体的には、親族外への承継も納税猶予の対象となったことで、資力のない後継者にも「贈与」という形で株式を円滑に移転することが可能となっているが、引き続き、事業承継の現場で起きている課題等を的確に把握し、必要に応じて、後継者へのスムーズな事業用資産の移転に係る支援を検討していくことが求められる。

コラム3-3-1.

事業承継税制の拡充(2015年1月から本格施行)

親族に事業を引き継ぐ際の課題としては、相続税・贈与税の負担の問題がある。この事業承継におけるボトルネックを解消し、スムーズな事業承継を実現するために、相続税・贈与税の納税を猶予する特例制度が、2009年度に創設された。

制度創設時には、納税猶予の適用を受けることができる後継者は、「現経営者の親族」に限られていた。また、猶予を受け続けるためには「雇用の8割以上を5年間毎年維持する」等の要件が課せられていたが、2013年度税制改正において、各種要件が緩和される等の制度の拡充が図られた。主要な変更点はコラム3-3-1図のとおりであるが、「親族外承継」も対象となるなど、これまで見てきた事業承継の課題に対応した改正が行われており、制度の使い勝手は改善されたと評価できる。

コラム3-3-1図 事業承継税制の拡充のポイント

●早期の事業承継の意識付け

円滑な事業承継の大前提となるのは、早い段階からの計画的取組である。しかしながら、本節の冒頭で見たとおり11、いまだに経営者の意識や具体的な準備状況は十分とはいえない。事業承継税制の拡充や事業引継ぎ支援センターの設置等、事業承継の支援施策や支援機関は徐々に整備されてきているものの、経営者の意識が高まらなければ、活用事例が増えていくことは期待できない。また、早い段階から準備に着手しなければ、社外の後継者を確保して長期的に育成していくことも、難しくなるだろう。

本章の冒頭で見たとおり、我が国の自営業主は70歳以上の者が全体に占める割合が過去と比較しても最も高くなっており、また、我が国の企業の大半が小規模事業者である。こうした規模の小さな会社にも、事業承継に関する基本的な情報(事業承継税制の制度概要や事業引継ぎ支援センターに関する情報等)をきめ細かく提供し、その重要性を認識してもらった上で、早い段階からの準備に着手してもらうように促していくことが求められる。

今回、小規模企業振興基本法案では、小規模企業の振興に関する基本的施策として、「事業承継」も位置付けられた12。支援施策の担い手であり、かつ、全国市町村における中小企業・小規模事業者支援の中核たる商工会・商工会議所は、事業承継に関する情報提供や、事業引継ぎ支援センター等の専門機関との「つなぎ」の役割を果たす者として、また、事業承継の早期準備の必要性を説き続ける存在として、さらには地域の若手後継者を育成する機関として、期待は大きい。

11 第3-3-7図第3-3-8図を参照。

12 小規模企業振興基本法案
(小規模企業の創業の促進及び小規模企業者の事業の承継又は廃止の円滑化)
第十六条 (略)
2 国は、小規模企業者の事業の承継又は廃止の円滑化を図るため、事業の承継又は廃止の円滑化に関する情報の提供の促進及び研修の充実、事業の承継のための制度の整備、小規模企業に関して実施する共済制度の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。
3 (略)

●事業承継の支援体制の在り方

これまで見てきたとおり、事業承継に際しては、後継者の確保・育成、事業用資産の後継者への移転等、多岐に渡る課題が存在する。こうした課題を乗り越えて、経営者に早期に計画的取組に着手してもらうためには、日頃から経営者に接して基本的な情報を提供するとともに、早期の準備の必要性を説き続ける者、後継者の確保や事業売却の際のマッチングを行う者、後継者への資産移転を支援する者等、複数の異なる支援者が協力し、一体となって支援していくことが必要である。

例えば、前述のとおり、事業承継に関する基本的な情報提供や早期準備の必要性を説くのは、日頃から、中小企業・小規模事業者の経営者と接することの多い商工会・商工会議所、さらには、よろず支援拠点13及び都道府県等中小企業支援センター14が担うことが考えられる。事業承継に関する後継者とのマッチングについては、各地の事業引継ぎ支援センターや後継者不足に悩む地域の商工会・商工会議所が、創業スクール等、高い事業意欲ある者が集まる場や機会とも連携しながら人材を確保し、後継者を必要とする企業につないでいくことが期待されよう。事業売却についても、商工会・商工会議所、よろず支援拠点、都道府県等中小企業支援センターは、各地の事業引継ぎ支援センターや民間のM&A支援機関等に、案件を「つなぐ」ことを支援してもらいたい。また、商工会・商工会議所には、日々の経営指導の活動の中で、後継者に伴走して長期的なケアやフォローアップを行い、実践の場で育てていくことも期待される。

さらに、後継者への財産移転等の高度、専門的な支援が必要となる場面では、企業を、税理士や弁護士等の専門家にしっかりとつなぐことを、商工会・商工会議所、よろず支援拠点、都道府県等中小企業支援センターには行ってもらいたい。

多くの中小企業・小規模事業者が円滑に事業承継を実現していくためには、草の根的な啓蒙活動から、マッチング、マッチング後のケアやフォローアップ、専門家による高度な支援に至るまで、従来の垣根を越えた連携を強化していくことが不可欠である。経営者が早期に計画的取組に着手することの重要性と併せて、最後にこの点を強調することで、本節の結びとしたい。

13 よろず支援拠点については、第4部第1章を参照。

14 各都道府県ごとに設置されている。適切な事業診断から専門家派遣まで、都道府県が行う中小企業支援事業の実施体制の中心として機能している。

第3-3-21図 事業承継の支援体制(イメージ)
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