第3部 中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来 

2. 第三者承継

次に、第三者承継に対する経営者の意識や課題を、アンケート調査の結果に基づいて見ていくこととしたい。

●第三者への事業承継の検討状況

第3-3-13図は、第3-3-2図で「事業を何らかの形で他者に引継ぎたい」と考えている企業における後継者の決定状況を示したものである。これを見ると、中規模企業、小規模事業者ともに、8割以上の者が後継者を決めているか、候補者はいることが分かる。

第3-3-13図 後継者の決定状況
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第3-3-14図は、第3-3-13図で、「(後継者は)決まっていないが候補者はいる」及び「候補者もいない」と回答した者に対して、社外の第三者への事業承継(外部招へい)の検討状況を聞いた結果である。これによれば、「社外の第三者への事業承継を検討している」と回答した者が、中規模企業は約4割、小規模事業者は約5割おり、親族外のみならず、社外にまで後継者を求めようとする中小企業の姿が浮かび上がってくる。

第3-3-14図 社外の第三者への事業承継を検討するか
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それでは、社外の第三者への事業承継を検討している者は、そうした後継者候補にどのような素養や能力を期待しているのだろうか。第3-3-15図は、社外の第三者の後継者に求める条件を示したものである。これによると、「経営に対する意欲が高いこと」を挙げる者が最も多いが、「自社の事業・業界に精通していること」、「自社における職務経験」を挙げる者も多い。すなわち、社外の第三者には、自社事業の即戦力となり得る能力が期待されていることが分かる。

第3-3-15図 後継者として社外の第三者人材に求める条件
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他方で、「自社における職務経験」と回答した経営者に対し、自社でどの程度の経験を積む必要があるのかを聞いたところ、第3-3-16図によれば、約7割の者が、3年超の就労経験を求めていることが分かった。すなわち、社外の第三者への承継を検討するとしている経営者も、実態としては、「内部昇格」に近い形での事業承継を望んでいる者が多いことが推察される。このことは、第3-3-9図で、後継者の育成には3年以上掛かるとした中小企業が約8割であったこととも整合している。

第3-3-16図 社外の第三者人材に求める自社での就労期間
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事例3-3-2. 株式会社サンオン

社外人材を取り込み成長する企業(外部招へい)

群馬県伊勢崎市にある株式会社サンオン(従業員15名、資本金1,000万円)は、OA機器卓、器具、ゲーム機、事務機器等の板金加工・木材加工、開発から生産、二次加工、その他組立全般までを行う。協力工場を多く抱え、これら工場が有する得意分野を組み合わせたコーディネート役として、製品の金型から成型、板金、加工、めっき塗装等の一連の工程をワンストップで提案できるのが強みとなっている。

同社の現代表の千本木順一(せんぼんぎじゅんいち)社長は、前職であるプラスチック金型成形企業の勤務時代、前代表の大倉國威(おおくらくにたけ)氏(現株式会社サンオン会長)と知り合った。その後、大倉会長が1989年に独立し、同社を設立して以来二十数年、千本木社長は取引先の一つとして同社に関わってきた。

大倉会長が事業承継を検討した際、親族では後継者を見つけることができなかったため、取引先の千本木社長の人柄や仕事での実績を評価し、同社を継ぐことを打診した。大倉会長から申出を受けた千本木社長は、大倉会長から厚意を受けた感謝への思いから、その申出を受入れ、同社の社長に就任した。

社外から社長に就任した経緯から、事業承継当初は、資金面や取引先との信頼関係の面で課題にぶつかることもあったものの、責任感を持って熱心に仕事に取り組むことで、取引先からも徐々に信頼を得て、そうした課題を乗り越えていった。

2010年、千本木社長は工場を移転し、更なる事業の拡大を目指した。前代表の得意分野であった金属加工に加え、千本木社長の分野であるプラスチック加工を組み合わせることで、技術開発にも積極的に取り組んでいる。千本木社長が代表に就任して以降は毎年売上げを伸ばし、社長に就任した年は6,800万円だった売上高が、就任後3年経過した2013年9月期では4億7,400万円の売上高となり、4期連続の増収となっている。

事業承継後に同社を牽引する千本木社長

●事業承継後の取組

事業承継は、事業を次世代に引継ぎ、経営資源を有効活用するという面に加えて、新たな事業の成長に向けた機会(チャンス)とも成り得る。第3-3-4図で、事業承継を検討しながらも断念した理由の1位が「将来の業績低迷が予測され、事業承継に消極的」であったことも踏まえると、事業承継後に明るい展望を描けることは、承継そのものを円滑に進めるためにも重要である。以下では、このような問題意識に基づき、事業承継が行われた後の取組の状況と、そうした取組が企業経営に及ぼす影響について見ていくこととしたい。

第3-3-17図は、事業承継が行われた企業の、承継後の新しい取組の状況を聞いた結果である。これによれば、事業承継後、「新たな販路開拓・取引先拡大」を行った者が中規模企業、小規模事業者共に3割超存在し、その他にも、「新商品開発」や「赤字部門からの撤退等、業態見直し」、「異業種への参入」等の取組を行っている者も一定程度いることが分かる。その一方で、「先代と異なる取組は行っていない」者も、中規模企業では約3割、小規模事業者では約4割存在した。

第3-3-17図 事業承継後の新しい取組
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こうした事業承継後の取組の違いは、その後の企業経営にどう影響してくるのだろうか。第3-3-18図は、事業承継後の新たな取組の実施状況ごとの企業業績の変化である。これによると、事業承継後に何らかの新しい取組を行った企業は、先代と異なる取組を行っていない企業と比べ、業績が「良くなった」と回答した企業の割合が総じて高く、全ての取組について、3割程度の企業が業績が「良くなった」と回答しており、「やや良くなった」まで含めると、約6割に達する。中小企業白書(2013年版)では、経営者の年齢が若いほど「経常利益が増加傾向である」と回答した企業の割合が高く、事業運営方針も「拡大したい」と回答した企業が多いという分析結果を示しているが7、若い経営者の新しい取組への挑戦が、その後の企業業績の改善に寄与していることがうかがわれる。

7 中小企業白書(2013年版)p126を参照。
http://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/H25/PDF/0DHakusyo_part2_chap1_web.pdf

第3-3-18図 事業承継後の取組と事業承継後の業績変化
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第2部で見てきたとおり、今日、中小企業・小規模事業者は大きな経済・社会構造の変化に直面している。これまでの需要構造が大きく変化する中で、これからの後継者には、先代から承継した経営資産やノウハウを十分に活用しつつも、時代に即した新しい取組を行っていく必要性は、これまで以上に高まっていくものと考えられる。また、行政には、単なる円滑な事業承継にとどまらず、事業承継後の中小企業の新しい取組をフォローアップしていく、切れ目のない支援が求められているといえよう。

事例3-3-3. 株式会社佐藤商事

事業承継を契機に新しい取組を始めた例

株式会社佐藤商事(従業員11名、資本金600万円)は、秋田県湯沢市の伝統的工芸品である川連漆器(かわつらしっき)を製造・販売している企業であり、800年の歴史を誇る川連漆器を扱う大手である。川連漆器は、きれいな仕上げを行うための基礎工程である「下地」に重点をおいている。下地は、渋柿から抽出した「柿渋」や何も加えていない漆である「生漆」を直接数回塗り上げる「地塗り」等の複数の工程からなり、これらの行程を経て非常に堅牢な漆器が出来上がる。下地の後には、「花塗り」と呼ばれる仕上げを行い、漆本来の美しい光沢を出すための塗りを行うが、塗りムラが出ないように漆を均等に塗るのが、熟練した職人の腕の見せどころとなっている。

現社長の佐藤慶太(さとうけいた)氏は、大学卒業後、家業の同社を引き継ぐ意思はなく、東京のIT企業で営業マンとして活躍していた。その折、同社のホームページを作成する機会があり、事業を改めて詳しく知り、興味を持つようになった。また、後を継いで欲しいという祖母の思いもあって、家業を継ぐ決意を固め、2年前に社長に就任した。社長就任当時、先代は59歳、佐藤氏は35歳であった。

佐藤社長は、伝統のある漆器を製造・販売するのに際して、伝統を守り、職人が手塗りで漆器を作ることに強いこだわりを持っている。他方で、東京でIT企業に勤務した経験も踏まえ、伝統産業に新しい風を吹き込む努力も行っている。例えば、製品の魅力を伝える際にも、「何層塗りである」ということを強調するだけではなく、お客様への訴求力の高いポイントを作ることも大事であると考え、子供向けの溝を付けたプレートやスプーン、大手玩具メーカーのキャラクターとコラボレーションした商品等を開発した。さらに、地元の稲庭うどんの有名店に当社の漆器を提供し、来客したお客様に実際に川連漆器の良さを体感してもらう取組も行っている。

佐藤社長は、技能を有する職人の高齢化と担い手の減少に危機感を感じている。そのため、職人の育成も非常に重要なテーマの一つと考え、美術工芸を専門とする大学、各種専門学校と連携し、次世代を担う若い職人の育成にも取り組んでいる。

この事例は、事業承継が、伝統産業のような世界にも従来とは異なる視点とアイデアを持ち込み、新しい分野の開拓や新商品開発につながる、いい契機と成り得ることを示している。

現社長の佐藤慶太氏
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