第3章 事業承継・廃業 ―次世代へのバトンタッチ―
第2部において、我が国に起きている経済・社会構造の変化の一つとして、「人口減少・高齢化社会の到来」を取り上げた。社会全体が高齢化している現状を踏まえると、今後、中小企業・小規模事業者の経営者についても高齢化が進展し、引退を決断する経営者の数は増えることこそあれ、当面は減っていくことはないものと予想される。
第3章では、「中小企業者・小規模企業者の経営実態及び事業承継に関するアンケート調査1」や「中小企業者・小規模企業者の廃業に関するアンケート調査2」等に基づき、引退を決断した経営者が取り得る選択肢にはどのようなものがあるのか、包括的に考えていくこととしたい。具体的には、長年かけて営んできた事業を次世代に引き継ぐ「事業承継」と、自身の置かれた状況や経営環境を踏まえて事業の終了を自ら決断する「廃業」について取り上げる。
1 アンケート調査の詳細については、第3部第1章を参照。
2 中小企業庁の委託により、(株)帝国データバンクが、2013年12月に、廃業者9,000者を対象としたアンケート調査。回収率8.2%。
第1節 経営者の高齢化
始めに、我が国の経営者の高齢化の現状を確認する。その上で、そうした高齢の経営者の事業継続の意思や事業承継の検討状況を確認した上で、引退を決断した経営者の取り得る選択肢について、廃業も含めて概観する。
1. 経営者の高齢化と事業承継の意思
第3-3-1図は、年齢別の自営業主の推移を示したものであるが、1982年時点では、30-40歳代の自営業主が分厚く存在していたことが分かる。しかしながら、年を追うごとに高齢の者が占める割合が高まってきており、2012年には、60-64歳が全体に占める割合が最も高い年齢層となっており、70歳以上の年齢層が占める割合は、過去と比較しても最も高くなっていることが分かる3。
こうした中、中小企業・小規模事業者の事業継続の意思を見てみると、第3-3-2図によれば、「事業を何らかの形で他者に引継ぎたい」と考えている者が、中規模企業では約6割存在するが、小規模事業者では約4割にとどまる。その一方で、小規模事業者では、「自分の代で廃業することもやむを得ない」と考えている者が約2割存在している。
しかしながら、第3-3-3図を見てみると、「自分の代で廃業することもやむを得ない」と考えている者のうち、約3割は事業承継を検討した経験を有している。こうした者が、事業承継を検討しながら、なぜ円滑に進まなかったのかを聞いたところ、第3-3-4図によれば、「将来の事業低迷が予測され、事業承継に消極的」と回答した者が最も多く、「後継者を探したが、適当な人が見つからなかった」という回答を上回った。事業承継の課題としては後継者不足が挙げられることが多いが、最終的に廃業やむなしという考えに至った者については、事業の将来に明るい見通しを持てなかったことが事業承継を断念した最大の要因となっていることが分かる。
また、第3-3-4図を見ると、「事業承継に関して誰にも相談しなかった」ことを、事業承継が円滑に進まなかった理由として挙げている者も約1割存在する。こうした者が、なぜ事業承継について誰にも相談しなかったのかを聞いたところ、第3-3-5図によれば、回答者数は少ないものの、「相談しても解決するとは思えなかった」と回答した者が約8割を占めている。事業承継に関しては、近年、官民の様々な機関4がその支援に取り組んでいるが、そうした取組がまだ十分に認識されていないか、認識されていても十分な解決策は示してもらえないと思われている実態が浮かび上がってくる。
このように、事業承継を検討しながらも、様々な要因により断念するに至った経営者に対しては、事業承継を断念した理由をきめ細かく分析していくことで、行政として、どうすれば円滑な事業承継が可能となるか検討していくことが求められる。
しかしながら、残念なことに、第3-3-3図の結果を裏返していえば、廃業もやむを得ないと考えている経営者の約7割が、事業承継を検討することなく「廃業やむなし」という考えに至っているということになる。この結果は、事業承継は引き続き重要な政策課題であるが、同時に、自らの代で事業を終了すること、すなわち「廃業」を考えている経営者に、行政や中小企業支援機関としても正面から向き合うことの必要性も示唆していると考えられる。