第3部 中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来 

第3節 「起業大国」に向けて

これまで、我が国の起業の現状や潜在的な起業家が段階的に成長していく様子を分析してきた。こうした分析に基づき、我が国における起業をより一層活性化させるために、今後どのような取組を行っていけばよいかについて具体的に論じていく。

初めに、第3-2-36図にあるように、起業に関心のある者に対して、我が国の開業率が低い理由として考えられるものを聞いたところ、大きく三つの理由・課題に分類される。まず、一つ目の理由・課題として、「起業家を育成するための教育制度が十分ではない」、「大企業への就職等、安定的な雇用を求める意識が高い」、「起業を職業の選択肢として認識する機会が少ない」といった「起業意識」に関するものである。二つ目の理由・課題として、「起業した場合に、生活が不安定になることに不安を感じる」、「個人保証の問題等、起業に失敗した際のセーフティーネットが整備されていない」、「雇用の流動性が少なく、失敗した時の再就職が難しい」といった「起業後の生活・収入の不安定化」に関するものである。三つ目の理由・課題として、「起業に要する金銭的コストが高い」、「起業にかかる手続きが煩雑」といった「起業に伴うコストや手続き」に関するものである。

第3-2-36図 我が国の開業率が低い理由として考えられるもの(複数回答)
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こうした三つの理由・課題を念頭に置きつつ、以下で、具体的な対応策を論じていく(第3-2-37図)。

第3-2-37図 「起業大国」に向けた三つの課題と対応策

1. 起業意識の変革

我が国の起業希望者数は減少の一途をたどっており、「起業大国」の実現に向けて、起業の担い手となる起業希望者層を増やしていくことが喫緊の課題である(第3-2-1図)。そのためには、起業に関心のない層や潜在的起業希望者に対して働きかけ、起業に興味や関心を持ってもらうための取組を行うことが必要であり、ここでは、「起業家教育」及び「起業に対する社会的評価の改革」に焦点を当てたい。

(1) 起業家教育

起業に関心のある者に対して、「日本の起業家教育は十分に行われているか」を聞いたところ、不十分とする意見は6割超に達した。今後、関係省庁と文部科学省が連携しつつ、起業家教育をより充実したものにしていく必要がある(第3-2-38図)。

第3-2-38図 起業家教育が十分に行われているか
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では、起業に関心を持ってもらうために、どのような教育を、どの時期に行えば良いかについて聞いたのが、第3-2-39図である。これによると、初等教育段階から伝記や体験談、社会経験のような形で起業家と接点を持たせること、中等、高等、大学教育段階で、インターンシップや簿記、金融、マーケティング等の実務的なことを教育するべき、という意見が多く、必要がないと回答した割合は約1割であった。

第3-2-39図 実施すべき起業家教育とその時期
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特に、起業家と触れ合う時間を作ることは、起業に関心を持ってもらう上で重要である。このような問題意識において、起業のステージごとに周囲の起業家の存在の有無を聞いたのが、第3-2-40図である。これによると、起業無関心層や潜在的起業希望者は、周囲に起業家がいない者が多く、そのことが、「起業」に関心や現実感を持てない一因となっていると考えられる。特に、前述したように、若者が起業を意識したきっかけとして、周囲の起業家の影響と回答する割合が高く(第3-2-13図)、人生の早い段階で起業家に触れることで、将来の選択肢の一つとして起業を意識することができ、雇用されるだけではなく、起業を含めた、より多様性のある職業選択が可能になると考えられる。

第3-2-40図 周囲の起業家の存在
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事例3-2-6. 西千葉子ども起業塾

大学と行政が連携をし、世代・地域が一体となってキッズ・アントレプレナーシップを育む起業塾

千葉県千葉市は、起業・創業を重要な政策として位置づけ、創業期から市内でのビジネスが軌道に乗るまでのトータルな支援を推進している。特に、2009年から、小中学生等のキッズ・アントレプレナーシップ教育(起業家教育)に対する支援を拡充してきた。

2010年夏には、千葉市と千葉大学教育学部が、共同研究事業として「西千葉子ども起業塾」を実施し、その後も千葉大学の卒業生による「千葉大学経済人倶楽部『絆』」や地域の金融機関等の支援を受け、事業を継続している。

同起業塾は、千葉大学がある西千葉の「ゆりの木商店街」が主催する市民マーケットの「第三土曜市」を舞台にし、地域の課題解決に向けて会社をつくり、地元の様々な関係者の協力を得ながら、経済の仕組みや起業について学ぶ教育プログラムである。

地元企業を顧客と見たて、第三土曜市の事業に貢献する企業間(BtoB)のビジネスに関する起業体験に絞ったことが大きな特徴である。千葉大学の卒業生で、西千葉の若手起業家の協力を得て、子どもたちが様々な事業計画を考え、やる気を出すように契約を工夫したり、擬似通貨を用いた取引を行うなど丁寧にプログラムが作り込まれている。これまで、子どもの起業・職業体験といえば、職業体験のアトラクションや模擬店のようにモノを売ったり、サービスを提供することが多かったが、仕事の多様性を理解するとともに、人の役に立つことで感謝され、地域の活性化等に資する社会起業の教育にもつながる。また、教育学部の演習として、学生が企画やイベントに参加することで、従来の学校文化の再生産ではなく、起業や経済・社会の仕組みを理解した教員の養成という効果も期待できる。

起業塾を統括する千葉大学教育学部の藤川大祐(ふじかわだいすけ)教授は、2000年頃からキャリア教育研究に取り組んできた。こうした長年の研究活動の蓄積に加え、ゆりの木商店街と10年来、地道に交流を続けてきたため、起業塾の実施の際にも、快く協力を得ることができた。こうした地域との信頼関係の基盤がなければ、事業を実現することは難しかったといえる。

藤川教授は、「社会の変化が大きくなり、子どもたちは、今は存在しない仕事に就く可能性が高い。その際、子どもの頃から新しい仕事を創り出していくことや新たな仕事を創り出す起業家に出会うことが大切。今後は、起業塾に月1回のコースを新設する予定で、一生懸命頑張る子どもを見て、生涯学習として大人も楽しみながら参加してもらい、世代間のつながりを生み出しながら、地域が一体となった継続的な取組にしていきたい。」と話している。

第三土曜市の様子

(2) 起業に対する社会的評価の改革

次に、起業に関する社会的評価を分析するために、起業のステージごとに周囲からどのような評価を受けたか調査を行った(第3-2-41図)。初期起業準備者のステージにおいて応援された割合は、配偶者からは約2割弱、両親からは約1割と低い数値であることが分かった。一方で、起業のステージが進み、起業準備者や起業家になるにつれて、周囲からの評価は上がっていくことが見て取れる。

第3-2-41図 周囲からの評価
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初期起業準備者において、周囲からの評価が低い理由として、起業家に対する社会的なイメージが一因と考えられる。一般的にメディアの影響で、起業に対して「ハイリスクハイリターン」という印象を持つ者が多く、「成功すればITベンチャー経営者のような資産家になれる」が、「失敗すると多額の借金を抱えて悲惨な人生を送ることになる」という両極端な印象が世の中に浸透しているのではないだろうか。

しかしながら、実際には、最小限の費用で起業を志し、店舗を持たずに自宅で起業し、前述のように、起業そのものに満足し、家族との時間が増えるとともに、自己実現、社会貢献等で充実した日々を送っている「小さな起業家」たちが多くいることも事実である。起業家に対する社会的評価を変えていくためには、起業には、「ハイリスクハイリターンな起業」ばかりではなく、このような「小さな起業」もあるということを、マスコミの活用を含め、行政は広く国民に伝えていくべきである。

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