第3部 中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来 

3. 起業家の実像

●起業を断念しそうになった経験

これまでに、起業の段階ごとに直面する課題について見てきた。こうした課題に直面する中で、起業家は順風満帆に起業を実現したのだろうか、それとも、多くの困難に直面しながら起業を実現したのだろうか、その実態について以下で分析していく。

第3-2-28図を見ると、起業を断念しそうになった経験の有無については、全体としては、起業家のうち、約3割が起業を断念しそうになった経験を持つことが分かる。シニアにおいては全体平均よりも若干断念しそうになった経験を有する割合が低い一方で、女性や若者で高い。女性や若者は、社会経験も少なく、手元の資金も少ないことがその一因ではないかと考えられる。

第3-2-28図 起業家が起業を断念しそうになった経験の有無
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では、実際に起業を断念しそうになった経験がある起業家に対して、どのような課題に直面したのかを聞いたものが第3-2-29図である。起業家が直面した課題(第3-2-27図)に比べ、「経営知識一般(財務・会計を含む)の習得」の割合は低下する一方で、「資金調達」、「家族の理解・協力」の割合が上がっている。資金調達は事業を行う上で不可欠であることは当然として、「家族の理解・協力」の重要性が浮き彫りになった。起業は起業家が一人だけで行うものではなく、家族や周囲の協力があって始めて実現するものであることが分かる。

第3-2-29図 起業家が起業を断念しそうになった際に直面した
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では、起業について断念しそうになった際の、相談相手の有無について、第3-2-30図を見てみる。全体では、6割弱に相談相手がいたが、逆にいえば、4割強においては相談相手がいない。起業を断念しそうになった時でさえ、相談する人がいない事実は、我が国の起業の準備を行う者が誰に相談することもなく、孤独に起業の準備を進めているというのが実態であることを示唆している。こうした現状を変えるためにも、自治体や中小企業支援機関等が起業に関する「相談窓口」としての役割を担うとともに、創業スクール13や起業の予備軍の掘り起こし、起業マインドの向上を目的とした起業セミナーを気軽に利用できるような環境の整備が求められる。この点は、第3節で論じる。

13 詳細はコラム3-2-3を参照。
第3-2-30図 起業家が起業を断念しそうになった際の相談相手の有無
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女性、若者、シニアの特徴を見てみると、女性は全体平均に比べて相談相手が多く、また、若者は約8割において相談相手がいる。若者は前述のように起業を断念しそうになる経験が多い一方で、起業の実現に向けて手応えを感じる傾向があるが、周囲の相談者の存在がその一因ではないかと考えられる。他方で、シニアは、5割強において相談相手がいないというのが実態である。

それでは、起業の準備段階にある者が起業を断念しそうになった際の相談相手として、どのような者を選んでいるのだろうか(第3-2-31図)。結果としては、「家族・親戚」、「知人・友人」を挙げる割合が高い。女性、若者、シニアにおける特徴としては、女性では「起業仲間や既に起業した先輩起業家」を挙げる割合が比較的高く、起業家や起業準備者が互いに交流するような仕組みが求められているといえよう。若者は、「起業のパートナー(共同経営者)」を選択する割合が比較的に高くなっている。これは、若者は起業をする際に一人ではなく、共同経営の形で起業する傾向があるためと推察される。シニアについては、「家族・親戚」を挙げる割合が最も高いが、一方で、「税理士、会計士」、「経営コンサルタント」、「商工会・商工会議所」といった支援機関を利用する割合が女性や若者に比べて高いことが特徴といえよう。

第3-2-31図 起業家が起業を断念しそうになった際の相談相手
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起業に関する相談相手について、女性や若者、シニアそれぞれの特徴を見てきたが、最も注目すべきは、起業に関して「相談相手がいない」と回答した割合が4割強も存在するという事実である。相談相手がいた場合においても、「家族・親族」、「友人・知人」の割合が高く、「税理士、会計士」、「経営コンサルティング」といった民間の支援機関も、「商工会・商工会議所」や「自治体の窓口」といった公的な支援機関も、相談相手として選ばれている割合が低い。こうした現状を踏まえ、民間・公的支援機関を問わず、起業の準備段階において気軽に何でも相談できるような窓口を増やしていくことが起業の準備段階から実際に起業家を生み出すために不可欠といえよう。

事例3-2-4. 女性起業UPルーム

全ての女性の可能性にチャンスを!

公益財団法人横浜市男女共同参画推進協会が、2007年に、日本マイクロソフト株式会社、横浜市と協働で男女共同参画センター横浜に開設したのが、「女性起業UPルーム」である。「全ての女性の可能性にチャンスを!」をキャッチフレーズに、これまでに多くの起業家を輩出してきた。

同協会が行う「女性起業家たまご塾」では、起業という同じ目標を持った女性が集い、講師と塾生同士の率直な意見交換を通して、切磋琢磨しながら起業に向けて歩みを進めていく。

2012年度までの6年間で、「女性起業家たまご塾」の修了生は延べ254名で、そのうち約6割の者が実際に起業を実現している。自分の店舗を構える者もいれば、自宅でインターネットを活用した小さな起業まで多様な起業家を生み出してきた。

ただし、起業をすることは一つの目的を達成することではあるが、事業にとってはスタートに過ぎない。そのため、「女性起業UPルーム」の卒業生が交流できるような、ゆるやかなネットワークが作られ、お互いの事業において足りない部分を補い、時には共同で新しい事業に取り組む。こうした、女性起業家のコミュニティーを通して、起業後に起業家同士でお互いを助け合う仕組みも出来上がりつつある。

女性起業UPルームの活動の様子

事例3-2-5. 女性起業家

店舗を持たず、小さく起業

TantoGusto 佐久間(さくま)代表

佐久間代表はもともと洋裁の講師をしていたが、出産を機に退職した。出産後、育児の傍らエプロンの縫製の仕事を行っていたが、細かい作業と高いクオリティーを求められる一方で、一枚の縫製代が200円に満たない金額であった。仕事を人からもらうのではなく、自分で作り出すことの必要性を感じた。

こうした経緯があり、「女性起業家たまご塾」に参加した。最初は漠然としたアイデアしかなかったが、講義を通じて事業計画を具体化し、最終的には洋裁の技術を活かして、くまのぬいぐるみの製造・販売を事業とした。初期費用と事業リスクを抑えるために店舗を持たず、ぬいぐるみはインターネットにおいて販売している。

佐久間代表は、「家事と仕事を両立でき、自己実現にもつながる起業を選択したことに満足している。」と語る。

ぬいぐるみを作成する 佐久間代表

Peace pearl 青木(あおき)代表

青木代表は震災をきっかけに起業を決意した。当時は働いていたNPO法人が横浜にあった関係で、「女性起業家たまご塾」に入塾し、起業に関する知識やノウハウを学んだ。並行して、アクセサリーの製造方法を学んだ。小学校時代にビーズアクセサリーを作っていたので、一定の経験があり、加えて、起業準備として母親の知り合いからアクセサリーの製造方法を習得した。

現在は、自宅でアクセサリーを製造し、ネット販売及びカフェ等での委託販売を行う。売上の一部をもとに、「福島避難母子の会」等に出向いて、無料でアクセサリー教室を開く取組も行っている。

2013年は出産があり、事業に割く時間が取りづらかったが、産休中も注文が入ってきており、産休明けからアクセサリーの製造を開始している。青木代表は、「自分のペースで働くことができる「起業」というスタイルを選択したことで、自分らしい働き方が可能となった。」と語る。

Peace Pearl 青木代表

●起業の満足度や生活の変化

これまでは、起業に至るまでのステージに応じて、特に女性や若者、シニアに光を当てて、それぞれが抱える課題等を見てきた。ここで、視点を変えて、実際に起業を実現した者の実態を見ていこう。

まず初めに、起業家は起業したことに満足しているか、逆にいえば、後悔をしていないかについて、アンケートを行った(第3-2-32図)。起業に対する「総合的満足度」について見ると、「総合的満足度」は高く、6割弱が「大変満足している」、「満足している」と回答し、「不満である」、「大変不満である」と回答した割合は1割以下であった。このように、アンケート結果からは、後悔どころか、多くの人は起業したことに満足している者が多いことが分かった。

第3-2-32図 起業の満足度
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その要因について、「仕事のやりがい」、「生活(プライベート)との両立」、「起業後の収入」について見たところ、仕事のやりがいや生活との両立に満足感を得ている。一方で、起業後の収入については、満足と不満が同数程度存在している。

第3-2-33図から、起業に伴う生活に関する変化を見てみる。一般的に、起業家は寝食を忘れて事業に打ち込むイメージが根強いが、実際にはこのように、「家族との時間が取りやすくなった」、「ストレスが減った」、「趣味や学習の時間を持てるようになった」と回答する割合が約4割存在する。

第3-2-33図 起業に伴う生活に関する変化
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このように、起業家が起業したことそのものに満足しながら、家族との関係や自己実現、世の中への貢献等の観点から、充実した人生を送っている実態が明らかになった。このような起業家の実情を正しく伝えていくことが、起業に関心のない者や潜在的起業希望者が起業に向けた一歩を踏み出すためには極めて重要であると思われる。

●起業後の収入や売上

最後に、起業の実情として、起業後の手取り収入(月額)や売上(年商)について見てみる。手取り収入について第3-2-34図を見ると、全体として、起業家の約2割が10万円以下、4割弱が20万円以下、6割強が40万円以下であることが分かった。特に、女性や若者、シニアを比較すると、女性は手取り収入が最も低い。若者も10万円以下の収入は女性と同程度であり、比較的低い収入で起業する傾向がある。一方で、シニアは、高い売上や手取り収入を得ている(第3-2-35図)。これまでの分析からも、シニアは起業の形態として株式会社・有限会社を好み、開業費用も高いことが分かっており、一定規模の企業を立ち上げることから、手取り収入も高いことが推察される。

第3-2-34図 起業後の手取り収入(月額)
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第3-2-35図 起業後の売上(年商)
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