第3部 中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来 

第3節 小規模事業者の特徴

第2節で見てきたように、小規模事業者は「地域維持・充実型」、「広域維持・充実型」、「地域成長型」、「広域成長型」の4つに類型化できる。本節では、4つの類型ごとに、創業年、業種、経営者、地域での必要性、仕入先等、小規模事業者の特徴について見ていくこととしたい。

まずは、小規模事業者の創業年を見ていくこととする。第3-1-19図は、類型ごとの小規模事業者の創業年を示したものである。これを見ると、「地域維持・充実型」では、高度成長期以前より営業している企業が比較的多く、「広域維持・充実型」では、高度成長期以降に創業した企業が多いことが分かる。なお、「成長型」では、2000年代以降に創業した企業の割合が高い。中でも、「広域成長型」では3割超が2000年代以降である。したがって、「維持・充実型」は、「成長型」に比べて、より長期間事業を持続的に行ってきていることが分かる。とりわけ、「地域維持・充実型」は、地域に古くから根ざして、地域住民の要望やニーズに応じて、財やサービスを提供するとともに、地域の一員として地域活動に関与してきた、まさに「顔の見える」小規模事業者といえる。

第3-1-19図 類型ごとの小規模事業者の創業年
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以下では、様々な困難に見舞われながらも、地域で長期にわたって事業を続けてきた企業の事例を紹介する。

事例3-1-1. 株式会社新澤醸造店

困難を乗り越えながら、地域に密着して事業を運営する小規模事業者

宮城県大崎市の株式会社新澤醸造店(従業員7名、資本金1,000万円)は、1873年創業の日本酒製造業者である。

三本木という地区に本社を構え、「伯楽星」、「愛宕の松」という銘柄で、地域住民からも愛されている同社は、2008年の岩手・宮城内陸地震、2011年の東日本大震災と立て続けに災害に見舞われた。特に、東日本大震災では、蔵が損壊したことに加え、1年間の売上の7割もの酒を廃棄することとなったが、偶然廃業した同業者の跡地(川崎町)に移転し、そこで営業を開始することができた。新しい蔵では、生産量を確保できるよう、通常は11月から3月頃にかけて行う醸造を、年間通して行うことで、安定的に生産できる体制を構築した。その結果、従業員の安定的な雇用にも貢献している。

蔵は、川崎町へ移転させたが、地元とのつながりを絶ちたくないという思いから、今でも創業の地である三本木に本社機能を残しており、往復2時間以上かけて、蔵のある川崎町へと通っている。

同社社長の新澤巌夫(にいざわいわお)氏は、「売上が低迷したときも地元の酒屋さんや地域住民に支えられて、ここまで頑張ってくることができた。今後は、世界で通用する日本酒を目指していきたいと思っているが、地元第一であることには変わりなく、誰もが購入できる適正な価格の美味しい日本酒をこれからも提供し続けていきたい。」と語る。

同社の新澤巌夫社長

次に小規模事業者の業種について見ていく。第3-1-20図は、類型ごとの小規模事業者の業種を示したものである。小売業やサービス業では、「地域維持・充実型」が多く、現状の組織形態を維持したまま、同一市区町村や同一都道府県といった地域の中で、商店や飲食店など個人向けの事業を運営している事業者が多いことが分かる。他方、製造業では、「広域維持・充実型」や「広域成長型」が比較的多く、域外との取引を前提とした企業が多い。卸売業では、「広域維持・充実型」が比較的多く、規模を維持しながら域外と取引を行う企業も多い。建設業では、「地域型」が9割を占めるが、その中でも、比較的組織の成長を志向する企業が多いことが分かる。これは、法人化することが公共工事等の受注の獲得につながるからであると考えられる。

第3-1-20図 類型ごとの小規模事業者の業種
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ここからは、経営者について見ていくことする。第3-1-21図は、類型ごとの小規模事業者の女性経営者の割合を示したものである。これを見ると、「地域維持・充実型」では、女性経営者の割合が高いことが分かる。これは、女性起業家の創業分野として、子育てや介護等、生活のニーズに根ざした「生活関連サービス業,娯楽業」、「医療,福祉」や趣味・特技等を活かした「教育,学習支援業」等、地域の個人向けのサービス業が多い26ためであると推察される。また、「地域維持・充実型」は、個人事業者が大半であり、夫婦で経営しているケースが多いと考えられる。このことも、女性経営者が多い理由の一つであると考えられる。

26 詳細については、第3部第2章第3-2-5図を参照。

第3-1-21図 類型ごとの小規模事業者の女性経営者の割合
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以下では、待機児童という地域の課題を解決するために起業した女性経営者の事例を紹介する。

事例3-1-2. 有限会社officeぱれっと

母親目線で得た着想から子どもの居場所づくりをビジネスとして展開する女性経営者

大阪府高槻市の有限会社officeぱれっと(従業員6名、資本金300万円)は、地域にある幼稚園の入園抽選にもれた子ども等の居場所づくり「プチぱれっと」事業等を実施している。事業開始直後は法人格を取得しない地域の有志による集まりから始まり、2003年に有限会社を設立、その後、特定非営利活動法人(以下、「NPO法人」という。)も設け、グループ法人的な経営が行われている。

当社は、地域の子どもや女性、高齢者、障害者、マイノリティの方々が安心できる居場所を作り出すとともに、子育て支援、コミュニティ支援の拠点を生み出すことをミッションとして掲げている。

創業直後は、子どもの居場所づくり事業のみを展開していたが、現在では、多世代交流サロン「カフェぱれっと」や障害福祉サービス就労継続支援B型事業27「おしごと工房ぱれっと」の運営も手掛ける等、地域の多様な人々を巻き込みながら地域の課題を解決している。

基幹事業である「プチぱれっと」では、2歳〜4歳までの幼稚園入園前の子どもに週1〜2回、朝9:30〜13:00の間、安心して楽しめる居場所を提供している。子どもは当社のスタッフやお友達と共に遊戯等が楽しめる。これに加え、親子遠足や運動会、クリスマス会等の行事も実施している。

さらに、1歳児専門クラス「プチプチぱれっと」も用意し、こちらは最初の数カ月は、母親と一緒に、その後は子どもだけで参加する場となっている。近年は、他県で同じ志を持つ事業者にノウハウを提供する試みにも挑戦している。

同社社長の漆原由香利(うるしはらゆかり)氏は、「今後は、高齢者向けデイサービス事業等、新たな取組に着手したい。また、最近は、子育てが一段落し始めた従業員の働き方が変化していることを感じており、これを踏まえながら適切な組織の在り方も追求していきたい。」と今後の抱負を語っている。

27 「就労継続支援事業」とは、通常の事業所に雇用されることが困難な障害者について、就労の機会を提供するとともに、生産活動その他の活動の機会提供を通じて、その知識及び能力の向上のために必要な訓練を行う事業のことをいい、雇用契約を結ぶ「A型」と雇用契約を結ばない「B型」がある。

同社の漆原由香利社長(左端)

また、第3-1-22図は、類型ごとの小規模事業者の経営者の年齢を示したものである。これを見ると、「地域維持・充実型」や「広域維持・充実型」では、経営者の高齢化が進んでいることが分かる。第3-1-18図で見たように、「維持・充実型」は小規模事業者の約8割を占めていることから、地域経済の担い手が高齢化しているのが分かる。他方、「成長型」では、比較的若い世代の経営者が多い。このことは、第3-1-19図で説明した、小規模事業者の創業年の分析とも一致する。

第3-1-22図 類型ごとの小規模事業者の経営者の年齢
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ここからは、小規模事業者が地域に必要とされていると感じているか否かについて見ていく。第3-1-23図は、地域に必要とされていると感じるかを聞いた結果を示したものである。これを見ると、「地域型」の方が、「広域型」に比べて、地域に必要とされていると感じる割合が高いことが分かる。

第3-1-23図 地域に必要とされていると感じている小規模事業者
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それでは、小規模事業者は具体的にどのような項目で地域に必要とされていると感じているのだろうか。第3-1-24図は、第3-1-23図において、「とてもそう思う」又は「そう思う」と回答した小規模事業者が、地域に必要とされていると感じる具体的な項目を示したものである。これを見ると、「地域型」では、「地域で必要とされるモノ・サービスの提供」や「地域内の取引の優先」と回答する企業が多く、「広域型」では、「地域外からの需要獲得」や「地域産業資源の活用」と回答する企業が多い。つまり、「地域型」では、より地域に密着した活動を必要とされていると感じており、「広域型」では、域外からの需要獲得によって地域に必要とされていると感じる企業が多い。

第3-1-24図 類型ごとの小規模事業者が地域に必要とされている項目
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以下では、「地域で必要とされるモノ・サービスの提供」、「地域外からの需要獲得」、「地域産業資源の活用」などの地域に貢献している企業の事例を紹介していく。

事例3-1-3. GLUP株式会社

コミュニティが希薄となる地域に新たな交流の場を創出している小規模事業者

神奈川県横浜市にあるGLUP株式会社(従業員0名、資本金350万円)は、コーヒー豆の焙煎所兼販売店を運営している。2011年に「途上国の生産者からの適正な価格での豆の購入(フェアトレード)」と「福祉(welfare)」という2つの意味を持つ「fe.a coffee」を店舗名に掲げ、途上国から仕入れたコーヒー豆を地域作業所の障害者の方と協力して焙煎・加工し、飲食店や企業、小売店などへ販売を行っている。

同社社長の関辰規(せきよしのり)氏は、東日本大震災をきっかけに、「人の役に立ちながら、自らが食べていけるような仕事をしたい」との思いで創業しており、本業である地域作業所の障害者の方とのコーヒー豆の焙煎・販売以外にも、ルワンダからの留学生や障害者との交流、地域の子どもたちを集めての勉強会など、地域コミュニティの維持活動を積極的に行っている。

また、店舗は、保土ヶ谷駅から離れた商店街の一角にある。東戸塚駅ができる前は賑わっていた同商店街は、現在では、開いている店もあるが、シャッターが下りているお店も多い。若い世代は駅周辺へ移り住み、残っているお店や居住者は高齢者が多いという。「楽しいことを発信し、若い地域住民を集めコミュニケーションが取れる場所を提供して、地域コミュニティを維持することも創業した目的である。」と関社長は語っており、障害者雇用に貢献するとともに、地域で必要とされるコミュニティの場を提供している。

同社の関辰規社長

事例3-1-4. 太鼓判

桜の保護活動を通じて、域外需要の獲得に貢献している個人事業者

奈良県吉野郡吉野町の太鼓判(従業員3名、個人事業主)は、全国屈指の観光地(吉野山)で民宿を運営している企業である。同社がある吉野山といえば、世界遺産の吉野桜や金峯山寺、吉水神社で有名であり、1594年(文禄3年)に豊臣秀吉太閤が花見を実施したとされる土地である。

桜の名所として知られ、全国から観光客から訪れることにより、その繁忙さ故に桜保全活動は実施されてこず、過去4万本あったとされる桜の木も、数年前には1万5千本にまで減少していた。

同社の代表である東利明(ひがしとしあき)氏は、「吉野に生かされている我々は、吉野を守っていかなければならない」と考え、吉野桜の保全活動を実施し始めた。具体的には、観光客に、桜の苗を購入してもらい、植樹していくという「吉野桜の記念植樹」を開始した。そのほか「桜の学級」というものを開催し、吉野桜の歴史などを伝えることで、吉野桜の現状がいかに危機的であるかなどを伝える活動を行ってきた。

そうした、活動の結果、吉野町や奈良県、大手企業などが協力してくれるようになり、今では地域全体で吉野桜の保全活動を行っている。

「吉野の住民として誇りを持って、地域住民みんなで吉野を守っていきたい」との思いから保全活動を実施したことが、自治体や他の企業からも認められ、現在では地域全体で保全活動を実施するに至っている。

また、桜の保全以外にも、バリアフリーの温泉を作成しオープンするなど、地域住民や観光客へ配慮した建物を建造しており、域内へ向けた活動も実施している。加えて、「吉野を知り、桜を守り、好きになってもらう。」として域内の他産業を活用した、体験宿泊コースを企画し、地域全体で欧州を始めとした世界各国と全国からのリピート客を含めた域外需要を獲得するべく活動を行っている。

東社長は、「事業を営めるのは、吉野あってのもの。地域住民で吉野を守っていかなければいけない。」と語っており、吉野山という地域資源を保護する活動を通じ、域外から需要を獲得せんとしている。

当社の東利明社長(右)と後継者の東広明氏(左)

事例3-1-5. 株式会社サヌイ織物

地域資源である博多織の認知度を向上させることで、事業の持続的な発展を志向している小規模事業者

福岡県福岡市の株式会社サヌイ織物(従業員11名、資本金1,000万円)は、1949年創業の福岡県の伝統的工芸品である博多織を利用した製品を製造する企業である。

博多織とは、770年の歴史を持つ福岡の伝統工芸品であり、主に和装時に使用する帯に使われ、縦糸の量が他の織り方とは大きく異なる。今までの流通は、福岡で製造された商品が京都の問屋を通して全国へ販売されていた。そのため、地元を含め、数多くの博多織製品を目にすることはできず、一部の富裕層が購入する工芸品であった。

同社社長の讃井勝彦(さぬいかつひこ)氏は、地元で伝統工芸品を見ることができないのは残念だと話しており、地元福岡で目にする機会を増やそうと自社工房を見学できるスペースや作品の展示場も併設した。

また、販路についても問屋を介さず、直接、全国の小売店舗へ卸すことにより、適正価格での販売を実施している。讃井社長は、「多くの人に博多織を知ってもらい、新しい生活必需品として使用してほしい。」と語っており、博多織の小物や雑貨を製造し、販売している。

「博多織の認知度が上がり、より身近なものになってくれれば、伝統資源の保護がなされるなど、地域貢献に直接つながる。」と讃井社長は話しており、今後も世の中へ博多織の技術を発信する活動を続けていくとのことである。

こうした取組の結果、福岡モーターショーでトヨタレクサスのオリジナルカスタマイズカーの内装として使用されたり、2013年12月に福岡で実施されたフィギュアスケートグランプリファイナルのメダルのリボンに博多織が使用されたりするなど、確実に博多織の認知度は向上してきている。

今後については、新しい生活必需品として、長く永続的に使われ続ける商品づくりを目指している。

同社の讃井勝彦社長

ここからは、類型ごとの主要な仕入先を見てみる。第3-1-25図は、類型ごとの小規模事業者の主要な仕入先を示したものである。「地域型」では、8割以上の小規模事業者が地域内(同一市区町村、隣接市区町村、同一都道府県)中心に仕入を行っており、販売も地域内であるため、地域の資金循環に貢献していることが分かる。

第3-1-25図 類型ごとの小規模事業者の主要な仕入先
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「広域型」は地域外に販売していく小規模事業者であるため、地域内で仕入を行っている小規模事業者は、域内の資源を域外に販売することで域外から収入を得ている、すなわち「外貨」を獲得している小規模事業者ということができる。地域経済は、このような域外から外貨を稼いでくる広域型(厳密には、域内仕入も要件)と域内で資金循環を促す地域型(厳密には、域内仕入も要件28)の両類型が存在することで成り立っているといえる(第3-1-26図)。なお、前者の域内仕入かつ域外販売の「広域型」については、第4部第3章で、「コネクターハブ企業(地域中核企業)」として改めて取り上げる。

28 域外から仕入を行う地域型の場合、域外への支払いによって域内の資金が流出することにつながるため、このような「域内仕入」を厳密な意味で要件としている。

第3-1-26図 「広域型」企業・「地域型」企業の資金循環図

以上、四つの類型ごとに特徴を見てきたが、それぞれの類型により経営者の属性や地域に果たしている役割は異なっていることが分かる。

次節では、小規模事業者の経営課題を把握した上で、その経営課題ごとの相談相手について見ていきたい。

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