第3部 中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来 

3. 今後の組織形態の意向による小規模事業者の類型化

これまで述べてきた、「地域需要志向型」、「広域需要志向型」それぞれで、現在の組織形態を維持しながらも「事業の持続的な発展」を志向する「維持・充実型」と組織形態の成長を志向する「成長型」に分けることができる。ここでいう「成長型」とは、先ほどの組織形態を個人事業者Ⅰから法人Ⅲまで下から上に並べたときに(第3-1-18図)、組織として上のステージを目指す、すなわち、組織化の進展を目指すことをいう22

22 個人事業者Ⅰであれば、「法人化することを考えている」又は「家族以外の従業員を雇用する予定がある」者、個人事業者Ⅱであれば、「法人化することを考えている」者、法人Ⅰであれば、「経理専従の社員を将来的に雇用したい」者、法人Ⅱであれば、「営業専従の社員を将来的に雇用したい」者をいう。また、法人Ⅲについては、組織的成長の余地がないため、今回の集計では、維持・充実型、成長型のいずれにも属さないとして、未分類としている。

第3-1-18図 小規模事業者の類型化
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これまで見てきた個人事業者Ⅰから法人Ⅲまでの組織形態を、「地域需要志向型」と「広域需要志向型」、「維持・充実型」と「成長型」で一覧にまとめたのが第3-1-18図である。これを見ると、小規模事業者は、「地域需要志向型」が81%、「広域需要志向型」が19%であり、約8:2の割合となっている。また、「維持・充実型」が77%、「成長型」18%であり、こちらも約8:2の割合となっている。

これまでの中小企業基本法では、1999年の改正時に、「成長発展」する中小企業を支援するとされてきた。今回、2014年3月7日に閣議決定された、小規模企業振興基本法案においては、中小企業基本法の基本理念である「成長発展」のみならず、技術やノウハウの向上、安定的な雇用の維持等を含む「事業の持続的な発展」を位置付けることとなった。そこで、本節以降では、組織面での成長(組織化の進展)を志向せずに、事業を持続的に発展させていく「維持・充実型」の小規模事業者に光を当てつつ、分析を行っていく。

なお、以下では「地域需要志向型」かつ「維持・充実型」を「地域維持・充実型」、「広域需要志向型」かつ「維持・充実型」を「広域維持・充実型」、「地域需要志向型」かつ「成長型」を「地域成長型」、「広域需要志向型」かつ「成長型」を「広域成長型」と呼ぶこととする。また、「地域需要志向型」を「地域型」、「広域需要志向型」を「広域型」とする。

コラム3-1-3.

小企業者の類型化

第3-1-18図で見たような類型化を小企業者でも行ったのが、コラム3-1-3図である。これを見ると、小企業者は、小規模事業者と同じ傾向を示しているが、より「地域需要志向型」が多く、また、「維持・充実型」が多い傾向にある。

コラム3-1-3図 小企業者の類型化
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コラム3-1-4.

個人事業者

ここでは、第1節でも見てきたように、小規模事業者の多くを占める個人事業者についての分析を行っていく。具体的には、個人事業者の企業数や景況認識、個人事業者の類型化とその特徴、個人事業者と法人の違い、法人化に際しての課題について概観していくこととする。

●個人事業者の現状

コラム3-1-4〔1〕図は、規模別の個人事業者及び法人数を示したものである。これを見ると、個人事業者の94.9%が小規模事業者であることが分かる。その中でも、小企業者の割合は高く(94.3%)、個人事業者のほとんどが常用雇用者・従業者数5人以下の小企業者であるといえる。

コラム3-1-4-〔1〕図 規模別の個人事業者及び法人数
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ここからは、個人事業者の景況認識について見ていく。コラム3-1-4〔2〕図は、個人事業者の業況判断DI(前年同期比)を示したものである。これを見ると、個人事業者の景況感は、全ての期間において、中小企業よりも低く、厳しい景況認識であることが分かる。

コラム3-1-4-〔2〕図 個人事業者の業況判断DI(前年同期比)
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また、コラム3-1-4〔3〕図は、個人事業者の売上状況DI(前年同期比)を示したものである。これを見ると、個人事業者の売上高も、全ての期間において、中小企業よりも厳しいことが分かる。

コラム3-1-4-〔3〕図 個人事業者の売上状況DI(前年同期比)
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コラム3-1-4〔4〕図は、個人事業者の資金繰り状況DIを示したものである。これを見ると、個人事業者の資金繰りも、全ての期間において、中小企業よりも厳しいことが分かる。

コラム3-1-4-〔4〕図 個人事業者の資金繰り状況DI(前年同期比)
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●個人事業者の類型化とその特徴

ここからは、個人事業者の類型化と個人事業者と法人それぞれの特徴を見ていく。コラム3-1-4〔5〕図は、第3-1-15図から第3-1-18図にかけて行った類型化を個人事業者と法人について再度まとめたものである。これを見ると、個人事業者では、「地域維持・充実型」が多く、次いで、「地域成長型」となり、今後の目指す市場を「域内」とした企業が多かった。他方、法人では、「地域維持・充実型」、次いで「広域維持・充実型」が多くなっている。

コラム3-1-4-〔5〕図 小規模事業者(個人事業者、法人)の類型化
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コラム3-1-4〔6〕図は、業種別の個人事業者・法人割合を示したものである。これを見ると、個人事業者では、「複合サービス事業23」、「医療,福祉」、「教育,学習支援業」、「生活関連サービス業,娯楽業」、「宿泊業,飲食サービス業」、「小売業」で多いことが分かる。これらの共通点としては、対個人向けのサービス業が多いことであり、それ故に、個人事業者は、人口減少等で地域需要が減少する影響を受けやすいといえる。

23 「複合サービス事業」とは、郵便局及び協同組合のことをいう。

コラム3-1-4-〔6〕図 業種別個人事業者・法人割合
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コラム3-1-4〔7〕図は、小規模事業者(個人事業者・法人)の経営者の年齢分布を示したものである。法人と比べ、個人事業者の経営者は、高齢でも事業を継続している割合が高い(70〜80代)。この背景には、経営環境がますます悪化する中で、事業の将来性がないと判断し、仮に子どもや親族がいても、自分の代で事業を閉じようと考えている高齢経営者が多いのではないかということが推察される(コラム3-1-4〔8〕図参照)。個人事業者の経営資源は、経営者が長年培ってきた経験や人間関係ともいえるが、経営者の高齢化等により、これらの経営資源が次世代に承継されずに逸失してしまうリスクがあることに留意が必要である。

コラム3-1-4-〔7〕図 小規模事業者(個人事業者・法人)の経営者の年齢
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コラム3-1-4〔8〕図は、小規模事業者(個人事業者・法人)の今後の事業運営方針を示したものである。これを見ると、「事業を自分の代で廃業することもやむを得ない」と回答した個人事業者が3割を超えており、法人に比べて事業の継続が厳しい結果となっている。その結果として、コラム3-1-4〔7〕図でも見たように、経営者が事業を承継することなく高齢化していっていることが分かる。

コラム3-1-4-〔8〕図 小規模事業者(個人事業者・法人)の今後の事業運営方針
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●個人事業者と法人の違い

では、個人事業者と法人の差はどこにあるのだろうか。コラム3-1-4〔9〕図は、個人事業者と法人(資本金1億円以下)の税制の違いを示したものである。国税を見た場合、個人事業者の所得税は超過累進税率で課税されていることが分かる。単純に税率と課税所得で計算すれば、課税所得が928万円の場合に個人事業者の所得税額と資本金1億円以下法人の法人税が152.64万円で同額となり、この課税所得を下回る場合には、個人事業者の所得税の方が資本金1億円以下法人の法人税よりも低くなり、この課税所得を超える場合には、個人事業者の所得税の方が資本金1億円以下法人の法人税よりも高くなる。なお、実際には、経費の扱い(法人での損金、個人事業者での必要経費の扱い)等の違いもあるため、一概に比較することはできないことには留意が必要である。また、上記の比較は、あくまでも国税だけの比較であり、地方税の比較は行っていないことにも留意が必要である。

コラム3-1-4-〔9〕図 個人事業者と法人(資本金1億円以下)の税制の違い

また、コラム3-1-4〔10〕図は、一般的な個人事業者と法人のメリット・デメリットをまとめたものである。これを見ると、個人事業者のメリットは、起業の手続きが容易であること、起業に関するコストが少ないことが挙げられる一方、利益が出るほど所得税率が高くなるなどのデメリットも存在する。

他方、法人では、社会保険への加入、利益が出ても法人税率が一定以上かからないなどがメリットとして挙げられる。詳細は、コラム3-1-4〔10〕図にまとめた。

コラム3-1-4-〔10〕図 個人事業者と法人のメリット・デメリット

では、実際に法人化する際の動機にはどんなものがあるのだろうか。ここからは、「中小企業者・小規模企業者の経営実態及び事業承継に関するアンケート調査24」に基づき分析していく。

コラム3-1-4〔11〕図は、小規模事業者が法人化する(した)動機を示したものである。これを見ると、個人事業者は「信用力が上がるため」や「税制上のメリット」を法人化する動機として回答した企業が多い。また、既に法人化している法人では、「会社設立時に法人格を選んだため」という回答も見られたが、個人事業者と同様に「信用力が上がるため」、「税務上のメリット」という回答も多く、個人事業者と法人で似た傾向の回答をしていることが分かる。加えて、既に法人化している企業では、「受注・仕事を確保しやすいから」、「資金調達を行いやすいから」と回答する企業もあり、法人化したことで、これらのメリットが生まれたことが推察できる。

24 中小企業庁の委託により、(株)帝国データバンクが、2013年12月に、中小企業13,000社(うち小規模事業者9,100社)を対象としたアンケート調査。回収率27.3%。

コラム3-1-4-〔11〕図 小規模事業者の組織形態別法人化する(した)動機
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また、コラム3-1-4〔12〕図は、小規模事業者の法人化する際の課題を示したものである。これを見ると、個人事業者、法人の両者共に「法人化に係る費用」、「法人化に係る手続き」、「社会保険料に係る費用」が多く回答されている。つまり、法人化前に想定した課題と法人化した後で実際に直面した課題は、ほぼ同じであることが分かる。

コラム3-1-4-〔12〕図 小規模事業者の組織形態別法人化する際の課題
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世界銀行の「Doing Business 2014」によると、我が国は会社登記に要する手続き、会社登記に係る日数、開業コストを総合的に評価した場合、我が国の起業環境は総合で120位25となっている。これは、あくまでも「起業」の場合ではあるものの、法人化に際しても、「法人化に係る手続き」や「法人化に係る費用」、「社会保険料に係る費用」が課題であることは、データが如実に表しているといえる。

25 詳細は、第3部第2章第3-2-10図を参照。

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