第3部 中小企業・小規模事業者が担う我が国の未来 

第1章 「小規模事業者」の構造分析―需要開拓こそ最重要課題―

我が国に存在する385万者の中小企業のうち、約9割、334万者に及ぶ小規模事業者は、地域の経済社会・雇用を支える存在として重要な役割を果たすとともに、将来の我が国を牽引する企業に成長する可能性を秘めている。

1986年以降1、減少傾向で推移している中小企業・小規模事業者であるが、第2部で見てきたような、人口減少に伴う国内需要の減少や大企業の海外移転等の経営環境の変化の影響を受け、小規模事業者の企業数は大きく減少している。仮にこのまま小規模事業者の活力が減退した場合、地域の雇用及び住民生活の両面において、地域社会に与える影響は大きい。

本章では、「小規模事業者の事業活動の実態把握調査2」及び「平成25年度小規模事業者の経営実態に関する調査3」に基づき、小規模事業者、特に、「事業の持続的な発展」を志向する小規模事業者に注目して、分析していくこととする。

なお、「事業の持続的な発展」との表現は、2014年3月7日に閣議決定された、小規模企業振興基本法案第3条にて用いられている。

1 中小企業の企業数の減少開始年については、コラム3-1-1を参照。

2 全国商工会連合会が2013年10月に商工会会員企業18,078社に対して実施した訪問アンケート調査。

3 中小企業庁の委託により、(株)帝国データバンクが、2013年10月に、中小企業5,500社(うち小規模事業者2,328社)を対象に実施したwebアンケート調査。回収率52.6%。

(第3条)基本原則

小規模企業の振興は、人口構造の変化、国際化及び情報化の進展等の経済社会情勢の変化に伴い、国内の需要が多様化し、若しくは減少し、雇用や就業の形態が多様化し、又は地域の産業構造が変化する中で、顧客との信頼関係に基づく国内外の需要の開拓、創業等を通じた個人の能力の発揮、自立的で個性豊かな地域社会の形成において小規模企業の活力が最大限に発揮されることの必要性が増大していることに鑑み、個人事業者をはじめ自己の知識及び技能を活用して多様な事業を創出する小企業者4が多数を占める我が国の小規模企業について、多様な主体との連携及び協働を推進することによりその事業の持続的な発展が図られることを旨として、行われなければならないものとすること。

4 「小企業者」とは2014年3月7日に閣議決定された、小規模企業振興基本法案第2条で使用されている用語で、「おおむね常時使用する従業員の数が5人以下の事業者をいう」と定義されているが、本章では、「常用雇用者・従業者数が5人以下の事業者」を小企業者としている。

ここでは、1999年の中小企業基本法において定められた「成長発展」、すなわち売上や規模の拡大のみならず、技術やノウハウの向上、安定的な雇用の維持を含む「事業の持続的な発展」を図るべきこと、小企業者の円滑かつ着実な事業の運営を適切に支援することを位置付けている。

これは、これまでの「成長発展」する中小企業(中小企業全体の上位1〜2割)を引き上げていくことで、中小企業全体の引上げを図るだけでなく、「事業の持続的な発展」を図る小規模事業者についても適切な支援を通じて活力の最大限の発揮を目指すという方針を示すものであり、1999年の中小企業基本法改正からの大きなパラダイムシフトを意味する。

第1節 小規模事業者の現状

小規模事業者は、我が国の企業数の約87%、従業者数の約26%5を占めており、我が国の経済にとって重要な存在である(第3-1-1図)。しかしながら、第2部で見てきたような経済・社会構造の変化に伴い、小規模事業者の数は大きく減少している。本節では、中小企業数、とりわけ小規模事業者数の減少要因を分析した上で、小規模事業者の果たす役割について概観していく。

5 産業別の小規模事業者の企業数及び常用雇用者・従業者数については、付属統計資料1表及び付属統計資料3表を参照。都道府県別の小規模事業者の企業数及び常用雇用者・従業者数については、付属統計資料2表を参照。
第3-1-1図 企業規模別の企業数及び従業者数
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1. 小規模事業者の現状

第3-1-2図は、中小企業数の推移を示したものである。2009年の調査より、「事業所・企業統計調査」が「平成21年経済センサス-基礎調査」に統合されるなど、統計手法の変更による断絶はあるものの、これを見ると、中小企業の数は、長期にわたり減少傾向で推移していることが分かる。2009年から2012年の3年間で中小企業の数は約35万者減少しており、その中でも、小規模事業者は約32万者減少していることが分かる。また、2009年から2012年にかけての減少率を見ても、中規模企業は▲4.8%、小規模事業者は▲8.8%と小規模事業者の減少率の方が大きく6、中規模企業と比較すると小規模事業者は経済・社会構造変化の影響を受けやすいといえる。

6 第3-1-2図は万未満を省略しているため、実際の数値から算出した減少率とは一致しない。算出に用いた数値は、中規模企業:2009年535,903者、2012年510,120者、小規模事業者:2009年3,665,361者、2012年3,342,814者。
第3-1-2図 中小企業の企業数の推移
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コラム3-1-1.

企業数の年平均増加率

コラム3-1-1図は、2006年から2009年の統計手法の変更による断絶を修正7して、企業数の年平均増加率を算出したものである。これを見ると、中小企業では、1981年から1986年にかけては年平均0.3%で増加していたが、1986年以降、一貫して減少していることが分かる。特に、2006年から2009年にかけては、2008年のリーマン・ショックの影響もあり、年平均3.6%企業数が減少している8。また、2009年から2012年にかけても、2011年に発生した東日本大震災の影響もあり、年平均3.3%企業数が減少していることが分かる。

7 「平成21年経済センサス-基礎調査」では、商業・法人登記等の行政記録を活用して、事業所・企業の補足範囲を拡大しているため、企業数を把握する際に、2006年以前の「事業所・企業統計調査」の結果と単純には比較できない。
ここでは、比較を可能とするために、2006年から2009年の全企業の年平均増加率を算出する際の2006年の企業数(推計値)には、2006年の「事業所・企業統計調査」の企業数は使用せず、「平成21年経済センサス-基礎調査」で2006年以前に設立されたことが確認された企業(存続企業)396.6万者に、同じく「平成21年経済センサス-基礎調査」で廃業が確認された企業(廃業企業)71.6万者を加えた計468.2万者を用いている。
廃業企業71.6万者は、「平成18年事業所・企業統計調査」で調査された企業のうち、「平成21年経済センサス-基礎調査」で把握されなかった企業をいう。

8 2006年から2009年の年平均増加率は、全規模の値でしか算出できないが、その他の年での全規模と中小企業の数値を比べると、差がほとんどないことから、中小企業の減少として記述している。

コラム3-1-1図 企業数の年平均増加率の推移
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今後については、経営者の高齢化や人口の減少による需要の減少によりますます企業数が減ることも想定される。仮に、2009年から2012年の間の減少率である年平均3.3%ずつ企業数が減っていった場合、20年後には中小企業の数は現在の約半分となる。特に、小規模事業者については、中小企業よりも減少幅は大きいため、現在の半数を割る可能性も考えられる。

このことからも、中小企業の大半を占める小規模事業者に対する支援や、起業・創業の活性化、円滑な事業承継支援などが今後ますます必要となるであろう。

第3-1-3図は、小規模事業者の組織形態別の企業数の推移を示したものである。2009年から2012年の間で約32万者減少した小規模事業者の中でも、個人事業者は約25万者減少していることが分かる。また、2009年から2012年にかけての減少率を見ても、個人事業者は▲10.8%、法人は▲5.9%と個人事業者の減少率の方が大きいことが分かる。

第3-1-3図 小規模事業者の組織形態別企業数の推移
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これは、個人事業者ほど、個人の能力や人柄、これまで築き上げてきた経験とノウハウに依存しており、経営者の高齢化等で引退するタイミングで後継者がいない場合や事業の先行きが見通せないような場合は、当該個人事業者は廃業9を選択することが多いと推察される。

次に、小規模事業者の業種を見ていく。第3-1-4図は、小規模事業者の業種を示したものである。これを見ると、小規模事業者は、「小売業」、「宿泊業,飲食サービス業」、「建設業」の順に多いことが分かる。

9 廃業数の推移については、第1部第1-1-25図を参照。
第3-1-4図 小規模事業者の業種
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では、どの業種で中小企業・小規模事業者が減少しているのかを見ていくこととする。第3-1-5図は、2009年から2012年にかけての中小企業の規模別業種別開業・廃業件数を示したものである。これを見ると、開業・廃業のほとんどが小規模事業者によるものとなっている。また、「小売業」、「宿泊業,飲食サービス業」、「建設業」で企業数が大きく減少していることが分かる。「小売業」は、廃業件数が多く開業件数が少ないため、減少幅が大きい。これは、GMS10、コンビニエンスストアなどの大規模小売業の進出やネット販売の拡大など流通・小売業界の構造変化が背景にあるものと考えられる。「宿泊業,飲食サービス業」については、業種別に見ると廃業件数は「小売業」に次いで多く、開業件数は最も多いなど、新陳代謝が活発な業種といえる。開業件数が多い分、減少幅は「小売業」と比べるとわずかに小幅となっている。

10 「GMS」とは、「General Merchandise Store」の略で、日常生活で必要となる商品を総合的に扱う大規模な小売業態のこと。大規模な小売業態とは、ディスカウントストアや大型ショッピングセンター等をいう。

第3-1-5図 中小企業の規模別業種別開業・廃業件数
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他方、「医療,福祉」では、廃業とほぼ同数の開業が起こっており、第2部でも見てきたように、高齢化社会の進展に合わせる形で、企業数・雇用者数共に増えてきていることが推察される。

ここからは、都道府県別の開業・廃業について見ていく。第3-1-6図は、2009年から2012年にかけての都道府県別規模別の開業・廃業件数を示したものである。これを見ると、企業数の大きい東京都、大阪府、愛知県及びその周辺府県、さらには北海道、福岡県で企業数が大きく減少していることが分かる。

第3-1-6図 規模別都道府県別開業・廃業件数
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では、都道府県別の小規模事業者の開廃業率を見ていこう。第3-1-7図は、都道府県別の小規模事業者の開業率を示したものである。これを見ると、沖縄県、宮崎県、東京都、福岡県、大阪府、兵庫県、神奈川県、愛知県の順で小規模事業者の開業率が高くなっている。第2部で見てきたように、人口が増加している都府県やその周辺県で開業率が高い傾向にあることが分かる。また、最も開業率の高い沖縄県であるが、その理由について、沖縄振興開発金融公庫は、「低い所得水準や高い失業率の一方で、所得の増加と社会的貢献を目的とした強い達成意識を背景に、相互扶助の精神や共同体意識が残る沖縄社会は、相対的に親族・知人等に依存した自営業の選択を容認する環境にある。11」と分析している。

11 資料:沖縄振興開発金融公庫(2000)「新規開業の現状と創業支援」

第3-1-7図 都道府県別小規模事業者の開業率
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第3-1-8図は、都道府県別の小規模事業者の廃業率を示したものである。これを見ると、宮城県、岩手県、福島県の被災三県の他、沖縄県、東京都、大阪府で高くなっている。

第3-1-8図 都道府県別小規模事業者の廃業率
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小規模事業者の開廃業率を見たときに、開業率は、都道府県間で大きな差があり、人口が増加している三大都市圏12などで高い傾向にあることが分かる。他方、廃業率は、被災三県を除くと、ほとんど有意な差がないことが分かる。

以上見てきたように、2009年から2012年にかけての企業数の減少は、小規模事業者かつ個人事業者が多く、その中でも、「宿泊業,飲食サービス業」、「小売業」については企業数も多く(第3-1-4図)、開業件数・廃業件数共に多いため、地域に与えるインパクトが大きいことが分かった。

第2部でも見てきたように、今後、我が国全体で人口減少・少子高齢化が進展する中、特に地方での人口減少のスピードは速い。そのような中で、小規模事業者の主要な業種である「宿泊業、飲食サービス業」、「小売業」は対個人向けサービス業であるため、人口減少による需要の縮小により同業他社との競争が激しくなり、また、経営者の高齢化に伴って、廃業を余儀なくされる事業者も増加するなど小規模事業者にとっては、ますます厳しい経営環境となっていくことが予想される。

12 ここでいう「三大都市圏」とは、東京圏、名古屋圏、大阪圏をいう。「東京圏」とは、埼玉県・千葉県・東京都・神奈川県、「名古屋圏」とは、岐阜県・愛知県・三重県、「大阪圏」とは、京都府・大阪府・兵庫県・奈良県をいう。

コラム3-1-2.

都道府県別の開廃業率の推移

ここでは、厚生労働省「雇用保険事業年報」を用いて、都道府県ごとの開廃業率の推移を見ていくこととする(コラム3-1-2図)。まずは開業率の推移について見ていく。2002年は、全国的に開業が活発でない中で、西日本では東日本より開業率が高い傾向にある。2007年は、好景気が続いていたこともあり、全国的に開業率は高い。2012年は、東日本大震災からの復興等により、被災三県(岩手県、宮城県、福島県)で開業が活発になっているのが分かる。

コラム3-1-2図 都道府県別の開業率(左図)、廃業率(右図)の推移
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次に廃業率の推移を見ていく。2002年は、三大都市圏と地方圏で有意な差がなく、東日本と西日本でも差があまり見られない。2007年は、関東周辺で廃業率が低いことが分かる。2012年は、全国的に廃業率は下がっているが、東日本に比べて西日本で廃業率が高い傾向にあることが分かる。

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