第2部 中小企業・小規模事業者が直面する経済・社会構造の変化 

2. 観光が国内経済に与える影響

以上、我が国の国際競争力の低下について見てきた。ここからは、国際化に伴うヒトの流れ、とりわけ観光に絞って、見ていくこととする。

観光が国内経済に与える影響は大きい。第2-1-18図は、観光消費がもたらす国内経済への波及効果を示したものである。これを見ると、観光消費額22.4兆円に対して、生産波及効果は46.4兆円、このうちの付加価値誘発効果10は23.7兆円、雇用誘発効果11は397万人となっている。

10 「付加価値誘発効果」とは、生産物の販売額から中間投入額を差し引いた額(付加価値額)が消費を行うことにより直接的又は間接的に誘発される効果のことをいう。

11 「雇用誘発効果」とは、就業者数が消費を行うことにより直接的又は間接的に誘発される効果のことをいう。

第2-1-18図 観光消費がもたらす経済波及効果(2011年)

次に、近年の観光施策を見ていくこととする。

2003年1月に、小泉内閣総理大臣が施政方針演説で、「2010年に訪日外国人旅行者1,000万人を目指す」と発言し、同年4月より「ビジット・ジャパン・キャンペーン」が開始された。「ビジット・ジャパン・キャンペーン」とは、2010年までに訪日外国人旅行者を1,000万人に増やす政策であり、外国人観光客向けの各種割引等のキャンペーンや観光ビザの緩和などを行った。

2006年12月には、国民の国内旅行及び外国人の訪日旅行を拡大するとともに、国民の海外旅行を発展させること等を基本方針とした「観光立国推進基本法」が成立した。訪日外国人旅行者数の拡大や国内における観光旅行消費額の増大、日本人の国内観光旅行による一人当たりの宿泊数の増加等を目標とした。

2008年には、国土交通省の外局として観光庁が設置された。

2010年には、新成長戦略の中で、「観光立国・地域活性化戦略」が戦略分野の一つに選定され、また、「訪日外国人3,000万人プログラム」と「休暇取得の分散化」が国家戦略プロジェクトに選定される。

2012年には、「観光立国推進基本計画」が閣議決定され、「観光立国戦略」が戦略分野の一つに選定され、訪日外国人旅行者の増大に向けた取組、受入水準の向上及び観光需要の喚起が重点施策となった。

2013年6月には、「日本再興戦略」において、「訪日プロモーションに関する、省庁、関係機関の横断的計画策定と実行」、「査証発給要件緩和、入国審査手続き迅速化等の訪日環境改善」、「外国人観光客の滞在環境改善」、「新たなツーリズムの創出」、「産業資源の活用・結集・ブランド化」、「国際会議等(MICE)誘致体制の構築・強化」、「国際的な大規模イベントの招致・開催」が盛り込まれた。

以上が近年の観光施策である。以下では、上記のような観光施策の効果について見ていく。

第2-1-19図は、訪日外客数12の推移を示したものである。2003年から行われている「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の効果もあり、2003年以降順調に訪日外客数は伸びていたが、2008年のリーマン・ショックや2011年の東日本大震災時には、訪日外客数は減少していた。

12 「訪日外客」とは、国籍に基づく法務省集計による外国人正規入国者数から、日本を主たる居住国とする永住者等の外国人を除き、これに外国人一時上陸客等を加えた入国外国人旅行者のことである。駐在員やその家族、留学生の入国者・再入国者は訪日外客に含まれる。

第2-1-19図 訪日外客数の推移
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しかしながら、2013年には、観光客増加への取組や2012年末からの円安方向への動き等もあり、訪日外客数は初めて1,000万人を突破した。

また、第2-1-20図は、国別の訪日外客数を示したものである。これを見ると、中国では2012年9月の尖閣諸島国有化に端を発した日中関係の冷え込みもあり、前年比で減少したが、その他の国では訪日外客数が増加しているのが分かる。中国を除く東アジア及び東南アジアでは、大きく伸びており、とりわけ、東南アジア6か国13では、訪日外客数の伸び率は高く、訪日外客数全体に占める割合も2012年の9.3%から2013年には11.1%になっており、今後も東南アジアにおける中間層・富裕層の増加14に伴い、その割合は拡大することが期待される。

13 ここでいう「東南アジア6か国」とは、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナムのことをいう。

14 アジアの中間層・富裕層の増加については、第2-1-9図を参照。

第2-1-20図 国別訪日外客数
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では、これらの訪日外国人はどこの都道府県を訪問しているのだろうか。第2-1-21図は、「平成24年訪日外国人消費動向調査15」に基づく、外国人の都道府県別の訪問率を示したものである。これを見ると、東京都、大阪府、京都府などで高く16、高知県、島根県、鳥取県、福井県などで低くなっている。年間1,000万人の外国人が訪日すると仮定すると、最も少ない県でも年間約10,000人の外国人観光客が訪れている計算となる。また、同調査に基づく訪日外国人の一人当たり滞在中の平均消費単価は約13万円であり、単純計算で訪日外国人が最も少ない県でも、年間に約13億円の消費が生まれていることになる。第2-1-18図でも見たように、観光消費がもたらす国内経済への波及効果は大きいため、訪日外客数を増やすことは、地方経済にとっては大きな意味があるといえる。

15 新千歳空港、仙台空港、新潟空港、羽田空港、成田空港、中部国際空港、関西国際空港、広島空港、福岡空港、那覇空港、博多港の11空海港にて、訪日外国人に聞き取り調査を実施しているもの。

16 「訪日外国人消費動向調査」における訪日外国人には、ビジネス客も含んでいるため、東京都や大阪府で訪問率が高くなっている。

第2-1-21図 都道府県別訪問率(複数回答)
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一方で、訪日外客数が1,000万人を突破したとはいっても、フランスなどと比べるとまだまだ少ないのが現状である。第2-1-22図は、外国人訪問者数について各国を比較したものである。これを見ると、フランスや米国、中国などと比べると我が国の外国人訪問者数はまだまだ少ないことが分かる。また、同じアジアの国である、中国や韓国などと比較しても少ないことから、まだまだ伸びる余地は十分にあるといえる。実際に、観光庁では、2016年までに訪日外国人旅行者数を1,800万人17とする目標を立てている。

17 2012年3月30日に閣議決定された「観光立国推進基本計画」において、基本的な目標として掲げられた。

第2-1-22図 外国人訪問者数(上位10カ国及び韓国(23位)、日本(33位))
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第2-1-23図は、「平成24年訪日外国人消費動向調査」に基づく、訪日外国人が滞在中に行ったことを示したものである。これを見ると、最も多く行われたことは「日本食を食べること」であり、9割超の訪日外国人が回答している。次いで、「ショッピング」、「繁華街の街歩き」であり、実際行った活動は、比較的都市部でできる活動が多い。対して、第2-1-24図は、次回訪日した際に行いたいことを示したものである。これを見ると最も多く回答されたことは、滞在中に行ったことと同様で、「日本食を食べること」である。次いで、「温泉入浴」、「ショッピング」、「自然・景勝地観光」となっており、実際に滞在中に行ったことと比べると、より自然を求める活動が多い傾向にある。

第2-1-23図 訪日外国人が滞在中に行ったこと(複数回答)
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第2-1-24図 訪日外国人が次回訪日した際に行いたいこと(複数回答)
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以上より、訪日外国人は、食文化や温泉、自然・景勝地観光などに興味と関心を抱いており、食文化を中心に、エコツーリズム18やグリーン・ツーリズム19などを行うことで、何も目立った観光資源がないような地方であっても、外国人観光客を引き付けることは十分に可能であるといえる。実際に、初めて日本を訪れた外国人に聞いてみても、「日本は大都会のイメージがあったが、こんなに自然が豊かで、食材に恵まれているとは知らなかった。その意味で、特に日本の地方は非常に魅力的である。」という声はよく聞かれるところである。

なお、エコツーリズムの例としては、知床半島や小笠原諸島で行われている活動が挙げられる。これは、世界遺産である知床や小笠原諸島の自然保護を意識しながら観光をするもので、地域住民との交流も行われている。

18 「エコツーリズム」とは、環境大臣を議長とした「エコツーリズム推進会議(2003-2004年)」において、「自然環境や歴史文化を対象にし、それらを体験し、学ぶとともに、対象となる地域の自然環境や歴史文化の保全に責任を持つ観光の在り方。」と定義されている。また、「エコツーリズム推進法」(平成19年法律第105号)は、「自然環境の保全」、「観光振興」、「地域振興」、「環境教育の場としての活用」を基本理念としている。

19 「グリーン・ツーリズム」とは、農林水産省によると、「農山漁村地域において自然・文化、人々との交流を楽しむ滞在型の余暇活動」と定義されている。

知床半島でのエコツーリズム

また、グリーン・ツーリズムの例としては、富山県立山町などで行われている「体験型旅行」が挙げられる。これは、地域住民と一体になって、農村体験、味覚体験、自然・歴史体験、アウトドア体験などを行うことができるものである。

富山県立山町の農村体験

以上見てきたように、我が国のGDPは伸び悩んでおり、国内の製造業を中心に国際的な競争力が失われていく一方で、まだまだ伸び代のある観光産業の存在及びその波及効果は中小企業・小規模事業者にとっても大きな可能性を秘めている。

2020年には、東京オリンピックが決まっており、地方にとっても大きなチャンスといえよう。東京オリンピックを契機に、いかに地方にまで足を伸ばしてもらうか、その上で、いかに地方の魅力を伝え、リピーターになってもらうか、そのためにも、市区町村や都道府県の区域を越えた広域連携を通じて、我が国の魅力を広域的かつ戦略的に伝えていくことが必要となる。

コラム2-1-1.

国内での富裕層ビジネスの動き

2013年3月、京都東山の建仁寺にて、世界的に有名な富裕層向け旅行商談会、「ILTM(International Luxury Travel Market)Japan」が我が国で初開催された。ILTMは、富裕層向け旅行のバイヤー20とセラー21が一堂に会する商談会で、カンヌと上海で毎年開催されている。カンヌでは、我が国の旅行商談会「JATA旅博」の倍近い1,400社もの富裕層向け旅行関連会社が集まるため、京都市でも、その誘致に向けた取組をしてきた。

20 ここでいう「バイヤー」とは、海外の旅行会社等をいう。

21 ここでいう「セラー」とは、高級ホテルや旅行催行会社等をいう。

京都市の建物は高さ制限があり、収容客数も限られるため、国内需要の落ち込みを埋めるため、外国人観光客の客単価の向上を目指した。そこで、最も客単価の高い、富裕層ビジネスに舵を切った。2020年の東京オリンピックの開催決定に加え、2014年3月には第2回のILTMが開催されており、今後京都の富裕層向けビジネスは、ますます高まりを見せるだろう。

京都建仁寺での商談会後のセレモニー(写真は門川大作京都市長)

コラム2-1-2.

国際会議の重要性

企業会議、国際会議、展示会等の「MICE(Meeting Incentive Convention Exhibition)」は、一般の観光誘客と比べてより大きな経済波及効果が期待されることから、近年、成長分野として改めて注目を集めている。

具体的には、MICE開催地において、世界各国からの企業や研究者が一同に会することにより、国内外の関係者のネットワークが構築され、新たなビジネスチャンスやイノベーションの創出が期待できる。また、会議主催者や参加者による宿泊、飲食、観光等の幅広い分野での消費支出を通じて、開催地周辺の小規模事業者に対しても直接的な経済波及効果が見込まれる。さらに、MICEの開催により、国内外からの集客の受入れ体制やビジネス・研究環境が整備され、国や都市の国際競争力やブランド力の向上にもつながっている。

世界における国際会議の開催動向をみると、アジアや南米などの経済成長の著しい新興国を中心に開催件数が急増するなど、各国における誘致競争が激化する中、我が国のMICE分野での優位性が失われつつある。こうした状況を踏まえ、「日本再興戦略」(2013年6月閣議決定)において、海外から国内に対し、多くの人材や優れた知見、投資を呼び込み、2030年にはアジアNo. 1の国際会議開催国として不動の地位を築くことが重要施策として位置付けられている。観光庁は、MICEの誘致ポテンシャルの高い、東京都、京都市、福岡市、横浜市、神戸市を「グローバルMICE戦略都市」に指定し、海外顧客や競合都市に関する調査や海外の専門家派遣、プロモーション、域内関係者の連携体制の構築など、国と都市の協働による支援事業に取り組んでいる。

大阪で開催された国際会議【(c)JNTO】
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