第1部 平成25年度(2013年度)の中小企業・小規模事業者の動向 

第4節 実質労働生産性上昇率の企業規模間格差とその変動要因

前節では、中小製造業と大企業製造業の間の収益力格差を生み出す構造的要因として、中小製造業における価格転嫁力の低下を挙げた。

しかしながら、「生産性の向上」も収益力向上のための重要な要素である。そして、収益力を高めるための選択肢の一つとして前節で触れた製品の高付加価値化も、生産性の向上とは密接な関係にある。

そこで、本節では、前節で用いた規模別の実質労働生産性上昇率を、実質資本装備率の変化、実質資本回転率の変化及び実質付加価値率の変化の3つの要因に分解し、大企業製造業との比較において、中小製造業における生産性の実態と課題を明らかにする。

●実質労働生産性上昇率の変動要因分解について

実質労働生産性上昇率は、実質資本装備率の変化、実質資本回転率の変化及び実質付加価値率の変化の三つの要因に分解される。

ここで、「資本装備率」は、従業員一人当たりの有形固定資産と定義されるから、企業が設備投資を行えばその値は上昇する。「資本回転率」は、有形固定資産一単位当たりの売上高と定義され、生産設備一単位が生み出す売上高、すなわち生産設備の効率性(資本効率)を示すから、生産設備の効率性が上がればその値は上昇する。「付加価値率」は、売上高一単位当たりの付加価値額と定義され、売上高に含まれる付加価値額(人件費及び利益等)の割合を示すから、企業が付加価値の高い製品を作れば、その値は上昇する。

なお、労働生産性及びこれら三つの要因は、いずれも価格変化率で除す(実質化する)ことで、価格変動の影響を除いている。そして、実質労働生産性上昇率は、これら3つの要因の変化率の和として定義される23(第1-1-50図)。

23 各要因の定義を整理すれば、次のとおりである。
 実質労働生産性上昇率=実質資本装備率の変化+実質付加価値率の変化+実質資本回転率の変化
 実質労働生産性=実質付加価値/従業員数
 実質資本装備率=実質有形固定資産/従業者数
 実質資本回転率=実質売上高/実質有形固定資産
 実質付加価値率=実質付加価値/実質売上高
 実質付加価値=名目付加価値/規模別価格転嫁力指標
 実質売上高=売上高/規模別販売価格指数
 実質有形固定資産=名目有形固定資産/有形固定資産デフレータ
 ただし、有形固定資産デフレータの伸び率はゼロとした。

第1-1-50図 実質労働生産性上昇率の要因分解

●中小製造業

はじめに、中小製造業の実質労働生産性上昇率の推移と、その変動要因について見てみよう(第1-1-51図)。

第1-1-51図 実質労働生産性上昇率の推移とその変動要因(中小製造業)
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これを見ると、1970年代後半から90年代前半までの中小製造業の実質労働生産性の伸びは、活発な設備投資による実質資本装備率の高い伸びによってけん引されていたことが分かる。90年代後半に、金融機関によるいわゆる「貸し渋り」等により、実質資本装備率の伸びは一時的にマイナスとなるが24、2000年代前半には再びプラスに転じ、その後も実質労働生産性の伸びを下支えしている。この間、実質付加価値率の伸びは、プラザ合意後の円高不況に見舞われた80年代後半を除き、常にプラスで推移しており、実質労働生産性の伸びを下支えしている。特に、2000年代後半以降は、実質資本装備率に代わり、実質付加価値率の伸びが実質労働生産性の伸びをけん引していることが分かる。リーマン・ショックのあった2000年代後半及び足下の2010年度以降の3年間も、中小製造業の実質労働生産性の伸びは、実質付加価値率の伸びにけん引されて高い伸びをみせている。近年、中小製造業が、より高付加価値な製品の生産に注力していることがうかがえる。

他方、実質資本回転率は、90年代前半までは、マイナス寄与を続けており、この間の実質労働生産性の伸びに対する下押し要因となっている25。特に、バブル経済崩壊直後の90年代前半には、実質資本回転率の伸びが大きくマイナスとなったことを受けて、実質労働生産性上昇率もマイナスとなった。バブル経済の崩壊を受けて、売上高が、この間、大きく減少したことがその背景にあるものと考えられる。しかしながら、90年代後半以降は、リーマン・ショックのあった2000年代後半を除き、売上高の回復と設備投資の縮小を背景に、実質資本回転率の伸びはプラスを続けており、実質労働生産性の伸びを下支えしている。

24 この点に関し、例えば、鎌田・吉村(2010)では、「90年代後半に顕在化したといわれている、金融機関によるいわゆる『貸し渋り』が、企業の資金調達を困難化させ、以前のような資本装備率の上昇を難しくした可能性がある」としている。

25 90年代前半までの実質資本回転率のマイナス寄与は、70年代後半以降高い伸びを続けていた実質資本装備率を背景に、当時の中小製造業が設備過剰状態にあったことが示唆される。

●大企業製造業

次に、大企業製造業を見てみよう(第1-1-52図)。

第1-1-52図 実質労働生産性上昇率の推移とその変動要因(大企業製造業)
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大企業製造業も、中小製造業と同様、70年代後半から80年代にかけて、実質労働生産性は、活発な設備投資による実質資本装備率の伸びにけん引されて高い伸びを続けた。この間、実質付加価値率の動きを見ると、円高不況の80年代後半も含め、2000年代まで、伸び率はゼロ近傍で推移しており、実質労働生産性上昇率にはほとんど影響を与えていない。この間、大企業製造業は、中小製造業とは対照的に、付加価値の低い汎用品を大量に生産していたことがうかがえる26

90年代前半は、中小製造業と同様、実質資本装備率の高い伸びにもかかわらず、バブル経済崩壊による売上高の減少を背景に、実質資本回転率の伸びが大きくマイナスとなったことを受けて、実質労働生産性上昇率は一時的にマイナスとなった。

しかしながら、90年代後半に入ると、上昇を続ける実質資本装備率に加えて、実質資本回転率も上昇に転じたことから、実質労働生産性上昇率は再びプラスに転じた。2000年代に入ると、実質資本回転率の伸びによって、実質労働生産性上昇率はさらに押し上げられた。

2000年代後半は、リーマン・ショックの影響もあり、実質資本回転率の伸びがマイナスに転じ、大企業製造業の実質労働生産性上昇率も大幅なマイナスとなったが、2010年度以降は、再びプラスに転じている。

この2010年度以降の実質労働生産性の高い伸びをけん引したのは、それまで実質労働生産性上昇率の下押し要因であった実質付加価値率である。70年代後半以降、ゼロ近傍で推移していた実質付加価値率の伸びは、2010年度以降、一転して大幅なプラスとなっている。海外との競争が厳しさを増していることや為替レートが円高方向に推移した中、大企業製造業が国内で生産する製品の高付加価値化に注力し始めたことがうかがえる。

他方、実質資本装備率は、この間、70年代後半以降ではじめて大きくマイナスに転じている。2010年度以降、大企業製造業の従業員数は増加していないから、この間、大企業製造業が、過去にない規模で過剰生産設備の廃棄を進めたことが見て取れる。したがって、2010年度以降の実質資本回転率の高い伸びは、そのかなりの部分が設備廃棄の結果を反映したものと考えられる。

26 例えば、中小企業白書(1991)では、「中小企業の付加価値率の上昇率は大企業を上回っており、80年代における消費者ニーズの高度化、円高の進行等の環境変化に対して中小企業が積極的に高付加価値化を図ることにより対応してきたことがうかがえる。」としている。

●企業規模間格差の推移とその要因

最後に、以上の結果を用いて、実質労働生産性上昇率の企業規模間格差の推移とその変動要因を見てみる。

第1-1-53図は、実質労働生産性上昇率の企業規模間格差(中小製造業−大企業製造業)を、実質資本装備率要因、実質付加価値率要因及び実質資本回転率要因の三つに分解したものである。

第1-1-53図 従業者規模別の管理的職業従事者に占める女性の割合の推移
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これを見ると、1980年代から90年代前半にかけて、中小製造業の実質労働生産性上昇率は、大企業製造業を上回っていたことが分かる。その要因を見てみると、実質付加価値率要因の寄与が大きいことが分かる。実質付加価値率要因は、この間、円高不況に見舞われた80年代後半を除き、大きくプラスとなっており、当時の中小製造業が、大企業製造業と比べ、より多品種・少量生産に特化し、高付加価値製品を軸とする生産体制を展開していたことがうかがえる27

実質資本装備率要因も、80年代には大きくプラスとなっており、中小製造業の実質労働生産性上昇率が大企業製造業を上回る要因となっている。

他方、実質資本回転率要因は、多くの期間でマイナスとなっている。これは、中小製造業の生産設備の効率性が、大企業製造業と比べ、相対的に低いことが要因である。経営規模の小さい中小製造業にとって、こうした生産設備の低効率性は「構造的要因」とも呼ぶべきものである。

ところが、90年代後半以降は、リーマン・ショックにより大企業の実質労働生産性上昇率が大きく低下した2000年代後半を除き、中小製造業と大企業製造業の間の実質労働生産性上昇率格差はほとんど消滅してしまっている。その要因は、90年代後半については、金融機関によるいわゆる「貸し渋り」等により、実質資本装備率要因が一時的に大きくマイナスに転じたことが大きい。

しかしながら、2000年代前半以降は、それまでとは状況が大きく異なっている。90年代前半までは、実質資本回転率要因がマイナスとなっても、実質付加価値率要因又は実質資本装備率要因がそれを上回って伸びることで、大企業を上回る実質労働生産性の伸びを実現していた。ところが、2000年代前半以降は、実質付加価値率要因又は実質資本装備率要因の伸びが、実質資本回転率要因のマイナスを大きく上回ることができなくなっている。すなわち、近年の中小製造業は、設備投資や製品の高付加価値化の努力を引き続き行ってはいるものの、経営規模の小ささに起因する構造的な要因ともいえる実質資本回転率要因のマイナスを上回ることができず、かつて80年代から90年代前半に見られたような、大企業を上回る実質労働生産性の伸びを実現することができなくなっている。

27 前掲脚注26を参照。

●まとめ

経営規模の小さな中小製造業にとって、構造的要因ともいえる実質資本回転率を飛躍的に向上させることは容易ではない。しかしながら、今後、大企業製造業を上回るような高い実質労働生産性上昇率を持続させなければ、前節でみた価格転嫁力に加えて、今後、実質労働生産性上昇率も企業規模間の収益力格差の下押し要因となることが懸念される。

我が国経済が、90年代後半以降のデフレからようやく抜け出そうとしている今、価格の下落、売上・収益の減少、賃金の抑制、消費の低迷、価格の下落といったデフレ経済特有の悪循環を断ち切るためにも、中小製造業は、コストカットによる低価格競争を通じた収益力の維持だけではなく、製品の高付加価値化や需要を増やすことを通じた収益力の向上を目指すことが望まれる。それは、中小製造業が、大企業を上回るような高い実質労働生産性の伸びを実現し、かつて80年代から90年代前半のような輝きを取戻すことにほかならない。そのためには、中小製造業は、今後も設備投資を続けていくことで実質資本装備率の伸びを維持しつつ、製品の高付加価値化に向けた努力を一層強化して、実質付加価値率を持続的に高めていくことが必要である28。中小製造業には、設備投資と高付加価値化の二つの方向性による実質労働生産性の向上が求められることを最後に提案して、本節の締めくくりとしたい(第1-1-54図)。

28 「製品の高付加価値化」の具体的なイメージとして、日用品等の生活関連産業の例を挙げると、〔1〕素材、技術、伝統等への「こだわり」を突き詰め、コンセプト及びターゲットを明確にした上で製品企画を行うこと、〔2〕経営者がデザインを重要な経営資産として認識すること、〔3〕独自の視点で生活者と直接の接点を持ち、顧客の声を収集し、それを製品にフィードバックすること、〔4〕産業の枠を超えた連携を試みること、〔5〕世界の高付加価値市場をターゲットとして意識し、市場開拓・ブランド構築を行うこと、などが高付加価値化実現に向けた効果的な方策として提案されている(経済産業省「生活関連産業(日用品)の高付加価値化に向けた提言」(平成19年1月))。

第1-1-54図 中小製造業が実質労働生産性を向上させるための方策
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