第1部 平成25年度(2013年度)の中小企業・小規模事業者の動向 

4. 収益力の企業規模間格差とその変動要因

以下では、実際に中小製造業の価格転嫁力の低下が、どの程度、中小製造業の収益を圧迫しているかを見る。具体的には、一人当たり名目付加価値額(収益力)の変化を価格転嫁力指標の変化と実質労働生産性21の変化に分解する。なお、比較のために、大企業製造業についても、同様に、一人当たり名目付加価値額の変化を価格転嫁力指標の変化と実質労働生産性の変化に分解する(第1-1-45図)22

21 ここでいう「実質労働生産性」とは、「一人当たり名目付加価値額」から価格変動の影響を取り除いたもので、「一人当たり実質付加価値額」と定義される。以下では、簡単化のために「付加価値額」を「生産額」に置き換えて説明する。「一人当たり名目生産額」は、例えば、自動車メーカーであれば、従業者一人当たりの月間生産額(生産数量×価格)に相当する。この場合、価格変動の影響が含まれてしまっているので、生産性の変化が、従業者一人当たりの月間生産台数が変化したことによるものなのか、資材価格の変動によって乗用車一台当たりの価格が変化したことによるものなのか判別できない。他方、従業者一人当たりの実質生産額は、従業者数一人当たりの「生産数量」に相当する指標で、価格変動の影響が含まれない純粋な従業者一人当たりの月間生産台数を表すから、生産性指標としてはこちらの方が適切である。

22 以下では、資本金2千万円以上1億円未満を中小製造業、資本金10億円以上を大企業製造業としている。

第1-1-45図 収益力と価格転嫁力、実質労働生産性の関係

●収益力の低迷が続く中小製造業

まず、中小製造業について見てみると(第1-1-46図)、1970年代後半から80年代まで、実質労働生産性の高い伸びにけん引され、年率4〜5%で推移していた中小製造業の一人当たり名目付加価値額の伸びは、90年代に入ると、実質労働生産性上昇率の寄与が剥落したことを受けて、大きく縮小した。この間、中小製造業の価格転嫁力指標上昇率はゼロ近傍で推移しており、一人当たり名目付加価値額の伸びには大きな影響を与えていない。しかしながら、90年代後半以降、実質労働生産性上昇率が回復に転ずる中、価格転嫁力指標がそれを上回る大幅な低下を続けたため、中小製造業の一人当たり名目付加価値額の伸びは、2010年度以降に至るまで、ゼロ近傍で低迷を続けている。

第1-1-46図 一人当たり名目付加価値額上昇率とその変動要因(中小製造業)
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70年代から80年代にかけて実質労働生産性を上昇させる中で、価格転嫁力の低下を最小限に抑えてきた中小製造業は、90年代半ば以降、価格転嫁力の大幅な低下によって、実質労働生産性の向上が収益力の改善に結びつかない状況に陥っている。

●高い伸びを続ける大企業製造業の収益力

次に、大企業製造業を見てみると(第1-1-47図)、価格転嫁力指標上昇率が緩やかな縮小ないしは低下を続ける中、大企業製造業の収益力(一人当たり名目付加価値額上昇率)は、実質労働生産性上昇率の変化によってほぼ決定されていることが分かる。バブル経済崩壊直後の90年代前半やリーマン・ショックを含む2000年代後半には、実質労働生産性上昇率が大きくマイナスに転じたことを受けて、一人当たり名目付加価値額上昇率も大きくマイナスに転じている。これらの時期を除けば、大企業製造業の一人当たり名目付加価値額は、実質労働生産性の伸びに支えられて、年率4%前後の高い伸びを実現している。特に、2010年度以降は年率4.9%と、70年代後半以来の高い伸びとなっている。このように、近年の大企業製造業の収益力向上は、価格転嫁力の低下を最小限に抑える中、実質労働生産性を持続的に高めることで実現されているといえる。

第1-1-47図 一人当たり名目付加価値額上昇率とその変動要因(大企業製造業)
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●拡大する収益力格差

最後に、一人当たり名目付加価値額上昇率(収益力)の企業規模間格差(中小製造業−大企業製造業)の推移とその変動要因を見てみよう(第1-1-48図)。

第1-1-48図 一人当たり名目付加価値額上昇率の企業規模間格差(中小製造業−大企業製造業)とその変動要因
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これを見ると、1980年代から90年代前半にかけて、中小製造業の一人当たり名目付加価値額上昇率は、大企業製造業を上回っていたことが分かる。しかしながら、90年代後半以降、この関係は逆転し、リーマン・ショックのあった2000年代後半を除き、中小製造業の一人当たり名目付加価値額の伸びは、大企業製造業を下回るようになっている。その要因を見ると、価格転嫁力指標要因が常にマイナス、すなわち、中小製造業の価格転嫁力指標の伸び率が常に大企業製造業を下回っていることが分かる。そうした状況は、原材料価格の高騰局面が続いた2000年代に入り、一層強まっている。

こうした中、80年代から90年代前半までの間、中小製造業の一人当たり名目付加価値額(収益力)の伸びが大企業製造業を上回っていたのは、価格転嫁力で大企業に劣る中小製造業が、この間、大企業を上回る実質労働生産性の伸びを実現していたためであることが分かる。

しかしながら、90年代後半以降、中小製造業の一人当たり名目付加価値額上昇率は、リーマン・ショックのあった2000年代後半を除き、価格転嫁力指標要因による下押し圧力によって、大企業製造業を大きく下回るようになっている。この間、実質労働生産性要因による規模間格差の上押しはほとんど消滅している。

このように、中小製造業と大企業製造業の間の収益力格差には、両者間の価格転嫁力の格差が構造的な下押し要因として大きく影響していることが分かった。

したがって、今後、中小製造業が、収益力(一人当たり名目付加価値額上昇率)の企業規模間格差を解消していくためには、価格転嫁力を高めるとともに、労働生産性を一層向上させることが求められる。

●まとめ

以上、中小製造業の価格転嫁力は、近年、大きく低下していることが分かった。そして、その要因として、中小製造業の仕入価格が大企業製造業を大きく上回って上昇していることを指摘した。その結果、中小製造業の収益力は、高い実質労働生産性の伸びを実現しているにもかかわらず、それを上回る価格転嫁力の低下によって、近年、低迷を続けている。

したがって、中小製造業が自身の収益力を高めるためには、高い実質労働生産性の伸びを持続させつつ、価格転嫁力を高めていくことが必要である(第1-1-49図)。

第1-1-49図 中小製造業の収益力向上のための方策

価格転嫁力は、仕入価格の上昇分をどれだけ販売価格に転嫁できるかで決まる。しかしながら、製品市場の需給動向に大きく依存する販売価格を企業自身の努力によって高めることは容易ではない。

他方、価格転嫁力の向上は、仕入価格の上昇を抑制することによっても達成できる。特に、近年のように、原材料価格の高騰が続く中では、仕入価格の上昇を少しでも抑制することが、価格転嫁力の向上にとって不可欠となる。中小製造業の仕入価格上昇率が大企業を上回っている最大の要因は、中小製造業の原材料等の調達規模が大企業に比べ小さいことにある。そのため、原材料等の共同購入を目的とする組合を組織し、複数の中小企業が原材料等をまとめて購入することで、大量購入による仕入価格の引下げを図る取組も効果的である。

加えて、実質労働生産性を高め、製品市場の需給変動に左右されない高い競争力を有するような高付加価値製品を継続的に市場に投入することができれば、生産コストの上昇局面においても、収益力の向上を実現できるようになるであろう。

次節では、中小製造業におけるこの実質労働生産性の現状とそれを向上させる方策について考察する。

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