第1部 平成25年度(2013年度)の中小企業・小規模事業者の動向 

3. 低下が続く中小製造業の価格転嫁力と拡大する規模間格差

以下では、企業の価格転嫁の動向をより定量的にみるため、「付加価値デフレータ」を用いた企業規模別の「価格転嫁力指標」という新たな指標を作成し、その動きを「販売価格要因」と「仕入価格要因」の二つに分解する19

そして、中小製造業及び大企業製造業の価格転嫁力(仕入価格の上昇分をどの程度販売価格に転嫁できているかを表す)の長期的な変化と、その変化をもたらしている要因を明らかにする。

19 「付加価値デフレータ」は、企業が生み出す付加価値の「価格」とも言うべきものである。付加価値は、企業の売上高(販売価格×販売数量)から材料費(仕入価格×仕入数量)を控除したものであるから、販売数量と仕入数量の関係を一定とすれば、付加価値デフレータの変化は、仕入価格の変化(仕入価格要因)と販売価格の変化(販売価格要因)によって決まる。したがって、この付加価値デフレータは、「価格転嫁の動向を見極めるための指標」といっても良い。詳細は、付注1-1-1 5.参照。

●価格転嫁力指標について

一般に、企業が仕入価格の上昇分をすべて販売価格に転嫁しようとした場合、必要な販売価格の上昇幅は、売上高に占める材料費の割合によって決まる。したがって、完全に転嫁できれば、売上高に販売価格の上昇率を乗じた額(売上増加額)は、材料費に仕入価格の上昇率を乗じた額(仕入増加額)と一致する。このとき、売上高から材料費を除いた額(付加価値額)の値上げ前後の変化率(=価格転嫁力指標の変化率)もゼロである(価格転嫁力は不変)(第1-1-39図)。

第1-1-39図 仕入価格10%上昇、完全転嫁のケース
Excel形式のファイルはこちら

他方、完全に転嫁できなければ、売上増加額は仕入増加額を下回るため、売上高から材料費を除いた額(付加価値額)の値上げ前後の変化率(価格転嫁力指標の変化率)はマイナスとなる(価格転嫁力の低下)(第1-1-40図)。

第1-1-40図 仕入価格10%上昇、一部転嫁のケース
Excel形式のファイルはこちら

逆に、仕入価格の上昇分以上に販売価格に追加的に転嫁する場合、売上増加額は仕入増加額を上回るため、売上高から材料費を除いた額(付加価値額)の値上げ前後の変化率(価格転嫁力指標の変化率)はプラスとなる(価格転嫁力の上昇)(第1-1-41図)。

第1-1-41図 仕入価格10%上昇、追加転嫁のケース
Excel形式のファイルはこちら

●低下する中小製造業の価格転嫁力

第1-1-42図は、1970年代半ば以降の中小製造業の価格転嫁力指標の変動を販売価格要因と仕入価格要因に分解したものである。これを見ると、80年代に入り持続的な上昇をみせていた中小製造業の価格転嫁力指標は、90年代半ば頃になると、一転して下落に転じ、それ以降は長期的な低下傾向にある。販売価格要因と仕入価格要因の動きを見ると、低下の主因は、90年代半ばから2000年代半ばまでは、主に販売価格の上昇難であったことが分かる。1990年のバブル経済崩壊以降、我が国経済が長期のデフレに見舞われていた中、中小製造業の価格転嫁力は、仕入価格の下落を上回る販売価格の下落によって、大きく損なわれていたことが見て取れる。

第1-1-42図 価格転嫁力指標上昇率の推移とその変動要因(中小製造業)
Excel形式のファイルはこちら

他方、2000年代半ば以降は、逆に、販売価格の上昇を上回る大幅な仕入価格の上昇によって、中小製造業の価格転嫁力はさらに低下し続けたことが分かる。そして、リーマン・ショック後の仕入価格の急落によって、いったん回復したかに見えた中小製造業の価格転嫁力は、2010年に入ると、仕入価格が上昇に転じたことを受けて、再び低下し始めている。そして、この間、中小製造業の販売価格はほとんど上昇しておらず、販売価格への転嫁が進んでいないことを示している。足下の2013年第3四半期には、ようやく販売価格が上昇する兆しを見せているが、仕入価格も再び上昇しており、中小製造業の価格転嫁力は引き続き低下し続けている。

●安定的に推移する大企業製造業の価格転嫁力

他方、大企業製造業の価格転嫁力の動きを見てみると(第1-1-43図)、1970年代半ば以降、ほぼゼロ近傍で推移しており、中小製造業とは対照的に、きわめて安定した動きをみせている。2000年代半ば以降及び2010年以降の二度の仕入価格上昇局面においても、大企業製造業の価格転嫁力の低下は、中小製造業に比べ相対的に小さなものにとどまっている。その要因は、大企業製造業の場合、仕入価格上昇局面における仕入価格の上昇幅が、中小製造業と比べて、相対的に小さいことにある。

第1-1-43図 価格転嫁力指標上昇率の推移とその変動要因(大企業製造業)
Excel形式のファイルはこちら

●拡大する価格転嫁力の規模間格差

こうした中小製造業と大企業製造業の間の価格転嫁力の差(企業規模間格差)について、企業規模別の価格転嫁力指標によってその長期的な推移を見てみると(第1-1-44図)、1970年代半ば以降、企業規模間格差(中小製造業−大企業製造業)は、マイナスの時期が多く見られるものの、総じて、縮小する傾向にあることが見て取れる。我が国中小製造業の価格転嫁力は大企業製造業を常に下回ってはいたものの、その格差は縮小しつつあったことが分かる。

第1-1-44図 価格転嫁力指標上昇率の規模間格差(中小製造業−大企業製造業)
Excel形式のファイルはこちら

しかしながら、90年代に入ると、価格転嫁力の格差は急速な拡大に転じる。この間、景気拡張期においても、格差は目立った縮小を見せなくなっている。90年代を境に、中小製造業の価格転嫁力には、大きな構造変化が生じていたことが示唆されている20。リーマン・ショックの2008年前後に格差はいったん縮小に転ずるが、解消するまでには至らず、逆に2011年に入り再び拡大しつつある。中小製造業の収益環境は引き続き厳しい状況にあると言える。

20 ここでいう「構造変化」としては、近年の中小製造業における一般機械や輸送機械、電気機械などといった加工組立型産業の比重の増加が挙げられる(付注1-1-2付注1-1-3参照)。加工組立型産業の特徴は、部品や中間財の生産を中小製造業が担い、それを大企業に納入し、大企業は完成品を組み立てるという企業規模間での垂直連携構造にある。中小製造業の価格転嫁力指標の長期的な低下は、こうした産業構造の変化、すなわち、加工組立型産業の比重が増加し、その結果、大企業に納入する立場の中小企業の割合が増えたことがその背景にあるものと考えられる。

前の項目に戻る     次の項目に進む