第1部 平成25年度(2013年度)の中小企業・小規模事業者の動向 

第3節 中小製造業の価格転嫁動向

前節で見たように、2012年10-12月期から為替レートの円安方向への動き等を背景に原材料価格が上昇しており、一定程度の価格転嫁は行われていると推察されるものの、2013年の中小製造業の収益環境は引き続き厳しいといわざるを得ない。

一般に、企業にとって、輸入原材料をはじめとする原材料12価格の上昇は、それが自社の製品価格に完全に転嫁できるのであれば、収益面での大きな問題とはならず、原材料価格の上昇に伴う中間投入額13の増加は、最終的に消費者が負担することとなる。

しかしながら、製品価格に転嫁できない場合には、費用が増加した分、企業収益は減少することとなり、企業経営にとっては大きな足かせとなる。

特に、中小企業の場合、価格交渉力が弱いなどの理由から、増加費用の製品価格への転嫁が円滑に行えない企業が現れることが懸念される。したがって、仕入価格14と収益の関係を分析する場合には、仕入価格の上昇を製品価格に転嫁できるかどうかが、重要なポイントとなる。

本節では、まず、70年代半ばから最近までの企業物価動向を概観する。次いで、過去の物価上昇局面において、中小製造業が、仕入価格の上昇分のうち、どの程度を自身の製品価格に転嫁できているか(以下、「価格転嫁力」という。)について、大企業製造業との比較において、定量的に分析する。そして、足下では、販売価格の上昇によって転嫁は一定程度進んでいるものの、長期的には、中小製造業の価格転嫁力は低下し続けていることを明らかにする。

次いで、この価格転嫁力と収益力(一人当たり名目付加価値額15)の関係を分析することを通じて、価格転嫁力の低下が中小製造業の収益力にどの程度の影響を与えているかを明らかにする。

12 ここでいう「原材料」とは、第一次産業で生産された未加工の原材料や燃料を指す。

13 以下では、原材料に、後述する中間財を加えたものを「中間投入」という。

14 「仕入価格」とは、後述する「中間財価格」と「原材料価格」を合成したものと定義される。

15 「一人当たり名目付加価値額」とは、名目付加価値(法人企業統計年報に基づくもので、人件費、動産・不動産賃貸料、租税公課、営業利益の合計)を従業者数で除したもので、企業の稼ぐ力、すなわち収益力を表す。

1. 我が国製造業を取り巻く企業物価の動向

●1970年代から90年代までの動向

第1-1-36図は、日本銀行「企業物価指数」を用いて、我が国の原材料価格、中間財価格16及び工業製品価格について、1970年以降の長期的な推移を見たものである。

16 「中間財」とは、最終財を生産するために使用される部品や加工品のことをいう。

第1-1-36図 企業物価指数の長期推移
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これを見ると、まず、二度のオイルショックに見舞われた1970年代は、原材料価格が急騰する中、中間財、工業製品価格もこれとほぼ同じペースで大幅な上昇を続けた。こうしたことから、当時の企業は価格転嫁を比較的円滑に行えていたことがうかがえる。その結果、原材料価格の変動は激しかったものの、企業収益に与えた影響は限定的であったものと考えられる。1980年代に入ると、一転して、原材料価格は大幅な下落に転じたが、工業製品価格の下落幅は相対的に小さなものにとどまった。その後、80年代後半から90年代を通じて、工業製品価格は、原材料価格が低迷を続ける中、緩やかな低下を続けた。こうしたことから、80年代後半以降は、企業収益にとっては極めて良好な環境が長期間にわたり形成されていたことがうかがえる。

●2000年代以降の動向

ところが、2000年代に入ると、原材料価格が大幅な上昇に転じ、中間財価格も上昇に転じる中、工業製品の価格上昇がこれらに追いつけない状況が出現する。この間、原材料価格の上昇幅は、1999年1月の44.7(2010年=100)からリーマン・ショック直前の2008年8月には164.1へと約3.8倍に達したが、同期間の工業製品価格の上昇幅はわずか1.3倍にとどまった。90年代とは対照的に、2000年代の企業の収益環境はきわめて厳しい状況に陥ったことが見て取れる。

その後、リーマン・ショックを受けて、一旦大きく低下した原材料価格は、2009年に入り再び上昇に転じた。2013年12月の原材料価格は142.4と、2009年1月の80.7の1.8倍まで上昇している。他方、2013年12月の工業製品価格は103.2と、2009年1月の100.4からほとんど上昇しておらず、企業の収益環境は再び厳しい状況に置かれていることがうかがえる。

特徴的なのは、2000年以降の原材料価格上昇局面における中間財価格の動きである。70年代の原材料価格上昇局面における中間財価格は、原材料価格の高騰に連動して上昇していたが、2000年以降の上昇局面では、原材料価格に比べてその上昇ペースは緩やかなものとなっている。特に、2009年以降の原材料価格の上昇局面では、中間財価格の上昇はほとんど見られず、両者の動きは大きく乖離している17。この結果、企業の中間投入コストに相当する原材料価格と中間財価格を合成した指数の動きは、70年代やリーマン・ショック時に比べ、はるかに緩やかなものとなっている。中間投入に占める原材料の割合が高い鉄鋼、セメント、化学などの素材型産業にとっては、リーマン・ショック時と同等の厳しい状況となっていることがうかがえるが、中間投入に占める原材料の割合が低く、部品等の中間財が占める割合の高い輸送機械、電気機械などの加工・組立型の産業にとっては、中間投入コストの上昇が収益に与える影響は、相対的に小さなものになっていると考えられる。

17 このように、近年、国内の中間財価格が上昇しにくくなった要因としては、先進諸国からの生産技術移転の進展等を背景に、アジア等新興諸国の生産技術が向上したことを受けて、我が国製造業による、これら諸国からの高品質で安価な中間財の輸入が増加したためと考えられる。

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