第2部 自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者 

2 関係者からの理解

円滑な事業承継のためには、社内外の関係者から事業承継に対する理解を得ることも重要である。周囲に認められないまま、後継者に事業を引き継げば、後継者の経営主導に支障を来すであろう。

第2-3-21図は、社内外の関係者から承継への理解を得るために効果的な取組を示したものであるが、規模別に見ると、小規模事業者では、「後継者が自社で活躍すること」が、中規模企業では、「後継者を支える組織体制を構築すること」が、最も高い割合になっている。

事業規模が大きくなるほど、経営者が独力で企業を運営することは難しくなるため、特に、中規模企業においては、後継者を支える経営幹部の養成や組織体制づくりによって、社内外の関係者から承継への理解を得ていくことが重要と考えられる。

規模別の社内外の関係者から承継への理解を得るために効果的な取組(複数回答)
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以下では、経営者として成長し、自社の経営を改善させたこと等で、社内外の関係者との信頼関係を構築した企業を事例として示す。

事例2-3-11:株式会社ヒサノ

現社長が試行錯誤して経営を改善し、社内外の関係者との信頼関係を築いた企業

熊本県熊本市の株式会社ヒサノ(従業員88名、資本金1,000万円)は、精密機器等の中重量物の運送等を行う企業である。

同社の久保誠社長は、2004年、先代社長である義父が病に倒れたことで、経営の舵取りを任された妻を支えようと、前職を辞して、同社に入社した。しかし、運送業に従事した経験がない久保社長に対する従業員の反発は大きく、後継者として社内から認められることは容易ではなかった。

そこで、久保社長は、民間の後継者育成研修を1年にわたって受講して、経営者に求められる強い意志、経営ノウハウ等を身に付け、また、業界団体の半年間の研修を受講して、運送原価計算等の知識を習得した。さらに、政府系金融機関が主催する若手経営者の会に参加して経営者の人脈を広げ、他社の経営者から経営に関する助言を受けた。

経営者に必要な能力の向上に努めた久保社長は、自ら大型案件の受注を獲得するなど営業実績を上げた。また、運送業者と施工業者が別々に担っていた、機器の運送と設置工事を一貫して行うことで、顧客の物流コストを低減する取組を推進し、同社の受注増に貢献した。

従業員に対しては、一人一人の意見を尊重し、謙虚な姿勢で本音のコミュニケーションを心掛けた結果、徐々に従業員から信頼されるようになった。また、取引金融機関に対しても、経営計画書を提出したり、毎期の決算報告を行ったりするなど、関係維持を図っている。

2008年の社長就任以降は、リーマン・ショックの影にり、取引先の製造業の業況が悪化し、売上を伸ばすことが難しい状況であったが、荷受けの集約、効率的な従業員配置等の経費削減策に取り組み、利益率を向上させてきた。現在は、久保社長が営業や経営管理を担当妻の久保尚子取締役が総務を担当して、二人三脚で同社を経営している。

同社の運搬作業

同社の運搬作業

コラム2-3-5

後継者の有無別の事業承継の準備状況

後継者の有無によって、事業承継に向けた準備の状況には、どのような違いがあるのだろうか。

事業承継準備の取組度合いを見ると、後継者が決まっている企業は、「十分している」、「ある程度している」と回答する割合が、約7割に上っているのに対し、後継者が決まっていない企業は、後継者候補がいる企業で3割強、後継者候補がいない企業では1割強にとどまる22

22 規模別の事業承継準備の取組度合いについては、付注2-3-10を参照。

後継者の有無別の事業承継準備の取組度合い

後継者の有無別の事業承継準備の取組度合い
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事業承継の準備として取り組んでいることを見ても、大半の項目で、後継者が決まっていない企業は、後継者が決まっている企業と比べて、取組が遅れている状況が見て取れる。

事業承継を円滑に進めるためには、まず、後継者を確保する必要があるといえよう。

後継者の有無別の事業承継の準備として取り組んでいること(複数回答)

後継者の有無別の事業承継の準備として取り組んでいること(複数回答)
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コラム2-3-6

事業承継に関する知識の習得と相談の状況

前掲第2-3-15図において、経営者が特に関心のある事業承継の知識を示した。そこで、事業承継に関する知識を備えるために、何らかの手段を活用したことがあるかを見ると、中規模企業の約3分の2、小規模事業者の5割強で、活用した手段があることが見て取れる。

具体的な手段としては、「顧問税理士等への照会」を挙げる企業が最も多く、「本・書籍」が続く。さらに、中規模企業では、小規模事業者よりも、「経営コンサルタント・金融機関のセミナー」と回答する割合が高くなっている。規模による差はあるが、経営者が積極的に、事業承継に関する知識の習得に努めていることがうかがえる。

規模別の事業承継に関する知識を得るために活用した手段

規模別の事業承継に関する知識を得るために活用した手段
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また、円滑に事業を引き継ぐ上では、経営者自身が事業承継に関する知識を備えるだけではなく、社内外の関係者や専門家と相談することも、重要であると考えられる。事業承継に関して相談している先を見ると、「税理士・公認会計士」と回答する割合が最も高いが、後継者の養成に関しては「他社の経営者」を、後継者の選定に関しては「親族」を挙げる企業も比較的多い。

相談内容別の事業承継について相談している先(複数回答)

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コラム2-3-7

業種別の事業承継の現状と課題

ここまで、中小企業・小規模事業者の事業承継の現状や課題について、主に規模別に見てきたが、業種別に見た場合、どのような共通点又は相違点があるのであろうか。

まず、経営者が60歳以上の企業について、経常利益が減少傾向にある企業の割合を見ると、おおむね過半の企業が、減益傾向にあることが分かる。特に、宿泊業、飲食サービス業や卸売業、小売業では、減益傾向の企業が6割前後と高くなっており、経営において経営者に依存するところが大きいと考えられる。

業種別の経常利益が減少傾向の企業の割合

業種別の経常利益が減少傾向の企業の割合
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次に、事業承継時期が0〜9年前の企業について、現経営者と先代経営者の関係を示したものを見ると、割合に差はあるものの、ほとんどの業種の企業で、親族への事業承継の割合が高くなっている。一方、専門・技術サービス業、情報通信業の企業では、親族以外への事業承継の割合が高く、特に、情報通信業の企業では、親族以外への事業承継が大半を占めている。

業種別の現経営者と先代経営者の関係

業種別の現経営者と先代経営者の関係
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また、経営者に占める創業者の割合を見てみると、医療、福祉の企業では、創業者が8割弱に上っている。一方、運輸業、製造業の企業では、創業者は約3割であり、事業承継の経験がある企業が多い。

業種別の経営者に占める創業者の割合

業種別の経営者に占める創業者の割合
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さらに、経営者が50歳以上の企業について、経営者引退後の事業継続に対する意向を見ると、いずれの業種の企業でも、「事業を継続させたい」と回答する割合が過半を超えるが、情報通信業の企業の約8割が、事業の継続を希望しているのに対し、医療、福祉の企業では、約6割にとどまる。また、廃業を希望する医療、福祉の企業は、約2割に上っている。

業種別の経営者引退後の事業継続についての方針

業種別の経営者引退後の事業継続についての方針
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前掲第2-3-8図と同様、業種別に見ても、企業は、経営者引退後の事業継続に、おおむね積極的であることが分かったが、前掲第2-3-12図第2-3-13図で示したように、後継者に事業を引き継ぐ際には、多様な問題が起こり得る。

後継者・後継者候補がいる企業のうち、そうした問題の発生を予見している企業は、どの程度いるのかを示す。親族を後継者・後継者候補とする企業について見ると、いずれの業種でも、7割前後の企業が、問題になりそうなことがあると考えている。

業種別の親族に事業を引き継ぐ際の問題の有無

業種別の親族に事業を引き継ぐ際の問題の有無
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また、親族以外を後継者・後継者候補とする企業についても、親族を後継者・後継者候補とする企業と比べてやや少ないが、5〜7割の企業が、問題になりそうなことがあると考えている。

業種別の親族以外に事業を引き継ぐ際の問題の有無

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それでは、実際に事業承継の準備を進めている企業はどの程度あり、また、事業承継の準備としてどのようなことに取り組んでいるのであろうか。経営者が50歳以上の企業について見てみたい。

事業承継の準備の取組度合いについて、「十分している」、「ある程度している」と回答した企業の割合を示したものを見ると、製造業、運輸業の企業は5割強に上っているのに対し、情報通信業の企業では4割弱にとどまっている。

業種別の事業承継の準備をしている企業の割合

業種別の事業承継の準備をしている企業の割合
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また、事業承継の準備として取り組んでいることを示したものを見ると、いずれの業種の企業でも、「後継者の資質・能力の向上」と回答する割合が最も高く、「後継者を支える人材を育成すること」、「取引先との関係を維持すること」も、多くの企業で挙げられている。事業承継においては、後継者の養成が重要な課題と考えられていることがうかがえる。

業種別の事業承継の準備として取り組んでいること(複数回答)

業種別の事業承継の準備として取り組んでいること(複数回答)

後継者が求められることは、業種によって異なるため、それぞれの業種の企業は、自社の経営者として必要な資質・能力等を勘案して、後継者の養成に取り組むことが求められよう。

業種別の後継者を決定する際に重視すること(複数回答)

業種別の後継者を決定する際に重視すること(複数回答)

業務多忙な企業が、他の経営課題に優先して、将来の世代交代を見据えた事業承継の準備に取り組むことは、容易ではないだろう。事業承継の準備の大部分は、経営者自身が取り組まねばならないことであり、特に、中小企業・小規模事業者に多いオーナー経営者の負担は、非常に大きいと考えられる。

しかし、準備の不足するままに、突然の事業承継を迎えれば、新たな経営者が多難な事業運営を迫られることはもちろん、廃業に追い込まれることもあり得る。経営者は、事業承継の準備を先送りせずに、社内外の関係者や専門家、公的機関等の助力も得ながら、取り組んでいくことが求められる。

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