第2部 自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者 

2 承継形態別の現状と課題

前掲第2-3-7図では、親族への事業承継の割合が低下し、親族以外への割合が上昇していることを示した。親族を後継者・後継者候補(以下、本項では単に「後継者」という)とする場合、親族以外を後継者とする場合について、どのような視点で後継者が選ばれ、また、それぞれの事業承継の際に、どのような問題が起こり得ると認識されているのであろうか。本項では、承継形態別の現状と課題を見ていく11

まず、株式会社帝国データバンクのデータベースを用いて、2008年から2012年までの現経営者の承継形態を規模別に見ると、小規模事業者は、親族への事業承継が6割強であるのに対し、中規模企業では4割強にとどまる。中規模企業は、社外の第三者を含めた親族以外による承継が、親族による承継を上回る状況となっている12(第2-3-10図)。

11 以下の分析(第2-3-11〜14図)では、後継者・後継者候補がいる企業についてのアンケート調査結果をもとにしている。規模別の経営者と後継者・後継者候補の関係については、付注2-3-4を参照。また、規模別・経営者年齢別の後継者の決定状況については、付注2-3-5を、経営者年齢別の後継者が決まっていない理由については、付注2-3-6を参照。

12 前掲第2-3-7図と同様の調査内容を示したものであるが、調査対象となる企業や期間が異なるため、各承継形態の割合は一致していない。

第2-3-10図 規模別の現経営者の承継形態
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次に、親族以外への事業承継が多い中規模企業について、後継者の選定理由を見る。第2-3-11図は、親族を後継者とする企業の、親族を後継者とした理由と、親族以外を後継者とする企業の、親族以外を後継者とする理由について、共通あるいは正反対の関係にある項目を、まとめて示したものである13

これを見ると、親族以外を選択する理由として多く挙げられているのは、「役員・従業員の士気向上が期待できる」、「役員・従業員から理解を得やすい」といった、役員・従業員との関係に関連したものであることが分かる。相対的に従業員規模が大きく、経営における役員・従業員の役割が大きい中規模企業では、役員・従業員の士気向上等の観点から、親族以外の後継者が選択され、その結果、親族以外への事業承継の割合が、高まっているのではないかということがうかがえる。

また、親族を選択する理由としては、「血縁者に継がせたい」に加え、自社株式等や借入金の個人保証の引継ぎが容易であること、金融機関との関係維持が容易であることといった企業の財務・経営資産に関連した項目が、多く挙げられている。

13 小規模事業者の親族/親族以外を後継者とする理由については、付注2-3-7に示しているが、中規模企業と傾向は変わらない。
第2-3-11図 中規模企業の親族/親族以外を後継者とする理由(複数回答)
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一方、親族による承継と親族以外による承継では、それぞれどれほど問題があり、その内容はどういったものであると考えられているのであろうか。

後継者への事業承継の際に起こり得る問題を見ると、親族に事業を引き継ぐ際には、中規模企業の7割強、小規模事業者の6割強が、問題になりそうなことがあると考えている(第2-3-12図)。具体的な問題としては、「経営者としての資質・能力の不足」を挙げる企業が約6割に上っている14。規模別に見ると、中規模企業では、「相続税、贈与税の負担」と回答する割合も、約4割と比較的高くなっている。

14 後継者の養成については、次節で詳細に見ていく。
第2-3-12図 規模別の親族に事業を引き継ぐ際の問題
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また、親族以外に事業を引き継ぐ際も、親族への事業承継と比べてやや少ないが、6割強の企業が、問題になりそうなことがあると考えている(第2-3-13図)。具体的な問題としては、借入金の個人保証や資産・負債の引継ぎに関することを挙げる企業が多い。特に、中規模企業においては、借入金の個人保証の引継ぎと後継者による自社株式の買取りが、小規模事業者と比較して、大きな問題になり得ると考えられている。

第2-3-13図 規模別の親族以外に事業を引き継ぐ際の問題
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コラム2-3-3

事業承継税制の拡充

中小企業経営者が高齢化してきており、事業承継の円滑化は喫緊の課題となっている。そこで、非上場株式等の相続税、贈与税について納税猶予の特例を認める、「事業承継税制」について、適用要件等の見直しを通じ、制度の使い勝手の大幅な改善を図る。

現行制度概要 【2009年度税制改正において創設】

○ 後継者(先代経営者の親族に限る)が、先代経営者から相続・贈与により非上場株式を取得した場合に、その80%分(贈与は100%分)の納税を猶予。

○ 相続・贈与後5年間は以下の要件を満たさないと納税猶予は打切り。

・雇用の8割以上を毎年維持

・後継者が、会社の代表者を継続

・先代経営者が役員(有給)を退任(贈与税の場合)等

○ 5年後以降も株式を保有し事業を継続すれば、後継者死亡又は会社倒産等の時点で納税免除。

改正概要 ※原則として、2015年1月から施行

(1)親族外承継の対象化

(1)親族外承継の対象化

(2)雇用8割維持要件の緩和

(2)雇用8割維持要件の緩和

(3)納税猶予打切りリスクの緩和

(3)納税猶予打切りリスクの緩和

(4)役員退任要件の緩和

(4)役員退任要件の緩和

(5)事前確認制度の廃止(2013年4月施行)

(5)事前確認制度の廃止(2013年4 月施行)

(6)猶予税額の計算方法の変更

(6)猶予税額の計算方法の変更

親族以外の後継者に、借入金の個人保証を引き継ぐことが困難であるのは、どういった企業であろうか。第2-3-14図を見ると、親族以外に事業を引き継ぐ際に、何らかの問題が起こり得ると回答する企業のうち、債務超過の企業は、個人保証を引き継ぐことが困難であると考えている企業が、約6割に上る。しかし、それ以外の企業でも、純資産規模の大きさにかかわらず、3割強が、個人保証の引継ぎが困難であると考えている。個人保証の引継ぎは、親族以外への事業承継における課題として、留意する必要があろう15

15 前掲事例2-3-9のように、後継者への事業承継に向けた準備の一環として、金融機関と相談し、借入金の個人保証の解除に取り組んだ企業もある。また、親族内承継であるが、周到な準備で個人保証の問題に対応した企業として、後掲事例2-3-10がある。
第2-3-14図 純資産規模別の親族以外に事業を引き継ぐ際の問題として、借入金の個人保証の引継ぎが困難と回答する企業の割合
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コラム2-3-4

中小企業における個人保証等の在り方研究会の開催

なぜ、金融機関から借入する際に、経営者の個人保証が必要なのか。「平成22年度個人保証制度及び事業再生に関する金融機関実態調査16」により、金融機関が個人保証を求める理由を見ると、個人保証には、経営への規律付けや、信用補完として資金調達の円滑化に寄与する面があると分かる。

16 中小企業庁の委託により、山田ビジネスコンサルティング(株)が、金融機関543機関(都市銀行、信託銀行、地方銀行、第二地方銀行、その他銀行、信用金庫、信用組合、政府系金融機関)を対象に実施した調査。有効回答率80.3%。

金融機関が個人保証を求める理由(複数回答)

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一方で、借入金の個人保証は、意欲的な事業展開や、早期の事業再生を阻害する要因となっているほか、後継者への事業承継を困難にさせる一因となっているなどの指摘がある。財務内容が良好であるなどの特徴を有する一部の企業では、個人保証を行っていないと見られるが、個人保証制度は、中小企業金融における融資慣行として定着しており、こうした問題への対応は、重要な政策課題である。

金融機関が考える個人保証を徴求しない企業の特徴(複数回答)

金融機関が考える個人保証を徴求しない企業の特徴(複数回答)
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このため、学識経験者、実務者、金融機関や中小企業経営者等を構成員として、中小企業庁と金融庁共催による「中小企業における個人保証等の在り方研究会」を、2013年1月に開催した(第1回)。

本研究会では、中小企業における個人保証等の課題全般を、個人保証の契約時における課題(個人保証の活用実態や保証・担保に過度に依存しない新しい融資慣行や方法等)と、個人保証の契約後における課題(再生局面等における個人保証の在り方等)の両局面において整理するとともに、解決に向けた具体的な方策について検討を行っている17

17 詳細は、中小企業庁「中小企業の個人保証等の在り方研究会」を参照。 http://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/kojinhosho/index.html

以上、後継者選びの現状と課題に関して見てきたが、後継者は、経営者の親族から親族以外へと、徐々に変わってきている状況が確認された。しかし、特に、小規模事業者において、依然として、後継者に血縁関係を求める経営者は多く、後継者の確保を難しくしている可能性がある。後継者の選定に当たっては、親族以外の役員・従業員や社外の第三者も含めて検討する必要があろう。

また、承継形態によって違いはあるものの、事業承継を阻害する多様な問題が起こり得ることが示されており、事業承継を希望する企業においては、そのような問題が起こらないように準備していくことが、円滑な事業承継に向けた課題となる。

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