2 事業承継のタイミング
次に、後継者が事業を承継するのに、最適な年齢を見てみる。第2-3-4図は、事業承継時の現経営者の年齢別に、事業承継のタイミングを示したものであるが、「ちょうど良い時期だった」と回答する割合が最も高い年齢層は、40〜49歳である。
事業承継のタイミングについて、具体的で理解しやすいものを示すため、「ちょうど良い時期だった」と回答する現経営者の承継時の平均年齢を見ると、43.7歳となる。この年齢と、最近5年間の、現経営者の承継時の平均年齢(50.9歳)を比べると、最適な年齢は、実際の年齢よりも約7年早く、また、「もっと早い時期の方が良かった」と回答する現経営者の承継時の平均年齢(50.4歳)でも、実際の平均年齢を下回っており、後継者への事業承継は、総じて遅れているものと推測される2。
事業承継の最適なタイミングは、個々の企業で、それぞれの置かれた状況等により、異なることはいうまでもない。以下では、早い時期に経営を任された後継者の新たな挑戦によって、事業が拡大している企業の事例を示す。
事例2-3-1 有限会社佐藤養助商店
代々の経営者が、地域の名産品を広める取組に挑戦し続けている老舗企業
秋田県湯沢市の有限会社佐藤養助商店(従業員225名、資本金1,000万円)は、1860年の創業以来、地域の名産品である稲庭うどんの知名度向上に、力を尽くしてきた老舗企業である。
同社の先代社長である佐藤養助会長は、1967年、23歳で家業を継ぐと、稲庭うどんの市場拡大を目指して、1972年に、一子相伝の秘法であった、稲庭うどんの製造技術を公開した。稲庭うどんの製造が地域に広まれば、雇用機会が生まれ、都会へ出稼ぎに行く人を減らすことができるとも考えていた。それまで、同社では、家族だけで稲庭うどんを製造していたが、地域の人々を職人として育て上げ、徐々に生産量を増やしながら、稲庭うどん製造を地場産業へと発展させた。佐藤会長は、自身の経験から、若いときにこそ、思い切った改革を実現できると考え、長男である佐藤正明社長への事業承継を、早いうちに行う意向を持っていた。
佐藤社長は、高校卒業後、1987年に18歳で同社に入社し、10年にわたって製造、販売等の各部門で経験を積んだ。30歳で専務に就任する頃には、佐藤会長から経営を任され、新たに飲食店部門を立ち上げて、事業拡大を図った。2004年に、35歳で社長に就任した後も出店を増やしており、県内を中心に、東京、福岡を含め10店舗を運営している。
また、国内だけではなく海外にも目を向けており、2009年には香港、2010年にはマカオの企業と提携し、同地への出店を実現させた。今後は、台湾に現地法人を設立する予定であり、更なる海外展開に意欲を見せる。
現在、飲食店部門は、売上全体の3割を占めるまでになり、同社の業績向上に大きく寄与している。また、店舗数の増加に伴って、新たな雇用機会を提供しているほか、福祉施設に入居する外出が困難な高齢者等に対し、移動厨房車を活用してうどんを提供するなど、地域貢献も果たしている。
佐藤社長は、「経営者が代わらないと、企業は変われない。企業は、世代交代することにより、時代の変化に柔軟に対応できるようになる。伝統や経営理念等変えてはならないものもあるが、新たな経営者が自社の経営を見直し、新しいことに挑戦していく必要がある。」と語る。
佐藤養助の稲庭うどん
事例2-3-2 本多プラス株式会社
早い時期から経営を任された現社長が、新事業を展開して好業績を上げている企業
愛知県新城市の本多プラス株式会社(従業員198名、資本金1億円)は、プラスチック・ブロー成形品の企画・製造・販売等を行う企業である。同社は、熱した樹脂をチューブ状に押し出して金型で挟み、圧縮空気を吹き込んで中空を形成する、ブロー成形をコア技術としている。
同社の本多孝充社長は、大学卒業後、英国でMBAを取得し、1997年、28歳のときに、経営企画室長兼営業本部長として、同社に入社した。先代社長である本多克弘会長に経営手腕を認められ、入社4年目には専務に就任、以後経営の実権を任され、2011年に社長に就任した。本多会長は、「一代一事業であり、先代を超えることが後継者の仕事。経営は、感性や気力、体力に優れる若者の方が向いており、息子には自分の思うとおりにやって欲しかった。」と語る。
本多社長は、「他人のやらないことをやる」という同社の経営理念に基づき、ブロー成形技術の更なる可能性を追求するとともに、デザインから始まるものづくりを志向して、製品の高付加価値化を図っている。従来は、修正液のボトル等の文具製品を主力としていたが、本多社長の入社以降、化粧品容器、医薬品容器等新たな分野を開拓し、工場の新設を実現している。また、デザイン部門を設けて、デザイン力、提案力を強化したことにより、取引先の要望やニーズを的確に捉え、多様なオーダーメイド品に対応することが可能となっている。
こうした本多社長の取組によって、売上、従業員数は専務就任時から現在までに約2倍になった。また、同社は、女性活用に積極的であり、女性の新卒採用や管理職昇進を増やしてきている。女性従業員比率は約5割に上っており、地域の子育て世代の女性への、就業機会の提供にも貢献しているという。
ブロー成形による規格容器