第2部 自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者 

第2章 新事業展開

中小企業・小規模事業者は、持ち前の機動性・柔軟性・積極性等の強みを活かし、我が国の産業構造転換に大きく貢献してきた。既存の事業分野にとどまらず、常に新たな事業機会を模索しており、ときには新市場の開拓者として、我が国経済を牽引している1

中小企業・小規模事業者の積極果敢な挑戦は、企業自身の成長につながるばかりではなく、我が国経済の活性化に寄与する可能性も大きい。本章では、既存事業とは異なる事業分野・業種への進出を図る新事業展開に着目し、その効果や課題、今後の新事業展開に対する意向について概観する。

1 中小企業憲章前文。

第1節 新事業展開を実施した企業の特徴

■新事業展開の分類

本章では、新事業展開を次のように定義・分類し、分析を行うこととする。

○新事業展開:既存事業とは異なる事業分野・業種への進出を図ることをいう2。さらに、分析の内容により、新事業展開を事業転換と多角化に分類する。

○事業転換:過去10年の間に新事業展開を実施し、10年前と比較して主力事業3が変わった場合をいう。

○多角化:過去10年の間に新事業展開を実施した場合で、事業転換以外をいう。

■中小製造業の新事業展開の実施割合

ここではまず、製造業に着目し、事業所の従業員規模別に新事業展開実施の割合を見る。

第2-2-1図により、2000年と2010年で比較すると、従業員規模が小さな事業所ほど、新事業展開を実施する事業所の割合は低くなっており、中小事業所では大事業所の半分以下の割合となっている。他方、中小事業所や小規模事業所では、新事業展開を実施した事業所の過半が事業転換につながっている。

■企業の業績、従業員規模等

既存事業の枠を越え、新事業への挑戦を果たした企業にはどのような特徴があるのであろうか。ここからは、「中小企業の新事業展開に関するアンケート調査4」をもとにして、過去10年の間に新事業展開を実施した企業の特徴を、新事業展開を実施・検討したことがない企業との比較を交えて示していく。

第2-2-2図は、新事業展開を実施した企業と、実施・検討したことがない企業の業績見通しを示したものである。売上見通し、利益見通し共に「増加傾向」の割合が最も高いのが事業転換した企業、次いで多角化した企業であり、新事業展開を実施・検討したことがない企業の割合を上回っている。また、雇用についても、同様の傾向が表れている5

2 統計を用いた分析では、業種分類を総務省「日本標準産業分類」の小分類ベースで見ている。

3 主力事業とは、売上高(出荷額)に占める割合が最も高い製商品・サービスを提供する事業全体をいう。

4 中小企業庁の委託により、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)が、2012年11月に中小企業15,000社を対象に実施したアンケート調査。回収率20.9%。詳細は、参考資料を参照。

5 今年度の業績見込みについても、3年後の業績見通しと同様に、事業転換、多角化した企業の順に増加傾向の割合が高い(付注2-2-1を参照。)。ここでは、新事業展開した場合の比較を行うため、「最近10年間に新事業展開を実施又は検討したことがあるか」という問いに対して、「実施も検討もしたことがない」と回答した企業を示しているが、同問いには「検討したことがある又は検討中」と回答する企業もある。こうした企業の業績見通しについては、付注2-2-2を参照。総じて、多角化した企業と未実施の企業の中間で、やや多角化に近い傾向を示していることが分かる。

第2-2-1図 製造事業所の従業者規模別の新事業展開実施事業所数の割合(2000〜2010年)
Excel形式のファイルはこちら
第2-2-2図 新事業展開実施有無別の業績見通し
Excel形式のファイルはこちら

こうした業績見通しの違いを踏まえると、事業の再生や成長の観点から、新事業展開が重要であることが見て取れる。

第2-2-3図は、新事業展開実施の有無別に、企業の従業員規模を示したものである。事業転換した企業は、新事業展開を実施・検討したことがない企業と比較して従業員規模に大きな違いはない。一方、多角化した企業は、従業員100人超の企業が約4割となるなど、従業員規模が大きな企業が占めている割合が高い。前掲第2-2-1図により、製造業の大事業所では多角化する割合が高いことを示したが、全業種でも同様の傾向を示していることが分かる。

一般的には、多くの事業を展開する大規模な企業ほど、主力事業の入れ替わりを伴う事業転換が起こりやすいと考えられるが、調査結果を見ると、従業員規模が小さな企業ほど、新事業に自社の経営資源を集中し、機動的に主力事業を転換させている一方、従業員規模が大きな企業ほど、主力事業を維持しながら新事業に進出し、事業分野を拡大させている傾向にあることが分かる6

6 主力事業の転換に伴い、以前の主力事業の売上規模がどのように変化したのかについては、付注2-2-3を参照。
第2-2-3図 新事業展開実施有無別の企業の従業員規模
Excel形式のファイルはこちら

事例2-2-1 株式会社スズキプレシオン

医療機器事業に本格参入し、同事業の売上を大きく伸ばした企業

栃木県鹿沼市の株式会社スズキプレシオン(従業員65名、資本金3,000万円)は、半導体製造装置、医療機器等の部品の微細切削加工を得意とする企業である。

10年ほど前までは、半導体製造装置関連が売上のほとんどを占めていた。同社に転機が訪れたのは、2005年頃、僅かながら部材を手掛けていた医療機器メーカーの取引先から、同社が製造業者としての免許を取得しないと仕入れられなくなるかもしれないとの相談を持ち掛けられたことであった。当時は現在と比べ、医療機器産業がそれほど注目されていなかったが、先行参入のメリットがあると判断し、本格的に医療機器事業に参入することを決意した。

まず、医療機器分野に特化した品質マネジメントシステムに関する国際規格であるISO13485の認証を取得する準備に取り掛かった。当時、同規格の認証を取得している企業は少なく、その取得が信用力の向上や取引先の開拓につながると考えたからである。現在、同社は医療機器製造業許可、医療機器製造販売業許可も取得し、医療機器メーカーと直接取引する体制を構築している。

また、同社の高い技術力に加え、医療機器に関する知識や品質保証体制の構築、営業専任者を配置して、医療関係者の要望を拾い上げるネットワークづくりが奏功している。半導体関連の事業環境が厳しさを増す中で、2012年度にはインプラント、内視鏡部品を中心とした医療機器事業の売上が、売上全体の6割を超えるようになっている。

同社の鈴木庸介会長は、「当社は、ものづくり現場のスタッフも対応力があり、取引先の担当者が直接製造を手掛ける社員とコミュニケーションができる。量産となれば、現場の対応力も必要であり、営業の力だけでなく、組織的な対応力が当社の強みとなっている。」と語る。

同社が開発したリューザブル単孔ポート(単孔式内視鏡下手術用デバイス)

同社が開発したリューザブル単孔ポート(単孔式内視鏡下手術用デバイス)

新事業展開を実施した企業について、新事業展開の検討を始めたときの業績傾向を見てみる(第2-2-4図)。これを見ると、事業転換した企業、多角化した企業共に、当時の業績は好転と悪化がほぼ拮抗している。検討を始めた当時から業績が好転していた企業ばかりが、新たな収益源確保のために新事業展開を実施しているわけではなく、業績が悪化している中で、現状打開のために新事業展開を実施した企業の二者が存在することが推察される7

7 新事業展開実施前後で業績がどのように変化したかについては、付注2-2-4を参照。
新事業展開の検討を始めたときの業績傾向
Excel形式のファイルはこちら

以下の事例のように、業績が悪化している中で後継者が新事業に活路を見いだし、第二創業とも呼べる大胆な新事業へ転換を果たしたことが奏功し、業績を大幅に改善させた企業もある。

事例2-2-2 有限会社スワニー

現場のものづくりの精神を受け継ぎ、新事業を立ち上げたものづくり企業

長野県伊那市の有限会社スワニー(従業員13名、資本金400万円)は、筐体、機械部品等の3次元CADによる設計の受託や3次元スキャナ、3次元プリンタ等の設備を駆使して、商品企画・開発から試作・量産までの支援を行う企業である。同社社長の橋爪良博氏の先々代が、精密電子部品の絶縁用静電粉体塗装等を行う企業として1970年に設立し、最盛期には60人程度の従業員が働いていた。しかし、取引先大手メーカーの組立工場等の海外移転により仕事が減り、橋爪社長が戻ってきた2010年には両親しか会社に残っていないという状況であった。

橋爪社長は、同社に戻る以前、大手メーカーの派遣社員等として、製品設計、製造現場管理等の業務に携わってきた。その経験から、設計と試作、さらには製造が一体であることが重要と考え、アイディアを素早く設計・試作することで、独創的な製品開発ができる環境を製品開発技術者に提供したいとの思いを持つようになった。

父親から会社を引き継いだ当初は、自分一人で徐々に現在の事業を始めるつもりであったが、自らの思いを様々な人に語り続けたところ、多くの相談が寄せられるようになった。そこで、同社は、設備や従業員を充実させ、現在では、全国の大手メーカー、中小企業等からの急な試作依頼にも対応する駆け込み寺的な存在となっている。

新事業を立ち上げて間もないこともあり、同社の従業員には、ものづくりやデザインに興味を持つ地元の若者が多い。設計の経験年数は少ないが、顧客とのやり取りを任され、設計図面から試作品を作り、繰り返し確認するなどにより、多くの経験を積んで技術力を向上させている。

橋爪社長は、「事業は大きく変わったが、父親から受け継いだ現場のものづくりの精神は変わっていない。鳥肌が立つような、わくわくする製品の開発に携わり、今後もそうした製品を生み出していきたい。ものづくりが日本から失われてしまわないためには、地域の町工場が生き残っていかなければならない。当社の頑張りが刺激となって、地元伊那で、各地からの仕事が増え、若い技術者が育つこと等につながればと思う。また、若い私ができることならば、他地域でもできるのではないかと思ってもらえるきっかけになりたい。」と語る。

設計の様子

設計の様子

事例2-2-3 株式会社ミナロ

全日本製造業コマ大戦を主催し、製造業の活性化に取り組む企業

神奈川県横浜市の株式会社ミナロ(従業員13名、資本金1,000万円)は、人工木材(ケミカルウッド)を高精度に削り、自動車や船舶等の模型の製作を手掛ける企業である。同社の緑川賢司社長は、本業に取り組む傍ら、全国の製造業者が独自の喧嘩ゴマで技術力や構想力を競う、全日本製造業コマ大戦を主催している。

同大会は、内向きがちな製造業を活気づけようと、緑川社長が2011年から構想を始め、SNS等で全国の製造業者に参加を呼び掛けたことがきっかけである。こうした呼び掛けに賛同した企業や企業グループを中心に、2012年に開催された第1回全国大会には22チーム、2013年の第2回全国大会8には約200チームが参加する規模となった。

対戦の勝敗を左右する要素は、直径2cm以下という仕様の範囲内で、相手のコマにぶつけられても強く、かつ長時間回り続けるコマを製造できるかという点である。参加企業は、従業員一丸となって技術開発に取り組み、創意工夫してその条件を満たすコマを作り上げていく。その結果、企業内のモチベーション向上や、ベテランから若手への技術承継にもつながったという声も多い。さらに、複数の企業でチームを組んでコマを開発し出場するケースもあり、企業間の連携が深まるとともに、新しいアイディアや技術開発の誕生に寄与している。また、各種メディアにも大きく取り上げられたことで、コマの販売等を通じた、新たな販路の確立にも貢献している。緑川社長は、「コマという遊びの要素を加えたことによって、みんなが生き生きと頑張っている。こうした取組をきっかけに、製造業同士の輪が広がっていけば、日本の製造業は必ず活気を取り戻す。」と語る。

第1回全国大会では、神奈川県茅ヶ崎市の株式会社由紀精密が優勝し、第2回全国大会では、岐阜県美濃市の有限会社シオンが優勝した。今後は、大会を円滑に運営していくため、スポンサーを募り、国内ばかりでなく海外大会も開催しようと、更なる企画運営に意欲を示している。

コマ大戦の様子

コマ大戦の様子

8 前掲事例2-2-2で紹介した有限会社スワニーも、信州北越の地方大会で優勝し、同大会に参加した。

新事業展開を実施した後の主力事業の見通しを見ると、事業転換した企業、多角化した企業共に、新事業展開を実施・検討したことがない企業と比較して、主力事業の成長が期待できると回答する割合が高い。この傾向は、特に事業転換した企業で顕著であり、事業転換した企業は、既存事業から、より成長余地の大きな事業分野へ転換を果たしたことがうかがえる(第2-2-5図)。

また、事業転換した企業、多角化した企業共に新事業展開を実施・検討したことがない企業に比べて、国内市場の見通しは明るく、自社の主力事業ばかりでなく、国内市場全体に対しても、成長が期待できると見込んでいることが分かる。

第2-2-5図 新事業展開実施有無別の主力事業と国内市場の見通し
Excel形式のファイルはこちら

事例2-2-4 有限会社とまとランドいわき

トマトの生産から直売、加工品販売まで手掛ける農業生産法人

福島県いわき市にある有限会社とまとランドいわき(従業員36名、資本金3,300万円)は、施設園芸先進国であるオランダの技術を導入して建設された大規模ガラス温室と日本有数の日照時間を活かして、低農薬で栄養価が高いトマトを年間約800トン生産する農業生産法人である。

同社の温室では、日射量や光の強さ、トマトの養液の吸い上げ量等がセンサーで自動感知され、天窓やカーテンの開閉、養液の供給等がコンピュータで複合制御されている。これにより、ビタミンCやリコピンの含有量が通常の2倍近く、完熟状態でも身の締まったトマトを、安定的に低農薬で生産することが可能となっている。

同社は稲作、酪農を営む個人農家であった鯨岡千春氏により2001年に設立された。設立当初、生産したトマトを市場に出荷していたが、その後、敷地内やいわき駅ビルに直売所を開設。2008年には、トマトジュースの販売等、加工品事業も開始した。同商品は、規格外のトマトを有効活用するため、2007年から、直売所で無料提供していたところ、評判となり要望に応える形で商品化したものである。生食用の新鮮なトマトを使ったジュースは珍しく、甘くて濃厚なのに飲みやすい味が受け入れられ、広まっていった。「ジュースが美味しかったので、生のトマトも食べてみたかった。」と言って直売所を訪れる人もいるなど、相乗効果も生まれている。当初はトマトジュースだけだった加工品も、パスタ用トマトソースやジャム、ゼリー、アイスクリーム等、品ぞろえが増えている。

直売や加工品販売の事業を手掛けたことにより、トマト生産も拡大し、設立当初は約25名だった従業員が、現在の規模にまで増えている。同社の温室や直売所では、地元の主婦層がフルタイム雇用で活躍しており、また、収穫が最盛期を迎える夏場には、近隣の農家OBも応援に駆けつける。同社の元木寛専務取締役は、「常に地元の人たちに助けられてやってきた。今後も、より地域に密着した事業展開を考えていきたい。」と語る。

同社敷地内の直売所

同社敷地内の直売所

いわき駅の駅ビルにある直営店舗

いわき駅の駅ビルにある直営店舗

第2-2-6図は、新事業展開実施の有無別に、自社ブランドの製商品・サービスを持っている企業の割合を示したものである。事業転換した企業や多角化した企業では、新事業展開を実施・検討したことがない企業に比べて、自社ブランドの製商品・サービスを保有している割合が高い。

中小企業・小規模事業者にとって、自社ブランドの製商品・サービスを持つことは容易ではない。前掲第2-2-2図で、新事業展開を実施した企業の業績との関係を示したが、個々の企業の経営努力による自社ブランドの確立が、結果的に事業転換等を可能として業績向上に結び付いた可能性がある。

新事業展開と業績、自社ブランドの確立の相関性を踏まえると、自社ブランドの開発が、新事業展開にとって重要な要素であると考えられる。

第2-2-6図 新事業展開実施有無別の自社ブランドの製商品・サービスの有無
Excel形式のファイルはこちら

コラム2-2-1

中小企業・小規模事業者が開発した製商品・サービスの事例

我々が住む現代社会には、中小企業・小規模事業者の絶え間ない努力の末に、開発された製商品・サービスが数多く存在する。こうした製商品・サービスは、我々の生活に根付き、我々のライフスタイルをも大きく変えてきた。ここでは、中小企業・小規模事業者が開発した、画期的な製商品・サービスの一例を紹介する。

[製商品・サービスの一例]

■ホワイトローズ株式会社:ビニール傘

東京都台東区のホワイトローズ株式会社(従業員3名、資本金3,500万円)は、世界で初めてビニール傘を開発した企業である。開発したのは終戦後間もなくの頃であったが、その後の安い海外製品の流入により国産メーカーが淘汰されていく中で、発明者だからと踏ん張り、独自性のある国産ビニール傘を現在も作り続ける唯一の企業である。

■株式会社フルタイムシステム:宅配ボックス ※開発当時は中小企業

東京都千代田区の株式会社フルタイムシステム(従業員108名、資本金4億9,800万円)は、1985年に我が国初の宅配ボックスを開発した企業である。同社の代表取締役である原幸一郎氏が1983年に開発に着手、1985年に「配送物の安全保管管理システム(宅配ボックス)」で実用新案権を取得し、同社を設立した。

■オルファ株式会社:折る刃式カッター

大阪府大阪市のオルファ株式会社(従業員88名、資本金3,600万円)は、カッターナイフ及び付属備品の製造・販売を手掛ける企業である。同社の創業者である岡田良男氏が、印刷所で紙を切るのに、経済的で使いやすいナイフとして、1956年に折る刃式カッターナイフを開発し、現在では世界100以上の国・地域に輸出するまでになっている。

■元禄産業株式会社:回転寿司

大阪府東大阪市の元禄産業株式会社(従業員250名、資本金1,000万円)は、「元祖廻る元禄寿司」を運営する企業である。同社の創業者である白石義明氏が、ビール工場のベルトコンベアにヒントを得て回転寿司のシステム一式を発明し、1958年、東大阪市に第1号店を出店した。その後、1962年に「コンベア旋回式食事台」で特許を取得し、日本万国博覧会に出展したことを機に全国に広まった。

前の項目に戻る     次の項目に進む