第2部 自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者 

第3節 成長初期における起業・事業運営上の課題

次に、第2-1-16図により、成長初期における課題を見ていく。この段階では、「起業・事業運営に伴う各種手続」、「経営に関する知識・ノウハウの習得」、「自社の事業・業界に関する知識・ノウハウの習得」を課題と回答する割合が低下している。この段階の起業家は、数年の事業経験により、ある程度の経営や事業に関する知識やノウハウを習得済みであるためであると考えられる。

一方、「質の高い人材の確保」、「販路開拓・マーケティング」、「製品・商品・サービスの高付加価値化」と回答する割合が上昇しており、「資金調達」と共に、課題の上位を占めている。既に、売上計上したこの段階では、萌芽期と比較して、業務量が増大しており、人材確保が課題となっていることが分かる。また、売上高は確保できているものの、営業利益が黒字化していないこの段階では、売上高を拡大し、利益を確保するため、販路開拓や高付加価値化が課題となっていることが分かる。

特に、グローバル成長型では、高付加価値化を課題と回答する割合が大きく上昇している。これは、全国や国外の市場を標的とする同形態は、同様の市場を目指す全国、国外の競合に対抗するため、特に、高付加価値化によって他社との差別化を図ることが求められていると考えられる。

第2-1-16図 成長初期における起業形態別の起業・事業運営上の課題(複数回答)
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以下では、独自の販路を持つことで、農産物の高付加価値化を目指す事例を紹介する。

事例2-1-8 有限会社植物育種研究所

地元の生産者と連携し、地域ブランド・タマネギの育種から販売まで一貫して手掛ける企業

北海道栗山町の有限会社植物育種研究所(従業員3名、資本金300万円)は、独自の育種技術を用いた種苗の研究開発・販売を行う企業である。同社が開発した、健康タマネギ「さらさらレッド」は、種の提供だけではなく、同町内の契約農家と共同で栽培し、同社が全生産量を買い取り、独自の販路を活用した販売まで手掛けており、現在では、同町の特産品となりつつある。

同社社長の岡本大作氏は、大手種苗メーカーに研究職として8年ほど勤務していた。もともと、特徴ある野菜づくりに携わりたいとの思いを持っていた岡本社長であったが、前職では、どうしてもシェアを高めるための品種改良が主な業務とならざるを得なかった。そのため、経営をしたいという意識はなかったが、自分の思いを実現するためには起業する必要があると考え、妻の実家があり、前職の人脈も活用できる同町で、2000年に起業した。

同社は、食品部門を持つ百貨店等を一軒一軒訪問して営業を行い、商品の価値を理解してもらった上で少しずつ拡販してきた経緯があり、現在でも、無理のない規模での着実な経営を実践している。

また、付加価値の高い農産物の生産を事業化するためには、価格を維持し、生産者の利益を確保しながら、同社の研究開発費用も回収できるビジネスモデルが不可欠であった。そのため、同社では、独自の販路を持つことで流通段階での主導権を握り、野菜自体の高付加価値化に取り組んでいる。これにより、同社のビジネスモデルは、一次産業に土台を置きながら、二次産業や三次産業から必要な利益を得る、垂直統合に近い仕組みとなっている。

同社は、既存の流通に頼らず、規模を小さく維持しているからこそ、地元の生産者にも安定した利益を還元できている。岡本社長は、「タマネギだけではなく類似の野菜にも挑戦し、価格に左右されないビジネスを確立したい。」と語る。

同社が開発した健康タマネギ「さらさらレッド」

同社が開発した健康タマネギ「さらさらレッド」

では、「質の高い人材の確保」が最大の課題となっている成長初期において、起業家は、社内にどのような人材を必要としているのだろうか。

第2-1-17図は、成長初期に必要となった人材を、起業形態別に示したものである18。これを見ると、「経営者を補佐する人材」が、起業形態にかかわらず、高い割合となっている。これは、萌芽期には経営者が対応していた業務が、規模拡大により、経営者だけでは対応困難になっているためであると考えられる。

また、グローバル成長型においては、「製品・サービスで高い技術を持つ人材」や「販路開拓ができる人材」と回答する割合が高く、「製品・サービスで高い技術を持つ人材」との回答が、特に、大きく上昇している。これらの人材は、前述した成長初期における課題に対応しており、成長初期において、起業家は、直面している課題を克服するため、必要な人材を求めていることが分かる。

18 萌芽期における起業形態別の必要となった社内人材については、付注2-1-9を参照。
第2-1-17図 成長初期における起業形態別の必要となった社内人材(複数回答)
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また、「資金調達」を課題と回答する企業の割合は、成長初期においても、依然として高い割合にある。では、起業家が必要とする費用は、萌芽期と成長初期において、変化しているのだろうか。

第2-1-18図は、成長初期において必要となった費用を、起業形態別に示したものである。これを見ると、人材の採用・育成のための費用が必要であると回答する割合が上昇している。人材育成のための費用は、各起業形態で同程度に割合が増えているが、人材採用のための費用については、特にグローバル成長型で上昇が著しい。これは、前述したように、成長初期においては、課題の克服に必要な人材の確保が課題となっており、これらに掛かる費用が、グローバル成長型では、追加的に、特に必要となっていることが分かる。

第2-1-18図 成長初期における起業形態別の必要となった費用(複数回答)
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