第2部 自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者 

2 萌芽期における課題と支援

第2-1-9図は、萌芽期における起業・事業運営上の課題を示したものである。これによると、「資金調達」、「起業・事業運営に伴う各種手続」、「経営に関する知識・ノウハウの習得」が、起業形態にかかわらず、課題とする起業家の割合が高いことが分かる。

第2-1-9図 萌芽期における起業形態別の起業・事業運営上の課題(複数回答)
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それでは、萌芽期における代表的な三つの課題を、それぞれ見ていくこととする。まず、「資金調達」の課題について見てみよう。萌芽期における資金調達先として、預貯金や副業収入を含む自己資金と回答する企業は9割に上っており(第2-1-10図)、金融機関の役割が高まっている成長初期及び安定・拡大期に比べ、特徴的である16

16 成長初期及び安定・拡大期における起業形態別の資金調達先については、付注2-1-7付注2-1-8を参照。
第2-1-10図 萌芽期における起業形態別の資金調達先(複数回答)
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次に、株式会社日本政策金融公庫総合研究所が行っている「新規開業実態調査17」により、開業時に準備した自己資金額を見ると、中央値が230万円となっている一方で、開業費用の推移を見ると、低下傾向にあるものの、直近の2011年度において、中央値は620万円となっており、依然として、自己資金以外での調達を必要とする起業家が多く存在することがうかがえる(第2-1-11図)。

こうしたことから、この段階の起業家に対する政策的な資金調達支援を工夫する必要がある。

17 1991年度以降、株式会社日本政策金融公庫の融資先を対象に実施しているアンケート調査。毎年ほぼ同様の要領で継続的に実施しており、2012年度調査では、782社が回答。アンケート結果は、日本公庫融資先の状況を見たものであることに留意が必要である。
第2-1-11図 開業時に準備した自己資金額と開業費用の推移
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事例2-1-6 株式会社北国生活社

北海道産亜麻の栽培に取り組み、全国に向けた販売事業で起業した若手経営者

北海道札幌市の株式会社北国生活社(従業員4名、資本金2,500万円)は、道内の機能性素材を用いた商品の企画・販売等を行う企業である。

道内において、素材の研究開発に取り組む企業の多くは小規模であり、素材が開発できても、マーケティングや販路開拓が課題となり、事業化が困難となっている。同社は、北海道産の機能性素材を、道外の事業者や消費者にワンストップで提供する体制を構築することで、素材供給を安定した事業として成り立たせることを目指している。

出身地である北海道で、農家になりたいとの思いを持っていた、同社社長の内藤大輔氏は、農家になるとしても流通を知っている必要があると考え、東京で大手商社に数年勤務した後、北海道に戻った。そこで、農業研修の際に知り合ったアルバイト先の建設コンサルタント会社の社長と、国内では40年ぶりとなる亜麻の栽培に取り組むため、有限会社亜麻公社を設立した。

起業当初、食品・化粧品関係の製品開発や販路開拓等に関する知識はほとんどなかったが、道内の公的機関やインキュベーション施設を運営する経営者、前職の同僚等の支援により徐々に成長していった。また、亜麻栽培に協力してもらえる農家についても、道内の各地を訪ね回り、ようやく当別町のある農家から協力を得た。その農家は、もともと、土づくりや減農薬農法に取り組む地元でも有名な農家であったことから、その農家を通じて、協力してくれる農家を少しずつ見付けることができた。

その後、亜麻の生産が軌道に乗った段階で、販売会社として、同社が起業された。起業当初は、資金繰りが何度も悪化したが、その度に資金提供や業務発注してくれる多くの社外協力者に恵まれ、危機を乗り越えた。また、人材面でも、同様に、社外の協力者から事業に必要な人を紹介してもらい、人脈づくりでも多大な支援を受けた。

様々な地元関係者からの支援を受けた内藤社長は、中小企業への支援の在り方として、「新たなビジネスチャンスの獲得に取り組む企業が、自らの努力で伸びていくのをそっと後押しする方法が良いのではないか。」と語る。

北海道産素材を用いた商品

北海道産素材を用いた商品

コラム2-1-2

地域需要創造型等起業・創業促進補助金等

前述のように、萌芽期では、資金調達が大きな課題となっている。かかる状況下、起業・創業を促進し、地域の新たな需要の創造や雇用の創出を図り、我が国経済を活性化させることを目的として、中小企業庁は、地域のニーズに応える新商品・新サービスを提供する事業計画を持つ者に対して、その創業事業費等の一部を補助することとした。本補助金では、認定支援機関たる金融機関等が事業計画の策定支援を行うとともに、進捗状況管理や定期的なフォローアップを行うことにより、事業計画が円滑に実行されるよう支援することとしている。また、本補助金を呼び水として、創業する個人が金融機関等から外部資金を円滑に調達できる環境の整備を目指している。

事業スキーム

事業スキーム

◇補助金額

・地域需要創造型起業・創業(地域の需要や雇用を支える事業として起業・創業するもの)

補助上限額:200万円 補助率2/3

・第二創業(既に事業を営んでいる中小企業・小規模事業者において、後継者が先代から引き継がれた場合等に、業態転換や新事業・新分野に進出するもの)

補助上限額:500万円 補助率2/3

・海外需要獲得型起業・創業(海外市場の獲得を念頭とした事業として起業・創業するもの)

補助上限額:700万円 補助率2/3

さらに、株式会社産業革新機構におけるベンチャー投資事業部門の創設、株式会社日本政策投資銀行や株式会社商工組合中央金庫の活用等により、起業・創業時及び事業化に必要となるリスクマネーの供給を強化するとともに、個人投資家からの資金調達の円滑化や民間企業のベンチャー投資を促すための環境整備に取り組むこととしている。また、資金調達時の個人保証の見直し等、起業者の再チャレンジを促す仕組みも強化していく。

次に、「起業・事業運営に伴う各種手続」について見てみる。

第2-1-12図は、萌芽期において、起業・事業運営に伴う各種手続を課題としている起業家を、業種別に見たものである。これを見ると、各種手続を課題としている起業家は、どの業種でも多く存在し、特に、医療、福祉の分野で、その傾向が強いことが分かる。

第2-1-12図 萌芽期において起業・事業運営に伴う各種手続を課題とする起業家の業種別割合
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第2-1-13図は、起業時に必要となる手続や費用を、第2-1-14図は、事業開始時に許認可が必要となる事業を示しているが、業種、事業形態、従業員の有無によっても、起業時に必要となる手続は異なることが分かり、それぞれのスタートアップ企業に応じた、きめ細かい支援が必要となる。

第2-1-13図 起業に伴う届出(1)
第2-1-13図 起業に伴う届出(2)
第2-1-13図 起業に伴う届出(3)
第2-1-14図 許認可営業とその主な受付窓口

最後に、「経営に関する知識・ノウハウの習得」について見てみる。萌芽期の起業家には、どのような支援が必要とされているのだろうか。

起業家が、経営能力を高めるために必要と感じる施策としては、「経営全般に関する幅広い情報の提供」、「異業種の起業家が実際に出会える交流の場づくり」、「同業種の起業家が実際に出会える交流の場づくり」、「顧客との交流の場づくり」の回答が上位を占める(第2-1-15図)。

その中でも、起業家と実際に出会える交流の場づくりを必要とする起業家の割合は、萌芽期が最も高い割合となっている。萌芽期の起業家は、他の起業家との交流の場を求めていることが分かる。

第2-1-15図 発展・成長段階別の起業家が経営能力を高めるために必要と感じる支援施策
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以上、萌芽期における起業の課題について見てきた。萌芽期では、後に見る成長初期、安定・拡大期と比べ、課題の具体的内容や資金調達先に、地域需要創出型とグローバル成長型で、大きな違いは見られなかった。この限りにおいては、萌芽期には、起業家の志向にかかわらず、求められる起業支援の内容は、両形態で一定の共通性があるものと考えられる。

事例2-1-7 株式会社ソアラサービス

共同オフィスを拠点に、地域活性化のための様々な仕掛けを生み出す女性起業家

広島県広島市の株式会社ソアラサービス(従業員8名、資本金3,100万円)は、クリエイター、SOHO(Small Office,Home Office)事業者、起業家の拠点となる共同オフィスを運営している。

同社社長の牛来千鶴氏は、1999年に販売促進プランナーとして独立した。しかし、SOHO事業者の多くの仲間が、自身と同様、孤独に頑張っている姿を目にし、仲間が、気兼ねせず、気軽に話せる相手を持てるような場を創りたいと考え、2001年、30坪に10人が入居できるSOHO共同オフィス「広島SOHO’オフィス」を開設した。同社の共同オフィスへの入居は、現在までに100事業者を超えており、30数名の従業員を抱えるまでに成長した企業もある。しかし、起業から現在に至るまで、同社が乗り越えてきた課題は数え切れない。

起業当初、同社は、牛来社長一人で運営していたが、雑用等に追われ、本来の業務になかなか時間を割けなかった。しかし、2002年、「第二回ひろしまベンチャー大賞」の受賞で獲得した賞金で1名のパートを雇用することにより、経営者として取り組むべき作業に集中できるようになった。

また、現在のオフィス移転のための資金調達の際にも、大きな苦労を経験した。数千万円単位の出資が必要となり、当初は思うように資金が集まらなかった。しかし、数年間、10年後の構想を、何度も何度も語り続けることにより、地域の関係者が、積極的に応援してくれるようになった。その後、同社は、2009年に社名変更し、現在のオフィスに移転。500坪、50数社が入居できる共同オフィス「ソアラビジネスポート」を構えた。

共同オフィスを拠点として、入居するクリエイターと地場企業との連携による新商品開発や、入居する専門家等によるビジネス系セミナーの開催、県内の若者への地場企業における就業機会の提供等の事業を通じて、地域における様々な交流やプロジェクトを創出し、地域活性化に尽力してきた牛来社長は、「地域を元気にするためには、人の成長が欠かせない。この点を心に刻みながら今後も様々な仕掛けを手掛けていきたい。」と語る。

クリエイターとプロジェクトを組み、地場企業との連携によって開発された「黒もみじ」

クリエイターとプロジェクトを組み、地場企業との連携によって開発された「黒もみじ」

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