第2部 自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規模事業者 

2 起業の特徴

まず、地域需要創出型とグローバル成長型の起業を比較しながら、それぞれの起業形態の特徴を見ていく。

■スタートアップ企業の特徴

スタートアップ企業の特徴を、起業形態別に見てみよう6。第2-1-2図は、スタートアップ企業の主要市場を起業形態別に比較したものである。地域需要創出型では、「対個人消費者向け」の割合が、グローバル成長型に比べて高くなっており、より身近な事業展開となっていることがこのことからもうかがえる。

6 起業形態別の業種については、付注2-1-2を参照。
第2-1-2図 起業形態別の主要市場
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次に、起業形態別に、売上高と従業員数を見てみる。売上高とその伸び率、従業員数の伸び率は、グローバル成長型が地域需要創出型を上回っている(第2-1-3図、第2-1-4図)。

第2-1-3図 起業形態別の売上高と売上高年平均伸び率
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第2-1-4図 起業形態別の従業員数の推移
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相対的に数の少ないグローバル成長型の起業は、以下の事例のように、急速な成長により、雇用や経済活動に影響を与えている7

7 グローバル成長型では、「やりがいのある就業機会の提供」で地域・社会に影響を与えていることを後掲第2-1-8図で示している。

事例2-1-1 株式会社Cerevo

萌芽期の資金面等の課題を乗り越え、グローバル市場で支持される製品を創造するネット家電ベンチャー

東京都千代田区の株式会社Cerevo(従業員10名、資本金2億460万円)は、インターネットにつながる家電製品の開発・設計・販売を行う企業である。同社の主力製品は、市販のビデオカメラに接続すれば、パソコンを介さずに動画共有サイトで映像配信を行える装置であり、その独自性から、国内外の多くの利用者から支持されている。

同社は、顧客ターゲットを設定せず、高まりつつある需要をグローバルに捉え、公開されている技術や設計情報を活用して開発期間を短縮し、大企業に先駆けて製品を投入するビジネスモデルで成長している。現在、同社の売上高の約4割は海外向けである。

大手の家電メーカーに勤務していた同社の岩佐琢磨社長は、起業家が集う勉強会やブログを活用することで、起業準備を着実に進めた。自己資金と十人前後の支援者からの数十万円単位の出資で資金を確保して起業した同社であったが、その後の資金調達が課題となった。結果として、第三者割当増資により資金調達できたが、リーマン・ショックの影響から、出資を受けるまでに、考えていた以上に時間が掛かり、その間の岩佐社長自身の生活費や技術者の人件費の工面に苦労した。また、その後の製品開発段階では、部品調達が大きな課題となった。国内では、大口注文しか引き受けない業者や新規企業との取引を控える業者が多いため、インターネット上のマッチングサイトで余剰在庫を抱える海外の部品業者を発掘し、必要最小限の量での部品調達を可能とした。

2007年に起業した岩佐社長であったが、近年の起業環境について、「働き方が多様化し、様々な働き手を活用することで、固定的な人件費を抑えることができる。また、インターネットによる商品の先行予約やオープン・ソース・ハードウェア8の広がりにより、資金調達や製品開発も容易になった。このため、これまで開発に多大な費用を要したハードウェア分野でも、自分が起業した時よりも、更に起業しやすい環境が整いつつある。当社は、そうした環境を最大限活用し、グローバルニッチな製品を作っていきたい。」と話している。

パソコンを介さずにライブ動画共有サイトで映像配信を行える映像配信機「LiveShell PRO(ライブシェルプロ)」

パソコンを介さずにライブ動画共有サイトで映像配信を行える映像配信機「LiveShell PRO(ライブシェルプロ)」

8 オープン・ソース・ハードウェアとは、設計情報が公開され、誰でも自由に製造・改変・再配布できるハードウェアである。

事例2-1-2 株式会社エナリス

大震災を機に省エネ・節電支援サービスを新事業展開するベンチャー企業

東京都足立区の株式会社エナリス(従業員80名、資本金9,500万円)は、電力マネジメント事業等を手掛ける2004年設立のベンチャー企業である。

1990年代後半、短資会社に勤務していた同社の池田元英社長は、米国で電力取引業務を経験したことをきっかけに、日本でも電力に関係する業務を事業化しようと考えた。1999年に電力卸取引を行う社内ベンチャーを立ち上げた後、当時最大の顧客だった大手電機メーカーに転籍した池田社長は、企業グループ全体の電力使用効率向上に取り組み、購入電力を1割削減することに成功した。2004年には、これまで培った電力マネジメントに関するノウハウ等をもとに同社を設立し、2007年にPPS9の業務代行事業を開始した。PPSは、系統全体の安定性を維持するために、需要量と供給量の差(インバランス)を、30分ごとに3%以内に収めることが求められており、需給バランスを常時監視しながら、発電所の出力や需要家の電力消費を調整する必要がある。同社では、こうしたPPSに義務付けられている業務を代行している。

さらに、東日本大震災後の節電ニーズの高まりを受け、2011年5月、「FALCON SYSTEM」と呼ばれる省エネ・節電支援サービスを新事業として開始した。これは、無理なく効率的に節電することを目的に作られたクラウド型システムであり、PPS業務代行の仕組みを応用して、全国各地に分散する顧客企業の拠点の状況を監視し、グループ全体を一括して管理することができる。具体的には、天候や操業スケジュール等をもとに翌日の目標使用電力量を設定した上で、使用電力量をリアルタイムで可視化し、目標値を超えそうな場合には警報をメール等で発信する。また、空調機等に取り付けた自動制御機器を遠隔制御して、出力調整を行うオプション機能も有する。

同システムの最大の特徴は、PPS業務代行において培ってきた需要予測技術にある。社内で独自に気象予測を行い、自社開発した需要予測アルゴリズムを活用するなどして、高精度な予測を実現した。また、同社は顧客に対して、電力使用の運用改善を優先して提案し、それでも効果が不十分だった場合には、省エネ機器の導入を勧めている。こうした強みが、中小規模ビル向けのエネルギー管理システムとして、顧客に高く評価され、経済産業省のエネルギー管理システム導入促進補助事業においては、契約件数でトップを誇る。

事業の拡大に伴い、起業当時6名だった従業員は、約13倍となった。池田社長は、「企業が成長するにつれ、プロジェクトを管理する人材の育成が重要になる。外部研修の情報等があれば、スムーズな成長に役立つ。」と語る。

ファルコンシステムによって可視化された使用電力量

ファルコンシステムによって可視化された使用電力量

9 特定規模電気事業者(Power Producer and Supplier)。自家発電や工場の余剰電力等から調達した電気を、一般電力事業者の送電線網を使用して契約電力50kW以上の需要家に供給する事業者のこと。

起業形態別にスタートアップ企業の所在を見ると、地域需要創出型の6割強が、三大都市圏の中心市が所在しない道県内に所在している一方、グローバル成長型では、三大都市圏の中心市が所在する都府県内に所在する企業が6割強となっている(第2-1-5図)。ここから、地域需要創出型のスタートアップ企業が、地域経済の重要な担い手となっていることが分かる。

第2-1-5図 起業形態別のスタートアップ企業の所在
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■起業家の属性

次に、起業家の属性を起業形態別に見ていく。第2-1-6図は、起業を意識した年齢と実際に起業した年齢を、起業形態別に比較したものである。これを見ると、グローバル成長型の起業家は、起業を意識した年齢及び実際に起業した年齢共に、地域需要創出型の起業家より低く、早い段階から起業を意識しながら、事業に関する経験やノウハウを、就業経験の中で獲得し、起業している可能性がある。

一方で、地域需要創出型の起業家は、ある程度の就業経験を積んだ後、やりたいことの延長線上として起業を意識し始めているのではないか、と考えられる。

第2-1-6図 起業形態別の起業家の各段階の年齢
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また、第2-1-7図は、アンケートに回答した起業家全体に占める女性起業家の割合を1とし、起業形態別に、起業家に占める女性の割合を比較したものである。これを見ると、地域需要創出型に占める女性起業家の割合は、グローバル成長型と比較して高く、女性起業家は、地域需要創出型の起業において、重要な役割を担っていることが分かる。

第2-1-7図 起業形態別の女性起業家割合の比較
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