補論 

補論2-2-1 中小企業の海外進出が国内雇用に与える影響の検証

1.分析概要
 中小製造業の海外進出が当該企業の国内雇用の縮小をもたらすかどうかを検証する。

2.分析方法
 優れた企業は、海外進出の有無にかかわらず良好な経営パフォーマンスを上げることができると考えられる。そこで、優れた企業の方が海外進出しやすいとした場合、海外進出企業の国内での生産や雇用等の経営パフォーマンスが、海外進出していない企業と比べて相対的に高くても、それは海外進出する企業が元々競争力の高い企業だからではないかという疑問が生ずる。すなわち、元々競争力の高い企業だから国内の生産や雇用が伸びているのであって、海外進出自体がその企業の国内での成長力を高めているわけではないのではないかという疑問である。別な言い方をすれば、規模、業種等の企業属性や生産性、研究開発力等の企業競争力に係る諸指標の中には、企業が海外進出するかどうかに影響を与えるだけでなく、生産、雇用等の国内経営指標に対しても影響を及ぼすものがいくつか含まれている可能性があるということである。
 加えて、リーマン・ショック等国内外の景気変動等の外的要因も企業の経営パフォーマンスに影響を与えるが、その大きさが海外進出企業と非進出企業の間で異なる場合、こうした外的要因を考慮しなければ海外進出の効果を正確に推定することはできない。
 そこで、中小企業の純粋な海外進出の効果を推定するために、ここでは、スイッチ回帰モデルを用いる。スイッチ回帰モデルは、観察された値から海外進出企業、海外未進出企業を決定するのではなく、海外進出企業、海外未進出企業に振り分ける確率(配置確率)をモデル内で決定し、その結果を用いて、レジームの異なる2つの目的関数、ここでは海外進出企業及び海外未進出企業に係る2つの国内雇用関数を推計する。これによって、企業属性等の諸要因によるバイアスを取り除いた純粋な海外進出の効果が計測できる。さらに、本来観察不可能な事実(例えば、海外未進出企業が海外進出するケース)をモデル内で再現し、未進出企業が海外進出した場合の国内雇用の変化を推計することなどができる。
 推計の第一段階として、海外子会社保有の有無を被説明変数、企業規模、生産性、利益率、研究開発力等の企業属性や競争力などを説明変数とする海外進出選択関数を構築し、全サンプルについて、海外進出企業と海外未進出企業への配置確率を計算する。その際、企業の海外進出目的の違いにより雇用に与える影響が異なることを想定して、企業が保有する海外子会社の業種に着目した分析を行う。すなわち、海外子会社の業種が製造業(製造子会社)の場合は、通常、生産拠点の全部又は一部の移転を伴うから、国内雇用に対してマイナスの影響を与えることが考えられる。他方、非製造子会社(販売子会社)の場合は、輸出の増加を通じて国内雇用にはプラスの影響をもたらすものと考えられる。以上から、海外進出選択関数の推計は海外製造子会社と海外非製造子会社のそれぞれについて行う。
 次いで第二段階として、企業の国内雇用に係る2つの関数を構築する。具体的には、海外進出選択関数の推計で得られた各企業の配置確率をウェイトとして海外進出企業及び海外未進出企業に係る2つの国内雇用関数を推計する。その際、リーマン・ショック等国内外の景気変動等各企業共通の外的ショックの影響については、年ダミー変数を用いて対応する。国内雇用には、常時従業者数(海外従業者を除く)を用いる1。こうして得られる2つの企業雇用関数の推計値(条件付き期待値)の差が、純粋な海外進出の効果と考えられる。

1 「企業活動基本調査」では、中小製造業の常時従業者数は1社当たり平均127.3人に対し、臨時・日雇い・派遣従業者数はわずか4.9人である。このため、臨時・日雇い・派遣従業者については、中小製造業の雇用に占める重要性が低いこと、常時従業者と同様の安定的な推計結果を得ることは困難であることなどから、今回は、分析の対象から除外した。

3.モデル
(1)海外進出選択関数
被説明変数: 海外子会社保有ダミー
 (1994年以降に海外進出し、その後も進出を継続している中小製造業=1、1994年以降の全ての調査に回答している中小製造業のうち一度も海外進出を行っていない企業=0)
説明変数:
〔1〕 トレンド
〔2〕 市場シェア(t-1年の業種別売上高総額に占める当該企業の売上高の割合)
〔3〕 輸出比率(t-1年の売上高に占める直接輸出額の割合)
〔4〕 輸入比率(t-1年の売上高に占める直接輸入額の割合)
〔5〕 収益力(t-1年の売上高経常利益率)
〔6〕 研究開発力(t-1年の研究開発費売上高比率)
〔7〕 生産性(t-1年の労働生産性)2

2 労働生産性は、実質付加価値額(売上高−仕入額)を従業者数総数に臨時・日雇い・派遣従業者を加えた人数で除したものを使用している。

〔8〕 本社から最寄りの国際空港(新千歳、成田、中部(2005年〜)、関西、福岡)までの直線距離
〔9〕 業種ダミー
〔10〕 年ダミー
推計方法: プーリング・プロビット推計

(2)企業雇用関数
被説明変数: 国内雇用成長率(海外従業者を除く常時従業者数の前年比)
説明変数:
〔1〕 トレンド
〔2〕 企業年齢(1994年時点の企業年齢(自然対数値))
〔3〕 外資比率(t-1年の外資比率)
〔4〕 親会社保有有無(1994年に親会社を保有=1、同年に親会社を保有していない=0)
〔5〕 企業規模(t-1年の従業者総数(自然対数値))
〔6〕 輸出比率前年差(t-1年)
〔7〕 輸入比率前年差(t-1年)
〔8〕 外注費率(t-1年の外注費売上原価(販管費を含む)比率)
〔9〕 自社製品比率(t-1年の自社鉱産品・製造品売上高比率)
〔10〕 広告宣伝費率(t-1年の広告宣伝費売上高比率)
〔11〕 売上高経常利益率前年差(t-1年)
〔12〕 研究開発費売上高比率前年差(t-1年)
〔13〕 労働生産性上昇率(t-1年)
〔14〕 実質売上高伸び率(t-1年)
〔15〕 業種ダミー
〔16〕 年ダミー
推計方法: 最尤法

4.データセット
 経済産業省「企業活動基本調査」
 製造業かつ中小企業のうち1994年(平成7年調査)から調査に回答している企業11,452社を抽出3。その中から、1994年以降に海外進出し4、その後も進出を継続している中小製造業443社及び1994年以降の全ての調査に回答している中小製造業のうち一度も海外進出を行っていない企業2,333社の計2,776社について分析を行った5。なお1993年以前に海外進出した企業は1994年に進出したものとみなした。また、海外進出企業は海外進出した年に中小企業であったものを、海外未進出企業については1994年時点で中小企業であったものをそれぞれ分析の対象としている。各企業の業種格付けについては1994年(平成7年調査)の結果を全調査期間について適用している。

3 中小製造業の定義は、中小企業基本法に基づいている。なお、今回使用した「企業活動基本調査」では従業者数50人未満又は資本金3,000万円未満の企業は調査対象となっていないことに留意。
4 ここでいう「海外進出」とは、海外子会社を保有することをいう。
5 したがって、原則として、1995年以降に新たに調査対象となった企業、及び、1995年以降に何らかの理由で調査対象から脱落した企業は分析対象には含まれていない。ただし、海外進出企業については、サンプル数を確保するため、1995年以降に調査対象から脱落した企業であっても、脱落するまで継続して海外進出していれば、分析対象に含めている。

 なお、付加価値額が負であったり、売上高研究開発比率や外注費率などが1を超えたり、輸出比率前年差や労働生産性上昇率などが標準偏差の4倍を超えたりしているサンプルについては、異常値として分析から除外している。

5.推計結果
(1)海外進出選択関数
 輸出比率及び輸入比率の係数が製造子会社の場合、非製造子会社の場合ともに正で有意かつ係数の大きさも最大又はそれに次ぐ大きさであるから、製造拠点か販売拠点かといった海外進出の形態にかかわらず、海外との取引の多さが企業の海外進出にとって決定的な要因であることが分かる。また、両者とも、企業規模が大きいほど、親会社を保有しない企業ほど海外進出する確率は高くなることが示されている。
 さらに、製造子会社の場合は、外注費率が高い企業ほど、経常利益率が低下している企業ほど海外進出する確率が高くなる。海外企業との競争が激化する中で、コスト削減を図るため内外への外注を増やしてはいるが、それでも利益率の低下が止まらないような場合には、最終的な選択肢として製造拠点の海外移転を決断している中小企業の実態がうかがえる。他方、非製造子会社の場合は、研究開発力が正で有意となっており、係数の大きさも輸出比率を上回り、最も大きい。海外との取引が活発で研究開発にも力を入れている企業ほど海外に販売子会社を保有する確率が高まることが示されている。
 なお、海外進出選択関数と企業雇用関数の両者を識別するために追加した本社から最寄りの国際空港までの直線距離は、製造子会社の場合では負で有意となっているが、非製造子会社の場合では有意にはなっていない。海外への地理的アクセスの近さが製造拠点の海外移転に一定の影響を与えていることが見て取れる。しかしながら、非製造子会社の場合はこうしたアクセスの良さと海外進出は関係がないことも示されている。現地企業に出資するだけで営業が可能な販売拠点とは異なり、製造拠点の場合は、実際に現地に赴いて様々な調査や準備作業を長期にわたって行う必要があることなどが影響しているのかもしれない。

(2)企業雇用関数
〔1〕 海外進出企業の場合
 続いて2段階目の企業雇用関数の推計結果である。
 ここでは、主に景気循環と国内雇用者数の関係を見てみる。まず製造子会社保有企業を見ると、トレンドは負で有意であるから、国内常時従業者数の伸び率は近年縮小ないしは低下傾向にある。逆に、非製造子会社保有企業では有意ではないから、国内の常時従業者数伸び率は非製造子会社保有企業では、一定の傾向を持たないことが分かる。次に、年ダミー変数を見ると、我が国金融危機の1998年及びITバブル崩壊に伴う景気後退時期である2001年の係数が製造子会社保有企業及び非製造子会社保有企業ともに負で有意となっており、これらの時期には両者とも国内雇用が削減されたことが分かる。また、製造子会社保有企業では2004年から2007年までの年ダミー変数の係数が正で有意となっており、リーマン・ショック前の景気拡張期(景気基準日付の第14循環に相当)には製造子会社保有企業の国内雇用成長率は景気拡張という外的要因によって一定程度押し上げられていたことが分かる。しかしながら、この期間の非製造子会社保有企業の年ダミー変数は有意とはなっていない。したがって、総じて見れば、製造子会社保有企業の方が非製造子会社保有企業よりも景気変動、特に海外景気の変動の影響を受けやすいという結果が見て取れる。
 そのほかの変数を見てみると、製造子会社保有企業では、自社製品比率及び実質売上高伸び率がともに正で有意となっている一方、企業規模を示す国内雇用者数は負で有意となっている。企業規模が小さく、自社製品比率が高く、売上を伸ばしている企業ほど常時従業者数を増やしていることが分かる。非製造子会社保有企業では、広告宣伝比率及び実質売上高伸び率がともに正で有意となっているが、国内雇用者数、輸出比率前期差、自社製品比率などは有意とはなっていない。非製造子会社保有企業では、企業規模や輸出比率の変化に関係なく、製品の販売に力を入れ、国内の売上を伸ばしている企業ほど国内雇用を伸ばしているといえよう。
〔2〕 国内企業の場合
 次に、海外子会社未保有企業の推計結果を見てみよう。なお、ここでは、製造子会社未保有企業及び非製造子会社未保有企業ともにほぼ同様の推計結果になっているので、以下では、「国内企業」として両者を一括して扱うこととする6。まず、年ダミー変数を見ると、1998年から2002年が負で、2005年から2007年が正で有意となっているが、各係数の絶対値は、我が国金融危機の1998年を除き、上記〔1〕の製造子会社保有企業の場合を大きく下回っている。国内雇用が景気変動から受ける影響は国内企業の方が小さいことが分かる。これら以外の変数では、研究開発費売上高比率(前年差)及び労働生産性上昇率がともに正で有意となっている。特に、研究開発費売上高比率(前年差)の係数は各変数の中で最大である。国内企業では、研究開発に力を入れ、労働生産性が伸びている企業ほど国内雇用も伸びていることが分かる。

6 実際には、「製造子会社未保有企業」には非製造子会社保有企業が、「非製造子会社未保有企業」には製造子会社保有企業がそれぞれ含まれるが、いずれの海外子会社も持たない純粋な国内企業の数の方が圧倒的に多いので、ここでは両者を一括して「国内企業」として扱うこととした。
 
企業雇用関数(1)
 
企業雇用関数(2)

(3)海外進出が国内雇用成長率に与える影響
 では、海外進出が国内雇用成長率に与える効果はどの程度なのであろうか。
 海外進出企業と海外未進出企業ではそもそも企業の属性や競争力などが違うから、現状のままで海外未進出企業が海外進出した場合、既に海外進出している企業と同じ効果が得られるとは限らない。この場合、海外進出が雇用にもたらす影響を正確に推計しようとすれば、海外未進出企業について進出前と進出後の両方の雇用成長率のデータが必要となるが、後者については直接観察することは不可能である。
 そこで、(2)で推計したスイッチ回帰モデルの結果を用いて、計量モデル上でこれら観察できないデータを再現することによって、海外進出が雇用成長率に与える影響を推計することとする7

7 2.分析方法でも触れたとおり、スイッチ回帰モデルは、海外進出企業と未進出企業への配置をモデル内で推定した上で、海外進出企業と未進出企業の2つの雇用成長率関数を推計する。したがって、海外進出企業や未進出企業の雇用成長率の理論上の分布や、実際のデータでは観察できない「海外未進出企業がもし進出した場合の国内雇用成長率」や「海外進出企業がもし進出しなかった場合の国内雇用成長率」を条件付き期待値という形で得ることができる。詳細については、末尾の【追補】を参照されたい。

〔1〕 海外製造子会社未保有企業が保有した場合の国内雇用成長率
 始めに、現在は海外に製造子会社を保有していない企業が、将来、海外進出して製造子会社を保有した場合、当該企業の常時従業者数伸び率はどのように変化するのかを見てみる。
 次図は、海外製造子会社未保有企業が海外進出して製造子会社を保有した場合に、常時従業者数伸び率の分布は保有前後でどのように変化するのかをモデルで推計した結果を示している。これを見ると、国内の常時従業者数伸び率の分布のピークは海外製造子会社保有後もほとんど変化しないことが分かる。他方、分散は雇用者数伸び率が上昇する方向と低下する方向の両方向に拡大しているから、海外進出によって国内雇用がさらに増加する可能性が高まると同時に、減少するリスクも高まることが示されている。しかしながら、総じて見れば、分布は国内常時従業者数伸び率が上昇する方向にシフトしているから、製造子会社を新たに海外に保有することによって、国内雇用は必ずしも減少せず、むしろ増加する可能性が高まるという結果になった。
 
海外製造子会社未保有企業の保有前後の常時従業者数伸び率

海外製造子会社未保有企業の保有前後の常時従業者数伸び率

〔2〕 海外製造子会社保有企業が保有しなかった場合の国内雇用成長率
 次に、既に海外製造子会社を保有している企業の国内雇用成長率を、海外進出していなかった場合の当該企業の国内雇用成長率と比較してみる。これを見ると、国内常時従業者数伸び率の分布のピークは海外製造子会社保有前の▲2.5%から、保有後には1.0%へと大きく上昇する。〔1〕と同様、分散も拡大しているが、分布は国内雇用者数伸び率が上昇する方向にシフトしている。5.推計結果で見たように、モデル上では海外製造子会社を保有する確率が高いとされているような企業(輸出入比率や外注費率が高く、親会社は持たず、企業規模は相対的に大きく、利益率が最近低下している企業)であって、実際には海外進出していないケースでは、海外進出による国内雇用の成長効果は大きくなることが分かる。
 
海外製造子会社保有企業の保有前後の常時従業者数伸び率

海外製造子会社保有企業の保有前後の常時従業者数伸び率

〔3〕 海外非製造子会社未保有企業が保有した場合の国内雇用成長率
 他方、海外非製造子会社未保有企業が海外進出して非製造子会社を保有した場合はどうであろうか。これを見ると、国内常時従業者数伸び率の分布のピークは海外製造子会社の保有前後で1.0%とほとんど変わらない。他方、分散は拡大しているが、海外非製造子会社保有後の分布は、総じて見れば、国内常時従業者数伸び率が上昇する方向にシフトしている。製造子会社保有企業の場合と同様、非製造子会社を保有する場合も海外進出によって国内雇用が拡大する可能性が高まることが示されている。
 
海外非製造子会社未保有企業の保有前後の常時従業者数伸び率

海外非製造子会社未保有企業の保有前後の常時従業者数伸び率

〔4〕 海外非製造子会社保有企業が保有しなかった場合の国内雇用成長率
 最後に、既に海外非製造子会社を保有している企業の国内雇用成長率を、もし海外進出していなかった場合の当該企業の国内雇用成長率と比較してみる。
 これを見ると、国内常時従業者数伸び率の分布のピークは海外非製造子会社保有前の▲4.0%から、保有後には0.0%へと大きく上昇している。分散も拡大しているが、分布は、国内雇用者数伸び率が上昇する方向にシフトしている。製造子会社保有企業の場合と同様、モデル上では海外非製造子会社を保有する確率が高いとされているような企業(輸出入比率や研究開発力が高く、親会社は持たず、企業規模は相対的に大きい企業)であって、実際には海外進出していないケースでは、海外進出による国内雇用の成長効果は大きくなることが分かる。
 
海外非製造子会社保有企業の保有前後の常時従業者数伸び率

海外非製造子会社保有企業の保有前後の常時従業者数伸び率

6.結論
 このように海外進出によって国内雇用成長率が上昇するのはなぜであろうか。
 一般的には、企業の海外進出は、その目的が輸出品の現地生産への代替か、国内生産の輸入品への代替かにかかわらず、製造拠点の海外移転による国内拠点の縮小・閉鎖を通じて、国内雇用を削減するものと考えられている。国内産業空洞化論の根拠である。しかしながら、推計の結果、実際には、中小企業の海外進出は国内雇用の減少をもたらしていないばかりか、むしろ、国内雇用を増加させる可能性が高まるという結果となった。
 これは、これまでの我が国中小製造業の海外進出が、成長を続けるアジア諸国等の海外需要の獲得を狙った現地生産を中心としたものであり、国内市場向けや輸出代替のための海外生産が広く行われる段階には至ってはいないことを示唆している。さらに、海外進出企業における国内常時従業者数の増加は、これら企業が海外では製造子会社の保有によって付加価値の低い汎用品の生産を拡大させる一方、国内では高付加価値品の開発・生産や、増加する海外拠点を管理・統括する国際部門の人員を拡充させていることも示唆している。
 一方で、今回の分析では、海外進出しても全ての企業が国内雇用を伸ばすことができるわけではないことも同時に示している。国内常時従業者数伸び率の分散は、国内にとどまっているときよりも海外進出後の方が高い。海外進出によって企業業績の不確実性も高まることが示されている。中小製造業にとって、海外で成功するためには、国内での活動にとどまっていたとき以上に、多大の経営努力が求められるといえよう。

【追補】
 まず、海外進出選択関数を以下のように定義する。

 γZiui>0のとき企業iは海外進出する。 このとき、Ii=1とする。
 γZiui≦0のとき企業iは海外進出しない。このとき、Ii=0とする。 (1)

 ただし、Ziは企業iが海外進出するかどうかに影響を与える変数、γは推計する係数、uiは誤差項である。

 次に、企業iが海外進出したとき(Ii=1)の国内常時従業者数伸び率を
   y1i=β1X1i+ε1i ……………………………………………………(2)
 企業iが海外進出していないとき(Ii=0)の国内常時従業者数伸び率を
   y0i=β0X0i+ε0i ……………………………………………………(3)
 とする。

 ただし、X1i及びX0iは海外進出企業及び海外未進出企業の雇用成長に影響を与える変数、y1i及びy0iは企業iの国内常時従業者数伸び率、β1及びβ0は推計する係数、ε1i、ε0iは誤差項である。

 (1)〜(3)式を推計して各係数を得れば、

 海外未進出企業iが海外進出した場合の国内常時従業者数伸び率yc1_0iは、以下のような条件付き期待値として得られる。

   yc1_0iEy1iIi=0,x0i)=x0iβ1−σ1ρ1f(γZi)/[1−F(γZi)]

 同様に、海外進出企業iが海外進出しなかった場合の国内常時従業者数伸び率yc0_1iは、以下のような条件付き期待値として得られる。

   yc0_1iEy0iIi=1,x1i)=x1iβ0+σ0ρ0f(γZi)/F(γZi

 ただし、σ1及びσ0はε1i及びε0iの標準誤差、ρ1はε1iuiの相関係数、ρ0はε0iuiの相関係数、f(・)は正規分布の確率密度関数、F(・)は正規累積分布関数である。


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