第3部 中小企業の技術・経営を支える取組 

第2節 地域金融機関による中小企業の経営を支える取組

 前節では、中小企業の経営において、定期的な経営相談を行うことの重要性を示した。相談を受けた者は、中小企業に対して、適切な経営支援を行うことが期待されるが、本節では、金融機関を例にとって分析する。金融機関が、中小企業の経営課題に対応することで、中小企業、ひいては地域の活力の回復にもつながるのではないだろうか。
 以下、「中小企業を取り巻く金融環境に関する調査3」により、経営支援の状況について金融機関、中小企業双方から分析していく。

3 中小企業庁の委託により、みずほ総合研究所(株)が2011年12月に、中小企業20,000社、金融機関本支店5,800社を対象に実施したアンケート調査。中小企業の回収率20.4%、金融機関本支店の回収率49.1%。ただし、大震災により甚大な被害(津波被害、地震被害等)を受けた岩手県、宮城県、福島県に本社、本店が所在する中小企業、金融機関は対象外とした。

■金融機関の中小企業への経営支援の取組状況
 第3-2-7図は、地域金融機関が行う、中小企業への経営支援の具体的取組状況を示したものである。「事業戦略・経営戦略計画策定支援」、「財務診断等計数管理アドバイス」等のコンサルティング機能を活かした取組や、「不動産売買情報の提供」、「ビジネスマッチング等販路開拓支援」等の金融機関の持つネットワークを活かした取組を中心に経営支援が行われている。
 
第3-2-7図 地域金融機関の中小企業への経営支援の具体的取組状況

第3-2-7図 地域金融機関の中小企業への経営支援の具体的取組状況
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 第3-2-8図は、金融機関が、中小企業から望まれていると考える経営支援内容と、中小企業が、金融機関に今後期待している経営支援内容を示したものであるが、金融機関、中小企業ともに、経営支援において、「ビジネスマッチング等販路開拓支援4」を最も重視している。

4 具体的取組については、付注3-2-1を参照。
 
第3-2-8図 金融機関が中小企業から望まれていると考える経営支援内容/中小企業が金融機関に今後期待する経営支援内容(複数回答)

第3-2-8図 金融機関が中小企業から望まれていると考える経営支援内容/中小企業が金融機関に今後期待する経営支援内容(複数回答)
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事例3-2-1 ビジネスマッチングにより取引先の販路開拓を支援する金融機関

 島根県松江市の株式会社山陰合同銀行は、中小企業の販路開拓支援と地域振興に向けた取組として、ビジネスマッチングを推進している。
 営業店の担当者が、取引先の売りニーズ、買いニーズを把握し、相手先を見つけて引き合わせることはもちろん、市場調査を伴う商品開発等、コンサルティング型のビジネスマッチングも行っている。その際、自行内での対応が難しい課題への支援ができるように、大学、国内外の行政機関、商社、農業協同組合、公益財団法人大田区産業振興協会等、広範囲な外部ネットワークを構築している。
 同行はビジネスマッチングを推進するため、本部と営業店の意思統一を心掛けている。2010年4月に、ビジネスマッチンググループを組織し、同グループが営業店の意識向上のために各支店へ訪問し、「なぜ今ビジネスマッチングをしなければならないのか。」を、繰り返し問いかけ、考えさせている。また各支店に、推進責任者として専任者を任命し、成果や商談等の進捗管理を徹底させるなど、現場重視の体制整備を行っている。
 なお、同行では、マッチングが結実し、実現した売上に対し、手数料を受け取っている。これは、手数料第一主義ではなく、成功報酬を受け取ることで、生半可な取組では済まされなくなることから、現場の地域貢献に対する意識を醸成させることを目的としている。
 銀行である以上、最終的に貸出に結びつけばよいが、たとえ結びつかなくても、中小企業のため、地域のため、汗を流すことが地域金融機関の役目と考え、同行は今後もビジネスマッチングを推進する方針である。

 第3-2-9図は、地域金融機関の中小企業への経営支援の対応状況を、金融機関の業態別に示したものであるが、地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合の順に経営支援は「十分対応できている」、「ある程度は対応できている」と回答する割合が高くなっている。地方銀行は、約9割が対応できていると考えているのに対し、信用組合は、約6割となっており、事業規模の大きい金融機関ほど、中小企業への経営支援は対応できていると考える傾向にある5

5 業態の違いにより経営状態も異なる。付注3-2-2を参照。
 
第3-2-9図 地域金融機関の中小企業への経営支援の対応状況

第3-2-9図 地域金融機関の中小企業への経営支援の対応状況
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 一方、中小企業の金融機関の経営支援に対する満足度を見ると、金融機関の経営支援に満足していると回答している中小企業は3割程度になっている(第3-2-10図)。金融機関が認識している経営支援の対応状況を考えると、金融機関と中小企業の認識には大きな差がある。
 
第3-2-10図 金融機関の中小企業に行う経営支援の対応度と中小企業の金融機関から受ける経営支援の満足度

第3-2-10図 金融機関の中小企業に行う経営支援の対応度と中小企業の金融機関から受ける経営支援の満足度
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■金融機関の経営支援推進上の課題
 第3-2-11図は、金融機関が考える経営支援推進上の課題を、金融機関の業態別に示したものである。どの業態でも、「担当者の育成、教育が不十分6」、「取引先の事業内容や業界に対する理解が不十分」と回答する割合が高いが、「担当者の育成、教育が不十分」については、特に信用金庫と信用組合でこの傾向が強い。また「担当先が多すぎて個社ごとの経営ニーズを把握する時間がない」、「頻繁な担当替え」と回答する割合は、地方銀行と第二地方銀行で高くなっており、経営支援推進上の課題についても、金融機関の業態によって違いがある。

6 金融機関の経営支援の人材育成については、付注3-2-3を参照。
 
第3-2-11図 金融機関が考える経営支援推進上の課題(複数回答)

第3-2-11図 金融機関が考える経営支援推進上の課題(複数回答)
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 一方、中小企業が考える金融機関の経営支援推進上の課題を見ると、「担当者等の頻繁な交代」と回答する割合が4割強と最も高く、「担当者の企業や業界に対する理解が不十分」と回答する割合よりも高い(第3-2-12図)。金融機関が考えている課題と比べると、経営支援推進上の課題についても、金融機関と中小企業の間で、認識の違いがあることが分かる。
 
第3-2-12図 中小企業が考える金融機関の経営支援推進上の課題(複数回答)

第3-2-12図 中小企業が考える金融機関の経営支援推進上の課題(複数回答)
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 第3-2-13図は、中小企業から見た金融機関の経営支援の継続性についての認識を示したものである。経営支援を受けたことのある中小企業のうち、「担当者や上司が替わっても取組態度は変わらない」と回答する割合が過半を占めているものの、「担当者が替わると取組態度が変わる」、「支店長等の上司が替わると取組態度が変わる」と回答する割合を合わせると、3割に上る。このことから、中小企業は金融機関の経営支援に対して、属人的な理由で変化するものであり、継続的に行われていないと感じていることが見て取れる。
 
第3-2-13図 金融機関の経営支援の継続性

第3-2-13図 金融機関の経営支援の継続性
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 第3-2-14図は、更なる関係構築のため中小企業が今後金融機関に望むことを示したものであるが、「担当者交代時の自社情報の丁寧な引継ぎ」と回答する割合が最も高く、「担当者の自社の業界知識の習得」を望む割合よりも高い。中小企業は金融機関に対し、蓄積された自社情報に基づく取引関係を続けることを望んでいると考えられる。
 
第3-2-14図 更なる関係構築のため中小企業が今後金融機関に望むこと(複数回答)

第3-2-14図 更なる関係構築のため中小企業が今後金融機関に望むこと(複数回答)
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■経営支援による効果
 以上、経営支援推進のために、金融機関は、人材育成や取引先への理解が必要だと考えているものの、中小企業は、金融機関の担当者等の頻繁な交代に課題があると考えており、両者の認識には違いがあることが分かった。
 次に、経営支援による効果について見てみる。第3-2-15図は、中小企業が経営支援を受けたことによる効果を示したものであるが、中小企業の7割強が、何らかの効果があったと回答している。また効果があったとした企業のうち、具体的な効果については、「財務内容の改善」、「事業の継続」等が挙げられている。
 
第3-2-15図 中小企業が経営支援を受けたことによる効果

第3-2-15図 中小企業が経営支援を受けたことによる効果
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 また、金融機関の効果を見ると、「既往取引先の融資案件拡大につながった」と回答する割合が約6割、「既往取引シェア拡大につながった」と回答する割合が4割弱あるなど、中小企業への経営支援により、金融機関も業績向上に資する効果を得ていることが分かる(第3-2-16図)。
 
第3-2-16図 中小企業への経営支援による金融機関の効果(複数回答)

第3-2-16図 中小企業への経営支援による金融機関の効果(複数回答)
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 第3-2-17図は、金融機関の中小企業への経営支援のための体制を示したものである。取引先の経営支援に対応できていると回答した金融機関の支店は、対応できていないと回答した金融機関の支店よりも、経営支援に際し、本店と連携して対応している割合が高い。金融機関の中小企業への経営支援により、金融機関、中小企業双方に有益な結果をもたらすことが可能であり、そのためには、金融機関の本支店が連携を密にすることが効果的であると考えられる。
 
第3-2-17図 金融機関の経営支援のための体制

第3-2-17図 金融機関の経営支援のための体制
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■金融機関の海外展開支援
 ここでは、成長著しいアジア等の海外市場を目指す中小企業を支援するため、金融機関が中小企業の海外展開をどのように支援しているのか、その取組について見てみる。第3-2-18図は、金融機関の海外展開支援の具体的取組を示したものである。地方銀行は、「資金調達支援」や「現地市場や投資規制等の情報提供」の割合が高くなっているが、第二地方銀行、信用金庫では、「国内の支援機関の紹介」の割合が高い。これは業態による規模の違いが、金融機関の取り組める業務に、差をもたらしているためと考えられる。
 
第3-2-18図 地域金融機関の海外展開支援の具体的取組内容(複数回答)

第3-2-18図 地域金融機関の海外展開支援の具体的取組内容(複数回答)
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事例3-2-2 中小企業の海外展開を支援する金融機関

 静岡県浜松市の浜松信用金庫は、中小企業の海外展開を積極的に支援している。
 同金庫は、海外ビジネスサポートデスクを2010年3月に設置した。同デスクでは海外展開を検討している企業に対し、独立行政法人日本貿易振興機構、社団法人静岡県国際経済振興会、浜松商工会議所等の公的機関や、信金中央金庫、提携大手金融機関の海外拠点と連携して、進出予定先の経済状況・投資環境を始めとした各種情報の提供、現地の会計士・コンサルタントの紹介等、資金供給だけではないトータルサポートを行っている。
 海外展開について、構想段階である時は、取引先の進出判断と同金庫の与信判断を兼ねた、進出事業計画書の作成支援により、経営者のアイディアを形にする手助けを行い、また、生産拠点設立段階においては、担当者が取引先に同伴し現地の工場団地を視察するなど、「浜松信用金庫がお客様の海外事業部となる。」という理念のもと、取引先と膝を交えたサポートを実践している。
 さらに、海外生産拠点設立の支援だけでなく、海外での販路開拓支援を推進するため、2011年4月には、香港で開催された食品・ホテル関連の国際展示会の主催者と直接交渉し、同展示会に、浜松市の企業4社の事務局となって参加した。
 同金庫の御室健一郎理事長は、「地域を守る信用金庫が取引先の海外進出を支援することは、地域産業の空洞化を招くのではないかとの声もあり、当初は積極的に支援するか迷った。しかし、取引先からの支援ニーズが高く、また海外市場の成長を取り込む企業の方が、国内でも雇用を守り、地域経済にも貢献していることが多かった。こうした取組を積み重ねていくことは、中長期的に海外現地の発展や生活の向上に貢献することとなり、それが跳ね返って日本に投資してもらうことにもつながる。」と語り、今後も、海外展開支援を推進していく方針である。

 第3-2-19図は、中小企業が金融機関に今後期待する海外展開支援内容を示したものであるが、中小企業は、海外展開に際し、金融機関に「リスク管理のアドバイス」や「進出先の投資環境の情報提供」を期待する割合が高い。
 
第3-2-19図 中小企業が今後期待する海外展開支援内容(複数回答)

第3-2-19図 中小企業が今後期待する海外展開支援内容(複数回答)
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 第3-2-20図は、金融機関が海外展開支援を推進するための取組を示したものである。地方銀行は、自行が海外に拠点を置くことで海外展開を支援しているが、第二地方銀行、信用金庫は、国内での連携により、海外展開を支援するための取組である「他の金融機関、商社、公的機関等へのトレーニー派遣」や「海外展開支援を行う専門機関、コンサルタントとの連携」を行っている。
 
第3-2-20図 地域金融機関の海外展開支援推進のための自行庫内の取組(複数回答)

第3-2-20図 地域金融機関の海外展開支援推進のための自行庫内の取組(複数回答)
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 以上、金融機関の中小企業への経営支援の状況について、金融機関、中小企業双方から見てきた。
 金融機関には、販路開拓支援を始め、資金供給以外の経営支援が期待されているが、金融機関が対応できていると考えるほど、中小企業は満足しておらず、一層の経営支援が期待される。また、経営支援推進に際しては、金融機関が課題と考える人材育成のみならず、中小企業が課題と考える担当者交代時の丁寧な情報の引継ぎ等、長期にわたって安定した取引ができるよう、継続的な取組も重要である。
 政府としても、中小企業の多様な経営課題に対し、金融支援と経営支援の一体的取組を推進し、能力とやる気のある地域金融機関等を支援機関として取り込むなど、経営支援の担い手の多様化、支援能力の向上を図っていく。
 
コラム3-2-4 中小企業の海外における商品の需要の開拓の促進等のための中小企業の新たな事業活動の促進に関する法律等の一部を改正する法律案

 中小企業の経営課題は、多様化、複雑化しており、財務・会計等の専門知識を有する者(既存の中小企業支援者、金融機関、税理士法人等)による支援事業を通じ、課題解決の鍵を握る事業計画の策定等を行い、中小企業の経営力を強化することが急務となっている。
 また、国内需要が停滞する中、中小企業が海外展開を行うに当たって、中小企業の海外子会社の資金調達が困難となるなど、資金面での問題が生じており、中小企業が海外で事業活動を行う際の資金調達を円滑化するための措置を講ずることが、急務となっている。
 そのため、政府では、中小企業の経営力の強化を図るため、〔1〕支援事業の担い手の多様化・活性化、〔2〕海外展開に伴う資金調達支援の措置を講じる「中小企業経営力強化支援法案」を2012年3月に閣議決定した。

措置事項の概要
1.支援事業の担い手の多様化・活性化
(1)既存の中小企業支援者、金融機関、税理士法人等の支援事業を行う者の認定を通じ、中小企業に対して専門性の高い支援事業を実現する。
(2)(独)中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」という)の専門家派遣等による協力や、信用保証協会の保証付与による資金調達支援を通じ、支援事業を支援する。
 
1.支援事業の担い手の多様化・活性化

2.海外展開に伴う資金調達支援
 承認又は認定を受けた計画に従って事業を行う中小企業者に対し、
(1)(株)日本政策金融公庫(以下「日本公庫」という)に債務保証業務を追加し、長期融資に関して信用状を発行すること及び(独)日本貿易保険(以下「日本貿易保険」という)の保険業務を拡充し、短期融資に保険を付すことを通じ、中小企業の外国関係法人の海外現地金融機関からの資金調達を支援する。
(2)中小企業信用保険の保険限度額を増額し、親子ローン等を通じた海外展開を支援する。
 また、承認又は認定に当たっては、国内事業基盤の維持に配慮する。
 
2.海外展開に伴う資金調達支援

3.経営基盤強化計画の廃止
 
事例3-2-3 地域活性化に向けた取組を続ける金融機関

 北海道稚内市の稚内信用金庫は、役職員一体となって、取引先への経営指導や生活相談を行い、地域活性化に向けた取組を続けている。
 地域の基幹産業について、1980年頃より衰退の一途をたどっていた水産業から観光業へ、官民一体となって舵を切る際、リーダーシップを発揮したのが同金庫である。
 ジェット機が発着できるよう、空港の拡張工事や、大型ホテルの誘致等、地域に観光客を呼び込むためのインフラ整備を働きかける一方で、取引先を中心にホテル・旅館の建設を勧める指導も行った。
 旅館経営者に対しては、「おもてなしの心を打ち出した癒しの観光」というコンセプトを共有し、現在も、大衆旅行から個人旅行へという顧客意識の変化を説いて、経営指導を行っている。
 同金庫の積極的な取組により、稚内市では観光業が主力産業に成長し、漁船の乗組員だった者がフェリーの乗組員になるなど、観光業が水産業の余剰人員の受け皿となっている。
 官への働きかけ、民への指導に主体的に取り組んだことについて、同金庫の元理事長である井須孝誠最高顧問は、「稚内信金がやらねば、地域が衰退してしまうという使命感があった。使命感なくして仕事をするのは、地域金融機関の人間として、最も駄目なことである。」と語る。
 その結果、同金庫は、特に、金利の高い預金商品や金利の低い貸出商品がないにもかかわらず、地域で高い預金占有率、貸出金占有率を誇っている。
 
事例3-2-4 中小企業の事業承継を支援する金融機関

 栃木県宇都宮市の株式会社栃木銀行は、中小企業の事業承継支援の中でも、M&A支援に積極的に取り組んでいる金融機関である。
 同行は内部に専門部署や相談窓口を設けていないものの、本部と営業店が連携し、また、株式会社日本M&Aセンター、東京中小企業投資育成株式会社等、外部の仲介業者を活用しながら、顧客ニーズに対応している。営業店の担当者が入手した売却ニーズ、買収ニーズは、行内の情報掲示板で匿名のまま情報交換され、行内でマッチングができない場合は、外部の仲介業者を利用して、マッチング先の探索を行っている。
 企業にとって、金融機関は債権者であることから、普段から関係構築ができていても、自社の売却を考える企業が、金融機関に相談することは多くない。そのため、同行は企業の株価算定支援等、周辺の情報提供を行うことから始め、顧客から徐々に話を引き出すように工夫を重ねている。
 実際のM&A交渉の席にも、同行と仲介業者が同席して対応している。企業を売却する場合、売却側の経営者が最も心を砕くのが、従業員の雇用の確保であり、金融機関が日頃の取引関係により、情報として蓄積してきた経営者の思いや企業の歴史を踏まえて、有利に交渉ができるように支援を行うためである。
 経営者の高齢化に伴い、事業承継の需要が拡大することが予想される中、今後も取引先中小企業の経営課題への対応という地域密着型金融の一環として、事業承継支援を推進していく方針である。
 
事例3-2-5 金融機関の支援によりグリーン・イノベーションに取り組む企業

 山梨県甲府市の株式会社萩原ボーリング(従業員53名、資本金1,500万円)は、地下水・温泉開発に係るボーリング工事や、各種地質調査を行う企業である。環境意識の高まりから、次世代エネルギーとして地中熱に着目し、地中熱利用システムの事業化を検討していたところ、メインバンクである株式会社山梨中央銀行の担当者から山梨大学の技術シーズの紹介を受け、地中熱の熱量測定技術について独立行政法人新エネルギー・産業技術開発機構の実証事業に同大学と共同で応募した。
 この実証事業により、地中熱の熱量測定の低コスト化に成功し、地中熱利用システムに標準化されると、システムの実効性の把握が容易になり、普及に向けて実際に即したエネルギーコストの算出が可能となる。地中熱利用システムは、一般的な建物では二酸化炭素の排出量が約50%削減可能となり、農業用ハウスでは、農作物の年複数回の収穫や単位面積収穫量の増量も期待できる。
 同社の萩原利男社長は「経営資源に限りがある中で、大学の研究成果を世に出し、商売につなげるには、民間企業、大学、様々な機関が連携する必要がある。今後も地域社会に根ざした“地産エネルギーを用いた新エネルギーシステム”を構築していこうと思うが、金融機関がその支援をしてくれるのは心強い。」と語り、産学連携によるグリーン・イノベーションの取組を今後も推進していく方針である。
 
地中熱の熱量測定システム
 
コラム3-2-5 中小企業の会計に関する基本要領

 中小企業が適時、正確に計算書類を作成することは、経営者が必要な財務情報を入手し、それに基づき自社の経営状況を的確に把握することに有効であると考えられる。自社の経営状況を的確に把握することは、新規投資や経営改善の際の適切な経営判断の前提であり、また、金融機関等の外部利害関係者に対して、正確に自社の財務情報や経営状況を説明するために必要である。中小企業の経営者が、会計の重要性を認識し、財務情報に基づき経営判断を行うことにより、企業の経営力・資金調達力の強化や取引拡大につながることが期待される。しかしながら、中小企業の会計処理の実態は、経理担当者の人数が少なく、専門家に計算書類の作成を一任する企業が4割強に上るなど、中小企業の経営者が、経営状況を的確に把握するために必要な財務情報を把握しているとは必ずしもいえない状況にある。
 
中小企業の会計処理の状況

中小企業の会計処理の状況
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 中小企業の会計制度としては、2005年8月に日本税理士会連合会、日本公認会計士協会、企業会計基準委員会、日本商工会議所の民間4団体により、「中小企業の会計に関する指針」(以下「中小指針」という)が公表されている。しかしながら、同指針は会社法で定める会計参与設置会社が拠ることが適当とされているように、一定の水準を保った会計制度であったこと、国際会計基準への収れんの影響を受けて、ほぼ毎年改訂されていること等から、多くの中小企業が活用するには適していないとの指摘があった。
 そこで2010年2月から9月に中小企業庁において「中小企業の会計に関する研究会」が、同年3月から8月には企業会計基準委員会等の民間団体により「非上場会社の会計基準に関する懇談会」が開催され、中小企業の実態に即した新たな中小企業の会計処理の在り方を示すものを取りまとめるべきなどの方向性が示された。
 これを受け、2011年2月から、中小企業関係者等が主体となって「中小企業の会計に関する検討会」、及び「同ワーキンググループ」を開催して、検討を重ね、パブリックコメントによる意見も踏まえて、2012年1月27日に開催された「中小企業の会計に関する検討会」において、「中小企業の会計に関する基本要領(以下「中小会計要領」という)が取りまとめられた。

中小会計要領の概要
【総論】
<目的>
 以下の考えに立って作成。
・経営者が活用しようと思えるよう、理解しやすく、自社の経営状況の把握に役立つ会計
・利害関係者(金融機関、取引先、株主等)への情報提供に資する会計
・実務における会計慣行を十分考慮し、会計と税制の調和を図った上で、会社計算規則に準拠した会計
・計算書類等の作成負担は最小限にとどめ、中小企業に過重な負担を課さない会計

<本要領の利用が想定される会社>
 以下を除く株式会社が想定される。
・金融商品取引法の規制の適用対象会社
・会社法上の会計監査人設置会社
(注)中小指針では、「とりわけ、会計参与設置会社が計算書類を作成する際には、本指針に拠ることが適当である。」とされている。

<継続性の原則>
 継続性の原則について、他の企業会計原則とは別に記載。会計処理の方法は、毎期継続して同じ方法を適用する必要があり、これを変更するに当たっては、合理的な理由を必要とし、変更した旨、その理由及び影響の内容を注記する。

<国際会計基準との関係>
 安定的に継続利用可能なものとする観点から、国際会計基準の影響を受けないものとした。

<記帳の重要性>
 経営者が自社の経営状況を適切に把握するために記帳が重要である。他の企業会計原則とは別に記載。記帳は全ての取引について、正規の簿記の原則に従って行い、適時に、整然かつ明瞭に、正確かつ網羅的に会計帳簿を作成しなければならない。

【各論】(抜粋)
<貸倒引当金>
 決算期末における貸倒引当金の計算方法として、原則的な処理のほかに、法人税法上の中小法人に認められている法定繰入額で算定する方法も例示している。

<有価証券>
 有価証券の評価方法を、法人税法と同様に、売買目的有価証券以外は原則取得原価での計上とし、事務負担の軽減に配慮している。

<棚卸資産>
 中小企業は法人税法上認められている「最終仕入原価法」で評価していることが多い実態を踏まえ、「最終仕入原価法」を他の評価方法とともに利用できることとしている。

<退職給付引当金>
 退職給付引当金について、適正な損益計算を行う観点から、当期末における自己都合要支給額をもとに計上しなければならない旨を明記。従業員の在職年数等企業の実態に応じて合理的に引当金額を計算し、自己都合要支給額を基礎として、例えば、その一定割合を計上することとしている。

<その他>
 中小企業の実務で使われている基本的な14項目の会計に限定。「税効果会計」や「組織再編の会計」等は盛り込んでいない。

 
中小会計要領の位置付け

中小会計要領の位置付け



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