第3部 中小企業の技術・経営を支える取組 

第1節 中小製造業の現状

■中小製造業の企業数、従業者数、付加価値額
 経済産業省「工業統計表」に基づき、中小製造業の企業数の推移を見ていく。第3-1-1図を見ると、中小製造業の企業数は、2000年から2009年まで減少傾向にあり、特に、2009年は、企業数が大幅に減少している。また、2000年からの企業数の増減率を従業者規模別に見ると、おおむね従業者規模が小さな企業ほど企業数が減少していることが分かる。
 
第3-1-1図 従業者規模別の中小製造業の企業数の推移

第3-1-1図 従業者規模別の中小製造業の企業数の推移
Excel形式のファイルはこちら


 次に、中小製造業の企業数の推移を経営組織別・資本金階層別に見てみると、資本金のある会社企業では、資本金規模が小さな企業ほど、企業数の減少が顕著となっている一方で、資本金が5,000万円超の企業数は、2000年から2009年まで、ほぼ横ばいで推移していることが見て取れる(第3-1-2図)。会社企業以外の経営組織(組合・その他の法人・個人)では、2000年から2009年までに、企業数が年率で▲8.4%となっており、資本金が300万円以下の企業数の減少率を上回っている。
 
第3-1-2図 経営組織別・資本金階層別の中小製造業の企業数の推移

第3-1-2図 経営組織別・資本金階層別の中小製造業の企業数の推移
Excel形式のファイルはこちら


 第3-1-3図は、従業者数3人以下の事業所も調査対象とした、2000年及び2008年の「工業統計表」を用いて、中小製造業の経営組織別企業構成を示したものである。両年を比較すると、中小製造業では全体における会社企業の割合が上昇し、個人企業の割合が低下していることが分かる。個人企業は、2000年、2008年ともに、ほとんどが従業者数20人以下の小規模企業で構成されていることから、企業数の減少は特に小規模企業で大きくなっている。
 
第3-1-3図 中小製造業の経営組織別企業構成

第3-1-3図 中小製造業の経営組織別企業構成


 中小製造業の企業数を開業と廃業に区分して増減を見てみると、企業数の減少が年々進行する中でも、開業数は一定数存在しており、製造業内で新陳代謝が進んでいる(第3-1-4図)。
 
第3-1-4図 中小製造業の企業数の変化率と開業・廃業の内訳

第3-1-4図 中小製造業の企業数の変化率と開業・廃業の内訳
Excel形式のファイルはこちら

 
事例3-1-1 ものづくりの街で創業し高い技術力で成長する企業

 福岡県北九州市のアジア技研株式会社(従業員25名、資本金3,000万円)は、スタッド溶接システム、工業用ファスナー等の製造・販売を行う企業である。スタッド溶接とは、金属板にネジ等(スタッド)を、穴を開けずに溶接する技術で、自動販売機、住宅アルミ外壁、船内艤装、電子機器筐体等幅広い分野で使われている。スタッド、溶接機、溶接ロボット等を自社で一貫して製造・販売することが、同社の強みであり、また、研究開発では、取扱いが難しいマグネシウム合金のスタッド溶接技術を確立し、「第2回ものづくり日本大賞優秀賞」を受賞し、「北九州オンリーワン企業」にも認定されている。
 同社社長の溝口純一氏が会社を設立し、事業を開始したのは1994年で、その後、事業の拡大とともに、北九州市内で3度の本社・工場の移転を行い、現在に至っている。2008年からは製品の輸出業務も行っており、海外での生産拠点の設立も視野に入れた事業展開を行っている。人材確保にも積極的に取り組んでおり、被災地域の若者を2名採用した。溝口社長は、「続けて働き本人が希望すれば地元に近いところで働けるようになるまで事業を拡大したい。」と、更なる挑戦への意欲を示している。
 
同社の溶接機、同社の溶接技術

 さらに、第3-1-5図〔1〕は、中小製造業1企業当たりの付加価値額と従業者数を示したものであるが、1企業当たりの従業者数は、2000年から2009年までおおむね増加していることが見て取れる。一方、パネルデータを用いて、2000年から2009年まで存続した企業のみで見ると、1企業当たりの従業者数は、2009年にリーマン・ショックの影響で大きく減少したものの、2000年から2008年まで、ほぼ横ばいで推移していた1(第3-1-5図〔2〕)。

1 2009年の企業規模別の製造業付加価値額については、付注3-1-1を参照。

 
第3-1-5図〔1〕 中小製造業1企業当たりの付加価値額と従業者数の推移

第3-1-5図〔1〕 中小製造業1企業当たりの付加価値額と従業者数の推移
Excel形式のファイルはこちら

 
第3-1-5図〔2〕 中小製造業1企業当たりの付加価値額と従業者数の推移(パネルデータ)

第3-1-5図〔2〕 中小製造業1企業当たりの付加価値額と従業者数の推移(パネルデータ)
Excel形式のファイルはこちら


 2000年から2009年まで存続した企業の従業者数が、ほぼ横ばいにもかかわらず、第3-1-5図〔1〕のように1企業当たりの従業者数が増加しているのは、従業者規模の小さな企業を中心に廃業や合併等が進んでいることを裏付けている。

■中小企業の強み、位置付け
 中小製造業では、小規模な企業を中心に、多くの企業が廃業するなど、厳しい環境に直面している。他方、以下の事例に見られるように、国内には高い技術力を有する企業が多数存在している。ここでは、製造業を対象に行った「技能・技術承継に関するアンケート調査2」の結果をもとにして、中小製造業の強みや位置付けについて見ていく。

2 中小企業庁の委託により、三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)が、2011年12月に製造業の法人企業17,000社を対象に実施したアンケート調査。回収率14.2%。ただし、岩手県、宮城県、福島県の大震災により甚大な被害(津波被害、地震被害等)を受けた地域に本社が所在する企業は対象外とした。

 中小企業は、どのような分野の技術を得意とし、他社との差別化を図ってきたのであろうか。第3-1-6図は、競争優位に寄与している技術を示したものである。これを見ると、「多品種・ロット変動等への適応力」と回答する企業が約4割、「納期短縮を実現する技術」や「難度の高い加工を実現する技術」と回答する企業が3割程度となっている。
 
第3-1-6図 競争優位に寄与している技術(複数回答)

第3-1-6図 競争優位に寄与している技術(複数回答)
Excel形式のファイルはこちら

 
事例3-1-2 大手自動車メーカーとの共同開発により高機能製品を生み出し、国内外で高いシェアを持つ企業

 愛知県弥富市の東洋精鋼株式会社(従業員61名、資本金2,500万円)は、自動車や航空機の部品加工に欠かせない、ショットピーニング加工に使用される投射材の製造・販売を行っている。ショットピーニングは、無数の金属粒を高速度で金属表面に衝突させる加工の一種であり、この加工を施すと、疲労強度向上等の効果が得られることから、主に、自動車のサスペンション、歯車の製造で利用されている。
 同社は従来、金属加工品のバリ取り等に使われる投射材(ワイヤー状の鋼材を切断したカットワイヤー)を製造していたが、1989年に、ショットピーニングに使う球状の投射材を、トヨタ自動車株式会社と共同で開発した。我が国で初めてのラウンドカットワイヤーである。当時使われていた鋳鋼製の投射材は、耐久性が低く、すぐ破損してしまう欠点があった。しかし、同社が開発した投射材は、鋳鋼製に比べて価格は3倍だが、耐久性が高く、使用量が7分の1で済むため、大幅なコストダウンが可能となった。
 こうした利点により、トヨタ自動車株式会社以外の自動車メーカーでも、同社製品は採用されるようになり、今では、国内のピーニング用の投射材で、9割以上のシェアを確保している。また、国内自動車メーカーの海外展開に伴って、輸出を始め、今では、海外自動車メーカーとの取引も増え、25か国・地域に輸出するようになった。
 同社は、自動車業界で培った技術力を活かし、航空機部品加工用の投射材で航空機業界への参入を進めている。耐久性の高い同社の投射材は、ボーイング、GE、P&W等の大手航空機関連メーカー各社から品質認定を受けるなど、幅広く評価されている。
 
球状のラウンドカットワイヤー、ショットピーニング装置
 
事例3-1-3 高い技術力を背景に、航空宇宙産業で存在感を発揮する企業

 神奈川県横浜市の株式会社山之内製作所(従業員77名、資本金3,200万円)は、航空機部品や人工衛星のエンジン部品等の宇宙機器部品を開発・製造する企業である。創業当初より、切削による精密加工を行っており、他社が断るような難度の高い製品の加工を積極的に引き受け、その要求に応えるために、高性能工作機を導入し、技術力を高めてきた。同社では溶接技術を一切使わず、切削のみの加工を行うことで、継ぎ目のない複雑形状部品の超精密加工を実現しており、「熱に強いどんな難削材でも高精度に削る」との定評がある。
 大規模受注・少量生産、長いリードタイムという性格を持つ航空宇宙産業界では、常に、高い品質管理・保証が要求される。同社では、航空宇宙産業における品質マネジメントの国際規格であるJIS9100に加え、航空宇宙産業界の特殊工程に関する世界唯一の統一認証プログラムであるNadcap3認証を取得している。

3 National Aerospace and Defense Contractors Accreditation Programの略称。

 同社の超精密加工を実現する技術力と品質管理・保証体制は、参入障壁が高い航空宇宙産業界においても高く評価されており、国内大手重工メーカーから受注を獲得している。
 
同社が製造したエンジン部品を搭載する航空機
 
事例3-1-4 産学連携と、職人の技による加工技術で高い競争力を維持する企業

 大阪府東大阪市の大阪精密機械株式会社(従業員66名、資本金7,250万円)は、歯車の精密加工等に必要となる測定機の開発・製造を行う企業である。同社は、デジタル技術であるソフトウェアを活用した補正と、アナログのキサゲ加工の融合により、高い測定精度を実現し、国内測定機市場においては、約7割と圧倒的シェアを占めている。キサゲ加工とは、職人がノミのように先端が平らな手工具(キサゲ)を使い、機械加工では不可能な、超高精度に平面を仕上げる技術である。
 同社は現在、先端技術と技術課題を解決するアイディアの吸収を目的に、電気通信大学等3校と連携し、ソフトウェア改良による自動測定速度の向上等について共同研究を実施している。
 同社の本田正守取締役は、「これまで、熟練技能を持つ職人は、ベテラン中心であったため、技能伝承は進んでこなかったが、近年では若手の中から、適性のある社員を見抜き、OJTを中心とした、現場での取組により育成を進めた結果、最盛期と同じ人数で加工技術を維持している。」と話す。
 
同社のキサゲ加工

 中小企業の技術競争力の位置付けを、5年前と比較してみると、8割強の企業で、技術競争力が高まっている、あるいは、従来の水準を維持していると回答している一方、2割弱の企業で、技術競争力が低下していると回答している(第3-1-7図)。
 
第3-1-7図 技術競争力の位置付け(5年前との比較)

第3-1-7図 技術競争力の位置付け(5年前との比較)
Excel形式のファイルはこちら


 第3-1-8図は、技術競争力が低下していると回答した中小企業に、その理由を尋ねた結果を示したものである。これを見ると、中小企業は、様々な課題を抱えていることが見て取れるが、その中でも「技術・技能承継がうまくいっていない」と回答する企業の割合が特に高く、技術・技能承継が大きな課題となっていることが明らかとなっている。
 
第3-1-8図 技術競争力が低下している理由(複数回答)

第3-1-8図 技術競争力が低下している理由(複数回答)
Excel形式のファイルはこちら




前の項目に戻る      次の項目に進む