第2部 潜在力の発揮と中小企業の役割 

2 女性起業の現状と課題

 前項では、女性起業家は、個人向けサービス等の暮らしを充実させる分野での事業展開が多いという特長があることを示した。本項では、女性の起業の動向について概観した上で、女性が起業する上での課題について分析する。

■女性起業の現状
 ここでは、総務省「就業構造基本調査」及び「女性起業家に関するアンケート調査36」をもとに、男性の起業と比較しながら、女性の起業の現状を見ていく。

36 経済産業省の委託により三菱UFJリサーチ&コンサルティング(株)が、2011年3月に、20歳以上で、起業して10年未満の者(インターネット調査会社に登録されているモニターに対して事前調査を行い、調査対象に該当する男女を抽出。)を対象に実施した、インターネットによるアンケート調査。回答者数は、618人(男性309人、女性309人)。

 まず、男女別に起業家の年齢層を見ると、男性起業家は30歳代と60歳代において人数が多くなっており、年代による差があることが分かる。一方で、女性起業家は30歳代の人数が多いものの、他はどの年代でもほぼ同数で横ばいとなっており、女性の起業は、男性と比べて少ないことが分かる(第2-2-46図)。
 
第2-2-46図 男女別・年代別の起業家数

第2-2-46図 男女別・年代別の起業家数
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 男女別に起業家の企業規模を見ると、女性起業家の個人所得は7割が100万円未満となっている(第2-2-47図)。また、起業家の企業規模を従業者数で見ると、女性起業家は、9割が従業員を雇用せずに起業している(第2-2-48図)。このことから、男性と比べて、女性の起業は、比較的小規模な起業が多いことが分かる。
 
第2-2-47図 男女別の起業家の個人所得

第2-2-47図 男女別の起業家の個人所得
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第2-2-48図 男女別の起業家が経営する企業の従業者数

第2-2-48図 男女別の起業家が経営する企業の従業者数
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 起業時の年齢を見ると、女性は男性と比較して、平均年齢が4.5歳低く、低い年代で起業する割合が高い(第2-2-49図)。また、起業前の就業経験年数も、女性の方が短い傾向にある(第2-2-50図)。就業経験の短い女性は、資金や経験を得る機会が少なく、相対的に起業を実現しにくい環境に置かれていると考えられる。
 
第2-2-49図 男女別の起業時の年齢

第2-2-49図 男女別の起業時の年齢
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第2-2-50図 男女別の起業家の起業前の就業経験年数

第2-2-50図 男女別の起業家の起業前の就業経験年数
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■女性起業の課題
 こうした起業時の年齢や就業経験についての男女の違いは、起業時における課題にどのような影響を与えているだろうか。
 起業時の課題を男女別に見てみると、女性が起業する際の課題は、男性と比べて「経営に関する知識・ノウハウ不足」、「事業に必要な専門知識・ノウハウ不足」と回答する割合が高い(第2-2-51図)。これは、就業経験の短さから、経営や事業に関する知識や経験を得る機会が少なく、また、これらの知識・ノウハウを与えてくれる助言者に出会う機会も乏しいことが、要因であると考えられる。他方、「開業資金の調達」という課題は、男性においては最も多く回答されているものの、女性においては最多となっていない。これは、男性の起業と比べると、女性の起業は、比較的小規模であり、自己資金のみで起業する割合が高い傾向にある37ため、資金ニーズに関する回答が、最多となっていないのではないかと推察される。さらに、「家事・育児・介護との両立」という課題については、他の項目における回答に比べれば、割合は低いものの、男性と比べると約4倍の開きがあり、女性が起業する際に留意しなければならない課題の一つといえる。

37 借入をして起業する女性起業家の状況については、コラム2-2-8で述べる。
 
第2-2-51図 男女別の起業時の課題(複数回答)

第2-2-51図 男女別の起業時の課題(複数回答)
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 以上、我が国の女性起業の現状及び課題について分析してきたが、女性の起業活動を促進するためには、どのような支援が必要だろうか。
 第2-2-52図によると、女性が起業時に欲しかった支援は、「同じような立場の人(経営者等)との交流の場」、「経営に関するセミナーや講演会」と回答する割合が男性と比べて高い。就業経験が少なく、ビジネスにおける知識や経験が不足している女性起業家には、相談に乗り、助言を与えてくれるメンターの存在やロールモデルを提供してくれる同じ立場の人の存在が、重要と考えられる。このため、これらの人々との交流や意見交換ができる場は、女性が起業の課題を克服する上で、重要な役割を果たすといえる。
 
第2-2-52図 男女別の起業時に欲しかった支援(複数回答)

第2-2-52図 男女別の起業時に欲しかった支援(複数回答)
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事例2-2-18 様々なつながりの支援を受けて起業した女性起業家

 東京都千代田区の株式会社コラボラボ(従業員5名、資本金1,500万円)は、大手企業からのマーケティング事業等の受託及び女性起業家を会員とするポータルサイト「女性社長.net」の運営を行っている。同ポータルサイト内では、女性社長の紹介や女性社長と大手企業とのビジネスマッチング等が行われている。
 同社の横田響子社長は、前職の大手人材関連会社で、事業企画等に携わっていた。しかし、やりたいことを自分でしたいという気持ちが強くなったため退職し、フリーランスとして活動した後、2006年に起業した。
 「女性の起業には、事業面で支援してくれる人と精神面で支援してくれる人が必要。」と語る横田社長自身、起業時に様々な人に助けられた。事業面では、女性社長にインターンシップの形で、仕事と収入の機会を提供してもらうとともに、精神面では、前職の先輩や学生時代の友人に、ビジネスモデルの相談に乗ってもらい、起業の後押しをしてもらった。
 「女性の起業については、立ち上げ支援だけでなく、起業後の事業継続支援も重要。」と語る横田社長は、女性起業家300名が一同に集結する「J300」を企画するなどして、高い専門性を持ちながらもビジネス経験や人脈に乏しい女性経営者が、より強みを活かせるようサポートしたいと考えている。
 
J300に参加する女性起業家
 
事例2-2-19 支え合いにより家事・育児の課題を乗り越えて起業した主婦グループ

 長野県松川村の有限責任事業組合こめのこ工房なごみや(組合員6名、従業員6名)は、地元信州安曇野産の米粉を使用したパンやケーキを製造し、地元の道の駅・農協直売所やネットで販売している。
 同組合の組合員及び従業員は全て、松川村の郷土料理講習会に集まった子育て世代の主婦である。そのため、家計に影響が及ばないよう、起業時に必要であった設備を中古で購入し、設備投資を自己資金の範囲内に抑えた。また、就業形態についても、土日・祝祭日、夏休み・冬休みを休業とするだけでなく、出勤日を週3日程度、勤務時間を午前か午後と設定することで、家事・育児をしながらでも、働きやすいような環境を整備している。
 「母親でも事業はできる。しかし、一人で起業することは困難であり、複数人で支え合ってやることが大事。」と語る同組合の吉森里和組合員は、「売上を拡大するという考えではなく、負担のない範囲で、お小遣い程度に稼げれば良いという考えを皆で共有していることが、うまくいっている大きな要因。」と考えており、子育てをしながら働ける場所という意識を、全員で共有することの重要性を指摘する。
 
信州安曇野産の米粉を使用したパン
 
事例2-2-20 地元企業の支援により農産加工品の商品化やブランド化に取り組む女性グループ

 山口県山口市内の5つの地域では、国の施策を活用して、女性グループ等が主体となり、地域の特産品を活かした新しい乾燥食品の開発が、進められている。
 その一つである阿東地域長門峡「実り会」は、篠生農業協同組合婦人部若妻会のOGが集まった10名の女性グループで、特産品の梨を使ったドライフルーツの商品開発を行っている。同会のメンバーは、地域に愛着を持ち、地域を元気にしたいという思いから、これまでは梨ジャムを作ってきた。しかし、地域の魅力をより強く発信するためには、他の地域にはない画期的な新商品が必要ではないかと感じ、試行錯誤を行っていたが、思うような新商品を開発できずに悩んでいた。
 そこで、助けとなったのが、同市に本社を置く株式会社木原製作所(従業員70名、資本金4,500万円)であった。同社は、主力製品として葉たばこ乾燥機を製造・販売する国内有数の企業であるが、木原康博氏が4代目として2008年に社長に就任して以来、時代の変化に応じた新たな事業の柱として食品乾燥機に力を入れ、コンピュータ制御による燃費を大幅に改善した製品の開発やホームページを利用した販路開拓に取り組んできた。同社は、山口市の仲介で、地域の活性化を進める各グループとつながり、乾燥技術の提供や商品の試作に加え、商品パッケージや販売戦略を提案し、各グループの思いを実現する後押しをしてきた。
 実り会メンバーは、「パッケージデザイン等も提案してもらったので商品として完成できたが、それがなければここまでたどり着けなかった。」と語る。地域のつながりの中で、地域を活性化したいという思いの実現に向けた取組が進められている。
 
商品開発に取り組む実り会メンバー
 
コラム2-2-8 (株)日本政策金融公庫総合研究所 「新規開業実態調査」38に見る女性起業家の現状

38 1991年度以降、(株)日本政策金融公庫の取引先を対象に実施しているアンケート調査。毎年ほぼ同様の要領で継続的に実施しており、2010年度調査では、1,738社が回答。

 本コラムでは、(株)日本政策金融公庫総合研究所が行っている「新規開業実態調査」により、女性起業家の現状を見る。
 コラム2-2-8図〔1〕は、起業家全体に占める女性起業家の割合の推移である。同調査では、女性割合は15%前後を示しており、総務省「就業構造基本調査」の同割合(32.3%)39と比較するとかなり低い。女性が起業した企業は男性と比較して小規模であり40、自己資金のみで起業する割合が、男性起業家より高い傾向にあるため、同調査における女性割合が、低くなっていると考えられる。

39 中小企業白書(2011年版)p.185を参照。
40 前掲第2-2-47図、前掲第2-2-48図を参照。
 
コラム2-2-8図〔1〕 起業家全体に占める女性起業家の割合の推移

コラム2-2-8図〔1〕 起業家全体に占める女性起業家の割合の推移
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 次に、起業家の起業分野を男女別に見たのが、コラム2-2-8図〔2〕である。女性は、個人向けの身近なサービス等で起業が多く、前掲第2-2-44図と同様の結果となっているが、同調査では医療・福祉の分野での起業の割合が男性よりも高くなっているという特徴がある。
 
コラム2-2-8図〔2〕 男女別の起業家の起業分野

コラム2-2-8図〔2〕 男女別の起業家の起業分野
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 起業時の年齢については、前掲第2-2-49図では、女性は比較的若い年代の割合が高かったものの、同調査では、女性の平均年齢が43.7歳であるのに対し、男性が42.4歳となっており、ほとんど男女差は見られない。また、起業前の就業経験年数を男女別に見たのが、コラム2-2-8図〔3〕である。前掲第2-2-50図では、女性は男性に比べて就業経験が少ない傾向にあり、同調査でも同様の傾向となっているものの、それほど大きな差は見られない。
 
コラム2-2-8図〔3〕 男女別の起業家の起業前の就業経験年数

コラム2-2-8図〔3〕 男女別の起業家の起業前の就業経験年数
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 これらのことから、借入を行った起業家に限って見れば、女性起業家と男性起業家は、起業分野は大きく異なるものの、起業前の就業経験年数や起業時の年齢は、大きな差が見られないことが分かる41

41 他方、起業直前の職業については、「会社や団体の常勤役員」又は「正社員(管理職)」であった割合は、男性が62.9%であるのに対し、女性は31.9%となっている。これが、起業前の経験内容の差となっている可能性がある。
 
コラム2-2-9 起業活動の促進施策

 2010年6月に閣議決定された中小企業憲章42において、政府は、「起業を増やす」ことを中小企業政策の基本原則としており、「起業・新事業展開のしやすい環境を整える」という行動指針を定めている。これに基づき、政府は、事業環境の整備、金融環境の整備、マッチングの場の提供といった起業家支援を行っている。

42 中小企業憲章は、中小企業の意義、役割の重要性、そして中小企業への期待が益々高まっていることを踏まえ、制定された。全文は、付注2-2-18を参照。

 また、女性に限らず、休廃業した倒産企業の経営者の多くが、経済的負担や精神的負担から再起業・再チャレンジを希望していないとの指摘があるが43、こうした負担を軽くし、起業のリスクを低減させることで、起業・再チャレンジしやすい環境を整えることが重要である。

43 中小企業白書(2003年版)p.130を参照。

起業支援策
【事業環境の整備】
●Japan Venture Awards
 今後、起業を目指す人々にとってモデルとなる起業家の表彰。
●ベンチャーSPIRITS
 セミナー等を通じて創業を啓発するとともに、創業に役立つ情報を提供。

【金融環境の整備】
〔1〕融資環境の整備
●新創業融資制度
 新たに事業を始める又は事業を開始して間もない起業家へ、(株)日本政策金融公庫(以下「日本公庫」という)(国民事業)が1,500万円までを無担保・無保証人で貸付。
●新規開業支援資金
 新たに事業を始める又は事業を開始して間もない起業家へ、日本公庫(国民事業)が低利貸付。
●再チャレンジ支援融資(再挑戦支援資金)
 廃業歴などを有し、新たに事業を始める又は事業を開始して間もない起業家へ、日本公庫が低利貸付。
●女性、若者/シニア起業家支援資金
 新たに事業を始める又は事業を開始して間もない女性又は若者(30歳未満)、高齢者(55歳以上)へ、日本公庫が低利貸付。
 (多様な担い手による新規事業や雇用の創出を図ることを目的とし、2011年度(2012年1月末時点)においては、6,374件、約302億円の融資を行っている。)
〔2〕保証環境の整備
●創業関連保証・創業等関連保証
 新たに事業を始める又は事業を開始して間もない起業家に対して、信用保証協会が2,500万円までを無担保で保証。
〔3〕出資環境の整備
●起業支援ファンド・中小企業成長支援ファンド
 民間のベンチャーキャピタルや投資会社が運営するファンドへ、(独)中小企業基盤整備機構がファンド総額の2分の1以内を出資。
〔4〕税制優遇
●ベンチャー企業投資促進税制(エンジェル税制)
 一定の要件を満たすベンチャー企業に対する個人投資家への減税措置。

【マッチングの場の提供】
●ベンチャープラザ
 資金調達を目指す中小・ベンチャー企業に対して、ベンチャーキャピタル等の投資家等へビジネスプランのプレゼンテーションを行う機会を提供。
●販路ナビゲーター創出支援事業
 ベンチャー企業の販路開拓について、豊富な経験とネットワークを有する販路ナビゲーターが商品・サービス等の評価及び販路候補先に係る情報を提供。


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